白猫と姫
日を追うごとに、外の景色は変わっていきました。
緑に覆われた森は、もう見る影もありません。冬に収穫出来る野菜すらも、枯れはてており、人々の生活も、苦しくなってきました。
姫はどうしても、魔王に会いたくなり、1人こっそり城を抜け出しました。
会って、どうしようというのでしょう?
知恵も力も、姫にはありません。
その事は、姫自身も痛いほど分かっているのですが、どうしても、行かずにはいられなかったのです。
町中には、もう人の影は見当たりません。
家の中に隠れているのか、それとも既に、国外へと逃れたのか。
また再び、人の姿が戻ってくる事があるのでしょうか……。悲しく思いながら、姫は1人歩いています。
どこを見回しても、隠れる場所などなく、また、魔王がいる様子も、ありませんでした。
姫は軽く溜め息をつきます。
すると、どこからか、子猫の鳴き声が聞こえてきました。
ミャア、ミャア、ミャア……。
姫は、辺りを見渡します。すると、枯れた木の上に、白い子猫が降りられなくなって鳴ていました。
「まぁ……」
姫はくすりと笑いました。
木の近くには、大きな岩がありました。
姫は岩によじ登ると、木に手を掛けました。これなら、木に登れそうです。
枝をつかみ、足を踏ん張り、子猫の近くまで登ります。木登りなど、初めての経験でしたが、子猫を抱き締めることが出来ました。
「よしよし。怖かったのでしょう? すぐ降ろして差し上げますわね……」
言いながら、下を見てハッとしました。
いつの間にか、少年が立っていたのです。
灰色の髪が風に揺れています。
その頭にはネジ曲がった角。
姫の心臓がどくんっと鳴りました。
おそらく、この人が魔王……。
魔王は光のない、感情のこもっていない灰色の目で、こちらを見ています。
不意に、魔王が手を伸ばしました。
鋭い爪の生えた手が近づき、姫は驚きました。
「……あっ」
グラッと体が揺れて、木から落ちました。
下には大きな岩があるのが見えました。
(当たる……!)
「!」
ギュっと目を瞑りましたが、姫が岩に当たることはありませんでした。
「……?」
恐る恐る目を開けると、岩は柔らかい砂に変わっていました。
「ミャア。ミャア……」
胸の中で子猫が鳴いています。
そっと手を離すと、嬉しそうに駆けて行きました。
「助かった……?」
姫は辺りを見回しましたが、魔王はもういませんでした。
(助けてくれたのでしょうか……?)
何故だか、胸が苦しくなって、姫は泣きたくなりました。




