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コロポックル

 小人がいるというのも十分不思議な事だが、もっと不思議なのはその存在を目の当たりにしても一切違和感を感じていない自分だった。普通はもっと驚くか、幾ら寝不足でも自分の精神状態を心配するところだろう。


「タクマとかいうのはお前か?」あろうことか、小人は琢磨に名指しで話しかけてきた。カゴから取り出したカバンを胸に持って琢磨はあたりを見回す。幸いにして琢磨の他にはまだ自転車置き場に人影はなかった。


「なんだお前は?なぜ俺の名前を知っている。そうしてなんでここにいる」琢磨も小人に小声で話しかけた。


「人違いじゃなきゃそれでいいんだよ。お前を案内するように言われてる」


 そう言うなり小人は琢磨の許可を得るでもなく、一旦カバンの上に乗り移ってから、学生服のボタンの間から上着の中に入ってきた。ぴょこんと首だけを第一ボタンと第二ボタンの間からのぞかせる。


「さぁ急いで急いで」



 そんな訳の分からない話に普通は大人しく従う事もないと思うのだが、なぜだか琢磨にはそうする事が自然であると考えるまでもなく納得できていた。小人に案内されて行ったのは近所の低山だった。標高二百メートルぐらいの山で、道路は無いので麓に自転車を停めて歩いて登った。子供の頃に家族で登った事もある。頂上の景観がそれほどいいというわけでも無くて、特に登山者に人気という事もない単なる裏山だ。


 麓までは舗装された道路で行けるが、そこからの登山道は人間の足でしか登れないけもの道だ。ただそれなりに踏み固められているので迷うことなく登り進むことができた。小人の案内で途中メインルートからは横に入って行ったが、不思議とそれも違和感がなかった。道中小人に何かと質問をしてみたが、後で聞いてくれと繰り返すばかりで何かを答える事は無かった。横道を進んだ先には洞窟があった。こんなところにこんな洞窟があるなどという事は、近所の裏山であるのに今まで知らなかった。


 琢磨は生まれも育ちもこの近所である。こんなものがあるならば子供の間で話題にならないはずがない。しかし文句を言っても仕方がない。洞窟は確かにそこに存在したのだ。そうして小人に言われるがまま洞窟の内部へと進んでいく。不思議な事に真っ暗な洞窟の中であるはずなのに、明かりも何も無くてもつまずくことなく周囲の状況を把握しながら奥へと進むことができた。

 しばらく行くと少し開けた場所があり、その中央には石でできた人型の像が立っていた。高さは人間よりは大きい。3mぐらいはある。


 その像は金属とはまた違う鈍い光沢を放っていた。真っ暗な洞窟の中であるのに光沢を感じるというのも不思議な話である。胸の部分には記号が刻まれていた。半円とその中央に横線がひかれ、線の先端には小さな丸がある。琢磨には初めて見る図形だった。そうしてその記号と間接部周辺以外の全身は模様に包まれていた。その模様は見た事がある。幾度となく教科書で見て来た縄文土器の模様と同じだった。琢磨が像の前で言葉もなく立ちすくんでいると、小人は得意気に言い放った。


「こいつが『縄文式玉髄ヒイ』だ!!」


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