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恋愛リアリティショー2

「2人共さ、初対面は誰が良いって答えたの」


 初日の夜、女子部屋に戻ると明日香が聞いて来た。私と明日香はもうタメ口で行こうと話した後だった。


「私は凍也って答えた。可愛いし、ツンデレっぽそうだし。雰囲気はクールだけど、恋愛になったら子犬系になるタイプだと思うな、アレは。まもりは?」


「私も凍也」


「え~」と明日香が悲鳴を上げる。何となくだが明日香は困り顔が似合う。


「被ってるじゃん。何で凍也なの。やっぱり顔?」


「まあイケメンだよね(笑)。でも何だろうな、私年下があんまり付き合ったこと無いから、これを機会に、みたいな。でも明日香の言ってること分かるるよ。付き合ったらメッチャ嫉妬してきそう」


「だよねっ!」


 明日香の表情はコロコロ変わる。今は目が飛び出そうだ。


「それが可愛いんだよね~。あ~、でもまもりがライバルかあ。まもりは男受け良さそうだからなあ。負けるの嫌だなあ」


「ちょっと明日香。相手が私なら勝てるって言いたいの」


 ユリさんが会話に入って来る。


「いやいや、そんなんじゃないですよ。誤解です誤解。でもユリさんもライバルがまもりだったら嫌じゃないですか?」


「あら? 私はそんなこと無いわよ? そもそも恋愛なんてのは個人の好みなんだから、1人に選ばれなくても落ち込まないし。落ち込むのは恋愛への比重が高い証拠よ」


「ユリさん、正しいのかもしれないですけど理屈っぽいです。で、そのユリさんは誰なんですか。やっぱり彰さん?」


「違う。私はね、幸太郎なの」


「え~、意外ですね」


 私は反応を示す。


「そう? まあ彰さんは妥当なんだけどね、なんか順当過ぎるというか、燃え上がらない気がするの。同じ経営者っていうのも良いのか分かんないし。その点幸太郎はミステリアスだし、まだ知らない世界を見せてくれそうでしょ? この年になったらそういう恋愛の仕方もあるのよ」


 へえ~、と私と明日香は声を揃えた。


「何にせよ見せ場は作らないとね。関西コレクションへの参加は反響あるだろうし、ビジネスの観点から言っても周知されるのは大事だから」


 と、ユリさんは息を巻いた。


 


「今週の金曜ってさ、暇? 近くに良い感じのカフェを見つけたんだけどね、一緒に行かない」


 番組開始から1週間。計画通り、私は凍也との距離を縮めて行く。


「はい、空いてますよ。行きましょう」


「何で敬語なの? タメ口で良いよ。私も女子の最年少なんだし」


「でも彰さんには敬語でしょう? ユリさんにも」


「そうなんだけどさ。でも良いじゃん、私達は。タメ口で行こうっ。その方がもっと距離縮まると思うし。ね?」


「じゃあ……、分かった」


「よし、じゃあ練習っ。やってみよう」


「……え、何を?」


「お、いきなり出来てるねえ。じゃあ合格っ」


 この会話は放送され、MC達に絶賛されることとなった。


「え~、何この可愛い会話」、「いじらしいよね」、「なんかこのシーンだけでキュンキュンする」などとコメントされた。ファンや視聴者からの反応も上々で、どちらかというと凍也より私の株が上がっている。


《まもりちゃん年下相手だとこんな感じなんだ……、悪くない。ゴクリっ》


《うおおおお、俺もこんな娘にリードされたいいいいい!》


 ドラマの影響が続いているのか、私は何をしてもポジティブに捉えて貰える状態だった。人の評価は印象によって大きく異なる。同じことを言っても認められる人と、叩かれる人が居る。それはひとえに好感度によるものだと、私は考えている。


 私は今その良い方の状態に入っている。いずれイメージダウンする時が来るだろうから、今の内に世間からの好感度を高めておきたい。


 共同生活が始まって1週間。それぞれの矢印が定まりつつあった。私と明日香が凍也で、ユリさんは幸太郎。女子に関しては寝室で話した通りだ。


 続いて男性陣。幸太郎は明日香、凍也は現状私、驚くべきことに彰さんが私だった。


 だから凍也を私と明日香が取り合っていて、私を凍也と彰さんが取り合っている構図だ。彰さんは私以外のどちらかだと思っていたので、意外だった。もしかしたら世間への認知度や番組の反響を見て私に狙いを定めたのかもしれない。つまり見どころを作る上での作戦かもしれないということだ。


 個人的には、彰さんだけは選ぶつもりが無かった。何故なら最も高梨さんを連想させる相手だからだ。


 高梨さんのことは、まだ忘れられない。どうしても思い出してしまう。


 高梨さんがこの番組を見ているかは知らない。ただ仮に見ていた時に、3人の中から彰さんを選んでいる所を見られたくない。


 そこに高梨さんへの対抗心や未練があった。私から離れたことを後悔させてやりたい。私が誰かと恋をする姿を見て、モヤモヤすれば良い。


 伊達に私もこの業界を生き抜いてきた人間じゃない。性格が良いだけで生き残れる世界じゃないのだ。私の恋が成就して、その時高梨さんが泣いて縋り付いて来たって、私は素知らぬ振りをして断ってやるつもりだ。


「まもりはどんな人が好きなの」


 私と凍也は約束したカフェに来ていた。3月中旬に入り、少しずつだが温かくなってきている。とは言え軽井沢は標高が高く、平均気温が低い。寒がりな私はまだまだ厚手のコートにカシミヤのマフラーが不可欠だった。


「ていうか寒いね」


「え? あ、うん。だから好きな人の話なんだけど」


「分かってるよ~、凍也は慌てん坊さんだなあ。好きな人はねえ、優しい人かな。私メチャクチャ大切にされたいの」


 凍也が頷く。


「昔の彼氏がね、物凄く嫉妬しいで男の人と連絡が一切出来なかったの」


「そうなんだ。でも好きだったんだよね?」


「そうだね。嫉妬ってさ、されるだけ愛されてると感じるじゃない? 大人になったら変わるんだろうけど、当時はそう思ってたから」


「まあでも、分かる気はするな」


「だよね。最初から凍也がそういうタイプかと思ってたんだ」


「そうなの? 俺そんな雰囲気出てたかなあ」


「出てた出てた。でも、だから仲良くなれると思ったんだけどね」


「ふ~ん」


 言いながら凍也は、照れているように見えた。


 自信過剰と言われるかもしれないが、初めから凍也は私に気があると思っていた。凍也はクールだけど、どこか影があってすれている。


 女子が苦手なのか、そもそも他人に心を開かないタイプなのか。どちらにせよ凍也みたいなタイプにはこちらから積極的に行く方が良い。私はそれを肌感覚で分かっていた。


 明日香も積極的だけれど、行き過ぎも良くない。こちらがリードしつつ彼の自主性も潰さない。その塩梅が重要なのだ。きっと明日香より私の方が凍也には合っていると思う。上手くやれると思う。そしてその推測は、恐らく当たっている。


「逆に凍也のタイプは? どんな人が好きなの」


 自分に気があると思っているから、タイプを聞いても今さら関係無いのだけれど、一応聞く。番組の撮れ高もあるし、「私に気があるんでしょ?」という態度を取られるのを男の人は嫌がる。あと単純に凍也が何と答えるか楽しみだった。


「そうだな……、俺は大人な人かな。落ち着いてて、人生経験豊富な人」


「じゃあユリさんみたいな人だ」


「正にその通りかも。包容力があるし、社長だから尊敬出来る所がいっぱいあるんだよな。この前も2人でドライブに行ったんだけど――」


 凍也はユリさんとのエピソードを披露してきた。私はそんな凍也をいじらしく思う。


 凍也は駆け引きをしている。見え見えの駆け引きだ。ただ本人は気付かれていないと思っている。


 思い通りになる、年下のイケメン。女にとってこれ程可愛い生き物は居ない。この番組が放送される頃、世の女性は凍也に悶えるだろう。だから凍也は私に感謝すべきなのだ。


「ふ~ん。じゃあユリさんに行ったら良いんじゃない」


 私は拗ねた振りをしてみせる。凍也の駆け引きに、敢えて乗っかる。


「ん~、でもまだ決めた訳じゃないしな。こっから変わることだって全然あるよ」


 私に突き放されそうになって、凍也は距離を縮めようとする。凍也の頭の中では、今私は嫉妬していると認識しているのだろう。


 そんな不器用な駆け引きが可愛くもあり、少し煩わしい。


「そうだ。私はね、この前幸太郎と焼肉食べに行ったんだ」


「へえ」


「その時にね、幸太郎が知り合いのラッパーの人を紹介してくれて、初めてフリースタイルラップ聞かせて貰ったの。あれ凄いよね、全部即興なんだよ? 私絶対無理だと思った」


 凍也が返してくる。気にする素振りを見せないようにして。


「ラッパーの人って本質的に頭良いよね。じゃないとあんなの出来ないよ」


「だよねえ。それで今度クラブに遊びに来なって言われたんだ。あんまり行ったことないし、面白そうじゃない?」


「へえ~。良いんじゃない? 行ってきなよ」


 凍也は分かりやすい。根が純粋だから駆け引きの仕方が単調なのだ。ある意味、駆け引きが成立していない。


 この世には、もっと腹黒くて計算高い人間が大勢居る。彼はまだそういう人間に出会っていないのだろう。もしくは出会っていて、彼が気付いていないだけか。


 でもそんな凍也だから、需要はかなりあるのだ。これだけのスペックがあるにも関わらず、掌で転がせる男。世の女性が蛇のように凍也を飲み込む姿が容易く想像出来る。


 その凍也は、私からすれば物足りない。


 いつでもゲームをクリア出来てしまいそうな、この手持ち無沙汰感。


 決して良くないのだけど、障壁がある方が恋愛は燃え上がる。こうも簡単に手に入りそうだと、恋の風船の空気が溜まり切る前に破裂してしまうのだ。


 中途半端な風船は、破裂しても爆発力がない。心が揺さぶられない。凍也との恋は、正にそうなってしまいそうなのだ。


 でも深く考えなくて良いのかもしれない。結局これはビジネスで、番組で、エンタメだ。元から「本当に恋愛出来れば儲けもの」くらいの意気込みだった。だからこれはこれで納得すべきなのだろう。


「ん~」


 私が困った振りをする。


「どうしたの?」


 凍也が私の顔を覗き込んでくる。


「なんかなあ、と思って」


「どういうこと」


 整った顔が苦笑する。凍也は、私が今嫉妬しているとでも思っているのだろう。


「凍也が何考えてるか分かんないなあと思って」



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