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暴力的な場面が入ります。
苦手な方はお避けくださいませm(_ _)m
回想シーン三話目です。
長々と説明が続きます…(-_-;)
後から聞いたリリアナの誘拐監禁事件の顛末は、逆恨みもいいとこだった。
主犯とされたのは、子爵家の次女ディアナ。メイドに扮装して伯爵家に入り込んでいたのも彼女であった。
ディアナの子爵家は事業が失敗し困窮の底にあった。子爵家の当主はなんとか財政の建て直しを計るが、思うように進まず借金は増える一方だった。
そんな中、子爵当主が金策も兼ねて出席した茶会で、ディアナは初めて男爵令嬢のリリアナを見かけた。
自分より下の爵位の家の娘でありながら、公爵子息アークと侯爵子息オスカーに囲まれ、幸せそうに微笑むリリアナ。
以前、ディアナの子爵家は、なんとか上位貴族に取り入ろうと、見目良いディアナとオスカーとの縁談を侯爵家へ打診したが素気なく断られていた。
金策に走る親に連れられた自分と、なに不自由ないリリアナとのあまりの違いに、ディアナは胸が張り裂けるほどの惨めさを感じた。
羨むほどの高位貴族の子息達に囲まれた男爵令嬢リリアナ・メイルズ。ディアナは激しい嫉妬に駆られた。
ある日、ディアナは某伯爵家での茶会に、リリアナを連れた男爵夫人が参加するとの情報を聞いた。親族の高位貴族を伴わない参加と知り、ディアナは恐ろしい計画を立てた。
子爵家の下男にわずかばかりの金を握らせて、伯爵の茶会に忍び込み女の子1人を子爵家の地下室に運ぶよう指示を出した。
伯爵家の令嬢は以前から、ディアナの兄に好意を寄せていたことをディアナは知っていた。それを利用し、リリアナを1人になるよう連れ出せば、ディアナの兄との仲を取り持つと伯爵令嬢に取引を持ち掛けた。
事は上手く運び、リリアナを子爵家の地下室に監禁、暴行を加えたのである。その後は、地下室に監禁したまま、飲食を与えず衰弱死させるつもりだったと自白した。
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ディアナの最大の誤算が早急に自身の犯行を特定されたことである。もちろん、リーフェンシュタール公爵家が捜索に関わる事も考えたが、捜索は内密に慎重に行われると考えていたのだ。貴族令嬢が誘拐されたとなれば、まるで傷物扱いされ、将来の婚姻にも関わる問題である。ディアナまで捜索の手がのびてきたら、その時熟考しようとディアナは甘く考えていた。
また、リーフェンシュタール公爵家は代々治癒系の水の精霊魔法に秀でていたため、公爵家の魔法を使いすぐに犯行を特定されるとは夢にも思っていなかった事もある。
結果、13歳のユーリスアークライトの風の精霊魔法により、犯行当日にディアナは捕まったのだが、問題は暴走したアークの精霊魔法の後処理であった。
当時、アークが風の精霊魔法を扱うということは、公に知られていなかった。代々公爵家の嫡子は、治癒系の水の精霊魔法を引き継いできた。そんな中、風の加護を受けたアークが誕生したため、公爵夫妻がその出生に有らぬ疑いの目を向けられることを危惧したのである。もちろん、アーク自身はリーフェンシュタール公爵家嫡男で間違いない。けれど、貴族社会は足の引っ張り合いでもある。公爵夫妻は、心無い噂により、幼いアークが謂われなき誹謗中傷を受け傷つくことを避けたかった。
精霊魔法を暴走させた竜巻による被害は相当のもので、竜巻の通った大きな通りは戦争でも起きたような惨事になった。ただ、幸いにも怪我人がいなく、被害地域も限定的だったことから、リリアナの誘拐監禁事件と共に秘密裏に処理された。
アークの使った風の精霊魔法は、帝国内で右に出るものがいない程に高位魔法だと分かり、なおかつ、アーク自身が13歳と言う年齢であることから罪に問われることはなかったのである。
さらに、リーフェンシュタール公爵家が事件について、皇室に圧をかけたのは言うまでもない。
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リリアナ自身は、リーフェンシュタール公爵家当主が直々に治癒を施し怪我は消えてなくなった。後は、幼いリリアナの遭遇した死の恐怖による精神的ストレスである。毎晩のように誘拐監禁事件の夢が繰り返され、リリアナは次第に憔悴していった。
メイルズ男爵夫妻は、みるみる痩せて衰弱していくリリアナを見ていられず、帝都から引き上げて静かな男爵領でしばらく静養させる事にした。
その後、精神的ストレスに限界を向かえたリリアナが呼び起こしたのが、元日本人であった前世の記憶である。