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「ねぇ、カナは学園にも一緒についてきてくれるのよね?伯爵家以上の生徒の侍女も専用の授業があるみたいよ?申し込んでみる?」
キャロライン達が帰宅し、夕食までの時間をリリアナはゆっくり自室で過ごしていた。
先日、入学者に配られた学園のしおりを読めば、侍女も学園に連れていけるらしい。高貴な貴族となれば、寮生活において、世話をする者が必要となる。親元を離れても、自分のことは自分でやらないのが貴族令嬢なのかとリリアナは感心すら覚えた。
リリアナはリーフェンシュタール公爵家嗣子のフィアンセとして皇帝に認められていたために、伯爵家以上の待遇を受けられることになっていた。
「もちろん、リリアナについて行くわよ?リリアナったら、放っておくとご飯も食べないで、勉強とかしそうだものーー侍女の授業があるの?上位貴族ってすごいわね!」
カナが感心して、リリアナの持っているしおりを覗き込む。侍女の授業料は書いていないのか気になるようだ。リーフェンシュタール公爵家からは、カナの他にもう一人サラがリリアナの侍女として入寮についてくる。サラは侍女専用の教育機関で過ごしたことがあるらしく、ずっとリリアナに控える事になっていた。
「どこにも書かれていないわね…じゃぁ、もしもタダで受講できるならどう?」
「リリアナってば、タダな訳ないじゃない。きっとお高いのよ、これ」
「お二人とも、お声が部屋の外まで聞こえております」
部屋にサラがお茶を用意して戻ってきた。リリアナと砕けた言葉で会話していたカナは思わず、やばっ!という顔をしている。
「ごめんなさい、サラ。今、学園の入学のしおりを見ていたのだけれど、カナは侍女専用の教育を受けることが出来るのかなぁって」
「あぁ、カナ殿も受けますか?それでは、リリアナ様の入学書類を提出する際に合わせて、手続きをとりましょう。」
「待って、授業はタダっていう訳ではないのよね?どのくらいかかるものか知りたくて」
リリアナがサラにカナの授業について聞くと、直ぐに手配をしようとするので、リリアナは慌てて費用について確認をした。
「費用についてはこ心配なく。今後のリリアナ様に関係する全ての費用をリーフェンシュタール公爵家で賄うようにとの指示が、ご当主様から出ておりますので」
「?!何で?!まだ結婚もしていないのに!」
リリアナがサラの発言に驚いて問いただすと、サラはリリアナの驚きとは反対に、不思議そうな顔になった。
「なぜとはーー、リリアナ様は皇帝陛下にリーフェンシュタール公爵家ユーリスアークライト様のご婚約者として認められたお方です。陛下が特例として直接正式にリーフェンシュタール公爵家へ嫁ぐ事をお認めなのです。リリアナ様の全てについて当公爵家で担うのは当然ですわ」
ーーー嘘でしょ?そんな大事だったとは…
リリアナは父であるメイルズ男爵が、婚姻まではリリアナを男爵家預かりとすると、本当はごねていた事を知らない。
今後は、メイルズ男爵家にそうそう戻れないと分かり、気持ちが酷く落ち着かなくなった。
「リリアナ様?いかがなされました?」
「ーーん、何でもないの。そうね、カナが受講できるように手配をお願いできるかしら?」
「かしこまりましたーーリリアナ様、私共にはお願いではなく、命令で結構です。リリアナ様は次期公爵夫人になられるのですから」
ーーーどうしよう、急に婚約者という肩書きが重く感じるわ。
リリアナの表情が暗くなったのを見たカナは、そっと部屋を退出し、リリアナの気分を回復すべく主君の想い人のいる部屋へと急いだ。