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トークショー


 東京から大阪は、新幹線で3時間だ。私の地元の京都なら2時間半。映画1本の時間で移動出来てしまう。便利な世の中になったものだ。


「もうちょっと掛かるかな」


 今日私は、大阪の商業施設で開かれるトークショーに参加する。関西に帰るのは半年ぶりだった。


 山下さんはイヤホンを着けて寝ている。仕事で昨日あまり寝ていないそうだ。


 芸能人本人も忙しいが、裏方の人達はそれと同じかそれ以上に忙しい。例えばトークショーなら、出演する私が来る前に準備して、ショー終了後も撤去作業がある。だから山下さんも私より重労働で、睡眠時間は平均4時間程だという。こうした裏方の方達の努力があって私達は表舞台に立てている。そのことを忘れてはならない。


 暦は12月に入っていて、間も無く年末が訪れる。寒くなって来たので雪が見られるかと思っていたけど、まだ滋賀でも降っていなかった。北部の方ならよもや、と期待していたのだけれど。雪景色を見ると心が浄化される気がする。だから私は冬が好きだった。


 冬が好きな理由は雪が降るというそれだけじゃない。料理が好きだし、ファッションの重ね着やバリエーションが増えるから楽しい。楽しいイベントも豊富にある。


 映画を一時停止してSNSを開く。高梨さんの存在を認識してからというもの、私は高梨さんの活動を追い掛けるのが癖になっていた。


 インスタグラムは投稿が一週間に一度くらいで、Xは1日に何度か更新がある。Xのつぶやきは一言だけの人も多いが、高梨さんは数行書いていることが多い。そこに律儀さを感じる。多くは今書いている小説のことや、読んだ作品のこと、あるいは社会や注目のニュースについて。


 高梨さんは今、台湾に関する作品を書いているようだ。中国による台湾統一が実現されるかどうか。この台湾問題が今後の世界経済や日本にどれだけの影響があるかを知らせたいのだそう。どんな作品なのか、いつか読んでみたくなった。


 私のつぶやきには、引き続きマメにコメントをくれている。朝《皆、おはよ~》とつぶやけば、1時間以内に《おはようございます。今日も頑張りましょう》などと返信が来る。


 いつの間にか、高梨さんのコメントを待っている自分が居た。


「まもりちゃん」


「あっ、はい」


「最近SNSに熱心ですね。本当偉いです。はい、お茶」


 今日はもう1人マネージャーが帯同している。田村さん。一児の息子の母だ。


 息子の泰良君はまだ1歳で、ぷにぷにしていてとても可愛い。田村さん一家は旦那さんの実家に住んでいて、それで仕事に戻って来られたのだという。


 田村さんはややふくよかで、愛嬌のある女性だ。包容力があり社員やタレントからの信頼も厚い。事務所の中でも母親的な存在を担っている。甘えたくなる人なのだ。


「ありがとうございます。それも仕事の一部なんで。もう癖になっちゃってます」


 田村さんはいつも朗らかに笑う。すうっと雪が溶けるような笑みだ。


「山下さんが言ってました。最近東條は本当に頑張ってる。ウチの稼ぎ頭だし、俺達マネージャーも頑張らないとって」


 私が所属している事務所は、大手では無い。だからこそ1人のタレントに掛かる期待は大きく、1人が活躍することが事務所の評価や所属社員のお給料に直結する。だから私は今、大きく期待されている。


「山下さんには頭が上がりませんよ。この人仕事人間だから」


 私は廊下側の席で眠る山下さんを指差す。小さな寝息が聞こえる。


「確かに山下さんは超人ですよね。体力もそうですけど、その仕事ぶりにはいつも感心させられます。勿論まもりちゃん自身の実力・人気ありきですけど、山下さんの営業で取って来ている仕事も沢山ありますから。山下さんが一番のまもりちゃんファンですよね」


「はい。キモイですけどね」


 2人して笑う。


「でも誰より私の活動をチェックしてますよね。最近の私のことなら家族以上に知ってますよ」


 山下さんとはもう5年の付き合いだ。5年というのは伊達じゃない。私が右も左も分からない頃に、1から教えてくれたのが山下さんだった。


 この業界に入りたての私は、内向的で人見知りで、田舎者だった。全く人前に出るような人間じゃなかったのだ。撮影ではおどおどして、カメラマンさんや編集者さんの輪の中に入れず、ただ与えられた指示だけをこなすだけの人形だった。


 その中に懸命な働きで入れてくれたのが山下さんだった。山下さんは私が会話に入れるよう何度も話を振ってくれた。チームで仕事をする上で、大切なことを教えて貰った。


「東條、あの人達とは今後も仕事をする。だからちゃんとコミュニケーションを取れ。作品の出来栄えも大事だが、スタジオでの雰囲気とか会話も、それと同じくらい大事なんだよ。幾ら東條が被写体として優れていても、一緒に仕事をしたくないと思われたら終わりだ。いつか人気が落ちたらすぐに離れて行く。だから苦手かもしれないけど、ちょっとずつ打ち解けていこう。俺も極力サポートするから」


 山下さんの言葉は今になって実感している。今ではカメラマンさんやアシスタントの子で、2人で会う相手が居る。そこで互いの事務所や先輩の愚痴を言ったり、将来の話をする。またそれが仕事に繋がり、モチベーションとなる。


 だから山下さんにとって、私はもう1人の娘みたいなものなのかもしれない。彼には「東條 まもり」を育ててきた自負があるのだ。私も二人三脚で作り上げて来たと思っている。お陰様で私は人見知りを殆ど発揮しなくなり、人前に出る人間になれてきたと感じている。


「それだけ山下さんは東條さんに期待しているってことですよ」


 と、田村さんは朗らかに笑った。


 


「それでは登場して頂きましょう! モデルの東條 まもりさんですっ」


 名前を呼ばれてステージに上る。直前に山下さんから、「よし、行って来いっ」と背中を押された。田村さんも「まもりちゃん、ファイトっ」と声を掛けてくれた。


 それで私の気合が入った。出演するのは私だけだけど、チーム全員の仕事だ。この時間を良いものにしなければならない。私達にとっても、ファンの皆にとっても。


 壇上に上がると、開放的な空間が広がる。この商業施設は上が吹き抜けになっているので天井がどこまでも高い。既に施設自体の営業は始まっており、賑わいがあった。大勢のお客さんが、私の目に飛び込んできた。


 仮説ステージの前には、沢山のパイプ椅子が並べられている。その全てが埋まっている。今日は100人のファンが集まってくれていて、私はそのことに一安心した。


 席に座れなくて傍から見ている人も多い。その人達を含めれば200人くらいだろうか。2階や3階の柵越しから眺めている人も多かった。


「では改めまして、モデルの東條 まもりさんですっ!」


 司会の方の、溌溂とした声が通る。気圧されないよう私も声を張る。


「皆さんこんにちは~、東條 まもりです。こんな所までお越し頂きまして、本当にありがとうございます」


 会場から拍手が。笑いながら私は、「ありがとうございます、ありがとうございます」とお辞儀する。


「本日は東京から起こしになられたそうで」


「はい。朝から新幹線に乗ってきました」


「大阪は久しぶりなんでしょうか」


「大体半年振りですね。帰って来られて嬉しいです」


「東條さんは地元が関西なんですよね。何か感じるところはありますか」


「そうですね~、私は出身が京都なんですけど、この辺りは学生の頃からよく遊びに来ていました。だから帰って来たなあ~っていう気持ちになりますね。懐かしい気持ちになります」


「それはファンの皆さんも喜んでらっしゃると思います。では関西に戻って来られて、いつもすることはあるんですか」


「はい。この辺りに買い物にも来ますし、でも友達には極力会いたいと思ってます。学生時代の友達とか。


 いつも私のことを応援してくれていて、素の自分に戻れるので、今でも大切な存在です。あとは家族にも会うようにしています」


「そうなんですね。皆さん東條さんに再会出来て、嬉しく感じていると思います。


 それでは、トークショーを始めたいと思います!」


 

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