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転生に気がつき貴族令嬢として、貴族らしい立ち振舞いを教わってきたリリアナにとって、異性との抱擁はかなりの衝撃を受けた。
ーーー日本人の頃もそんなに恋愛経験ないし!
リリアナは転生前後の年齢を合わせると34歳になる。
しかし転生後、リリアナの精神と融合することで、前世の知識はそのままに、年相応の精神へと落ち着いていった。そのため、少しのストレスにも弱く失神するが、無駄に行動力のある貴族令嬢としてチグハグな状態となっていた。
ーーー誘拐監禁事件のトラウマは、転生でなんとか切り抜けたけど…
「リリー、何を考えている?」
リリアナが現実逃避を始め、この状況から意識を反らしたことに気がついたアークは、リリーの髪に顔を埋めるようにして問いかけてきた。
ーーー近い!近いから!!
アークの息が耳元にかかり、背中にぞくぞくっと電流が走る。きっと、耳まで真っ赤になっているーーリリアナの心臓はすでに瀕死状態でばくばくといっているのに、涼しい声でアークは話を続けた。
「リリーが戸惑うのもわかるけど、この婚約だけは無しにはできないーー」
「ちっ違うの!距離が慣れてなくて、ちょっ、離れて!」
ーーーヤバい!これ以上はまた失神しちゃう!!
リリアナが婚約を固辞すると勘違いしていたのか、アークがリリアナを再度きつく抱きしめ直そうとするのが分かり、リリアナは慌てて懇願した。
急に始まったアークのスキンシップに、リリアナは恥ずかしさが頂点に達し、ついていけない。
ーーー私は奥ゆかしい元日本人なのにー!!
あわあわ…と初な反応を見せるリリアナに、アークは少し落ち着きを取り戻し話を続けた。
「あぁ、ごめん。リリーをどうしても逃がしたくなくて、少し必死になっていたようだ。ーー話を戻そうか。ルーシャ王女の留学の件だがーー」
アークはさらっとリリアナに対して執着を見せた後、それまでの抱擁をといて、今度は両手を包み込むようにして握ってくる。
ーーー手!手!っ!さすらないで!!
これって改善されたというのか?と疑問になってしまうほど、甘い空気を振りまきながらアークは話を続けようとする。リリアナはささやかな抵抗で、アークを睨み付けるが全く動じない。
「そんな上目遣いすると、キスをねだってるようだが?」
ーーー!!
「ーっ!ねだってない!!」
リリアナが怒って叫ぶと、アークは可笑しかったのかいつものクールビューティーを引っ込め、少年の時のようにあははーーと声を出して笑った。ちなみに両手は繋いだままである。
「どうも話が反れてしまうね。婚約までのこと、少し話が長くなるけど、大丈夫?」
ーーーそれはアークの態度次第だと思う!
「…あんまり、いじめると失神しちゃうからね!」
「ぶっ!わかった、善処するよ」
リリアナの返答にアークはもう一度笑いだし、今度は片手でリリアナの髪の毛を指でそっとなぞり出す。
「ちょっと!言った側から善処してないじゃない!」
「これでも善処してる方だけど?リリアナには、婚約者として少しずつ俺に慣れてもらわないと」
さらっとリリアナにとっては、とんでもない発言を繰り出したアークは、リリアナの頬を撫でながらさらに爆弾を投下した。
「初夜に失神されたら俺が辛いから」
ーーーダメだ!もう、倒れそう
止めの一撃を受けたリリアナだったが、アークの風の精霊のおかげか、リリアナの水の精霊の加護のおかげか、悲しくも失神は免れてしまった。
「っ!なんて事を言うのよ!誰かに聞かれでもしたら!」
「大丈夫。風の精霊魔法使いの会話を盗み聞きはできないよ」
ーーー私が大丈夫でないのたけど!!
「アーク、今までこんな風に、だっ、だっ、抱き締めてきたりなんてなかったじゃない!!さっきの家との婚約の話だって、そんな素振りも微塵もなかったわ…!」
確かにはことであるアークとは今までも砕けた話し方や礼儀作法で通していたが、こんなに恋愛感情を伝えられたことはなかった。
「あぁ。それは皇帝からの制約魔法のせい。幼い頃に事件があっただろう?あれで魔力を暴走させてしまったから、リリアナへの好意を表だって示さないような制約がされたんだ。俺の魔力が大きいせいで、他の属性の精霊が引っ張られ、暴れないようにするために」
「…ごめんなさい。ちょっとわかんないや…どういうこと?」
急に始まった真面目な話に、アークのスキンシップでの動揺も入り交じり、リリアナは頭が追い付かない。
ーーー誘拐監禁事件の時にアークが魔力を暴走させたのが、何かしら問題だったってことよね?
とりあえず、好意の明示は皇帝からストップが入ったのはなんとなく理解した。そして、アークがこれまでリリアナに好意を表立って伝えてこなかったことも。
しかし、初めて耳にする他の属性の精霊と事件との関わりに、リリアナは再度頭を捻った。
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