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「リリー、部屋に入るよ」


 リリアナが夕食までの時間を学園の入学のしおりを読んで過ごしていると、いつもなら夕食の時に会うはずのアークが部屋にやってきた。


「あれ?アーク今日は早くお仕事終わったの?」


 学園に在籍している今でも、公爵家の嗣子として日頃から仕事を任されているアークが夕方の早い時間にリリアナを訪ねてきたので、リリアナは不思議に思った。


「久しぶりにね。リリーと2人でお茶でもしようかと思って」


 アークはそう言うと、サラにお茶の用意をしたら退出するように伝える。


 ーーー何かあったのかな?サラに聞かれちゃ不味いこと?


「リリー眉間にシワが寄ってるよ。俺はただ、リリーとゆっくり話でもして過ごしたくてね」


「そっ、そっかぁ…」


 ーーー用事もないのに、この時間に部屋に来るなんて、何か事件のことでも分かったのかな?


 リリアナの精神的にも頼みの綱のカナも、いつの間にか何処かに消えてしまっている。リリアナはサラがお茶を淹れて退出するとさらに心細くなった。




「リリーは今の生活に不満とかはない?」


 お茶を一口飲んで、何を言われるのかと構えていたリリアナに、微笑みながらアークは開口一番にそうたずねてきた。


「不満だなんてある訳がないわ。皆優しくて、すごく恵まれてるし」


 リリアナがそう言うと、アークは笑って今度は違う聞き方をしてきた。


「じゃぁ、公爵家の生活で窮屈に感じることは?メイルズ男爵家で過ごすのとは、ちょっと環境が違うから、聞いておこうと思ってね」


「ーー窮屈だなんて、そんな風に考えたこと、なかったわ」


「じゃぁ、公爵家の跡継ぎの婚約者としての立場が重荷に感じたことは?」


 ーーー?!どうしてそんな質問をするの…


 リリアナがぼんやり入学のしおりを読んでいたときに感じた、公爵家のメンバーになるという重責をアークは聞きたいらしい、


 ーーーカナがもしかして、アークに相談したの?


「ーー確かに、メイルズ男爵家とは違って身分による縛りを感じなくはないけど。アークとこれから生きていくならしょうがない問題よね」


「それは、俺は嫌だな…リリーにはリリーらしく振る舞っていてほしい」


 リリアナが努めて明るくいうと、アークは笑って否定をしてきた。


 ーーー公爵家に嫁ぐのに、それは無理よ


「でも、皇帝陛下から認められた婚姻ですもの。公爵家の嫁としてしっかりしていた方が良いんじゃない?」


 リリアナが先程から考えていた、公爵家の嫁はこうあるべき!ーーについてアークに語ると、アークは心配そうな顔をした。


「リリーは気負い過ぎているところがあるんだね。リリーは今だって、充分優秀で性格もよく、とても可憐な女性だよ。俺は、リリーが無理をせずに、これからもありのままのリリーでいてほしい」


「でも!公爵家に嫁ぐなら、もっとしっかりしていなくちゃーー」


「リリーは充分にしっかりしているよ」


 リリアナが向きになって、アークに対抗姿勢をとると、少しつかれたようにアークはため息をついた。


「リリーは、今までだって、男爵令嬢としては普通よりも、沢山の事を勉強してきたはずだよ」


 アークはリリアナの幼少期からの男爵家での教育について語り出した。曰く、アークの婚約者とするべく、一般教養も高度な範囲までリリアナが習得済みであること、身の振る舞い方も、元侯爵令嬢であったリリアナの母ロザリーによって、ほぼ完璧であることーーー公爵家に嫁ぐのに不足がないことを説明した。


「後は追々、贅沢に慣れていってくれればいいかな?後、研究にのめり込みすぎて俺の事を蔑ろにしないこと」


 アークは冗談交じりにそう言うと、リリアナに向かって微笑んだ。リリアナはまだ少し不服そうな顔をしていたが、この生活に慣れるしかないと諦めの境地に至った。


「ーーそうだ!研究と言えば、リリーが暇にならないように、邸宅内にも簡単な研究室を作っておいたよ。学園にも掛け合って、リリーも使える研究室を準備したから、これからも研究には不自由は感じないはず。」


 ーーーへ?研究って続けても良いわけ?


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