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天使の卵  作者: YUQARI
3/6

祭り

(ここは、どこだろう……)

 目覚めた少年は思いました。


 何もない、小さな丘の上。

 あるのは木が一本だけ。


 それもその木は老木で、緑の芽吹き1つ見当たりません。

 複雑にネジ曲がった枝々が、天に伸びる事もなく地を()うように、その身を伸ばしておりました。



「……」

 少年は辺りを見回します。



 今は夜。

 暗闇のなかに、鏡のように丸く光る月が見えました。


 どこかで、楽しげな音が聞こえます。

 笛や太鼓、それから人の笑う声。


 少年は、音のする方へ顔を向けました。

 祭りでもしているのでしょうか。時期的に見れば、収穫祭のようでした。

 村の祭りの光は、淡く優しく少年のいるその丘を照らします。ただ一人いる、真っ暗な丘の上。その光はあたかも少年を救う唯一の光にさえ思えました。

 とても柔らかで、優しい光。


 少年は嬉しくなって、光の方へと手を伸ばしました。


「…………っ」


 そして、伸ばした自分の手──。



 そこには、(するど)く長い爪。少なくとも真っ当な人間の持つモノとは思えない禍々(まがまが)しい獣の爪。

 サッと血の気が引き、自分の事を思い出します。


「あぁ……そうだ。……そうだった」 

 息を付いて、少年は老木に背をもたせ掛けます。



 見上げると、真っ黒な夜空に冷たい月が見えました。寂しげな月──。

 不意に、口から笑いが()れました。


「ふふ……ふふふふ。あはははは……」

 

 ゆっくり身を起こすと、口許(くちもと)に笑みを残し、少年は右手を林に向かって、振り仰ぎました。




 ──ぶおっ……! バキ……バキバキ……




 一陣の風が巻き起こり、林の木々が嫌な音を立てて倒れました。


 ずしんっと、重たい音と共に地響きが起こる──。

 一瞬、人の声が掻き消え、再びざわめきが戻ります。ざわめきは、先程の歓喜とは違う、怯えを含んだものでした。



「僕は……僕の、役目を果たさなくちゃ……」


 言いながら、少年……魔王は、腰から黒く長い羽を生やすと、産まれ出てたその場を後にしたのです。



 緑の面影のない老木が一本、

 ゆるやかな風に(あお)られて、静かにそっと揺れました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 3/3 ・可愛い。なるほどなるほど… [気になる点] 少年と老木の対比っていいですね。 [一言] 姫がラースになったり?
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