5.ユロ
人間に多く触れ合ってきたアキサムは、この胸の高まりがなんなのか理解できる。しかし、決めるのはあまりに早すぎると考えてもいた。
一度も恋をしたことがないアキサムにとっては、初めての経験である。初恋というものなのかもしれない。
2人は歩きながら話をした。
「私はアキサムです。この町外れに住んでおります」
「私はユロです。ツックリー街で仕立て屋を営んでおりますので、この町の仕立て屋のデザインを見て回ってたんです」
偶然にもアキサムの好きな花の名前だった。ツックリー街は多くの旅人や商人が行き交う街で、宿屋や道具屋が多い場所である。赤黒髪を穢れた色だと認識しない者も何割かいる。
「服がお好きですか?」
「はい!色んな人がお召しになるのを見るととても嬉しいんです!」
ユロは服の素晴らしさについて語った。可愛らしい人だ。まるで花が咲いたようだと考えながらアキサムは微笑むと、後ろから飛んできた石を指で跳ね返した。勢いよく投げた犯人の額に当たり、後ろで呻き声が聞こえた。
ユロをめがけて飛んできていたのには気づいておらず、ユロはひたすら語っていた。