桜の木に背を預けて(4)
また会える。根拠はないが、確信があった。必ず彼女に出会うことが出来る。そんな予感が。だから今はこれでいい。焦る必要はない。
僕は穏やかな気持ちで桜の木から視線を外すと、新しいクラスメイトたちと一緒に体育館へと向かう。僕の足取りは、驚くほど軽かった。
これまであの夢を見た日は必ず憂鬱な気分になっていた。でも今日からは違う。憂鬱になるどころか、これからの日々が楽しみでしょうがない。
満面の笑みを浮かべる僕を不審に思ったのか、クラスメイトの一人が「どしたの?」と、声を掛けてきた。何でもないと首を振りながら、「春っていいよな」とニタリ顔でそう言う僕を見て、彼はきょとんとした表情で首を傾げた。クラスメイトに少し距離のある反応をされても僕は気にしない。それ程に僕の心は晴れやかで幸せだった。
――次に君に会えるのはいつだろうか?
そんなことを考えると、自然と頬が緩んでしまう。
――ああ、早く会いたい。
僕は逸る心を落ち着かせるために深呼吸を一つした。
――ねえ、君は誰なんだい?
――どうして、桜の木の下で泣いていたんだい?
僕は、いつか彼女に聞いてみたいと思った。恋に浮かれた僕の目は、周りの景色を映しているようで、まるで映していなかった。そのせいで、壇上に立つ人影に気づくのが遅れた。僕は慌ててそちらに目を向けた。生徒会長が挨拶をするところだった。
新入生歓迎の言葉を述べる彼女を目にした瞬間、僕は雷に打たれたような衝撃を受けた。長い黒髪に整った顔立ちの彼女は、僕の記憶よりも大人びた雰囲気を放っているが、あの夢に出てくる彼女と同じ顔をしていた。
彼女が壇上から微笑む。心臓が大きく跳ねる。呼吸の仕方を忘れて息苦しくなった。僕は彼女を見つめたまま、しばらく動けず固まっていた。
始業式が終わるやいなや、僕はクラスメイトの肩を掴んで揺さぶった。突然の行動に驚いたのか、相手はかなり困惑していたが、お構いなしに問い詰める。
「なあ! あそこで話してたのって……」
「え? 何? ……ちょっと待って、頭がぐわんぐわんするんだけど……」
質問の途中で、相手が頭を振って激しく抵抗したため、僕は手を離す。ようやく解放され、大きくため息をつく相手に僕は頭を下げた。申し訳ないことをしたと思いつつも、どうしても確かめずにはいられなかったのだ。
クラスメイトは僕が聞きたかったことを察してくれたのか、すぐに答えてくれた。
彼女の名前は、東雲楓というらしい。




