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「…なので、橋の木の手すりが腐りかけているので、新たに金属で作り直してはどうかと思うのです」

「ふむ。では、夏の休暇で本格的に混む前に急いで直すことにしよう。で、手すりを木製から金属にする訳は?」

「リリアナのことです。何か理由があるのでしょう?」


 荷物を調理場に置き、2人の姉さま達に捕まらぬよう使用人に紛れながら、リリアナは屋敷の主、メイルズ男爵の執務室に逃げ込んだ。

 ちょうど、メイルズ男爵である父と長男ハリーが在室おり、2人に休暇前の混んできた市場の様子と市場にかかるメガネ橋の手すりについて報告していた。


「もちろん、手すりを金属にすることで劣化を少しでも防ぐ目的もあります。それにこのメガネ橋ですが、領内の他のどの橋に比べても景観が優れています。ここを観光に活かせないかと思いまして」


「手すりを金属にすることが、観光に繋がると?」

「はい、お父様。【願いの叶う橋】という観光スポットにならないかと。観光に訪れた方々に、チャームのような物に願いをかけ、手すりにかけてもらうのです。橋に祈願するイメージが近いですね」


 ーーー地球のフラ○スの橋のパクリだけど。恋人とかには受けが良いはず


「これまた突飛な考えだね!橋に祈願とは人が集まるとは思えないよ。そこはどうするんだい?」

「そこはお兄様、お父様とお母様のご結婚当時の話を持ち出せばどうかと」


 男爵夫妻は、男爵長男のお父様と侯爵家令嬢のお母様が大恋愛の末に結婚した。当時、お母様には皇族との婚約の話も上がっていたらしい。そのため、男爵夫妻の結婚は、一途な愛を成就させた感動的な話として話題となったようだ。


「お父様達の結婚時の話をほんの少し利用するのです。この橋でプロポーズをし、結婚に繋がったとでも噂話を流せばどうでしょうか?まず、年頃の若い娘は恋愛話が好きでしょう?噂を聞けば、若い娘達は願いを懸けに橋に来たいと思うと、そう考えたのです」


「我が娘ながら、面白い発想に感心するよ。しかし、リリー自身も若い娘だろうに…やけに達観してるね。

 して、その手すりに掛けるチャームとやらはどうするんだね?」


 ーーー若い娘って…。こっちは前世24歳プラス現世転生5年目の精神年齢は大人だもの


「チャームは、領内の杉の木で作成するのはいかがでしょう?毎年花粉飛散が問題になりますし。不要な木材をチャームにすれば、木材を廃棄する費用も浮きますし、チャームの売上も期待できます」


 ーーー木でチャームを作れば、ある程度橋に集まった段階撤去し、教会に持ち込んで祈願成就のお焚きあげみたいなことをしてもらおう


「なるほど、リリアナらしい面白い提案だけど、問題は噂話だね。どうやって流すの?」


 肯定的に意見を促す長男ハリーは、金髪と濃紺の瞳を持った高身長の青年である。騎士に憧れていた時期があり、鍛えぬかれた身体と、ややつり目ではあるが整った顔をしていた。社交界では、継承する爵位が男爵ではあるものの、イケメン独身貴族として名を馳せている。


「お褒め頂きありがとうございます、お兄様。そこは、お茶会の女帝とも言われるお母様にご協力頂ければ良いかと思いますわ。お姉さま達2人も上位貴族とのご婚約が決まっておりますでしょう?お2人にも橋の噂話を学園で流してもらえれば、恋愛成就の橋と噂になるのではと思うのです」


 ーーーお姉さま達2人には噂話をがんがん広めてもらって、ご自身達の持参金を、観光客アップの収益で稼いでもらいましょう!


「ふむふむ。橋の修理は必要不可欠だから、この際、手すりを金属で作らせてみようか。祈願成就うんぬんについても、チャームについても初期費用はそれほどかさむまい。リリー、後は、こちらで任せてくれるかな?」

「もちろんですわ、お父様!では、お仕事中失礼いたしました!」


 ーーーよし!お父様のこのニュアンスだと動いてくれるはず。目指せ、更なる観光収益!


 リリアナは弾むように歩き、上機嫌で執務室を後にした。


 ーーー今日は家庭教師も来ない日だから、研究室に籠ろうかしら?研究途中の化粧水と日焼け止めの改良の続きをしたいのよね!


 リリアナは15歳ではあったが、前世の記憶のお陰で勉学は他に引けをとらない。家庭教師からは週に1、2回、もっぱら貴族としての礼儀作法を教わっていた。

 さらにリリアナは、前世の大学院卒の知識をフルに活かし、現世で薬学研究を始めていた。

 幼いときに大きな事件に見舞われたリリアナに、両親は甘く、そんなに大規模でなければと屋敷に簡単な研究室を作る事も了承してくれていた。


 リリアナは午後の予定を研究に注ぐため、研究室に向かった。


 ーーー前世で大学で薬学を専攻したのって、現世のためだったのよ!日焼け止めもようやく軌道に乗ってきたし、頑張らなくちゃ!


 〈リリアナが辞した執務室〉

「父上、リリアナは本当に領内の政に関心が高いようですね」

「あぁ。発想がとてもユニークで興味深い。息子がもう1人いるようだよ。この情熱を少しでも貴族令嬢としての振る舞いに注いでくれればと思うのだが」

「…それはリリアナには難しいですね。でもまぁ、嫁としての貰い手は決まっているようなものですし心配ないのでは?」

「リーフェンシュタールの話はするな!」

「話を出さなくても、きっと近いうちに向こうから出してきますって…」


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