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壱場 一

 うららかな春風が吹き抜けた日差しを夜更けでも感じられる暖かい夜だった。遠くには寝ぐらから這い出して来た蛙がしきりに鳴いてる。霞がかった満月が光り輝く、とある屋敷の中庭の池を背にして一人男が立っている。

月明かりは庭の池や石などを陰影を際立たせて、この世の極楽浄土を演出している。その池の前には一人の男が立っていた。

池を背にしている男は、背丈が高く華奢に見えて頑丈な芯のある相反する身体つきで腰には大小の太刀を下げていた。その男がつくる表情は月光が作る屋敷の陰になり判然としていない。

男は、屋敷の中に向かって春風のように爽やかに歌う。


「夜とともに 行くかたもなき 心かな 恋は道なき ものにぞありける」


……正面の部屋に意識を全しゅうちゅうする。荒い呼吸だ。

やがて、屋敷の中から


「恋ひ恋ひて 逢へる時だに うるわしき 言尽ことつくしてよ 長くと思はば」


女の声が部屋の中から聞こえてくる。

甘い女性の声だ。鼻にかかったようなくぐもった声ではあるが、声質が甘いと表現すれば丁度、腑に落ちるそんな声だった。男はそれを聞いて小躍りしている。何やら嬉しいらしい。


「美郷様、お会いしたかった。あなたを京の街でお見かけした時に稲妻にでも打たれたような思いでございました。十五夜目の本日、ようやくにしてお目通り叶うのですね」


男はそう言って庭の先から、女の声がした部屋に話しかけている。


「それでは、失礼いたします」


男は一通りの思いを庭で伝えるとそっと障子戸を開け部屋に入る。

男が部屋に入ると中央にそっと座る黒髪を腰まで伸ばし赤い袴、白い単衣に桃色の袿 (うちぎ)を来た色白で容姿の整った女性が座ってこちらをはにかみながら見ている。

部屋の中は香がたきしめられ、甘い香りのするそれが男の鼻腔をくすぐり、それだけで別世界へと誘われた様に錯覚する。


「始めまして、私、大滝吉右衛門と申します。今宵はお許しいただき、ありがたき幸せでございます。」

毎日10時過ぎ更新です。

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