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 オホホホ…アハハハハ…。

 ピーチク、パーチク。


 雲ひとつない快晴のもと、男爵家とごく親しい紳士淑女達が、小鳥がさえずる庭園に集まっていた。

 本日、メイルズ家の庭では上の娘達、レベッカとメアリーの婚約を祝う茶会が開かれているのである。


 ーーー直前まで、茶会の開催を知らなかったのって、私が社交を避けているからよね。前もって伝えると逃げると思われたのだわ


 ヴィヴィアンの言うとおり、茶会は翌日に予定されていた。どうやら、レベッカとメアリーはこの茶会の開催のこともあり、予定を早めて帰省したらしい。


 リリアナの両親は幼い頃の誘拐監禁事件以来、リリアナが社交のためのお茶会を苦手にしていることを感じていた。リリアナは、社交への苦手意識よりも研究のため引きこもりがちなのを、完全に誤解していたのである。


 今回の茶会は、リリアナの上の姉達の婚姻祝いがメインの目的だ。しかし、両親としては、今後、本格的に社交界デビューを控えているリリアナへの、リハビリの意味合いも兼ねていた。少しでも、リリアナに、内輪の茶会で場ならしをしてほしいと思っていたのだ。


 その本日の茶会は、メイルズ男爵家のごく近しい親族・友人が招待されている。もちろん、婚約が整った2組のカップルと軽い顔合わせをするためである。

 集まったのは、母方の遠縁であるリーフェンシュタール公爵家のパトリックとヴィヴィアンと現公爵夫人。メイルズ男爵家夫人の実家であるシュタインブリュック侯爵家からは、2人の息子と現侯爵夫人。あとは、レベッカとメアリーの婚約者達とその両親達。2組のカップルの友人達も、男爵夫妻の予想以上に集まった。


 貴族の末端の男爵家しては、不釣り合いなほどの豪華な茶会のメンバーが茶会に揃ったが、それはメイルズ男爵家が、筆頭公爵家であるリーフェンシュタール家の遠縁であるが故だ。


 どこまでも広がる、限りなく自然に近い、もはや原生林なのでは?と疑いがかかりそうな男爵家の庭園に、帝国トップクラスの貴族が集った。端から見ればかなりの違和感である。


 ーーー庭の残念さは、もうしょうがないとして、せめて茶葉はもっと良いものを取り寄せれば良かった…


 茶会にはリリアナが、先日、商人から値切って購入した格安の茶葉が使われていた。味は良いが、香りが弱いというアウトレット的な商品で値切り易く、破格の値で買うことができたのだ。

 リリアナが、庭園の見てくれは百歩譲って諦めるとしても、せめて茶葉くらいは奮発したものを常備しておくべきだったとブツブツ呟きながら後悔していると、侯爵家の長男である、従兄弟オスカー・シュタインブリュックが呼びにやって来た。


「なにを独りでブツブツ言ってるんだ?リリアナ、向こうでお前の姉さん達が呼んでたぞ」


「あぁ、オスカー。伝言をありがとう。あと、お姉さま達のご婚約のお祝いも」


「本当、侯爵家の長男をパシリに使うのはお前達、姉妹くらいだよ。で、こんな端で、恐い顔してどうした?」


 リリアナ達兄妹の母ロザリーは、シュタインブリュック侯爵家の先代の次女で、シュタインブリュック現侯爵夫人とは仲の良い姉妹である。そのため、両家で何かと集まる機会も多く、男爵家と侯爵家の格の違いがあっても、従兄弟達とリリアナは気軽に何でも話し合える。リリアナにとってはオスカーは兄妹の延長線のような存在だった。


「この茶葉、あまりにも失敗だったなぁって。せっかくのお姉さま達のお祝いなのに…。もう少し美味しい茶葉を、いざという時のために用意すれば良かったって、後悔していたとこ」


 茶器は男爵家に代々伝わる家宝を引っ張り出して、この茶会に挑んでいたが、茶葉となるとそうはいかない。リリアナがぐたぐだと愚痴ると、オスカーは呆れ顔になった。


「なんだ、そんなことか。てっきり、リーフェンシュタールの坊っちゃんが不参加だから、いじけてるのかと思ったよ。そのドレスも坊っちゃんの贈り物だろ?」


「坊っちゃん…って。オスカーもアークも私の3つ年上で同い年じゃない?それに、ドレスは、茶会で着るものがないって、今朝ギリギリまで困っていたら、ヴィーがお下がりを譲ってくれたのよ」


「それを坊っちゃんが手を回したって言うんだよ…。ドレスの色にしたって、坊っちゃんカラーだろ。ーー何で気がつかない…?ーー茶葉も気になるなら、パトリックかヴィヴィアンに相談すりゃ良かっただろうに?」


 リリアナが今着ているドレスは、薄い紫色のドレスに金色の花の刺繍が入ったドレスだった。確かにオスカーの指摘通り、アークの色彩を身に纏った状態ではあるが、ドレスとしては一般的な色の組み合わせだ。


「はぁ?もう、ドレスの色なんてただの偶然でしょ。それに、なんで公爵家に茶葉まで用意させるのよ」


「溜め息はこっちがつきたいよ。そのドレスの花の刺繍も…、坊っちゃんの記章、ライベルトの花じゃないのか?」


 ユーダイヤ帝国では皇族と上位貴族には、その個人個人に記章、シンボルマークや花が定められている。確かに、ライベルトの花はユーリスアークライト・リーフェンシュタールのものだ。


「これは、アークの妹のヴィーがドレスを用意したのからよ。きっと、アークがヴィーに贈ったドレスのお古なんだと思う。オスカー、深読みし過ぎだって」


 幼い頃から大好きだったリリアナの憧れの王子様からドレスを貰ったならば、どんなに嬉しかったことか。しかし、その貴公子は近々ルーシャ王女との婚姻が発表されるはずだ。


 ーーーせめて、アークの婚約発表の前に、この茶会に参加出来たら…側にいれるのが最後だとしても幸せだったんだろうな…


 リリアナは、見慣れた、だだっ広いだけの男爵家の庭園を見つめながら、アークの婚約の噂が立っていなかった去年までの日々を思い浮かべた。

茶会を楽しむ周りの声を、意識の遠くで聞きながらふと寂しさが込み上げる。

 自分の心にぽっかり穴が開いたようなこの寂しさが消えるまでは、まだ時間がかかりそうだとリリアナは気持ちが沈んだ。


いつもお読み頂きありがとうございます!

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