1.天使の悪戯
ラーダイズ教国のさまざまな店が並ぶ通りで、アキサムはユロの花を購入した。
ユロの甘い香りを嗅ぐと帰路を急ぐことにした。
突然トンと肩をぶつけられアキサムはよろめき、ぶつかった男性は並んだ後、吐き捨てるように言った。
「チッ、邪魔だよ」
「すみません、急いでいたもので」
アキサムは襟を直すと、そのまま行ってしまった男の方を向いた。
あれはわざとであることを知っていたからだった。
ユロの花びらを一枚取り、ふっとそれを飛ばした。
ユロの花びらが銀貨に変化し男性の後ろでチャリンと落ちた。
男性は音に気づき、振り向き下を見るとニヤニヤしながらその銀貨を取ろうとした。
すると歩いていた町娘の足が手を思い切り踏んでしまい、男性は声を上げながら痛がっていた。
アキサムはそのまま振り向かずに去っていった。
透明で見えないが、アキサムの背中には羽が生えている
天界に在す神が遣わした天使なのだ。
アキサムの不敵な微笑は美しいものだった。
道行く女性の心を掴み運命の相手だと言われるまで自分が笑っていることにも気づいていなかった。
アプローチを軽く避けた後、前にいる杖をつき歩く老人の荷物を持ち目的の通りを過ぎたところまで老人をおぶっていった。
人間を見守り、悪しき者には罰を与え、善き者には幸せを届けるのが天使の仕事だった。
(とはいえ、私も人間に肩入れしすぎているか)
背筋を伸ばしながらユロの花を胸ポケットに入れ、髪をかきあげるとため息を吐いた。
彼は人間に軽く甘いところがあるのだった。
ユロの花・・・甘い香りのする百合に似た花。
アキサムの好きな花である。
天界
・・・神々や天使が在す世界。楽園のような場所。
善き者は死後そこにいくと言われている。