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 とりあえず研究の片づけは後にしてと、ヴィヴィアンに懇願され、リリアナが椅子に座った。するとヴィヴィアンから、目の前に可愛らしいピンクベルベットの長方形をした箱を差し出された。


 ーーーあぁ、いつもの誕生日プレゼントのお返しね。相変わらずアークは律儀だわ


 ーーーそういえば、パトリックや家族、他の親戚縁者からは誕生日プレゼントのお返しなんて貰ったことはないな…


 ぼんやりそう思い返しながら、リリアナはヴィヴィアンから箱を受け取った。

 つい先日、2人の長兄、ユーリスアークライト・リーフェンシュタールが18歳の誕生日だったので、リリアナは手作りのクッキーをプレゼントしたばかりだった。プレゼントをクッキーにしたのは、もちろん男爵家に費用、予算がなかったためである。


 ーーークッキーが高価なアクセサリーに変わるなんて、藁しべ長者もビックリだわ…


 公爵家長男からのこれまでの贈り物も、リリアナは大切に保管している。そのため、リリアナの自室の棚にはアークからの贈り物でいっぱいだった。


「もしかして、ヴィーこれって…、鉱山でこの前採れた宝石カルラ・ルカじゃ…」


「しっ!パトリックお兄様は黙って!」


 何やら小声で囁く()()()兄妹に、様子がおかしいと感じだが、今回もいつもの誕生日プレゼントのお返しだと気に留めなかった。


 細やかな気配りのリーフェンシュタール家の長男ユーリスアークライトは、リリアナの好みの品を的確に把握していた。そのため、男爵令嬢にとっては高価な贈り物に気が引けるものの、いつも上手いようにアークに言いくるめられ、結局、贈り物を受け取っていた。


 ーーーここ数年は、何だかんだでおしゃれなアクセサリーをくれるのよね。アークは本当に優しいから


 何かと理由をつけて贈り物を渡すアークに、すっかりリリアナは慣れっこになっていた。

 しかし、アークの隣国の王女との婚約の話が噂になってる今、これがアークからの最後の贈り物になるのかもしれない。胸に込み上げる寂しさを2人に悟られぬよう、リリアナがそっと箱を開くと思いもかけないものが出てきた。


「…えっ?ちょっと、これって貰っていいの!?ヴィ―、送り先、間違ったりしてない?!」


「えぇ。間違いなくユーリお兄様からリリーお姉さま宛ての贈り物ですわ。今回の休暇はどうしても急用で直接渡せないからと、私に託されましたの。

 …いつか指輪は本人からお受けしてくださいませ」


 ピンクの可愛らしい箱から出てきたのは、いつもの贈り物よりも、はるかに高価だと分かるものだった。そればかりか、最近、婚約の申し込みの贈り物として人気の宝石カルラ・ルカのペンダントだった。


 ーーー…これ、まさか本物のカルラ・ルカ?滅多に採れないから幻の宝石って言われてる??


「…ヴィ―、これ、まさか本物のカルラ・ルカだったりする?」


 リリアナはカルラ・ルカの本物を見たことがなかったので、恐る恐るヴィヴィアンにたずねてみた。横では、リリアナと同じようにパトリックが目を見開いて驚いている。


「もちろん、本物のカルラ・ルカですわ。ユーリお兄様がリリーお姉さまに偽物を渡すはずがございませんもの」


 ヴィヴィアンはさも当たり前のように、ものすごく真剣な表情でリリアナにそう答えた。本物のカルラ・ルカとなれば、貴族でも手にいれることは難しいほど、あまりにも高価だ。大抵は本物のカルラ・ルカの石の代わりに、イミテーションジュエリーでアクセサリーを作る。

 リリアナは、隣国の王女と婚約が決まりつつあるという噂のアークが、どういう真意でペンダントを贈ったのかよりも、その恐ろしいほどの価値に今にも倒れそうだった。


 ーーーカルラ・ルカなんて初めて見た!イミテーションでも、高度な精霊魔法で作るから目が飛び出るくらいに高価なのに!その本物って!これ国宝級よ!!


 リリアナはすっかり、ペンダントのその金額に気を取られてしまい、先ほどのヴィヴィアンの指輪うんぬん発言をすっかり聞き逃していた。


「…ヴィ―、今更ながら、僕はアーク兄上の本気を感じたよ」


「本当、今更ね。パトリックお兄様。このペンダントを私からリリーお姉さまに渡すように言ったのだって、きっと、ご自分以外の男性からアクセサリーを受け取ってほしくないからよ」


 パトリックとヴィヴィアンの上の兄ユーリスアークライトは、例年通りこの夏の休暇を男爵領で過ごすはずだった。けれども、直前になって皇室から休暇のストップが入ったのである。隣国は、ルーシャ王女の留学を建前に、アークとの縁談を打診してきた。我が儘と傲慢で有名なルーシャ王女は隣国内で、嫁ぎ先が見つからなく、このユーダイヤ帝国に縁談を打診してきたのだ。

 ルーシャ王女の見た目は大変美しいのであるが、その王族の身分と美しさを持って、周りが意のままに動くと信じているような少女である。帝国の高位精霊使いで、次期筆頭公爵のユーリスアークライトこそが自分に相応しいと疑わなかった。


 一方、我が儘王女との突然の縁談なんて問題外だと憤るアークは、学園の次期会長としての立場や筆頭公爵家の力で、王女の留学そのものを受け入れないように動いていたのである。


 王女との突然の縁談の騒動に巻き込まれた、リーフェンシュタール公爵家のパトリックとヴィヴィアンは疲れたため息をついた。


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