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「メイルズ男爵夫人から聞いたよ。リリーが最近、面白い提案をしてきたと」
「…?面白い提案て?」
オスカーの暴走告白の件が両家で秘密裏に処理され、リリアナは何事もなかったかのような、まったりした日々に戻った。一方、晴れてリリアナの婚約者になったアークは、公爵家の仕事と学園の生徒会の用事で、明日からまた帝都に戻る生活だ。
今日はアークとしばらく会えなくなるからと、リリアナが張り切って朝から焼いたマドレーヌと共に、快晴のもと男爵家の庭園でお茶をしていた。
「何でも、めがね橋を観光スポットにするんだとか」
「あぁ、お母様とお父様のご結婚を世紀のロマンスに仕立て上げて、観光に役立てようかと思ったの」
「相変わらず、リリーは独創的な考えをするね。何でも形も特徴的なんだろう?俺にもその橋を見せてくれないか?」
「ん?橋を見たいの…?もちろん、良いわよ。ちょうど、手すりが修理されたみたいだから、後で散歩がてら案内するわ」
橋なんか見て、アークは楽しいのか?ーーーとリリアナは首をかしげた。めがね橋を恋愛の観光スポットに!!という自分の提案には自分の恋愛を全く当てはめておらず、除外して考えていたのである。
ーーーーーー
ーーー(ガタガタ、ゴトゴトゴト…)ーーー
市場へと続く道のめがね橋にアークと一緒にやってくると、馬車が引っ切り無しに行き交い、たくさんの人が市場へと向かって歩いていた。
ーーー観光シーズンに入ったせいか、いつもより人がかなり多いわね
「これはだいぶ歴史のありそうな橋だね。形状がとても趣深い」
「そうでしょ?あと、夕日が下の川の水面に当たると、きらきら反射して幻想的な景色になって、とても綺麗なのよ!」
「では、次来る時には夕日の時間に2人で来ようか」
「ふふ…アークは意外にロマンチックなのね?」
リリアナがアークをからかうと、急にアークはリリアナの手をつかみ真剣な表情を見せた。
ーーーえ?アークを怒らせた??
「……リリー、ちょっと良い?」
「…えぇ?アークどうしたのーー?!」
リリアナが心配になってアークを見つめていると、アークはリリアナの手を掴んだまま片足をついた。
そして、リリアナの手にキスを落とすと、リリアナの指にアークの瞳と同じ紫のカルラ・ルカの指輪をそっと嵌めた。
ーーー!!
「あ、あ、アーク?!」
「リリー、俺はリリーだけをずっと愛すると誓うよ。だからリリー、結婚しよう」
ーーー?!はぁ?!
リリアナが1人パニックになっていると、アークはそっと立ち上がり、今度はリリアナをぎゅっと抱き締めた。
『リリー、皆が見ている。はいーーって応えて』
アークがリリアナの耳元で囁くので、リリアナは
そっとアークの腕越しに辺りを見回すと、多くの人々が、リリアナとアークのプロポーズの行方に注目していた。銀髪で恐ろしいほどの美貌の紳士が橋の真ん中で女性に求婚をしたのである。老若男女問わず、興味深々で事の行方を見守っていた。
ーーー!!アーク、嵌めたわね!!
アークはリリアナの両親の恋のロマンスよりも、自分達のロマンスで話題作りをしたかったのだと、リリアナでも気がついた。
ここは、恥ずかしがって話を反らす事はできないーー観光スポットという目的が頭をよぎる。リリアナはどうしようもなく、顔を真っ赤に染めながら、上目遣いでアークにーーはいーーと応えた。
「ーーっ!リリー愛してる…」
リリアナは恥ずかしくも、ギャラリーが見ている手前、アークから目を逸らさなかった。すると、アークの手が耳元に触れてきた。リリアナが、何だろうと不思議に思っているとアークの顔が段々と近づいてくる。
ーーへ?!
ちゅっと、リリアナの唇にアークの唇が重なる。触れるか触れないかの軽いキスであったが、ギャラリーは『わぁー!!!』っと盛り上がり、口々に『おめでとう!』とお祝いの声をあげた。
ーーーーーー
ーーーうぅ…。思い出しただけでも恥ずかしくて死ねるかも…
「あー!私も見たかったなぁ!ユーリスアークライト様のプロポーズ!まるで演劇のクライマックスのようだと聞きましたわ!」
とマリアが興奮して捲し立てる。
ーーーめがね橋を観光スポットにするための、演出みたいなものだから、あながち間違えではないのよね
リリアナは、これは当分あちらこちらで冷やかされるぞーーと気が重くなった。
「リリアナの所に来る前に、私もその橋を見かけたんだけど、ものすごい人の数だったわ。さすが公爵家嫡男の影響はすごいわよね」
キャロラインも感心したように頷く。アンナに至っては、これから3人で見に行こうと、はしゃぎ出す始末だ。
ーーーえぇ!今私が行ったら、ものすごく注目を浴びるんじゃ…。
リリアナは、今まで領主の娘でありながら、引きこもりのため男爵令嬢として顔割れしてなかったが、今回のアークのプロポーズのせいでメイルズ男爵家の末娘と広く認識されてしまった。
ーーーもう、お忍びで屋敷を抜け出すことも難しくなっちゃった
「さすがに、リリアナを連れて話題の橋に向かうのは無理よ。アンナは婚約者の方に後日連れていってもらいなさいな」
とキャロラインが言うので、リリアナの当初の目的通りにーーロマンス成就でめがね橋を有名に!ーーなっているのは確かだ。アークのプロポーズめがね橋がカップルの観光スポットとして確立していくための、幸先良いスタートになったとようだ。
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