4.恋をした天使
女性は気にするそぶりもなく、ただ子供を心配そうに見つめていた。ぐったりとしていた子供に何もできなかったことを悔やんでいるのだろう。
赤黒髪の女性を見て、アキサムはなんとも言えない気持ちになった。
この国の約8割は、赤黒い色を血の色として嫌っている。女性の髪を見た母親の反応を見ると、そっち側の人間だったのだとアキサムは思った。
神の教えにより、差別は禁じられているのだが、人の嫌う意識というものはなかなか変えられないものだった。
ただ、本当に気にしていないらしく、女性はアキサムの方を見ると困った笑顔で言った。
「あの子、医者に診てもらえるといいんですがね。せめてお腹に入った水を出してからの方がよかったのに、私慌ててしまいました」
「いえ、あなたはできることをしましたよ。それより、あなたも濡れています。風邪をひいてはいけない」
アキサムは持っていた手巾で、濡れた女性の頬を拭いた。
女性はくすぐったそうに笑いながら、お礼を言った。家が遠いらしいが、歩いて帰ると言い出しので送って行くことにした。
上着を貸し、髪についていた葉などを取ってから、買った手拭いで髪を覆った。
「何から何までありがとうございます。家に着いたらどうかおもてなしさせてください」
首を振ったあと、アキサムは優しく呟いた。
「あなたの善行に感動しただけです。もてなしてもらおうと送るわけではないので。神はあなたを見ておられます。いつか幸運が舞い降りることでしょう」
それにあなたに恋をしたから、とは言えないアキサムであった。