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幼少期とは言えど、あれだけの誘拐監禁事件があったのである、15歳になった今でも、家族にとってリリアナは心配の種であった。
しかもあの事件以来、リリアナの側にはなにかとアークが張りついているため、他の令嬢から妬みを買い、また事件に巻き込まれやしないかと、家族が心配するのも無理はないのである。
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つらつらと転生に気づく前に起きた、リリアナ誘拐監禁事件の思い出す。やはり、屋敷からの外出には、メイドをつけるようにした方が、家族の精神的負担を考えると良いのかしら?なんて反省していたが、学園から帰宅したレベッカの話は未だに終わっていなかったらしい。
「それで、どうして私の可愛いリリアナは、たくさんの食べ物を持って、メイドの格好をしているのかしらね?」
ーーーげっ。もう、その話終わったんじゃ…
レベッカは、男爵令嬢でありながら、所作は貴族令嬢の鏡と社交界でも言われており、貴族としての振る舞いに厳しい。リリアナがメイドの格好をして、たくさんの荷物を持っていることが理解できない。
「それは…、メイドのマリの家に初めて孫が産まれるのです。あと、侍女のカナの家はお婆さんが怪我をしたみたいで。2人ともちょうど今日までお休みしているから、屋敷の人手が足りなくて」
厳しいレベッカの視線に、リリアナは慌ててしどろもどろの言い訳をしてみるが、レベッカの目はつり上がったままだ。
「まぁまぁ、レベッカお姉さま。リリーは優しいから手伝いをしたくなったのでしょう?でも、リリーがメイドの格好までして、お手伝いするくらいなら、新たに人を雇った方が良くなくて?」
おっとりしたメアリーは、優しいがやや世間知らずである。リリアナの1歳上の学園の1年生で、学園で知り合った伯爵家の長男と婚約していた。メアリーもレベッカと同じく貴族には珍しい恋愛結婚となる。
男爵家の2人の娘が、上位貴族との婚姻を結ぶのである。周りからみれば、玉の輿である上に、上位貴族とのパイプが持てることに、年頃の令嬢をもつ貴族の親達からは羨望の眼差しが向けられた。
ただ当のメイルズ男爵家に財力が潤沢にあり、2人の婚姻の持参金を軽く準備できるならばの話である。小さな領地のメイルズ男爵家では、いくら観光で財政が潤っていようが、2人の婚姻の持参金だけで頭が痛くなる問題だった。
ーーー悲しいかな、元日本人。実家にお金が足りないのに人手不足だからって、少しの間だけのメイドの増員なんてできないわ!
レベッカお姉さまは侯爵家、メアリーお姉さまは伯爵家へ嫁ぐのである。婚姻に向けて準備に更なる費用がかさむことは目に見えていた。男爵家としては、今は少しでも節約したいところである。
「…とりあえず、この荷物を調理場に置いてきますね。あと、お父様に(橋の件で)お話があるのです。その後、学園のお話でも聞かせてくださいませ」
ーーーごめんなさい、お姉さま達!ここは、逃げるが勝ちね
レベッカのお叱りが長引くかなぁ…と感じたリリアナは、姉達にそう言ってすぐに荷物を抱え直し、調理場へ走り出した。
「ちょっ!リリアナ!話が終わったわけではなくてよ!」
「まぁ。レベッカお姉さま。しばらくぶりに帰ってきて早々に、玄関で長々とお説教も、リリーが可愛そうですわ」
姉妹で仲は良いけれど、少し元日本人のリリアナとは価値観で折り合いがつきづらい。きっと後で、屋敷内を走ったことも叱られるな…、と思いつつ調理場へ逃げ込んだ。
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