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ーーまずい。完全に寝過ごした…。
リリアナが目を覚ましたとき、太陽は既に空の真上にあり、男爵家の屋敷の賑わいがリリアナのいる自室まで響いてきた。
「昨日の今日で、ぐーすか寝てしまったわ…」
リリアナは自分の神経の太さに少し引きつつ、寝すぎたために重く感じる身体を引きずり、ベッドから這い出した。
ーーーとりあえず窓でも開けて、空気を入れ換えましょうか…
リリアナの寝室の窓には大きめのバルコニーがついている。起きたらすぐに、窓から見える男爵家の庭園を眺めるのがリリアナの起床時のルーティンだった。
ガチャ…
「…はぁ!すごく良い天気!!」
リリアナの部屋のバルコニーからは、男爵家のどこまでも広がる庭園が見える。
リリアナが外の空気を名一杯吸い込みながら、快晴の空に向かっておもいっきり伸びをすると、爽やかな優しい風が体を包んだ。
ーーーん?…あれ??…この風って!?
「…ようやく起きたか…もう昼なんだけど?」
リリアナの体を包むその馴染みの風の正体と、気だるい声の主を慌てて探すと、バルコニーの手すりに座った男性が片手を上げて挨拶してきた。
「おはよう。風から倒れたって聞いたけど、気分はどうだ?」
ーーー!?
「!うぎゃーー!!」
リリアナの部屋が3階にあるにも関わらず、優雅に手すりに腰かけていたのは、昨日の茶会の騒動の原因ー、ユーリスアークライト・リーフェンシュタールであった。
ーーーーーー
リリアナの絶叫を聞きつけ、部屋に慌てて入ってきたメイドのカナによって、ベランダのアークはすぐに部屋の外へと回収された。
リリアナが昨日の茶会で意識を失い倒れてしまったたことを、風の精霊達は誰よりも早く、アークへ報告してしまったようだ。幼い頃に誓った精霊魔法により、アークの意を汲んでリリアナの動向は伝わってしまう。
ーーー風の精霊って、本当、プライバシーって言葉知らないの!?
リリアナの日々の状況は、事あるごとに風の精霊達によって伝わってしまうため、リリアナがアークに止めるように言っても、精霊達が勝手にリリアナの事を報告してくるらしい。
昨日、例に漏れず、風の精霊達から、茶会の席でリリアナが倒れたと聞いたアークは、急いで男爵領まで転移魔法を使ってやって来たらしい。そして、なかなか起きてこないリリアナを心配し、部屋まで様子を見に来たようだ。
「ユーリスアークライト様には、本当に困ったものです!いくら、婚約者とも言えど、勝手にベランダに入り込むなんて!リリアナからもきつく言ってもらわないと!!」
リリアナの代わりに、カナがドスドスと力一杯ベットメイクをしながら怒りを露にした。
アークが風の精霊魔法を使って、リリアナの部屋のバルコニーに潜り込んだ事がカナはとても気に入らない。これでもかと八つ当たりをするように枕を叩いている。
「いやいやいや、カナ待って。どうしてアークが急に婚約者って話になるのよ」
起きたばかりなのに、もはや疲労感が半端ないリリアナは弱々しくもカナに突っ込みを入れた。
昨日の茶会の話では、確かにアーク側はリリアナとの婚約を望んでいそうな流れではあったが、茶会途中でぶっ倒れたために頭を整理できていなかった。
ーーーそれに、倒れた後の、お母様達の話していた内容も気になるし…
アークは急ぎの用事かあるから、どうしても休暇は男爵領には来れないと言っていたではないか?それがなぜ、起きたら部屋のバルコニーに優雅に座っているのだろうーーあまりに情報量が多すぎて、リリアナはもう一度ベッドに横になりたい気分になった。
ーーーまさか、みんな揃ってサロンに待ち構えているなんて事は…
「…ねぇ。もしかしてリーフェンシュタール家の皆様って……」
恐る恐るリリアナがカナに問いかけると、無情にもリリアナの想像した通りの言葉が返ってきた。
「えぇ。リーフェンシュタール公爵家の皆様は、サロンでリリアナが起きて降りてくるのを、ご主人様達とお待ちになってるわ。さぁさ、早く顔洗って着替えて下に行きましょ」
「…ねぇ?行かなきゃだめ?」
「…行かない選択肢があるとでも?」
リリアナの態度に、カナはため息混じりに呟く。そして逃げ腰のリリアナを捕まえると、男爵令嬢としてふさわしい装いにすべく、急いで身支度に取りかかった。
ようやくヒーロー登場です。




