第6話 魔法少女になったなら…
雨が降り荒れる昼のある日、クッキは町外れにある森林で、何かを探しているかのように彷徨っている
そして草むらの中に唯一つきらりと輝くピンク色をしたひし形の石を発見した
思わず「あれだ」と声に出して喜ぶと、その石をもって帰っていった
10分後、クッキがびしょ濡れになってケイキの部屋に帰ってきた
ケ「え!?クッキ!?」
流石にケイキも驚いている ク「えへへ」クッキは体全体をぶるぶると震わせて水を弾く
ケイキは急いでクッキに駆け寄る
ク「どうしてこんな雨の中出かけたの!?とにかく早く体拭いて」
ケイキはクッキの体に溜まった水分をタオルで拭いてあげている
この日の夜、ケイキはいつも通りベットで熟睡し、クッキも自分用のベットですやすやと眠っている
しかし、夜中の深夜2時頃、クッキは窓の外から自分を見つめるような視線を感じ、目が覚めた
だが窓の外を見ても、あるのは満点の星空と、大きな満月だけである
クッキは気のせいかと思い再びベットについてすやすやと眠った
朝になり、ケイキはいつものように目を覚まして、いつものようにご飯を食べて歯を磨いて、いつものように髪型を整えてからいつものように学校へと向かった
「いってらっしゃ〜い」とクッキが、手の代わりに顔を振って見送る
ケイキが見えなくなったので、ケイキの部屋に戻ろうとした瞬間、再び上空から視線を感じて振り向く ク「!」
しかしまたしてもそこには誰もいなかった
ク「...」
ケイキは教室へ着き、午前中の授業を終えて食堂へ向かうと、いつもように時折アルトの方をジロジロと見ながらチョウコ達とのたわいのない会話を楽しんでいた
いつものように、クリミが突然話題を持ちかけてきた
ク「みんな〜、また新しい食べ方を思いついたの、おにぎりの中に唐揚げを詰めて、それにケチャップをかけるのよ」
これに対し勿論チョウコがいつものように「いや絶対美味しくない…の?どうなんだろ、反応に困る!」おや、ツッコミはしたがいつもよりもキレがないですね
こんな風ないつも通りの日々が、今日も流れている
しかし、食堂を出て、教室へ戻ろうとする間に少しだけ屋外に出る通路があるのだが、その際に一瞬だけ、ケイキは誰かに見られているような感覚を覚えた、誰かと思って振り向いてみても、何人か通路を歩いてはいるが誰も自分を見ていたような感じではなかった
ケ「?」
午後3時過ぎ、今日は部活はないため、後少しすればケイキが帰ってくるであろう時間だ、クッキはベットですやすやと気持ちよさそうに眠っていたのだが、またも窓の方から視線を感じて目が覚めた
そしてやはり、窓の方を見ても誰もいない、クッキは何を思ったのか、2階から飛び降りてケイキの通う真朱真路学院に
向かっていった
学校が終わり、校門を出て大きく背伸びをすると、歩いて家へ帰ろうとする
しかし振り向くと当たり前のようにクッキが立っており、ケイキは思わず二度見するほど驚いた
ケ「え!クッキ?どうしてここに」
ク「ハローケイキちゃん、って、今はそんな冗談言ってる場合じゃないんだ」
クッキは何かを警戒するようにゆっくりとケイキの後ろへ回ると、何かを説明しようとした
ケ「ホントにどうしたの?クッキ」
ク「いいかいケイキちゃん、落ち着いて聞いて、今日誰かに見られてるような気配感じたことなかった?」
ケ「え?」ケイキはどうにか思い出そうと頭を捻り回す
ケ「あー、そういえば一回だけあったかも、食堂から校舎戻る時♪あれナンパするために見られたんじゃないの?アルト君はないだろうけどどんなイケメンなんだろうな〜♪っていうかなんでクッキその事知ってるの!?」
「勝手に妄想膨らませといていつのまにかツッコまれたんだけど」と内心少しだけ癪に触りつつも、クッキは説明を始めようとした
ク「いいかい先ずは」
説明しようとした途端ケイキの背後に何もないところから突然に燃焼して炎が現れた
ク「!危ない!」
クッキはそれに気づいてケイキを体当たりで炎から遠ざける
しかしいきなりずつかれたケイキは何が何だかわからず、クッキの方を見てみると、そこには真空で激しく燃え上がっている炎とそれを睨みつけるクッキの姿があった
「ホバァァァーーー」と声を上げて驚くケイキ
「うむ、やはり其方であったか」と炎がクッキに話しかけている
その直後、炎が花吹雪のように辺りに拡散し、中から宙に浮く獅子が現れた
ケ「???」ケイキは何が何だかわからずただただ混乱していた
しかしクッキは一切驚いてはおらずそれどころかこの獅子と会話を始めだした
ク「何故君がここにいる」獅子「それはこちらのセリフぞ布袋、あれほど人を嫌っていた其方が、何故今になり人と共に生を謳歌する」
ク「君には関係のない事だ」
当たり前のように獅子が言葉を話しているが今のケイキにそれについて驚く余裕はない、言葉を話す猫と何もない所から燃え上がった炎と共に現れた宙を浮いて言葉も話す獅子とが普通に会話をしているという、余りにも現実離れした状況に理解が全く追いついていないのだ
獅子「とにかくこちら側へ戻ってきてはどうだ、もう気は晴れたのであろう?」
ク「断る、僕は君たちの方には戻るつもりはない」
獅子「そうか、ならば仕方あるまいな、多少強引にでも其方をこちら側へ引き入れさせてもらうとしようぞ」
この口論に決着がついたようで獅子は何か構えるような体制をとった
クッキはスイッチを入れたかのように素早くケイキのいる方へ振り向くと「逃げるよ!ケイキちゃん」と叫んだ
ケ「え?う、うん」ケイキは何も言わずに素直に逃げ始めた、先程までのわけのわからない状況が続いたケイキにとって、「逃げろ」という理解ができる言葉にただ従うことは必然だったのだろう
ケイキとクッキは全速力で逃げおおせ、町外れの森林にある、街を一望することの出来る丘まで逃げてきた
「はぁはぁ」と激しく息を切らすケイキとクッキ
ク「まぁでも、ここまで来れば、大丈夫だろう」
ぜぇぜぇと息を切らしながら呟く
ケ「ねぇ、あれなんなの?クッキ…何か知ってるんでしょ?」
ク「…」クッキはしばらく考えた後、引き締まった眼差しでケイキに語りかけた
ク「そうだね、隠してるつもりはなかったんだけど、中々言い出すタイミングがなくてね…分かった、教えるよ、あの獅子の事。けど、その為には僕のこと、そして、この星にいる生き物の成り立ちについても説明しないといけないんだよね」
ケ「…」ケイキはぽかんとした表情を浮かべる
ク「先ず、僕についてだけど、この機会に僕の本当の名前を教えるね、僕の名は布袋、君たち人間が神と崇める七福神の1角だよ」ケ「七福神?」
ク「そう、僕たち七福神は、全世界の擬人態…その内のイザナギ様が創造された存在。
全世界の擬人態っていうのは、簡単に言えば全世界を支配する神様、生の化身であるイザナギ様と、死の化身であるイザナミ様が、それぞれの役割のもと全世界を管理しているんだけど…まぁ難しいよね。ごめん、あんまり深く考えなくても大丈夫だよ。まぁとにかく、その内の一つであるこの世界にはたくさんの宇宙が広がっていて、その内の一つであるここも無限とも言える膨大な広さの宇宙が広がっていて今尚膨張し続けている、そしてその宇宙には数多もの惑星が点々と存在している、その中の…4割くらいかな、の惑星には、意思が宿るんだ、地球もその中の1つ。そういう惑星には、全宇宙の擬人態は2つの存在を創り出すんだ、まず惑星の環境がある程度整ってから、死の化身であるイザナミ様が死の象徴たる存在を惑星中に繁栄させる、死の象徴っていうのは、君たち人間も含めた死の概念の存在する生き物のこと、君たちの価値観だとちょっと違和感あるかもだけど、受動的に死を迎える事のできる生き物を僕らは死の象徴と呼ぶんだよ。
話しを戻すね、そうして惑星中に繁栄させた死の象徴の秩序と繁殖を守るため、生の化身であるイザナギ様が創み出されるのが、僕ら生の象徴、七福神なんだよ。
僕らは惑星に7体しか存在できず子孫を生み出すことも不可能な代わりに、死の象徴と比べると桁違いの力を持っているんだ。
宙を歩くこともできるし、漫画とかに出てくる能力者みたいに1体1体何かしら特別な能力も持っている。そして全員が死の象徴の内特定の種族に近い姿をしているんだよ、1人ずつ解説すると…
水を司る鮪…恵比寿、音楽を司る馬…弁財天、武器を司る獅子…毘沙門天、さっきのあいつだね。食べ物を司る牛…大黒天、炎を司るヒトガタ…人間みたいな見た目をしてるって事。寿老人、超常現象を司る鷹…福禄寿、そして僕、袋を司る猫、布袋。
こう見えても昔は結構人間達から慕われてたんだよ〜。
とにかくそれが、僕の正体。僕の名は布袋、死の象徴である君たちを守護する為に生の化身イザナギ様より創造された、生の象徴が一角なんだよ」
ケ「…」ケイキはますます自分の飼っている猫が何を言っているのか分からなくなってきた、しかし、これは冗談で言っているのではないとだけは、ケイキは分かっていた
ケ「へ〜、クッキって、すっごく偉い猫ちゃんだったんだ?ね!」
布袋「今明らかに疑問形入ってたけど目を瞑るよ!」
普段通りにツッコミを入れる布袋
ケ「あ!っていうかごめんなさい、クッキじゃなくて布袋さん?だったね」
そう言われると布袋はケイキに顔を見せないためなのか後ろを向きながら答えた
布袋「いや、いいよ、クッキのままで、僕本当はその名前嫌いなんだ、色々あってね…今の名前の方が気に入ってる。だから、これまで通りクッキでいいよ」
ケ「そう?じゃあクッキ、どうしてさっきの…毘沙門天さん?に逃げてきたの?向こうが貴方を目の敵にしてるみたいにも見えたけど」
ク「僕は他の七福神達とは縁を切ってるからね、けど今の時代、七福神は助け合って生きていかないといけないから、無理をしてでも僕を引き戻したいんだよ」
ケ「そうなんだ、セイノケシンさんたちも大変なんだね」
クッキは顔を振り向かせ、ケッキの方へ歩きながら次のことを説明し始める
ク「で、ここからが本番だよ、さっきも説明した通り、僕は毘沙門天に追われてる、僕と君との関係を断たせようとしているのだろう」
ケ「え?そんなの嫌だよ!」
ク「うん、それに毘沙門天なら、どんな手を使ってくるかも分からない、君にも手を出してくるかもしれないんだ、だから…」
クッキはどこからかピンク色をしたひし形の石を取り出した
ケ「なにそれ?」
ク「これは…いうならば七福神、福禄寿の死体だよ」
ケ「え?でもさっき七福神さん達は死なないって言わなかったっけ?」
ク「受動的に死なないってだけで、能動的には死ねるんだよ、さっき言った通り生の象徴は死の象徴を護るために創られたもの、だから「もう護る必要はない」とその生の象徴自身が判断すれば、自らの意思でその生涯を終える事が出来るんだ、これが能動的な死。実は現在も生きている生の象徴は僕含めてたった3体しかいなくてね、残りの4体は全て自らの役目が終わったと悟って死んでいるんだよ。そして生の象徴が死ぬとその死体が遺ることはなく、代わりにひし形の石に変化する、その石の事を、僕たちはクリスタルって呼んでる。クリスタルにはその生の象徴が生きていた頃の膨大なエネルギーが詰まっていて、それを死の象徴が解放すると僕ら生の象徴にも匹敵する強大な力を使う事が出来るんだ」
ケ「…」まだ言っている内容がよく分かっていないケイキ
ク「とにかくこの石があれば君は毘沙門天から身を守れるってこと」
クッキはケイキに石を手渡した
ク「今度あいつに襲われそうになったらその石を使って身を守るんだ、使い方は後で教えるから。その間に僕はあいつをどうにかする、正直、君が一緒に戦ってくれれば、確実にあいつを追っ払えるよ、でも…ただの人間で、しかも現在最も争いとは無縁な日本人である君を、戦わせる訳にはいかないよ。だけど、身を守ることはして欲しい、その石があれば、君自身の安全は確実に守られるから、福禄寿は七福神の中でも能力の面で最強と言われていたし安心だよ」
ケイキはまだ少し理解が足りていないが今分かっている精一杯で結論づけた
ケ「…、ありがとう、クッキ、私のためにいろいろ考えて、守ろうとしてくれて」
ケイキはクリスタル持った手を空に掲げた
ケ「だけどクッキ、一つだけ勘違いしてるよ」
思わず「え?」と聞き返すクッキ
ケ「たぶんこれは人間の私が関わる事じゃないんだろうなっていうのはなんとなく分かってるけど、でも、貴方は私の友達じゃない?友達が困ってるのに、見捨てるなんて私には出来ないし、それに…この石があればすぐにでも解決できるのよね?じゃあ、私のやることは1つだよ、私も一緒に戦う、戦うよクッキ!」
友達…出逢った時から自分の事を友達として接してくれるケイキの姿を、クッキはもう見飽きるほど何度も観てきた筈なのだが、その眩しいくらいの本音を聞くたびに、心が拾われたようにクッキはなる
ク「ホントに、君は」
クッキは意を決し、ケイキにクリスタルの使い方を教える
ク「いいかい?クリスタルの使い方は簡単だよ、心の奥底で力を強く望みながら、身体のどこかに軽く当てるだけでいい、そうすれば君は福禄寿の力を操る…そうだね、今で言う魔法少女に変身できるよ」
ケ「え!?魔法少女!?」
ケイキは魔法少女という言葉に強く興奮を覚えたようだ
ケ「魔法少女って俗にいうあの魔法少女だよね!?うわ〜、小さい頃キュリキュアとかよく観てたなぁ〜、憧れてた↑↑↑へぇ〜遂に私も魔法少女か〜」
ク「通称だけどね」
ケ「私が魔法少女に変身して、クッキと戦えばいいんだね♪」
ク「うん…」
その時、突如真空に炎が燃え上がった
ケイキ達はそれに気がつき、急いで炎から離れた
炎の中から出てきたのはやはり、金色の立て髪をたなびかせ、青と黄色の体毛を身に纏う獅子、毘沙門天だった
ク「っ、もう来たのか」
毘沙門天「布袋よ、今一度問う、我らの元へ戻る気はないのであるか」
ク「何度も言わせるな、僕は君たちの方へは戻らない、僕は決めたんだ…僕はこの人間を」ケイキの方を振り向きながらいう
ク「守りたいんだ!!!」
はっきり聞こえる声でそう言われ少し照れ臭さを感じながらも、その後ろ姿を見惚れているとも取れる眼で見つめるケイキ
ク「いくよ!ケイキちゃん!」
ケイキに勇気づけるように、だが同時に嬉しさも交えた声でそう言った
ケイキは少し間を置いた後、「うん!」とありありと返す
ケ「えっと、確か魔法少女をイメージして体に石が触れていればいいんだよね」
ケイキは想像してみる、魔法少女となり影から人々を護る姿を、そうなってみせるとも心に強く念じながら、ケイキはクリスタルを肩に触れさせる
するとケイキの体が眩く光り、かと思えばピンク色のフリル衣装、白のスカート、水色のマントコート…が瞬く間に着装された
更にケイキの瞳がピンク色に変化し、同時に手首には白のグローブが着けられる、大胸筋の部分には、ピンで固定等していないにも関わらず磁石で引っ付いたようにクリスタルがくっついていた
気がついた時には、既に全身にこれらの衣装を身に纏っていた後だった
ケ「すごい…これが、魔法少女…」
小さい頃に憧れていた、魔法少女の姿、いざ自分がそうなってみた時、筆舌に尽くし難い感激を覚えるのと同時に、実感のない喜びを得ている…いや、実際はそれを感じ取ってはいるのだ、ただそれがあまりにも大きく深いので自覚ができていないだけである
毘沙門天「その姿…布袋、其方この人間を天ノ依代にしたのか?」
ク「そうだよ、君を追っ払うために」
毘沙門天「布袋、其方は…」
毘沙門天は呆れたような息を吐く
毘沙門天「もうよい、こうなった以上穏便には済ませられぬしな…」
毘沙門天はケイキに目を向け放った
毘沙門天「人間よ!少し大人しくなってもらおうぞ!」
そう言った直後、毘沙門天の周りの空中に巨大な一本の槍が自動的に周りだした
ケイキはこの物理法則を無視した画に慣れてきたのか、もはや殆ど驚きを見せなくなっている
しかしその槍を肉球を使わずにケイキに向けて投げつけられた事でようやく「やばいやばいこれ死ぬやつ!!!」と人並みに焦り始めた
ク「ケイキちゃん!イメージして!その槍を防ぐ姿を!」
クッキが急いでケイキに助言する
クッキのその助言でケイキは冷静さを取り戻し、昔見ていた魔法少女が見せていた、なにもないところから身を守るバリアを出現させて、攻撃を防ぐシーンを思い出す
その時、不思議な事が起こった
槍がケイキに当たる直前、ケイキの周囲に目に見えないバリアのようなものが出現し、そのバリアに槍は攻撃を阻まれ、手から物を落としたようにカランと地面に落ちていった
ケ「…これって…」
ケイキ本人も、なにが起きたか分かっていない
ク「それが福禄寿の力、福禄寿の能力は超常現象…つまり平たく言えば、自分が望んだ事を、思い通りに実現できる能力だよ、限界はあるんだけどね…だから福禄寿は七福神最強って呼ばれたんだ、思った事をなんでも実現できる能力なんて、チートもいいところだよね」
ケイキは「思ったこと何でも…」と、今度は起こったことの異常さに、しばらくは脳の処理が追いつかず唖然としていたが
「すごいよそれ!昔観てた魔法少女よりも凄いかも!」
と、少し時間を置くとある程度を理解し、改めて感激していた
ク「ふふ、喜んでくれて嬉しいよ♪じゃあ、ここからは反撃開始だ!」
クッキは頭上に空中に袋を出現させ、その袋で空気を集め、それを真空刃のように変化させてそれを毘沙門天に飛ばしつけた
これを、毘沙門天は金属製のヒーターシールドと呼ばれる盾を出現させて防ぐ
ケ「すごい!クッキも!」
ク「ふふ、君のの方が凄いよ」
2人は目と目を合わせ、お互いの能力を楽しそうに評価し合っている
ケ「よぅし、私もまだまだ」ケイキは空を自由に移動する姿を想像し、その瞬間ケイキの足が地面からふわりと浮かび上がり、その後は空中を自由自在に飛び上がった
クッキもそれに続くように宙を浮く
毘沙門天はそれに対抗して10本以上のバズーカを自身の周りに展開し、それらのバズーカをケイキに狙いを定めて同時に発射した
ケイキはそれに気づかずこのままだと弾が命中するといった直前でクッキがその事に気づきケイキを庇うように彼女の前に出る
そして再び袋を作り出しそれを使って発射された全ての弾を吸収した
ク「僕相手に飛び道具を使うなんて、よっぽど自信があったのかい?」
クッキはその袋から先程吸収した全ての弾を、発射された直後と同じ速度で全て発射させた
毘沙門天はなんとか4発は避けることができたが、残りの6発は避けきる事ができず直撃し、そのまま街中にある工事現場に向かって倒れていった
ケ「やった///倒したよクッキ!」
ケイキは自分たちが勝利したことを喜んでいるがクッキはまだ油断するなと言わんばかりの切り詰めた目をしている
ク「いや、あれくらいじゃ毘沙門天は懲りないよ、もっと徹底的にやらないと」
クッキはそう言って毘沙門天の倒れた方向へ宙を移動して向かっていった
それに対し「嘘でしょ」と驚きながらも、結構ノリノリでクッキに同じく宙を移動して向かうケイキ
毘沙門天はすぐ横に工事中の建物において騒音を軽減する目的で設置される白い仮囲いを真横に倒れるように吹っ飛ばされたが、只今どうにか起き上がることができた
「布袋め、あやつ本気なのか」とぼやきながら
そして、それを追ってケイキとクッキが空をとんで現れた
毘沙門天「布袋、まさかここまでするとはの」
と質問を投げかけると
ク「当然だよ、君たちには諦めて欲しいからね」
と冷静に応えた、そのやや上から見透かしたような視線は、普段ケイキといる彼を想像すると少し恐怖を感じるほど冷淡であった
「布袋ぃぃ〜〜〜」と怒りを交えつつも落ち着いて36本の日本刀を自身の周囲に展開し、それらを全てクッキを目掛け投げつけた
しかしクッキは冷静にそれらを全て袋で吸収した
ク「何度も言わせないでよ、僕に飛び道具は無意味」
毘沙門天が「ぐぬぬ」と悔しがっている隙に、ケイキが毘沙門天の懐に迫ってゆく
その途中、ケイキはなにもないところから弓を作り出し、矢もないにも関わらず弦を引き抜く動作をするだけでピンク色に光り輝く矢が出現し、それを射抜いて毘沙門天を攻撃する
毘沙門天は直撃の寸前で盾を作り出して命中を防ぎ、ケイキが着地する位置から離れた位置に移動する
毘沙門天は反撃に出るため、飛び道具ではない2つの巨大なモーニングスターを作り出した
やはり鎖を握らずに持ち手を振り回し、叩きつけるようにしてケイキに攻撃する
ケイキは危機を察し、すぐにバリアを作り出して攻撃を防ぐ、しかし毘沙門天は執拗に何度も何度もモーニングスターを叩きつけてくる
ケイキはそれをバリアで防ぐのがやっとで、上手く反撃に出ることができない
だが毘沙門天がケイキに集中的に攻撃していることでクッキへの注意が削がれており、クッキはこの隙をついて「お返しだよ!」と言わんばかりにクッキは袋から先程吸収した36本もの日本刀を全て毘沙門天に投げつけた
不意を突かれた毘沙門天は全ての日本刀を直撃させてしまい、その体がズルズルと20メートル程先まで吹き飛ばされた
ク「今だよ!ケイキちゃん!」
吹き飛ばされた事で毘沙門天にも疲れが見え始め、今なら止めをさせると読んだクッキ
ケイキも「分かった!」と素直に従い、毘沙門天に狙いを定めて弓の弦を強く引き絞った
するとやはりどこからか光の矢が出現するのだが、その矢が先程よりも強く鮮明に輝いており、心なしか矢の大きさ自体も少し大きくなっているようでもある
限界まで弦を引き絞り「はあぁ!」と力強く矢を射抜く
そうして発射された矢は弾丸のような速度で直線を走り、毘沙門天目掛けて一直線に進むその姿はさながら標的をなんとしても捕食せんとする未知のクリーチャーのようである
そのクリーチャーのような矢が迫っている事に気づき、毘沙門天はすぐに盾を作り出し矢の攻撃を受け止める
だが矢は勢いが消えないまま盾に突き刺さり、盾を貫通しようと矢の重圧が毘沙門天にのしかかる
毘沙門天は盾だけは破壊させまいと自身の全体重を盾に込め、防ごうとするものの、矢の勢いは一向に衰える様子はなく、それどころか徐々に盾が矢の衝撃に耐えられず要所要所に亀裂が入ってきており、時間が経つにつれそれが侵攻していっていた
毘沙門天はなんとしてでも矢を止めようと最後の力を振り絞る
だが検討虚しくついに盾は矢の衝撃に耐え切れず大破してしまい、その勢いが衰えぬまま毘沙門天の矢がお腹に突き刺さっり、それでも尚勢いは止まらず毘沙門天は矢に乗せられてどんどん吹き飛ばされいく
30メートル程進んだところでようやく矢の加速は収まり、毘沙門天は勢いが消えると同時にその場に倒れ落ちた
毘沙門天はこの攻撃に耐えられず、しばらく身体が動かなくなっている
ケ「…勝ったの…?」
ク「そうだよ、ケイキちゃん」
ケイキはしばらく目を丸くして唖然としていたものの、すぐに「自分たちは勝利した」という状況が理解できると
「やったーーーー、勝ったよ!私たち!」
ク「うん♪そうだね!僕たちの完全勝利だよ!」
ケイキがクッキと共に感動を分かち合っていたところ、体から矢がパウダーのように風に消え、毘沙門天がゆっくりと起き上がった
ケ「あ!もう起き上がってる!?」
ケイキはすぐに気づいて再び矢の弦を引き絞る
しかし毘沙門天はぜぇぜぇと息切れをしながら尖った視線を向けるだけで、再び反撃しようとはしなかった
ク「もう諦めたらどうだい?君じゃあ僕たちには勝てない、そして、僕は君たちの方へは戻らない!」
毘沙門天はケイキを探求するような目で見つめている
何故布袋が福禄寿のクリスタルを持っていたのか、どこで見つけたのか…それだけが疑問として残っていた毘沙門天であったが、あの布袋がそうまでしてケイキという少女を守ろうとする姿を見て、1つの仮説が生まれた
だがその仮説が疑問点をこれ以上ないほどに解決してしまい、全ての辻褄が合うことにも気づく
毘沙門天「其方…まさか」
気づいたか…クッキは今の反応だけでそれを確信した、そして毘沙門天が先程とは態度を変え歩み寄るようにクッキに話しかける
毘沙門天「やめておけ布袋、叶わぬ希望は持つでない、運命からは逃れられないのだ」
ク「なんのこと?それよりまだやるっていうの?」
クッキは脅すような暗い声で毘沙門天に言った
毘沙門天は少し考えた後ケイキに「人間」と語りかける、ケイキは「え?私?」と言葉を返す
毘沙門天「其方にはこの先、幾度も絶望が降りかかる事であろう、だが、そのような事になった時にこそ、人を恨むことを悔いてはならない、恨むことは罪ではない」
そう言い残して毘沙門天は三度現れた炎に包まれ、その炎が消えた頃には、すでにどこかへ消えていた
ケ「…なんだったんだろ、あの人」
クッキは重たい表情を、仮染めた笑顔で包んでいう
ク「でも、ケイキちゃんが無事でよかったよ」
ケ「クッキ…」
ケイキは戦いの緊張が解けたのか変身も解け、元の服装に戻った
ケ「あ、戻った」
ク「変身する意思がなくなると、自動的に元に戻るようになってるんだよ」
ケ「そうなんだ」
しかし大胸筋の部分についていたクリスタルは、いつのまにか手元で持っている
だが特には気にはせず、ケイキはクッキに「帰ろ♪」と何事もなかったように促し、クッキもそれに賛成して家へと歩いて帰っていった
ケイキ達は今日のことについて歩きながら話し合って、家に帰ったら一悶着あった今日から一息つきたいと考えながら1人と1匹は帰路についてゆく
そんな一部始終を、赤みがかった栗色の髪をツインテールで三つ編みにしてまとめている16歳の少女、マロンが見ていた
マロン「へぇ〜、まさか私の他にもう1人魔法少女がいたなんて…面白くなりそうじゃない」
ケイキ達を見つめ、面白そうにニヤリと微笑む
?「いや、残念ながらそうはならぬぞよ」
突如、どこからか定年を迎える年齢辺りの男性のような声が聞こえてきた
マ「!誰?誰なの?」
マロンは周囲を見渡すが声の正体らしき存在はいない
しかしマロンの背後に何かが燃えるような音がしたので、まさかと思い振り向いて確認した
するとやはり真空で、紫色の炎がその場で燃え上がっており、やがて炎は弾けるように消え中から人影が見えてきた
炎の中から現れたのは、上半身と下半身を全て衣服で覆うような紫色の漢民族風の衣装を身に纏い、お腹の辺りまで届くほどの長いヒゲを生やした、70代くらいの男性のような姿をした存在であった
そしてやはり、当然かのように宙を浮いている
姿を見せるや否や「誰よ!あんた」といきなり質問をかけて自分を警戒させるマロン
?「我が名は寿老人、死の象徴を守護する生の象徴が1角である」
やはり定年を迎えた男性のような声で名乗りあげる
マ「寿老人…?ってことはあんた、七福神なの?」
寿老人「いかにも、わしがお主に顔を見せたのは他でもなかい。お主はあの須本寺景気という人間に興味を抱いてあるようじゃが、単刀直入にいう、辞めておけ、あれと接触したことによるメリットはなにもなかろう、それだけでない、あれに関心を抱けば抱くほどに、お主は悲しみを覚えることになるであろう」
寿老人はマロンにそう忠告する
マ「へぇ〜、つまりそれであんたはあたしの邪魔したいわけね」
当たり前のようにそう言って忠告を返すマロン
寿老人「邪魔じゃと?わしは純粋にお主に忠告をと思っただけじゃ」
マ「あんた、話聞いてたならわかるでしょ?あたしはあの娘に興味を持った、あたし以外の魔法少女という存在にね、その興味を阻害する権利は誰にもない、これ以上あたしの邪魔するっていうなら、あたしもあんたの邪魔をすることになるよ」
最後にマロンは黄色いクリスタルを寿老人に見せつけてそう言った
寿老人はそのクリスタルの色から彼女が弁財天の天ノ依代であると分かった
寿老人「そうか…しかしのう、わしとしても、あれとお主を近づけさせるわけにはいかんのじゃ、すまんが、本当に邪魔をさせてもらおう」
寿老人はそういうと手に持っていた、木材でできた持ち手が丸く渦巻きのような形になっている杖を空へかざした
マロンは「おもしろいね」と言ってクリスタルを肩に触れさせた
するとやはりマロンの体が眩く光り、黄色いフリル衣装にピンク色の大きめのリボン、そのリボンの中央にクリスタルが埋め込まれ、白いスカートと真っ白なグローブ…が瞬く間に着装され、最後に瞳の色が黄色く変化した
マ「今なら、見逃してあげてもいいけど」
寿老人「そうすれば、お主はどうする?」
マ「ふん、なにがそんなに嫌なのか知らないけど、結局私の邪魔をするのね」
寿老人が手始めにとその杖から紫色の炎を放出した
突進するかのように炎がマロンに迫っていく
しかしマロンは冷静にこれを対処する
まず能力でドラムセットを作り出し、それを叩きつけるように演奏する、すると地面から丸く大きな岩が、地面をすり抜けて現れ、それが炎を全て受け止めた
マ「どう?rockっていうでしょ」
弁財天の能力は音楽、それを連想させるものならばいかなる事象も可能にする
マ「さぁ、今度はこっちの番よ!」
マロンはドラムと岩を消滅させ、それと同時にエレキギターを手元に生成する
それを踊るように高速で演奏していると、一瞬だけギターの
ピックガードと呼ばれるボディの真ん中辺りの位置から雷が発射された
寿老人は首を左に傾けて避けようとしたが頬に僅かに擦り付いてしまった
その部分に赤い血液がたらりと地に落ちる
寿老人「ほう、やりおるの」
マ「まだまだいくわよ」
マロンはエレキギターをかき鳴らし、幾つもの雷を発射し続ける
寿老人はそれを肉眼で察知し、空中を自在に飛び回ることで避け続けた
その避けられて空中へこぼれた雷の内の1つが、てくてくと自宅へ歩いているケイキの首元に流れつく
ケイキの首はその衝撃に耐えきれず吹き飛んでいき、頭の無い首から噴水のように血をザーザーと噴射されながらその場に倒れ込んだ
クッキはしばらく唖然とした後発狂し、早くケイキに寄り添おうと訴えかけるが、首が無くなった時点でケイキは既に死亡した
如何でしたか?今回でクッキに関するほとんどの情報を公開できたんじゃないかと思います。
このお話は構想の都合上1話に全てのお話しを集約させる必要があるので多少長くなるのは仕方ないと思っていたのですが、正直5桁は自分でも驚いてます