弐場 六
それから、二人は実際に寺まで見に行った。道中、いままですれ違うのは獣とカラスぐらいだった山道に見物行列ができていたことで確信した。
「あぁ、こりゃぁ。生き残ってねぇな。どうするか弁慶」
寺跡の状況をみれば納得せざるを得ない。弁慶も言葉を発しないが同意見だろう。
「一度、鎌田のところにでも行くか?」
「そうだな、その前にあの娘に話を聞いて何があったのか知っておきたい」
「そうか……そうしようか」
表情が沈む弁慶を見て吉右衛門が相槌だけを打った。
弁慶は特別にその御曹司とやらに思い入れは無いのだ。強いて言えば金と自分の為、正業で身を立てると誓ってから職を転々とし、流れ着いたのが今の御曹司とやらの護衛兼世話係の様なものだ。郎党を名乗るほど厚遇されているとも思えないしその覚悟も無い。
迷いしかないのだ。源氏と言えば既に終わった勢力、そこの棟梁の血を引いているとは言え実態は郎党などと呼べるものは皆無で平泉の力が無ければ立ちいかない九男坊の護衛。
どう考えてもお先真っ暗である。そもそも、御曹司とやらにもあった事が無い。これから、平泉に出立するという間際にこの騒動だ。出来る事なら、全て無かった事とにしてこの“郎党”のお役をご免こうむりたいと思う始末だった。
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