09
翌日、私達はまた集まっていた。
残念ながらお金はないため、ウインドーショッピングということになっている。
「友希那ちゃん、ちょっといい?」
「ええ、いいわよ」
茉優先輩とあずさが盛り上がっている間にソファに座って休憩がてら会話。
「昨日、したんだってね、どんな気分だった?」
「……正直に言ってもうやばかったわ」
「でしょ!? 本当はね、私が茉優ちゃんに無理やりしたの」
「え゛っ」
「ふふふ、意外だった? でもね、私の方が積極的ってよく言われるよ」
いや、それはSだしなんとなくそうだろうなと分かっているが。
にしてもこのふたりは嘘をついてばかりだ、全く情報と真逆ではないか。
しかも笑顔でいるから質が悪い、危うく惚れそうになった私に謝ってほしい。
「いまだから言っておくけど、気になってるって本気だったんだよ?」
「あなた本当に……」
「だって可愛かったんだもん、それでちょっと攻めたかった」
「それならキスする?」
実際に私だって流れかけていたのだから――なんてことはない、ただの冗談だ。
「いいよ? なんか背徳的でいいよ――」
「良くないよ? あんたなに堂々としようとなんてしているの」
「冗談だよ~」
「友希那、例えあんたでも許さないからね?」
「し、しませんよ」
あれだけ可愛い妹がいるのにそんなことをしたら怒られてしまう。その妹は新しい服を見て「姉さんに似合いそう……」とか真顔で呟いており、正直に言って不審者だったが。
「なんか不安だからあたしがあんたのを奪っておこうか?」
「茉優ちゃん? そんなことしたら今夜泣かせるからね?」
「あんたが言ったんでしょうが! あずさー」
あずさを呼んだことでまた勘違いしたなだれが「許さないよ?」なんて凄んでいた。
こちらへやって来た事情の分からないあずさは首を傾げたものの、すぐにその発生源を見て固まった。
自分がされているわけではないのにこの影響力とはだいぶ恐ろしい、だって対象に選ばれている茉優先輩なんて白目で突っ立っていることしかできていないから。
「悪いんだけど今日はここまででいいかな? 茉優ちゃんに反省してもらわないといけないんだ」
「もう少しくらいは一緒に見て回りましょうよ。大丈夫ですよ、その後にゆっくりとしてくれればいいんですから」
「うーん……そうだね、まだ時間はたくさんあるもんね」
茉優先輩ごめんなさい、あんなこと冗談でも言うことではなかった。
少し調子に乗っているようだ、誰かを傷つけてしまう前に気づけて良かったけれど。
とりあえず私達は移動を開始したが、あの時の約束通り手を繋いでダブルデートが叶っていることが幸せで仕方がなかった。
「……ごめんね茉優ちゃん」
「い、いや、あたしも悪かった」
「でもさ、あんまりああいうことは言わないでくれるとありがたいかな」
「いやそれあんた……うん、守るよ」
こちらも冗談で良くないことを言ってしまったとあずさに説明。
こちらは特に気にしていない様子で、「でもしていないんですよね? していないのならそれでいいです」と優しさを見せてくれた。
私としては正直に言って叱ってくれた方がマシだったので、なんとも曖昧な気持ちになる。
「あ……まじかー」
「うん? どうしたの?」
「帰ってこいって、ちなみになだれも」
「そっかー……そういうことだからいいかな?」
「大丈夫ですよ、今日はありがとうございました」
「こっちこそありがとね、まだ来たばかりだけど」
「友希那ちゃんもごめんね、今度埋め合わせするから」
「気にしなくていいわよ、気をつけなさいよ」
ふたりが去りどうしたものかと悩んでいたらトイレにまで連れて行かれた。
躊躇なく個室に押し込められ、そのままキスをされる。
止まらない、もう押し付けられているのにもっと――みたいな感じで激しかった。
「っはぁ……はあ……な、なに?」
「あなたが悪いんですよ? 他の人にキスする? なんて言うから」
「気にしていたのね……悪いと思っているわ――だから――」
キスは疲れるから連続すると途端に駄目になる。
自力で立っていることができなくて、あまり清潔とは言えない床にそのまま座ることになった。
「……こ、ここまでやらなくても」
「あなたの大切な人って誰ですか?」
「あずさ……」
「だったら冗談でも他の人にキスするとか言わないでください」
「ごめんなさい……悪かったと思っているわ、反省しているからもうやめてちょうだい」
彼女は激しくしたことで汚れた口周りを腕で拭って、私にはハンカチを渡してくれる。
「拭いてください、洗ってからでもいいですけど」
「それなら洗うわ……汚すのは申し訳ないし」
自分から求めていた時だってあった、けれどこんな不健全な生活を送りたかったわけではない。
口元を洗いながらルールを決める必要があるなと強く思った。
「友希那、これからする時の条件を決めましょう」
「そうね、私もいま思っていたところよ」
「そうですね……やることを終えたらということならどうですか? 家事とか課題とか大切なこととか、そういうのを全て終えてから」
「それだと頻度が高くなりすぎじゃないかしら。目標として週に2回くらいがいいと思うの」
1回だけだと寂しいし、3回を越えてしまうと恐らくルールなど捨ててやりすぎてしまう。
だから2回、これならあずさも納得してくれるはずだ。
「……我慢できますかね、いまだってあなたにしたいと思っているんですよ?」
「ならここで満足できるまで……しておく?」
「ここはそういう場所ではありません」
無理やり何度も奪っておいてどの口が言うのか。
「帰りましょう、帰ってゆっくり考えましょうか」
「そうね。じゃあ手を」
「はい」
「うぇ、なんか濡れているわ」
「それはあなたの唾液です」
「あ、洗って!」
「はーい……」
家に帰ったらふたりでごはんを作って味わって食べた。
お風呂にも一緒に入って、特に触れたりはせず姉妹らしく出てくる。
やはりあれだ、健全な関係でいたい。不健全になるのは週1くらいでいい。
「ジュース飲む?」
「はい、飲みます」
窓を開けて夜風に当たりながら冷たく甘い飲み物を飲む。
こんな幸せなことが他にあるだろうか。
「まさか2日目にあんなことが起きるあんて思っていなかったけれど」
「ごめんなさい。でも、あれがあったからこそまたこうしてふたりでいられるようになったと思います」
「結果論だけれどね。けれど私もそう思うわ」
なだれと出会ったことによっていまがある。
私の中では2番目に大切な人となっていた。
「私を求めてくれてありがとうございます!」
「受け入れてくれてありががとうございます」
1番大切な彼女ともっと仲良くなりたい。
キスなんかよりもよっぽどそっちの方が大切なのだった。
読んでくれてありがとう。
喧嘩からしか書けない。