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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ラブミーラブユー 四色目

作者: 華永夢倶楽部×三色ライト

前作:ncode.syosetu.com/n9602gn


※本作は下記作品の“公認クロスオーバー作品”となっております

三色ライト『(元)魔法少女が(やっぱり)変態でした。』

華永夢倶楽部『ラブミーラブユー』

-★☆☆-


 親元を離れて風玲亜(ふれあ)ちゃんと二人暮らしする事になって、早二ヶ月が経とうとしていて時の流れをしみじみ感じています、月宮(つきみや)あかりです。

 私達は八王子から離れて東京を出て、さらに電車に乗って遠くへ走った先にある星乃川へ引越して、女性専用アパートの百合園荘で共同生活をしています。もちろん食事もお風呂も一緒だし、お布団も一緒‼︎

 だから布団をめくったら、私と風玲亜ちゃんのすごく良い匂いが立ち篭めてるよ‼︎ しかもこの匂いには男女問わず卒倒させる自信があるよ‼︎

 さてと、前置きが長いって思ったからそろそろ本編に入ろうかな。それに私達には大学以外にもやるべき事が出来て忙しくなりそうだからね。

 もうすぐ二十歳になる私と風玲亜ちゃんは、そろそろ自動車免許を取得しようと考えている。

「う〜ん……」

 既に自動車学校へ向かって受講手続きを済ませ、記念すべき最初の日が明日に迫っている。風玲亜ちゃんなら余裕で合格しそうだと思ってたんだけど、実はかなり緊張してるって教えてくれた。

「やはり不安です…… 高齢者事故が多い中、初心者の私達が車を走らせるとなると怖くて怖くて……」

「それは確かに怖いよね…… テレビで頻繁に自動車事故を見てるから、なおさらだよね…… でもだからこそ私達はそういう人達にならない様に、きちんと勉強しないとね‼︎」

「あかり……」

 明日に迫った自動車学校に緊張と色々な思いを抱きながら、私達は抱き合う様に眠りについた。


 そして自動車学校へ受講する一日目は、大学の講義が終わってからのスケジュールになっている。ついに車の免許を取る決意をした事を大学の先輩である(あかり)さんと輝夜(かぐや)さんとブラッディ達に話した。

「と言う訳で‼︎ 月宮あかり、免許取得を目指します‼︎」

「おぉ〜‼︎ ついにあかりちゃんも免許を取るのかぁ〜。私達が免許を取る努力をしたのを思い出すよ〜」

「勉強がほとんど分からないからって、私に頼りっきりでしたよね。まぁその甲斐あってギリギリ合格しましたし」

「ちなみに灯は合格点ギリギリだった。あかりは満点目指して差を付けよう」

「ちょっと‼︎ 私におバカキャラを定着させないでよ‼︎」

「大丈夫、灯は愛されてる」

 灯さん達は既に免許を取得して、若葉マークも取れているから分からない事があったら風玲亜ちゃん以外に頼れる人がいる。運転で分からない事があったら、灯さん達を積極的に頼ろう‼︎

 そう決意した私は大学が終わったらすぐに風玲亜ちゃんと合流して、二人で自動車学校へと向かった。流石に大学または百合園荘からの徒歩だと遠過ぎるから、一旦バスに乗って最寄りの駅から歩いて行くルートを選んだ。そしてしばらく歩いたらようやく自動車学校に到着、そして入校式が始まった。

「それでは入校式を始めます。まずはここで勉強する為の教材を配布致します。出来るだけ失くさない様にして下さいね」

 先生からいくつかの本を配られ、気になって中を読んでみると……

「うわ…… 当たり前だけど車の事がビッシリ書いてあるよ……」

「……………………」

 後ろに座ってる風玲亜ちゃんは既にスイッチが入っているみたいだね。まだ始まってないのにもう軽い予習してるよ。私も見習って真面目に勉強しないとだね、勉強のやる気ピークが受験勉強なんてダメだもん‼︎

 よしっ、私だって一発合格してみせるんだから‼︎


 そして早速私が運転する時がやってきた。風玲亜ちゃんは二階で自習してて、窓から私が運転する姿が見える構造になってるからミスったら風玲亜ちゃんにバレちゃう。そうならない為にも先生の話は真剣に聞いて理解しないと……‼︎

「……月宮さんですか?」

「はい、月宮です‼︎」

「私は今回の運転担当です。分からない事があったら言って下さいね〜」

 少しだけ体が大きめの男性の先生が助手席に座って、手順通りにサイドブレーキとシートベルトを動かす。そして近くの壁にかけている交通安全のしおりを読み上げたら、ついにエンジンを動かす瞬間が訪れた。

「はいでは左右確認したら、発進して下さいー」

「よーし……」

 ブレーキを踏みっぱなしでレバーをPからDに切り替え、そしてブレーキを離す。

「おぉ……」

 ついに車が動き始めた。私の運転で車が動き始めた。今まではゲームセンターの車しか動かした事がなかったから、こうやって本物の車を運転出来る事が夢みたいだった。

 小さい頃は両親の車に乗って色んな所に行ってて、お父さんが好きな曲をひたすら聴き続けて歌詞を暗記したのは良い思い出。もしカラオケで歌ったら、九十点以上を出す自信があるよ‼︎

「それじゃあまずは追い越しから教えますね。追い越しをする時は、まず前後確認をしてから右ウインカーを出してください」

 先生に言われた通りに、一つずつこなしていく。手前に停車を想定した車があるから衝突しない様に急ぎめで追い越していく。

「それじゃあ次は左右に曲がってみましょう」

 先生に言われた指示通りに、左折と右折を交互にこなしていく。まだ簡単な方だから私が慣れてきたと思ったのは十分くらいだね。

「はいでは停車地点に戻りましょう。もう時間なので」

「あ、もう時間ですか?」

 車の時計を見たら、確かに授業が始まってから五十分経っていた。どうしよう、私もしかして車が大好きなのかも……

「先生、ありがとうございます」

 先生に挨拶して学校に戻って、風玲亜ちゃんがいる部屋に向かった。だけどそこには教科書や解答用紙が机に並べられてるだけで姿が無かった。

「あれ? トイレかな?」

『お疲れ様です。運転は楽しかったですか?』

 そう考えてたら背後から風玲亜ちゃんが現れて、ハンカチで手を拭きながら机に着席した。

「うん、結構運転が楽しかったよ。次は風玲亜ちゃんが運転する番だね〜」

「あんまり私ばかり見てないで、学習してくださいね。あかりのやる気は大学受験がピークなんですか?」

「そ、そんな事ないよ‼︎ ちゃんと一人で勉強出来るもん‼︎」

 なんか今、物凄く子供みたいな事言った気がする……

「と、とにかく風玲亜ちゃん‼︎ 私は一人で勉強出来るから見ててね‼︎」

「いや、私がよそ見したら事故りますって……」

 少しキツめのツッコミを貰った私はここで話を切って風玲亜ちゃんと一旦別れ、周りの人達と同じ様に交通安全についての学習に取り組んだ。

“えっと〜、『時速三十キロで走行中の住宅街道路付近に、目の前には停車中の大型トラックと通学中の子供達が歩いています。この道路を走るドライバーは、どんな危険を察知すべきでしょうか』…………”

 近くに子供達が歩いているなら、もっと速度を落として走るべきだよね。例えば徐行して左右を見ながら前方のトラックを慎重に追い越していく。これが正解かな?

“『バイクは車体が小さい為、乗用車よりも速度が遅く見えるので注意して走行しなければならない』…………”

 確かにバイクって遅く見えるなぁ〜。実際に講習場で走ってたバイクも遅く見えたから、どれもきちんと覚えないとね。

“コレは丸で、コレはバツで……”

 少しでも余裕で合格する為にも、私は風玲亜ちゃんの事を気にせずに勉強を集中していく。まぁこれはまだ最初だからやる気が続くのは分かってるんだよ?

 問題はこの集中力を継続的に維持しなきゃいけない所。段々と合格出来るのか不安になったりしてきたら、そこからやる気も集中力も無くなっていくと思う。

 でもね、ご褒美があったら話は別だよ? モチベになるし、達成感が生まれて不安な気持ちが一気に吹っ飛ぶかも‼︎

“そう思うと、何だか不思議とやる気に満ち溢れてきたぞ〜‼︎ よしっ、満点取って風玲亜ちゃんと一緒になろう……‼︎”

 少し冷静になって考えたら、明らかに墓穴を掘った決意だと分かる。けど私はもう決めたし、今さら取り消したりなんてしない…………

 勉強も運転も両方とも頑張って、パーフェクト目指す勢いで免許を取得してみせるよ‼︎


 自動車学校に通い始めて、そろそろ一ヶ月が経とうとしている頃には私と風玲亜ちゃんはあまり無駄話をしない様に、普段よりも口数を減らして通う日々になっている。これは百合園荘で互いに決めた事で、休み時間以外は極力会話をしないという事で今の状況になっている。

「……………………」

「……………………」

 だから百合園荘に帰った途端、私も風玲亜ちゃんも疲れた身体に正直になって玄関で倒れ込んでしまう。

『あぁ〜ッ、疲れたぁ〜‼︎‼︎』

 おぉ、一語一句が綺麗に揃ってしかもハモったよ。風玲亜ちゃんも無理してたんだなぁ…………

「疲れたね〜風玲亜ちゃん……」

「はい…… 結構応えましたね……」

『ピンポーン♪』

 んっとぉ、多分灯さんかな? きっと私達の声に気付いたんだよきっと。

「は〜い、開けて良いですよ〜」

 玄関前でグッタリしたまま返事をすると、すぐに扉が開いて灯さんが小包を抱えて入って来た。

「お疲れ二人とも〜。帰りが遅くなるかと思って、私が夕食を代わりに作ったけど食べる?」 

「ありがとうございます灯さん……」

 疲れ切った身体を何とか起こして灯さんの手作りを受け取る。灯さんも忙しいだろうから、早速食べて洗って返さなきゃな。

「あのさ二人とも、ちょっと良いかな? 実は私達ね、今度の日曜日に出掛けようと思ってるんだよね。あかりちゃんと風玲亜ちゃんも良かったら一緒に行かない? 場所は東京チュウチュウランドなんだ〜」

「チュウチュウランドって、千葉にあるあそこですよね? 灯さん達が休みの日、私達も行けるっけ……?」

 自動車学校のスケジュール表を確認すると、日曜日はそもそも休みだった。つまり私達はフリーだね‼︎ よし行こう‼︎

「チュウチュウランド行きます‼︎ 風玲亜ちゃんも行くよね?」

「私も行きます。灯さん達の運転を見るのがメインになりそうですけどね……」

「うぅ、かなりのプレッシャーを感じる…… と、とりあえず二人とも行くって事で輝夜ちゃん達に伝えとくね‼︎ じゃあまたね‼︎ 小包は明日返しても大丈夫だから‼︎」

 灯さんが部屋から出た瞬間、すぐにとは言えないけど急いで小包の中身を覗いてみた。なんと中身は弁当をリッチにした感じの料理だった。そのあまりの豪華さに思わず唾を飲んでしまい、私だけ独り占めしたくなってくる。

「……あかり?」

「あちゃー、バレてたかー」

 結局私は灯さん特製のお弁当を一人で食べれる事が出来なかったけど、風玲亜ちゃんと一緒に夕食を頂く時間は独り占めする事が出来たよ‼︎ やっぱり好きな人と食べる料理って、世界一美味しいよね‼︎


「準備は良い⁉︎ それじゃあ、出発進行‼︎」

 灯さんの運転で私達は百合園荘から出発し、東京チュウチュウランドへと向かった。ちなみに座席は運転席が灯さんで助手席が輝夜さん、後部座席は私が輝夜さんの後ろで風玲亜ちゃんが灯さんの後ろ。そしてブラッディが中央の席に座ってるよ。

 若葉マークが取れて既に一年以上運転してるだけあって、灯さんの運転はやっぱり上手だな〜。学校の先生みたいに無駄の無い動きだもん。

「あかりさんと風玲亜さんは自動車学校に通い始めて、順調な滑り出しが出来ましたか?」

「私は運転が少し心配でしたけど、まぁ急ブレーキはかけられなかったので何とか出来たと思いますね」

「私は、今は平気ですけど…… 東京で左右折をする自信が無いですね……」

 そっかぁ、風玲亜ちゃんでも東京は怖いんだね。狭い道路にややこしい道路表示が所狭しと並んでるからだよね、きっと。

「そうだよね〜、私も若葉マーク時代に東京に輝夜ちゃんと行ったんだけどね。複雑な道路表示にテンパってたら後ろの車にクラクション鳴らされちゃってさ〜…… もう怖くて泣きそうだったよホントに……」

 それでも何とか東京のドライブは終えたけど、その日からしばらくは東京の運転が怖くなったみたい。確かに東京は怖いもんね〜、たとえ自転車を走らせるだけでも怖いもん。

「灯、高速道路も走るんですか? まだ自信が無かったら私が運転しますよ?」

「あぁ〜、じゃあ輝夜ちゃんにお願いしようかな。あそこのコンビニで交代するね」

 灯さんがコンビニで車を止め、トイレ休憩も兼ねながら輝夜さんと運転を交代して再び走り出した。そしていよいよ東京経由の千葉へ向かう高速道路に乗って、時速八十キロの速さで走らせていく。

「そう言えばあかりちゃん達ってさ、チュウチュウランドには行った事あるのかな?」

 高速道路をしばらく走らせてから、助手席に座った灯さんが後ろに首を伸ばしながら話しかけてきた。

「私は、小学校の行事と中学の時に数回くらいですね」

 風玲亜ちゃん、家族とは行った事が無いんだよね。やっぱり家の事情を知ってる私には、何度聞いてもこれだけは心が痛むなぁ…………

「私も数回くらいしか行ってないですよ〜。あっでも五才の時に家族で初めて行った時に迷子になって、夕方になってやっと再会出来たんですよ〜」

「迷子って…… あんな大勢の人混みの中で一人って、その時怖くなかったの⁉︎」

「えぇまぁ、特に怖いとかは無かったですよ。あの時はまだ子供だったのも相まって冒険気分で歩き回ってましたし……」

「うぇ〜、あかりちゃんはスゴいなぁ…… 私がもし五才で迷子だったら、怖くてその場で泣いてたかも」

『そしたら私が声を掛けてたね』

 いきなりブラッディが割り込んで来た‼︎ しかも本当にやりかねない発言だから食い付いたってレベルじゃないんだけど‼︎

「……って言うかブラッディ、ずっと黙ってたけどもしかして寝てたの?」

「寝てない。向こうの車に幼女がいないか見てた」

 はぁ、全くこの子は……

「んで? 実際に幼女はいたの?」

「いた。四回も幼女が乗ってる車があった」

『……………………』

 相変わらずブラッディは幼女好きだなぁ〜…… ブレないのは良い事だけど。でもとりあえず寝てなかった事が分かったから、ブラッディは気にする必要は無さそうだね。後はやっぱり輝夜さんと灯さんかな。

「輝夜さん、高速道路ってまだ苦手なんですか?」

「そうですね…… やっぱりテレビでよく高速道路での事故を見かける所為で、苦手だけでなく恐怖感もあります……」

「ホントそうだよ‼︎ 輝夜ちゃんは一切悪くないのに、ぶつかって来た方がいちいち文句を言ってきたら余計に怖くなるもんね〜。それにもし高齢ドライバーに衝突されたら、きっと向こうじゃなくて輝夜ちゃんが悪い事にされそうだもん‼︎ そういう所、大人は卑怯だなって思う‼︎‼︎」

「その気持ち、私も同じです…………」

 もう本当に灯さんの言う通りですよ…… 最近は高齢者事故があまりにも多過ぎて、外を出歩くのが怖過ぎるんですもの。早くこういう事故が無くなって欲しいなぁ…………

「そろそろ高速道路を降りますよ。みんな降りる準備をしてて下さいね〜」

『は〜い‼︎‼︎』

 輝夜さんの運転で高速を無事に走り終えて、そのまま東京チュウチュウランドへ直行‼︎ すぐ近くにホテルがあるんだけど、次の日は大学があるから今回はお預けだね。

「はぁ〜着いたぁ‼︎ ここに来るのは久しぶりだよー‼︎」

 灯さんはチュウチュウランドに着いてすぐに背伸びして、それに続く様に輝夜さんや私達も背伸びする。まぁずっと座ってたから軽く身体をほぐさないとね、準備運動準備運動っと。

「よ〜し、軽い体操も終わった事だし…… 今日は思いっきり楽しんじゃおう‼︎」

 灯さんを先頭にチュウチュウランドの園内を歩き回って、色んなアトラクションを遊び尽くしていく。途中でパレードを見かけて撮影したり軽食を挟んだりしていく内に、気が付けば午後二時前になっていた。

「そっかぁ、もうこんな時間かぁ…… 輝夜ちゃん、最後に目玉アトラクションに乗ってから帰ろうか」

「分かりました。けど目玉アトラクションは、園内にいくつもありますし…… あかりさん達はどれに乗りたいですか?」

 少し浮かれ気味の輝夜さんがマップを広げて、次に乗るアトラクションを探す。私達もう一通り乗ったつもりだから、そろそろ目玉中の目玉アトラクションに行こうかな‼︎

「あっ、じゃあここの爆雷山コースターに乗りましょうよ‼︎」

「おぉ〜良いね‼︎ じゃあ次に乗るのはそこに決定‼︎」

 爆雷山コースター。チュウチュウランドの目玉アトラクションの一つで、むしろこれが大本命と言ってもおかしくない程に大人気の絶叫コースター。色んな角度に曲がったり急降下も惜しみなく使ってくるから、苦手な人も多いこのアトラクション。

 私は全然平気なんだけど、風玲亜ちゃんが少し心配かな。高い所がまだ苦手だし絶叫系も修学旅行の時には一度も乗らなかったし。

 色々と好みが分かれるだろうから、全員乗れると良いんだけどね。そう思ってたらその不安が的中しちゃったワケでして…………

「ねぇ、私だけ乗れないんだけど」

 ブラッディがアトラクションの身長制限に引っかかって、四人で乗る事になりました…… しかも私達を見送る姿が何処となく寂しそうなのが、かなり心に来る‼︎

 ごめんね、ブラッディ‼︎

「大丈夫。楽しんで」

 ブラッディはコースターのコース下で私達を見上げる様に見ている中、ついにコースターが発進した。

「風玲亜ちゃん、手ぇ繋ぐ?」

「…………はい」

 目を瞑りながら私の手を繋ぐ風玲亜ちゃん。そんな風玲亜ちゃんを安心させる為に、私も風玲亜ちゃんの手をギュッと握りながらも優しく力を入れる。

『うわぁーーーー‼︎‼︎ わぁーーーー‼︎‼︎』

 風玲亜ちゃんが緊張する表情を眺めてたら、ついにコースターが急降下し始めた。それと同時に身体が振り落とされそうな感覚に陥り、一瞬だけ恐怖を感じるけど同時に気持ち良さがやってくる。

 私だけじゃなく、灯さんと輝夜さんは二人で両手を上げて思いっ切り楽しんで叫んでる。私は怖がってる風玲亜ちゃんの隣でキャーキャー叫び続ける。

 しばらく走り続けていき、無事に地上に帰って来た時にはすっかり怖がって私から離れようとしなくなっちゃった。私的には怖がる風玲亜ちゃんも可愛いしもっと眺めてたいけど、それよりも安心させないとね‼︎

「大丈夫だよ風玲亜ちゃん。もうおしまいだから、ね?」

「ありがとう、あかり……」

 風玲亜ちゃんの肩を借りながらブラッディの所に戻ると、ブラッディはベンチの端に座って待っていた。

「おかえり。みんな大丈夫?」

「私達は全然大丈夫だよ。それよりもブラッディ、そっちこそ大丈夫だったのかなぁ〜? 一人でちゃんといられたの〜?」

 灯さんがあからさまにブラッディを煽り出した。まぁ意図が伝わるから良いんだけどさ……

「私を誰だと思ってる。私はブラッディ・カーマ、夜を駆ける幼女好きの吸血姫……‼︎」

 ブラッディがめっちゃドヤ顔プラス、マッドサイエンティストのポーズで決めてきた。周りの人から視線を一切浴びないそのあまりの痛々しさに、ただただ苦笑するしかなかった。

「はいはい。じゃあそろそろ帰ろうか」

「……無視したね、今」

 やっぱりブラッディ、最近キャラがめちゃくちゃ変わってると思うなぁ…… そもそもブラッディって、こんなキャラだったっけ?


 自動車学校に通い続けて一ヶ月半くらい。仮免許を取得して運転にも自信が湧いてきたし、卒業試験にも無事合格した。そしてついに私達にチャンスが訪れた。一番の大トリである本免テストの日がやって来たのだ。

「あかり、落ち着いて解けば絶対に大丈夫ですよ。焦らず行きましょう」

「うん…… 分かってはいるんだけど、やっぱり本番は緊張するなぁ〜」

 座席に着いてギリギリの時間まで教科書を読んで、間違えて覚えてる問題が無いかどうか確認していく。これで思わぬ思い違いがあったから仮免テストを合格点ギリギリでクリア出来たから、あの時以上に気を付けながら目を通していく。

“……………………”

 問題文も一部変えてくる事も予想して、その時の問題文を想像しながら復習を続けていく内に時間が訪れる。テストの担任が教室に入って来て、テスト用紙を纏めながら話をし始める。

 風玲亜ちゃんは二人ほど後ろの席で座ってるけど、そんな事を気にしない様にしながらテスト用紙を受け取って開始合図を待つ。

「それでは、始めてください」

 一斉に紙をめくる音が教室内に響き渡り、同時に紙に文字を書き込む音も響き渡る。その音を聞くと私は大人へ一歩近付いてるんだと再認識して、「しっかりしなきゃ」という決意が湧いてくる。

“…………よしっ、負けるな月宮あかり‼︎”

 見ててね風玲亜ちゃん。車の免許を余裕で一発取得してみせるから‼︎

「はい時間になりましたので用紙から手を離して下さい。十二時になったら合格者発表を行いますので、それまで席に座ってお待ち下さい。そして合格者は免許証発行をするのですぐ近くにある部屋に行って下さい」

 一階の受付まで戻って席に座ったら、時間が来るまで風玲亜ちゃんとひたすら合格を祈る……

“お願い、合格しますように……”

 そしてお昼の時間になった瞬間、モニターに合格者の受験番号が一斉に表示されていく。一度に表示されるから私達を含めた皆が我先にと自分の番号を目で探し尽くしていく。

『あっ、あった……‼︎』

『……よしっ‼︎』

 そんな声が聞こえていく中、私の番号がモニターに表示されてるのを見つけた。無事に合格出来た事を教えようとしたけど、ここは公共の施設。適度な声量で風玲亜ちゃんに合格を知らせる。

「風玲亜ちゃん、あったよ」

「私もありましたよ。お互いに一発合格ですね」

「…………うん‼︎」

 やりましたよ、灯さん輝夜さんブラッディ‼︎ 私にも免許が取れましたよ‼︎

 こんな私にも、免許が取れた事が何よりも嬉しい。やっぱり人って好きな人の為に頑張れるって、あながち嘘や誇張なんかじゃないんだって身を持って知る事が出来た。

 これから私自身にどんな人生が訪れるかはまだ分からない。でも風玲亜ちゃんと一緒なら、何でも出来そうな気がするし、確信もある。

 これからは、努力を怠らない人間になりたいな。その為にもまずは大学を卒業して、それまでに自分の職を見つけないと。

 それが一番大事だよね、きっと。


-★★☆-


「お待たせしました風玲亜さん、それじゃあ行きましょうか」

 灯さんが主催する料理パーティーの準備として、私と輝夜さんで買い物に行く事になりました。あかりは灯さんと一緒に調理を担当して、ブラッディさんは盛り付けを担当する事になっています。

「輝夜さん、思い出してみると二人で歩くのって初めてですね。今までは灯さん達と行動してたので……」

「そう言えばそうですね。私も風玲亜さんと二人きりで行動するのは初めてですね」

 灯さん曰く、輝夜さんは少し人見知りが激しい方だと言ってたけど…… 最近は私との会話が、少しだけスムーズになっていますね。だいぶ打ち解けたって事で良いんですかね?

「灯さんから貰った買う物リストを見る限り、これは一万円を軽く超えそうな気がするのは私だけでしょうか……」

 これからするパーティーで食べ物が余った時の為なのか、二日目の料理プラスアルファの食材もリストに書かれている。こういうのは自宅でも二日目のカレーを頂いたりした事があったので、抵抗は特に無いんですけどね。

 私の勝手な想像ですけど、灯さんは将来立派な輝夜さんの花嫁になれますね。

「風玲亜さん、買い物は分担しますか? それとも二人で一緒にしますか?」

「それじゃあ二人で行動しましょう。お互いにリストを見ながらの方がミスも抑えられるので」

「分かりました。では私はカゴを持ちますね」

 輝夜さんと連携して私が食材を購入する係、輝夜さんはカゴに食材を詰める係になってから星乃川モールに入った。普段買う物は全てここに纏めてあるのでよく利用しているんですが、同時にここはかなり広い施設なだけあって初見だと迷子になりやすいのに注意しないといけません。

 実際、あかりは初めてここへ行った時に迷子になってますし…………

「あとはあそこにある商品をカゴに入れたら、レジに並ぶだけですね」

 商品棚に並んでるたった一つの商品に手を伸ばした時、不意に反対方向からもう一人の手が伸びて私の手に触れてしまう。

「……ッ‼︎ す、すみません‼︎」

 とっさの反射的に、向こうの女性に謝ってしまいました…… 私ったら何やってるんでしょう……

「いや問題ないよ。今のは偶然の事故だからね」

 相手の人から何だかクールビューティーと言いますか、大人の女性オーラを感じます………… とても素敵な人です。

「そ、そうですか…… えっと、この商品はどうしたら……」

「それなら君達が買っても構わないよ。私は他の店で買う事にするとするよ」

 見知らぬ人と軽く会話してる最中、輝夜さんがずっと私の背後でジッと様子を見ていますね。ここはあかりから教わった“コミュ力アップ法”を、輝夜さんに実行して貰いましょうかね。

「ふむ、そうだ。こうして会ったのも何かの縁だ、少し店の外でお話でもどうだい?」


 買い物袋を片手に私達は見知らぬ人とスイーツ店のソフトクリーム片手に、席に座って軽くお話する事になりました。座席は見知らぬ人を私達が挟む様にしています。

 それにしてもこの人、横顔がすごく綺麗に整っててモデルみたいな印象があります…………

「あ、えっと…… お話するにも名前が分からないのはアレなので、自己紹介をしても良いですか?」

「あぁ、構わないよ」

 知らない人に自己紹介をすると知った輝夜さんは「えっ⁉︎」という表情で私の方を見てくる。人見知りの人は確か、自ら進んで名乗るのが苦手だったりするんでしたね。だからここは私が輝夜さんの手本になりましょう……‼︎

「私の名前は日向風玲亜と言います。一星大学法学部の一年生になります」

「み、みやま、か、ぐや。一星大学法学部三年生、です……」

「一星大学……?」

 彼女は大学の名前を聞いた事があるらしく、顎に手を当てて考え始める。ほんのしばらくの間考えて彼女は何か思い出した様子で話し始める。

「一星大学はもしかして、先週()()()()()()来てた場所かい?」

「あのっ、一星大学で『先週ライブをした』って事は…… もしかして……」

 突然過ぎる程の食い付きぶりで輝夜さんは、何と自ら口を開いて彼女に質問し始める。

「もしかして、(かおる)さんですか?」

「あぁそうだよ。私はfeliz(フェリズ)(いずみ)薫さ」

 薫さんと言う人、さっきfelizって…………

 私は聞いた事が無い名前ですけど、輝夜さんはどうやら知っているみたいですね…………

「もしかして薫さんが言っている先週って、文化祭でやったライブの事ですか⁉︎」

「もしかして、あの時行ったライブの観客の中には君がいたのかい? だとするとこれは、とても偶然的かつ運命的なな出会いだね」

 あの話し方からして、輝夜さんは大学内で薫さんを知ったみたいですね。それも文化祭でライブをしたという事は、実は歌に関してのプロもありえますね。私は残念ながら当日は欠席してたので何とも言えませんが。

「輝夜さん、毎年文化祭に薫さんが来てるんですか?」

「そうですよ‼︎ 彼女は一時期の人気低迷期を乗り越えたトップアイドル“feliz”の泉薫さんなんです‼︎ 大学の文化祭で毎年ライブを開いて、その度に新年生達から注目される程の輝きを持つスター性のあるアイドルの一人なんですよ‼︎」

 私に薫さんの事をハキハキした声で教えてくれたおかげで、少しだけ薫さんのこのオーラの理由がはっきりしました。

 薫さんはトップアイドル。この方を目の前に少し肩の力が入ってしまう感覚はこれが原因だったんですね。

「あの、そう言えば明日香(あすか)さんはどちらへ?」

「明日香ならテストで赤点を取ったなら、残って追試テストをしてるよ。だがそろそろテストも終わってもうすぐここに来る時間だね、私はこれで失礼させてもらうよ。君達と話せた事、一生覚えているよ」

「いえこちらこそ‼︎ 薫さんとお話が出来て嬉しいです‼︎」

 輝夜さんと薫さんで固い握手をした後、私も続く様に薫さんと握手をしてからお互いにその場で別れました。

「はぁ…… 少しですけど他人と会話する事が出来ました。それにしてもこんな所で薫さんと会うなんて、思いもしませんでした。トップアイドルになると休みの日が貰える事が減るらしいので、こうしてプライベート姿を一般人が見かけるのはとても貴重なんですよ」

 それからしばらく輝夜さんの話を聞きながら買い物袋をぶら下げ、百合園荘へと戻って来た。部屋に入った途端に灯さんの手作り調味料の匂いがブワッと漂って、私達の嗅覚と空腹を刺激してきましたね。油断するとお腹の虫が鳴きそうです……

「お疲れ輝夜ちゃん、風玲亜ちゃん‼︎ 二人は休んでて大丈夫だよ。これらの調理は私に任せてね‼︎」

「ファイト灯。伝説の主婦になるんだ」

「いや〜、伝説には、興味ないかな……」

 いつも通りの灯さん達の明るい会話を聞きながら、そろそろ私達はオールナイトのパーティを開こうとしています。ここからは私達だけの時間なので、何をしたのかは秘密です。

 もしこっそり教えて貰おうなんて考えをしていても、私は絶対に教えませんからね♡


-★★★-


 百合園荘という愛の巣で、輝夜ちゃんと暮らせて毎日ハッピーな森野灯です‼︎ もうあそこに住み始めて三年目になるんだね〜。時の流れってこんなに早いとは思わなかったよ。

 さて、そんな私は高校時代に第一志望してた一星大学の歯学部三年生として、毎日辛い勉強を何とか乗り越える人生。

 そんな私達に訪れるのは、六月二五日の百合の日。今日のこの時間は私と輝夜ちゃんにとって特別な日になると良いなぁ〜…………

「でさ〜輝夜ちゃん、今日は六月二五日で百合の日だよ‼︎ 折角だし少し大きなお店に外食でも行ってみない⁉︎」

「外食は良いんですけど、今日は灯とブラッディが夜まで講義ですよね?」

「えっ⁉︎ あ、そうだったぁ〜‼︎ 今日は夜まで講義するんだった〜‼︎」

 ウソだよね、それじゃあ私達の大切な時間は講義の後って事じゃん‼︎ もうこうなったら講義が終わった瞬間に全力ダッシュで帰るしかないよね‼︎

「待っててね輝夜ちゃん‼︎ 講義が終わったらすぐメールするからさ‼︎」

「分かりました。では大学の外で待ってますから」

 ふぅ〜、危なかったぁ〜。とりあえず今の講義を終わらせて輝夜ちゃんと一緒に帰ろうっと‼︎ ブラッディも私と一緒に講義だけど、今日は帰ってすぐ星乃川モールの本屋に行くって言ってたからなぁ……

 ううんっ、それより講義に集中集中‼︎ 帰って輝夜ちゃんと外食した後にた〜っぷりエッチする為にも頑張らないと‼︎


「あぁ〜あ〜、もうすぐ午後七時になるじゃん……」

 やっと終わったぁ〜。早く帰って待ちぼうけさせてる輝夜ちゃんの所に行かなきゃ‼︎

「あっ、灯さん‼︎ 今日は輝夜さんと二人ですか?」

「うんそうなんだよ‼︎ だからまた今度ね、あかりちゃん‼︎」

 サッと靴を履き替えて、一時間以上待ってる輝夜ちゃんの所へ行かなきゃ………… って、アレ?

 アレェ、おっかしいなぁ? 靴が物凄く柔らかくて足がちっとも入んないんだけど……?

『ちょっと灯、これは一体どういうSMプレイなんだお?☆』

「うわぁぁ⁉︎ 靴がイキナリ喋ったぁ⁉︎」

「靴じゃないお☆ 足元を見るお☆」

 あれっ、このくどい喋り方と声に聞き覚えが…………

「なっ、なななななな……‼︎」

 私が靴だと思ってたものは、靴なんかじゃなくてディスポンだった。しかもちょうど顔を踏んでるからグニッとヘコんだ跡が起き上がるまで付いていた。

「やぁ灯。ひっさしぶり〜だお☆」

「ディスポン⁉︎ 確か監獄にいたんじゃ…………」

「なんか急に聖王様の監視付きで、コッチに一日来れる様になったお☆ けど僕自身まだ何も理解出来てない状況だから、質問は無駄だお☆」

 何かおかしくない⁉︎ 百合の日になったら毎年ディスポンを仮釈放でもしてるの⁉︎ 七夕じゃないんだから‼︎

「えっと〜、とりあえず用は何なの? 魔法少女同士で同窓会とかするの?」

「あぁ〜惜しいお☆ では答えとして、周りをよ〜く見渡してみるお☆」

 周りを見ろって言われても、家に帰ろうとしてる人が皆立ち止まって何もしていない…………

「私とディスポン以外が、止まってる……⁉︎ どうなってるのコレ……⁉︎」

「はぁ〜、とても()()()()()のセリフとは思えないお……☆」

 “元魔法少女のセリフ”って事は…… あっ、そういえば今の時刻って確か……

「午後七時………… もしかして私達は今、魔法少女同士の戦いに巻き込まれてるって事?」

「いや、正確に言うと灯と輝夜だけが見えない力によって巻き込まれた。と言えば良いのかな? あっ、お☆」

 見えない力って、それってディスポンや聖王様にも見えないのかな?

「ディスポンにも見えないって事はさ、向こうは相当な存在なんじゃないの? だってホラ、そもそもディスポンを倒した時なんて星乃川にいる皆でやっと倒せたレベルだったじゃん? そのディスポンが『見えない力』って言うんなら、敵は私達の知らない所から来てるって事になるんじゃ…………」

 実際にブラッディやシープみたいな、異国からの侵略者が星乃川に来てるんだもん。アニメとかで言ったら第二部みたいな展開になってるんじゃないの?

 ブラッディ達は簡単に言えば悪魔や魔物だから、今度は魔女と戦うストーリーになってたりするかも…………

「実は案外身近な所に、見えない力のカケラがあったりするかもだお……☆」

「身近な所って、何処よ……」

「それは分からないお☆」

 分からないんかいッ‼︎ めっちゃ意味深なトーンで言っといて‼︎ 期待して損した‼︎

「ところでだけど、灯はいつになったら変身するんだお?☆ 午後七時の世界に灯と輝夜の二人だけ。何も起こらないはずがないお☆」

「えっ、七時で止まってる理由って私と輝夜ちゃんで魔法少女バトルをさせる為なの⁉︎」

「それ以外に理由があるのかい? あっ、お☆」

 そっかぁ〜、輝夜ちゃんと久々のバトルかぁ〜。前にやったのは確か一年生の時だったかな? ブラッディから魔力を借りてバトロワ形式で戦ったっけ。

 あぁ、目を閉じればあの時の光景が浮かんでくるよ…………

「物思いにふけってる所悪いけど、僕は()()()()()()()ってちゃんと言ったお☆ そうやって無防備な姿を【ネイベルナイト】の前に晒すつもりかお?☆」

「うぇっ⁉︎ もうコッチ来てるの⁉︎」

「当たり前だお☆ 輝夜を先に変身させてるお☆」

「ちょっと、ソレもっと先に言ってよね‼︎」

 そう言えば輝夜ちゃん、大学の外で待ってたからもうコッチに来るじゃん‼︎ 急いで変身しないと私が不戦敗になっちゃう‼︎

「マ、マジカルインストール‼︎‼︎」

 輝夜ちゃんに見つからない事を祈りながら魔法少女【ハニーランプ】に変身っと‼︎ 変身が終わったらすぐ走って渡り廊下へ直行‼︎ 別に作戦とか理由とかは全然無いよ‼︎

「そういえば、夜の大学って初めてだなぁ〜。まぁそりゃそっか、夜に大学の講義なんてそもそもないからなぁ……」

 夜七時だけど明るい大学の廊下を慎重に歩く。不用心に歩いて曲がり角で不意打ちとか、魔法少女としてカッコ悪いからね。その辺は注意しながら行動しないと‼︎

「でも相手はあの輝夜ちゃんだから、きっと私が簡単に見つけられる場所で仁王立ちとかしていそうなんだけど…… 私の勘、無事に当たってると良いなぁ〜」

 輝夜ちゃんが果たして何処にいるのかをあまり深く考えないまま、大学唯一の渡り廊下までやって来た。ここなら窓が全面ガラス張りだから遠くに隠れても見えるかなと思って、何となく来てみたんだけど……

「おーい、輝夜ちゃーん‼︎ いるなら返事してよー‼︎」

 …………やっぱり、いるわけないよね。

『そんなんで返事するのは、頭の悪い人だけですよ…………』

「…………ッ‼︎」

 このあまりにも美し過ぎて卒倒しそうな声の持ち主は…… 輝夜ちゃんもとい、ネイベルナイトだ。ナイトは私がここに来る事を予想してたのか、メイン武器の月姫を床に突き立てながら待ち構えている。

「……久しぶりだね、ナイト。こうして会うのは一年生の時以来じゃなかったっけ?」

「そうですね。二年生の時は色々あって出来ませんでしたから、こうしてランプと戦えるのは正直嬉し過ぎます」

「それってさ、今度こそ私を倒すチャンスが出来たから…… だよね?」

「えぇその通りです。流石にブランクには勝てませんけど、少しでも衰えたという自覚はありません。今でも私の愛用武器は思う存分に振り回せますよ」

 うわぁ〜、ナイトが柄にもなく月姫をバトンみたいに振り回してめっちゃアピールしてくるよ…… でも敵である私の前で披露するって事はさ、私に対して「余裕だ」って表れだよね?

 つまり不意打ちするなら今って事だよね‼︎

「よーし、先手必勝‼︎ [女王蜂]‼︎」

 悪いけど勝たせてもらうよ‼︎ 敵前で油断するナイトが悪いんだから、怒らないでよね‼︎

「やはり突進して来ましたか……」

「えっ?」

 ナイトは私の突進に合わせて身体をヒョイっとかわし、そのまま振り回される月姫が持つ遠心力を利用して、突進の勢いに負けてよろけてる私の背中目掛けて、思いっ切り野球をする感覚で打ち付けてきた。

「がはっ……‼︎」

 そのままホームランする勢いで吹っ飛び、目視で大体三十メートル程の記録を叩き出された。槍で実際に刺されてはいないけど、大ダメージなのは大体予想が付いてる。

「や、やっぱりナイトは強いね…… 普段から一緒にいるだけあって、私の考えが全部見透かされてるもん……」

「……………………」

 無言、か。

「でも諦めないよ‼︎ 私はまだ負けてないからね‼︎」

 そう言って私はナイトに、いたずらっ子みたくニコッと笑顔を見せる。だけどこれでナイトの表情を柔らかくする事は出来なかった。

「相変わらず諦めが悪いですね。でもランプのそういうところ、私は好きですよ」

 ナイトから久しぶりに“好き”って言われて、私の内心はお祭り騒ぎになってる。ただ月姫を突き付けられてなかったらもっと良いムードだったんだけどなぁ…………

「さて、少し呆気ないですがこれで決着ですね。さようなら、ランプ」

 ナイトの月姫が、尻餅をつく私のヘソ部分に深く突き刺さる。この時の痛みはかなり軽減されていて、注射に刺された時の痛み位にまで抑えられている。

 その痛みを感じてすぐに、私のHPが一気に全部無くなってしまった。たった数分でゼロになって、ナイトとの戦いはこんなにもあっさりと終わってしまった。

「あっ…… あぁ……」

 それでも痛いものは痛い。私が思ってるよりもアッサリと終わってしまった事にショックを隠せないまま、その場に倒れ込んで仰向けになる。

「……………………」

 月姫を仕舞って私に背を向けて歩き去って行くナイトを、遠目に見ながら悔しがる。あまりの悔しさに涙が溢れ出そうになるけど、それを必死に堪える。

「あぁ〜あ、悔しいなぁ…………」

 まだ行けると思ってた。

 あと少しだけ頑張れると思ってた。

 なのに、私は刺された。

「こんなアッサリとやられるなんて、ちっとも思わなかった…………」

 ナイトは確かに強い。魔法少女の時からずっと最強格として君臨し続け、そして今も最強の魔法少女として私にその強さを見せつけた。

 その結果がコレだ。たぶん五分も持たなかったと思うし、自分はもっと行けると今でも思ってる。

「まさか、こんなにも早くに…………」

 フラつく身体に鞭打ちながらゆっくりと立ち上がって、無防備に背中を見せるナイトにゆっくりと左手を伸ばす。その手には魔法を発動する為の構えを行って、だ。

()()()使()()()()()、思わなかったよ…………‼︎‼︎」

 ……さぁ、今度はコッチの番‼︎ 隙だらけのナイトに、私はドヤ顔で反撃の一撃を喰らわせてやる‼︎

「ハニーコンバレット‼︎‼︎」

 まんま蜂巣(ほうそう)の形をした銃に弾丸を込め、ナイトの背中に狙いを定めて八発撃ち込む。

「…………なっ⁉︎」

 流石のナイトもこれには予想出来てなかったみたいだね。驚いた表情を私に見せながら、所々無理した回避をしてるよ……

「くっ…………」

 痛そうに右肩を押さえてるって事は数発当たってるね。でもコレじゃきっと決定打にならないから、もっと最高の一手を考えなきゃ……

「な、何故立っているんですか…… 確かにトドメを刺したはずなのに……」

「あれ? ナイトには何度か見せてるから、てっきり覚えてるかと思ってたんだけど……」

 私のマジカルボードを開いてナイトに自分のHP表示を見せると、ナイトは私のHP表示を見て一瞬で納得した。

「HP1…… なるほど、そういう事でしたか」

 ナイトは私の復活魔法[ハニーコーティング]の存在を思い出すや否や、まるで飛ぶ様に後退りして牽制する為の距離を取った。お互いに呼吸を整えながらも出方を伺い、手の動きや足の動きを見逃さない様にしっかりと見定め続ける。

「しばらく魔法少女から手を引いていると、こんなにも忘れるものなんですね……」

「そうだね…… 私も魔法少女としての戦い方とか結構忘れちゃったな。でもナイトの魔法や戦い方だけは、絶対に忘れないよ。ネイベルナイトは私のライバルでもあって、美山輝夜ちゃんは私の生涯のパートナーでもある人だから」

「……………………」

 ほんの数秒だけの沈黙が流れる。照れているのか、出方を伺ってるのか、それとも両方なのかな? 大学生になって大人になったのか、戦いの最中でも色々と考えれる様になってきた。こんな事、高校生の時じゃ絶対出来なかったよ。

 まさかポイント制が無くなっただけで、戦い方がこんなにも変わるなんて思わなかったなぁ〜。それでもHPとMPによる縛りは残ってるけど、むしろその方が私的には慣れてるしやり易い。

 その方がきっと、そろそろナイトは()()()()を使う頃になるはずだから…………

「ではお互いに悔いが残らない様、全力で行きましょう。ランプ、覚悟は出来てますよね? 私は出来てますよ」

 真剣な眼差しで低い姿勢をとり、私に月姫を向ける。

「覚悟なら、とっくに出来てるよ‼︎」

 真剣な眼差しで、ナイトに女王蜂を向ける。

「分かりました、では行きましょう………… イグジストナイトメア」

 私の予想通り、ナイトの最強魔法[イグジストナイトメア]がついにお披露目した。あの魔法は自身のHPを1固定にする代わりに攻撃力を爆増させる、言わば諸刃の剣。

 だから普通に殴れば勝てるけど、もしそんな攻撃で勝てるなら最強の魔法少女をやっていける訳がない。

「ランプ、この魔法こそが私の気持ちです。なのであなたの気持ちを、この私に見せてください」

「言われなくても、見せてあげるよ‼︎ ショットガンランプ‼︎‼︎」

 カンテラを召喚し、そこから放たれる(いく)その光弾が弾道ミサイルの如くナイトへ発射される。もちろんたった一発でも当たるなんて事は考えていない。むしろコレは牽制に使った方がまだ勝算があるかもしれない。

「ふっ‼︎ せいっ‼︎ でやぁ‼︎」

 ナイトは余裕の表情で飛んでくる光弾を月姫で切り飛ばし爆発させ、やがて辺りはその時の爆発と爆風に包まれていく。

「ナイトメア…… ランス‼︎」

 爆風を利用して飛び道具を発射してきた。掛け声のおかげで発射のタイミングは分かったけど、物凄く弾速があったからかわすのはかなりギリギリになっちゃった。

「良い反応ですが、それが一体いつまで待ちますかね? ナイトメアランス‼︎」

 ナイトの周辺に数え切れない程の禍々しい闇を纏った槍が、全て私に穂先を向ける。いつでも避けられる様に身体を左右に揺らしてみるけど、ナイトメアランスはしっかりと私の位置を捉えて離さなかった。

「では行きますよ…… ナイトメアランス、全筋発射‼︎‼︎」

 ロケット花火みたいにけたたましい音を鳴らしながら、全ての槍が私目掛けて飛んで来る。身体に突き刺さる直前まで精神を集中させて、弾道を見極めて次々と避けていく。

「一見すると無理そうだけどッ、弾道さえ見極めればッ、不可能じゃあ、なさそう…… だねッ‼︎」

 床の上をダンスするみたいに飛び回り、壁が近付いたらアクションスターみたいに壁キックして大胆に飛ぶ。そして隙があったら[ランプボール]を投げつけたりして、ナイトの姿勢を崩してみたりする。

「ハニートラップ‼︎」

 真上からハチミツを落としたりもしたけど、ボールもトラップも全て回避されちゃう。

「うわっ、ヤバ……‼︎」

 あちこち飛び回っていて、目の前から槍が飛んで来るのに気付かなかった‼︎ こういう時は……‼︎

「ジャーーーーン、プ‼︎‼︎」

 一気に飛んで無理矢理回避っと‼︎ エッヘン、どんなもんよ‼︎

 その間にやっとナイトメアランスが全部発射され終わって、また互いに間合いをとりながら再び沈黙が訪れる。

「……強くなりましたね、ランプ」

 突然ナイトが私を褒めだした。

「私と初めて出会った時は戦いの基本すら出来てない、まさに新人魔法少女のランプだったのに…… 今のランプはそんな頃を感じさせない、一人前の魔法少女に見えますよ」

「ん〜、そうかな……? あんまり一人前って言われてもピンと来ないや……」

「本人に自覚がなくとも、少なくとも私は一人前だと思いますよ。今のランプの戦い方には確かな戦略がありますし、ナイトメアランスを全筋回避出来ているのが証拠です。昔のランプには到底出来ない事が出来ている、これは胸を張って誇っても良い事ですよ」

「そ、そうかな……? じゃあ……」

 ナイトに褒められて嬉しくない訳がない。そんな気持ちを前面に押し出しながら、ナイトに向けてビシッと指さす。

「ナイトメアランス、全部回避しちゃったよ‼︎」

 思いっ切り死亡フラグになりそうな発言だなと心底思いつつも、ドヤ顔で自慢する。だってナイトの魔法を無傷で回避するなんて、ラッキー通り越してほとんど奇跡に近いんだもん‼︎

 だからナイトの言う通り、ここは遠慮なく自慢させて貰うよ‼︎

「そう言えばナイト、あれだけの魔法を発動したんだからさ…… そろそろMP切れなんじゃないの?」

「さぁ? それはどうでしょう?」

 今の発言を信じるか、信じないか。ここで私の勝敗が大きく左右されるはずだから慎重に行動しないと……

「確かに私は先程、夥しい数のナイトメアランスを発射しています。ですがこの魔法は消費量が少ないんですよ。だからさっきあれだけの数を一斉発射出来たんです。そもそもあなた達魔法少女は、ブラッディの住む世界の者が召喚したバフォメットとの戦いで()()()()はずです。私が『待たせたな』と言わんばかりにやって来た際に、いわゆる“俺つえー”と言われるレベルの魔法で叩き潰した所を」

 そ、そう言われると確かに…… あの時はどの魔法少女も唖然としてたのは、記憶に強く残ってる……

「あれだけの魔法を発動するには、莫大な魔力が必要なんです。ですが今回のバトルで私が発動した魔法は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけ………… まだたった二つの魔法しか使用してないので、MP残量はまだまだ余裕ですよ」

 こうしてナイトの主張を聞いてると、そうかもしれないと思うかもしれない。でもそれは()()()()()()()()()本当の事を言ってる様に聞こえるだけ。

 つまりナイトが今言ってる事は、私を何かしらの作戦にハメる為の…… とても真っ赤な嘘。

 ウソなんだ。

「嘘だよ……」

「嘘、ですか…… ではランプがそう思う根拠は一体何処にありますか?」

 もしかしたらだけどナイトのマジカルボード、頼んだら見せてくれるかなぁ〜なんて考えたけど、まぁきっと無理だよね。とにかくここはたった一つのミスが命取りになる戦いなんだ、集中して考えていこう‼︎

「それはね、私達魔法少女のMPだよ。高校生の時に月一でやってた魔法少女バトルってさ、いつもMP切れを起こしかねないギリギリの戦いがデフォルトだったじゃん。それはディスポンがブラッディを殺そうとした時もそうだったし、バフォメットとの戦闘もそうだった。あれからいくつか新しい魔法が使える様になったり経験値を積んで戦いにも慣れた私達には、常にMP切れが付き纏っていたよね? 卒業式間近の日にナイトと私が戦った時は戦いに熱中し過ぎて気付かなかったけど、実はお互いにMPを使い切ってたんじゃないの?」

「わ、私も戦いに熱くなってたので実際はどうだったのかは知りませんが…… でも魔法少女バトルにはそんな時の救済措置として、()()()()()()()で微力ながらMPを回復させるシステムがありますよ。それを上手く利用して魔法一発分を回復させ、とっておきの戦術に組み込む事だって可能なはずですよ?」

「それは違うよ‼︎‼︎」

 そう、それは違うんだよ。ナイトが戦略的に吐いた嘘なんて、私には全部お見通しだもん。だって私はナイトの、輝夜ちゃんのパートナーだから‼︎

 好きな人の気持ち、好きな人の事をほとんど知らずに“パートナー”だなんて、そんな都合よく名乗って良い訳ないもんッ‼︎ だから私は輝夜ちゃんの嘘を、ナイトの嘘を暴いてみせるッ‼︎

「ナイトが嘘を吐いたって証拠は………… “ナイトメアランスの発射数”にあるよ」

「ナイトメアランスの、発射数……?」

 ナイトの表情が少しだけ曇った気がする。だけど一切手加減せずに嘘を撃ち抜いていく。まるで弾丸のように。

「ナイトメアランスってさ、単純な弾速が速いけど威力はそこそこだから消費量は少ない…… 確かにそれは私でも納得出来るんだけど、でもそれって単発だけ発射した場合の話だよね? あの時は焦って避けてたからしっかりは数えてないんだけど、おおよそ五十発は撃ってたよね? 一度にそんな数の魔法を撃ったらさ、流石にMP切れは免れないと思うんだけど…………」

「……………………」

 遂にナイトは俯いて黙り込んじゃった。どうやら頭脳戦は私の勝ちって事で良いのかな?

「それでしたら、私が今から通常攻撃を当てれば…… 少なからずMPを回復出来ますよね?」

 そう言いながらナイトが鋭い目つきを向けつつ、月姫を私目掛けて穂先を光らせてきた‼︎ アレッ、これってもしかして矛盾を撃ち抜けてないパターン⁉︎

「はっ、[覇王剣]‼︎‼︎」

 とても耳に響く金属音を渡り廊下中に反響させながら、両手でナイトの月姫による重過ぎる一撃を必死に食い止める。迫り合いで勝てないと判断した途端に一旦距離を取って、またナイトから離れる。ナイトはただ強いだけでなく観察力も優れているから、少しでも距離を取らないと私的には不意打ちとかに反応出来ないんだよね……

 それにまだ始まってから大体十分くらいしか経ってないのに、もう疲れてきた。高校生の時よりも激しい戦闘だからなのか、頭が少しだけフラついている気がする。

「確かランプは剣術が半人前でしたね。なので疲れた所を一気に突けば()()()()()()()()()私のMPは少しだけ回復出来ますね」

「うっ、くぅっ…………」

 うわヤバい、ナイトに疲労状態なのがバレてるじゃん。

 確かに私は普段から剣で戦ってないから、剣本来の使い方なんてからっきし分からない。いくら剣が私に剣術の基本を脳内へ教えてくれても、当の本人が扱い慣れしてなきゃ全く意味が無いもんね。宝の持ち腐れってヤツだよ。

 それに比べてナイトは愛用武器の月姫で戦ってる。私の付け焼き刃の剣なんかじゃ相手にならないなんて、自分が一番よく知っている。とにかく今はナイトの月姫をかわす事に集中しないと。それとナイトが嘘を吐いてる証拠も考えなきゃ‼︎

「ねぇナイトッ、やっぱりおかしいよ‼︎」

「何処が、ですかッ‼︎」

 少し強めの口調で喋りながらも月姫をすごく的確な位置に突いてくる。その一瞬一瞬の時間を見極めながら、私はそれを必死に食らい付いてく。

「MP切れの件だよッ‼︎ 確かにナイトは強いから通常攻撃さえ当てれば、すぐにでもMPを回復出来るかも知れないッ‼︎ でもそれはもう無理だよッ‼︎」

「何故無理だと決めるんですか⁉︎ 私には確かな実力がありますし、経験だってあります‼︎ なのでランプに()()()()()()()()事くらい、朝飯前ですからッ‼︎」

 あっ、今少しだけ見えた気がする…… ナイトの発言の穴が‼︎ この言葉でナイトの矛盾を、斬り落としてみせる‼︎

「その言葉、斬らせてもらう‼︎‼︎」

 頭の中で湧いてくるイメージを思い描く様に剣を振り上げ、勢い任せで振り下ろして月姫をナイトの手から無理矢理引き離す。慌てて月姫を取ろうとする所にすかさず剣を潜らせるけど、ナイトは低い姿勢をとってる事を利用して、床に頭をギリギリまで近付けて私からの首チョンパを回避されちゃう。そしてそのまま月姫を取られてまた距離を取られてしまった。

「ねぇナイト…… 通常攻撃を当てればMPを回復出来るのにさ、どうして最序盤で“イグジストナイトメアを発動させた”のかな?」

「あっ…………‼︎」

 ナイトは慌てながらマジカルボードの表示を見て、自分のHP表示に青ざめる。

「そ、そういえば序盤に私はランプに焚き付けられて…… イグジストナイトメアを発動させていた……」

「どうやら気付いたみたいだね。私と戦える事が嬉し過ぎたのか、戦いの途中で熱が入ったのかは曖昧だけど、自分が使った魔法を細かく覚えていなかったのはナイトにとって誤算のはず。もしかしたら私に対して序盤でイグジストナイトメアを使う事で動揺を誘ったのかもしれないし、恐怖を煽りたかったのかもしれない。でもそれらの作戦は見事に誤爆で終わり。こういうの、策士策に溺れるってやつかな? 私みたいなおバカが実力と頭脳戦の両方でナイトに勝てそうなのは嬉しいんだけど、正直ナイトだってこのまま負ける訳にはいかないでしょ? 実際に足が座っていない、今にも加速を付ける為の足の位置になっているからね」

 私から見えるナイトは、まだ諦めてなんかいない。しっかりと加速する姿勢になっていて、今すぐにも飛び出しそうなオーラを放っている。

「さてと。まだ戦う? ナイトはイグジストナイトメアと言う縛りを背負い、私はまだビックバンランプ一発分のMPが残ってるけど」

「…………えぇ、戦います。どっちかが負けるまで‼︎‼︎」

 ナイトは言葉を言い終える前に加速して、一気に私の目の前にまで迫って来た。

「でぇぇいゃああああ‼︎‼︎」

 あのナイトが、輝夜ちゃんが声を上げながら月姫を突きまくる。私の身体を貫こうと、一発一発を的確に当てに来ている。

 嬉しいけど、私としてはなんかこう…… ただ戦いをしたいんじゃなくて、()()()()()()()と戦いたかった。熱く燃えたぎるナイトもカッコいいんだけど、何処かナイトじゃない感覚を覚えている。

 あんなナイト、ナイトじゃない‼︎

 私が今出来る事は、ナイトを倒す事じゃない…… ナイトの頭を、冷やす事‼︎

「ハニートラーップ‼︎‼︎」

 ビックバンランプ一発分の魔力を全部使い切って発動させた[ハニートラップ]は、いつもの戦いで見てきた大きさなんかじゃなく、渡り廊下を封鎖出来るレベルの未確認飛行物体だった。

「お願い‼︎ 落ち着いてナイト‼︎」

 全速力で渡り廊下を走り去りながらハニートラップを発動させ、渡り廊下に取り残されているナイトをコレで閉じ込めようと大博打に出る。もしナイトが捕まらなければ全力の攻撃を喰らいダメージを食らって私の負け、もしナイトが捕まれば後はナイトを思いっ切り叩いて私の勝ち。

 私にとっての人生大一番、ここは絶対に決めてみせる‼︎‼︎

「いっけぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎」

 必死の走りで何とか抜け出せたけど、ナイトはどうかな…… って、うぇぇッ⁉︎

「逃がしは…… しません‼︎‼︎」

 なんか私が走ったスピードとは段違いでコッチ来るんだけど⁉︎ あぁそうか、ナイトにはスピード向上スキルがあるんだった‼︎ ヤバイヤバイヤバイ、このままじゃ追い付かれる……‼︎

「あっ……‼︎」

 突然ナイトが追って、来なくなった? えぇっ、どうして?

「くっ、うぅ……」

 ……って床に落ちてるアレは、私が出したハニートラップじゃん‼︎ 何であんな所に塊が落ちてるの? 巨大なハニートラップに視線を向けさせて、どさくさに紛れてちぎって投げたりなんてしてないのに?

「もしかして、ナイトメアランスを避けてる時に投げたハニートラップ⁉︎」

 そんなハニートラップが、ナイトの右足をしっかり捉えている。必死に足を引き抜こうとするナイトの頭上に、超巨大なハニートラップがのし掛かる。

「うわぁ…… なんかスライムに捕まった人みたい」

 ハチミツの粘性がどことなくスライムに見える所為で、どうしてもエロゲに出てきそうなエロい光景に見えてくる。

 ハチミツに全身を絡まれて苦しそうな表情をする美少女…… うん、エロいねこれは。

「ん〜。それにしてもこの状況の中で、どうやってナイトに攻撃を当てようか……」

 ハニートラップは渡り廊下全体を覆う様に包んでいる。しかもこの魔法の発動に残ってたMPを全部使ったから、ナイトを飛び道具で倒す事が出来なくなった。もし攻撃するとしたら、ここから武器を思いっ切り投げてナイトの頭に当てるのがせめてもの限界。野球の才能が無い私には、そんな事出来っこない。

 大丈夫大丈夫。落ち着いて考えるんだ、ハニーランプ。クールになるんだ、ハニーランプ。私達が出した魔法は戦いが終わるまで消えないんだから、じっくりと灰色の脳細胞を働かせて考えるんだ……

 まず私には武器を投げて当てる才能がまるっきり無いって事が分かった。それ以外の方法で何か良い方法があるとしたら、果たしてそれは何なのか。

「…………飛ぶしかないか」

 そう、このタイミング。ここで魔法少女ハニーランプの伝統芸をお披露目する時だ。「おいおいおいおい、二度目の披露じゃないか」ってツッコんだら、私渾身のハニーチョップをお見舞いするからね?

「よーし、それじゃあ…………」

 膝を曲げて腰を深く落とし、高く飛ぶイメージを作る。狙うはハニートラップに捕まっているネイベルナイト。あそこへ飛び込んで全力で一発殴れば、それで戦いは終わって私の勝ちになる。

「ジャーーーーーーンプ‼︎‼︎」

 つま先に全体重をかけ、バネみたいに勢いよく飛んでジャンプ‼︎ 目指すはナイトの頭上、この一発で決めるッ‼︎‼︎

「はっ……‼︎」

 ナイトも私の視線に気付いたらしく、身動きとれないながらもコッチを見てくる。そして一刻も早く逃げ出す為にハニートラップから抜け出す素振りを見せる。でもそれは無駄だよ‼︎

 ハニートラップはあらゆるものを優しく捕らえて、絶対に離さないッ‼︎ それがたとえ、完全無欠で最強無敵の変態魔法少女であっても‼︎‼︎

「うぅぅぃりゃぁぁああああああぁあぁぁああ‼︎‼︎‼︎‼︎」

 ナイトがどんどん近付いていく。顔が見える程に。

 悔しそうな表情をしている。でも何処か嬉しそうな表情だ。

 ……そっか、ナイトも楽しんでたんだね。

「……………………」

「……………………」

 そして私、森野灯こと魔法少女ハニーランプは…… 最強の魔法少女ネイベルナイトこと、美山輝夜ちゃん相手に大勝利しました‼︎

「ふふーん、勝利のブイ‼︎」


 大学に上がってから一度も見なかった、ポールから生えた鎖に繋がれるネイベルナイト。その姿をすっかり忘れてた所為なのか、久しぶりのエッチで燃える様な感情が湧き上がってきた。

「そっか…… ボーナスタイムもするんだね」

「魔法少女バトルと言ったら、むしろコレがメインディッシュなんじゃないかお?☆」

「まぁ確かに私もコレ目当てでやってた時期もあったよ? やってたんだけどさ……」

「お? どうしたお?☆」

「え〜と、なんて言うか……」

 鎖で縛られるのに一切抵抗せず、大人しく私にあんなコトやこんなコトをされる準備を済ませてるナイトをしばらく見つめる。そしたら視線に耐え切れなかったのか、ナイトはぷいっと視線をそらした。

「そろそろボーナスタイムをするのが、今さらだけどすごく恥ずかしくなってきた気がする……」

「大人の階段のぼったのかお……☆ まぁ人間誰しも年はとるんだし、こればかりは仕方ないかお……☆」

「……でも本音は?」

「いい年してボーナスタイムを口実にドスケベ変態エロ行為をする二人を見てみたいお‼︎☆」

「やる気満々じゃないの‼︎‼︎」

 ……ふぅ、とりあえず深呼吸っと。一度頭を落ち着かせてからナイトをじっくりと堪能していこう、そうしよう。

「それじゃあナイト、覚悟は良い?」

「はい………… どうぞ私の綺麗な口を、好きなだけ犯してください…………」

 ナイトが自ら口を真ん中から開いて、私に綺麗な歯を晒す。夜七時という仄暗い世界に光り並ぶ白いモノ達が、ヨダレに濡れてテラテラと光を乱反射させる。

「じゃあ、挿入れるよ……」

 ポールに塗りたくられたハチミツに指を深く押し込み、ソレを念入りにすくい歯ブラシに見立てて構える。

「はぁ、はぁ、はぁ…………」

 ナイトも気が気じゃないのか、私に口を犯されるのを待ち遠しそうに息を荒くしている。もちろん口は開けっぱなしだから私の手の平にはナイトの吐息がもろにかかっていて、正直少しくすぐったい。でもナイトの吐息だからそれすらも気持ちいい。

「あっ…………」

 ハチミツまみれの指が、ついにナイトの下前歯の側面に触れる。そこをなぞる様に撫でていくとナイトの吐息がより一層と激しくなる。

 それにしても、とても長い間していなかった久しぶりの行為なのにナイトが存分に感じてくれている。私が長い間かけて開発してきた口はもうすっかり私専用になっていて、常に私の指しか欲しがらないエッチな口になってしまっている事に、この何とも言えない悦びというか支配欲を感じる。

「はぁあ〜あ、あっ、ぁあ〜……」

 奥歯、前歯の先っちょ、歯肉、軟口蓋に硬口蓋、そして隙あらば舌をつまんではグリグリしてナイトの反応を楽しんでみたり。ちょっぴりSMプレイを実行してみたら、段々とナイトの表情が蕩けて女の顔になっていくのが目に見えていた。

「うわ、エッロ……」

 今さら私が言うのも何だけど、やっぱり口を開いてハァハァ言うナイトって、はっきり言ってエロい。

 口の中を執拗にイジくりまわされて、その度にナイトが大きく息を吐いて嬌声を上げる。その声を何度も聞き続け、次第に次はどんな事をさせようかとあれこれ妄想していく内に心がザワつき、燃えたぎり、そして盛っていく。

「ナイト…… ナイト、ナイト、ナイト、ナイト……」

 舌先をキュッとつまんでちょいとだけ引っ張ってクリクリしたり、舌の裏側を人差し指と親指で揉んだりつねったり、歯肉を人差し指で根元からなぞって、ちょっぴりイジワルで顎を左手で閉じられないように押さえたりして、無理矢理犯すシチュを擬似的に演出したりしてみる。

「はぁあああぁぁあ〜〜‼︎」

 ナイトの目からポロポロと涙が溢れる。そのあまりの気持ちよさに私の手によって少しずつ堕ちていくんだと思うと、もっともっと口を襲いたくなってしまうのが森野灯であって、ハニーランプでもある。

「はぁあはぁっ、はああぁ〜〜〜〜‼︎‼︎」

“ちょっとまずいな………… 確か、もうそろそろ時間切れだったはず…………”

 そろそろ残り時間がわずかになってきそうだから、そろそろ本気でナイトを気持ちよくさせていく。だからと言ってより一層指の動きを激しくするのは下品だし、何よりも愛が無い。

 ここで一旦手を止めて、アゴを動かせる様にしてナイトの目を至近距離で見つめる。

「ねぇナイト、少し痛かったよね? ゴメンね……」

「い、いえ…… そんな事ないですよ。こうしてランプの指に全てが犯されていくのなら、私は何をされても嬉しいですよ」

「えへへ、そんなの生粋の変態みたいじゃん……」

「それはお互い様ですよね。言うまでもなく」

「…………エッチ」

 ナイトの口内イジりを再開させる。だけど激しくせずに優しくマッサージをする様に舌をいじったり、歯をハチミツまみれの指で歯磨きしていく。私の指が触れたり擦れたりする度にナイトが感じては声を上げ、恥辱(ちじょく)恍惚(こうこつ)が入り混じった表情になる。

「あっ……」

 約十数秒の間にナイトの口を隅々まで愛する。あんまり痛い事をさせないように、優しく触れていく。

「あぁ……」

 好きなだけ口をイジってすっかり私色になったナイトは、もはやエッチな女の表情になっていた。あと五秒くらいだから何をしようかと考える前に、私はナイトの口に密着した。

「んむぅっ⁉︎」

 私とナイトとのボーナスタイムの最後は、愛のキスで締めた。


「……………………」

「……………………」

 魔法少女バトルが終わって、ディスポンが聖王様直々による強制送還によって大学は元通りになった。全ての後始末が終わった瞬間に午後七時の世界が終わって人々が動く中、私と輝夜ちゃんだけはその場に静止している。

 ついさっきまで、止まってたとはいえ人前であんな過激な戦いをして、さらに人前で美女の口をイジってた事を思い出すと、恥ずかしさのあまり冷静になれなくなっていた。散々エッチな事をしたから、こんなに冷静にいられるんだと思いつつも羞恥の感情が爆発しそうになる。

 誰も知らない、二人の性癖。

 誰も知らない、二人の性欲。

 誰も知らない、二人の秘密。

「……………………」

「……………………」

 渡り廊下の中途半端な位置に私と輝夜は、まだ突っ立っていた。

「か、輝夜ちゃん…… そろそろいい加減動こうか?」

「う、動くって…… この状態でですか……?」

 魔法少女バトルによって、私も輝夜ちゃんも疲弊通り越して過労気味になってしまった。まだまだピチピチの二十代のはずなのに身体のあちこちが痛い気がする。主に足と手の指が。

「仕方ない、じゃあ輝夜ちゃんは私の肩を組んで。二人三脚みたいに互いを支え合って百合園荘に帰るから」

 私は輝夜ちゃんの肩を組み、輝夜ちゃんは私の肩を組んで玄関を出る。靴を履くのには特に苦戦しなかったけど、歩くのは至難の技だった。フルマラソンをした後の脚みたいにフラつく脚で百合園荘までを歩くのが、そもそも地獄。

 何で高校生の時はあれだけ暴れ回ってたのに平気だったのかって、羨ましく思うよ……

「はぁ、はぁ…… やっと着いた……」

 百合園荘に着いたのは大学を出て一時間程。普段と比べてかなり遅くなったからお腹もペコペコだよ〜。早く電気付けて遅めの夕食を作らなきゃね。

「ただい、まぁ〜…………」

 もたつく足取りで靴を脱ぎ、輝夜ちゃんをソファーのある場所まで運んで寝かせていつもの様に部屋の電気を付けた。

「ひっ……‼︎‼︎」

 だけど今日は、普通じゃない事が立て続けに起こっている様だ。どうやら私達の部屋に、何故か血塗れでゴスロリ姿で白髪の少女が大の字で倒れていたんだから。

「ブラッディ⁉︎ どうしたの、何があったの⁉︎」

「あ、あぁ…… あか、り……」

 血塗れの手を伸ばし、私の頬に手を当てる。

「あれ、見て…………」

「あれ…………?」

 ブラッディが指差す先には、血で汚れてしまった一冊の本。待てよブラッディ、あなたまさか…………

「尊過ぎて、読めない…………」

 そしてブラッディは、息を引き取った。

 まぁ実際は死んだフリなのは分かってるし、本当はノリ良くやっていきたいのは山々なんだけど、今は悪いけど付き合う気力が全くない。

「ごめんブラッディ…… ちょっと今疲れてて……」

「そう……」

 そう言うとブラッディはスクッと立ち上がって、雑巾で溢した血を綺麗に拭き取って床を元通りにしてくれた。

「お騒がせしました」

 ブラッディは速やかに部屋を出て行き、私達だけの空間になった。

「えっと、輝夜ちゃん。何か食べたいものある?」

「あんまり、食欲が湧かないです……」

「そう……? じゃあ、今晩はおあずけだね」

「そ、それは別です……」

 ウソかいな。あんだけ戦っておいて、ソッチはまだ元気なんかい。

「じゃあ、私も輝夜ちゃんが欲しいな。お互いに気が済むまでシよっか‼︎」

 疲れた身体に鞭打ち、輝夜ちゃんが寝てるソファーに歩み寄って抱き寄せる。さっきまでボーナスタイムによって欲情し合っている状態だから、スイッチが入るのにさほど時間はかからなかった。

「輝夜ちゃん、続きをしよう」

「えぇ。朝まで離しませんよ、灯」


 私と輝夜ちゃんは魔法少女だ。だけど変態で、エッチでスケベで健全な女の子。誰かと結ばれる事を第一に願った少女達は、こうして幸せを手に入れていく。

 身体を求め合い、愛を確かめ合い、繋がり合う。

 これから先はそれなりに考えてる私達だけど、今は今を見つめていたいな。

 私には、夢中になれる相手がいるから。

 その人と一緒に、人生を歩んでいきたいから私は素直な気持ちで、輝夜ちゃんに全てをぶつけられる。

 だからいつまでも一緒だよ、輝夜ちゃん。

次作:ncode.syosetu.com/n7206hd


©️2021 華永夢倶楽部/三色ライト

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