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01

読むのは自己責任で。

会話文のみ。

喧嘩→仲直りしか書けない。

ワンパターン。

「あずさ、もう行くわよ」

「待ってください、まだ準備が終わっていなくて」

「はぁ……だから昨日の内にやっておきなさいって言っておいたじゃない」


 当日の朝に慌てて準備するなど愚か者のすることだ。

 妹にはそうなってほしくないからしっかり言っておいたのに、結局この様。

 そういうところが可愛いとも言えるけれど、どうせならもっとしっかりとしていてほしい。


「むぅ……別に先に行ってくれてもいいですよ」

「不貞腐れない。待ってるから早くして」


 母に頼まれているんだから自分もしっかりしておかなければならない。

 自分ができていないのに例え相手が妹であったとしても言うのは説得力がないからだ。

 だから私はあずさにとっていい姉及びお手本である人間でいたいと考えている。


「ああもう……入学式なんだから髪もしっかりしないと」

「別にいいですよ……それで評価が変わるというわけではないのですから」

「変わるわよ。ビシッと決めていればそれだけで高評価になるじゃない」


 朝から物凄く曖昧な姉妹っぽい時間を過ごして学校へ。


「……大丈夫でしょうか、緊張してきました」

「大丈夫よ、自信を持っていれば心配ないわ」

「抱きしめてください」

「ああもう……ほら、これでいいの?」

「ありがとうございます」


 まだまだ甘えん坊だこの子は。

 とにかく新1年生であるあずさと別れて教室へ向かう。

 既に何組かは分かっているので迷うことも一切ない。


「あ、おはよう友希那ゆきなさん」

「ええ、おはよう」


 なぜか初対面でも名前で呼ばれることの多い私。

 ということはあずさも似たような体験をしているのだろうか。

 入学式までの時間を慣れない人の群れの中で過ごさなければならないあの苦痛を思い出す。


「ねえ」

「うん?」

「あなたは入学式の日、緊張していたの?」

「そうだね、だってみんな知らない子だったから。友希那さんは緊張とかしなさそうだね」

「緊張はしなかったけれど、気持ち悪くて吐きそうになったわ」


 相手の子は「えぇ、あの友希那さんが?」なんて驚いてくれているけれど、あのってどういうことなのかそこを詳しく聞いておきたい。

 変な噂が流れているのなら面倒くさいことになるし、そういうのは1番自分が嫌とすること。


「私がそういう風になっていたらおかしいということ?」

「あ、い、いや……だってほら、友希那さんはいつもひとりでいて、でも全然周りなんか気にせず生活してきていたでしょ? だからそういうのが格好いいなって……」

「そういうこと。ふふ、格好いいことなんてなにもないわよ、ただ集団に入れなかった哀れな存在だというだけだわ」


 嫌な気分ではなかったので「ならその存在に話しかけたあなたは格好いいわね」と冗談を口にした。

 いや実際そうなのだ、どちらかと言えば避けられていたからこの子はすごいと思う。


「あ、私は大森なだれ、よろしくっ。って、ご、ごめんねっ、いきなりペラペラ喋っちゃって」

「別にいいわよ。私は黒木友希那、1年間よろしく」


 1年生の時の情けない私を見ている子がいたとは。

 でも今年は変な意地を張らずに友達をたくさん作らないと。

 だってひとりぼっちの人間があずさにとっていい人間でいられるわけがないから。


「大森さん、私と友達になってくれないかしら」

「えっ、い、いいの!? うんなるよっ、なんなら親友にもなっちゃうよ!」

「ありがとう」


 幸先のいいスタートのように感じた。

 少なくとも私にとっては、だけれどね。


「うぅ……姉さんがいると思ったら緊張しちゃって駄目でしたぁ……」


 あずさは残念ながら失敗してしまったみたい。

 別に意識しなくてもいいのに余計なことを気にするからである、とは思っていても言わなかった。


「教室ではどうだったの?」

「そっちも駄目でした……姉さんに相応しい妹でいられるようにって構えていたら……」


 妹は姉に甘えておけばいい。

 私が妹にとって理想の姉らしく生活しているだけで十分。


「余計なこと気にしないの。ほら、帰りましょう」

「はいっ……って、その人誰ですか?」

「大森なだれさん、私の友達よ」

「初めまして、大森あずさです。姉さんの自慢の……妹……のつもりでいたいんですけど」


 別にたまにだらしないところがあってもあずさは大切な妹だ。

 それを言うと恐縮されるから言わないけれど、本当ならもっと直接ぶつけたいと思っている。

 恐らく姉としては扱ってくれていないんだ、他人のように接してくるところが少し寂しい。


「はははっ、多分そういうところを意識しないで動いた方が友希那さんも喜ぶと思うよ」

「な、名前呼び……あっ、そ、そうですよね、あなたの言うとおりです」


 さすがにここで手を繋ぐのは印象が悪いか。

 握っていた手を離して、先にゆっくりと歩き始める。


「あっ、筆箱を忘れてきてしまいましたっ、取ってきます!」

「なら先に帰っているわよ」

「え゛……はい……」


 一緒にいたいけれど友達作りの邪魔になってはならない。

 私みたいな残念な1年間を送ってほしくないのだ。


「手を繋いだりするんだね」

「ええ、あの子は甘えん坊だから」

「そうかな? 友希那さんが離したくないように見えるけど。あっ、ごめんねっ、偉そうに……」

「いえ……その通りよ、私が妹離れできていないの」


 けれどこちらにふたりきりでの生活だ、仲がいいに越したことはない。

 あの子にとって帰ることのできる場所を守りたい、それが姉にできる唯一のこと。

 ……お金だって両親が払ってくれているのだから少し偉そうかもしれないが。


「でもいいなー、友希那さんみたいなお姉さんがいたら楽しいだろうなー」

「そんなことはないわよ」


 やけに持ち上げてくれる子だ。

 だからってお世辞を信じて舞い上がることなどできない。

 だってこの子は私の本当のところなど知らない、少しの表面上だけで判断している。

 きっと真実を知ったら反応は真反対に変わることだろう。

 少なくとも私にとっては危険な子だ、けれどあずさにとっては違う可能性も存在している、と。


「大森さん、あずさの友達になってあげてくれないかしら」

「いいよ、あずさちゃんもいい子そうだし」

「その点は大丈夫よ。少し手のかかる子でもあるけれどね」

「いいじゃん可愛くて。私、妹も姉もいないからどっちも獲得できた感じで嬉しいよ。あ、こっちだからそれじゃあね」

「ええ、さようなら」


 そういうものなのかしら。

 ひとりっ子だと他人のそれが羨ましく見えると?


「姉さん!」

「ええ、帰りましょう」

「ま、待っていてくれたんですねっ、私は信じていましたよ!」


 なら待っていなかったら信用に値しないということなの?

 ……この子もなんでもいい方に言うから分からない。

 分かっているのはあずさに嫌われたくないということ。


「大森さんはどうしたんですか?」

「もう帰ったわ」

「そうですか……残念ですね、あまり会話もできなくて」

「だったら友達になってもらえばいいじゃない」

「そうですね! 挨拶は失敗しましたがどんどん友達を作りますよ!」


 ――できればそのまま他を優先するようになってほしい。

 妹に依存してしまっている駄目な姉など忘れてそのまま。

 もちろん仲は保ったままではいるつもりだが、もしその時がきたら全てを捨てるつもりでいる。


「そういえば取りに戻った際に話しかけられました」

「そう」

「なぜか知りませんが『お友達になってください!』と言われましたよ」

「良かったわね、あなたは私の自慢の妹よ」


 それだけの魅力があったということなんだろう。

 張り切りすぎて空回ってしまっても、それがどうでもいいからと近づきたいくらいには。

 だからこそ可愛かったというのもあるかもしれない、私だって同じことを考えているし。


「もちろん受け入れました! 目標はこの学校の人全員とお友達になることです!」

「大きいわね、でも応援しているわ」


 後は大切な人を見つけてくれれば……。


「それでも姉さんが1番ですよ!」

「……やけにハイテンションね」

「そりゃそうですよっ、だって1年間も別の場所で暮らすことになりましたからね! けれど今日からは学校で毎日会えますし家ではふたりきり! こんな幸せなことってないですよ!」

「ふふ、ありがとう」


 さて、それをいつまで言ってくれるのかしらね。




「姉さん……もう寝てしまいましたか?」

「いいえ、どうしたの?」

「あの……一緒に寝たいです。ついでに手を繋いで……」

「甘えん坊さんね、いいわよ」


 手を繋ぐ、抱きしめる程度なら当たり前のようにやっている。

 一緒に寝るのだって、あっちに住んでいた時なら普通のことだった。

 でもそれは家族がいたからだ、ふたりきりでやるとなると全く変わってくるわけで。


「えへへ……姉さんが近くにいるとやっぱり落ち着きます」

「ほらちゃんとかけて」

「はい」


 その毛布の下で手を握る。

 だからかは知らないが、やけに熱いような気がしてきた。

 手汗をかいていないかが気になって寝ることができない。


「大丈夫ですか? 手が熱いですけど」

「――っ……いいから寝なさい」

「はーい……おやすみなさい」

「ええ」


 直にこの温もりを味わえる人間は私ではなくなる。

 だからいまの内にとギュッと強く握りしめた。

 あずさは少しだけ体を動かしたものの、なにかを言ってくることはなく小さく呼吸を繰り返している。


「姉さん」

「なに?」

「私、お友達をたくさん作ります。それで自慢の妹になってみせますよ。だってほら、優秀な人間の周りには人が集まるものですよね? 残念ながら優秀とは言えないですけど、それなら人気者になってみせますから」

「ええ」

「だから姉さんも……」

「あずさ? はぁ……おやすみなさい」


 私も、なんだろう?

 もっとそんな私に相応しくなれという要求だろうか。

 もしあずさが人気者になったらか、その時の私はまず間違いなく駄目な姉として存在している。

 そもそも駄目なことは置いておくとして、この子の側にいる人間として相応しくなくなっている。


「あずさ……」


 この髪を撫でたり、頬に触れたり、抱きしめることもできなくなる。

 だったらいまの内にしたいことを全てしておくのがいいのではないだろうか。

 私のしたいこと、それは妹と……。


「姉さん」

「きゃっ」


 パチっと目を開けこちらを見つめる彼女。

 顔を近づけているところだったので危うく心臓が止まりかけるところだった。


「どうしたのですか? 甘えたくなってしまったのですか?」

「違うわよ……というか寝たフリはやめなさいっ」

「どうして怒られているのかは分かりませんが、それなら寝込みを襲うのはやめてください」

「お、襲うなんてしていないわよ!」

「ふふ、冗談ですよ、もう寝ますね」


 1度目を閉じたらすぐに寝る子だったのに1年で変わってしまったらしい。

 自分が成長しているように、この子もまた大人へ向かって変わっていっているのか。


「ばか……」

「それは姉さんですよ」


 嫌になったので手を離して廊下に出る。

「あ、ちょっと!」という大声が聞こえてきたが、無視してリビングへ。


「はぁ……これから耐えられるの?」


 先程だって寝ているあの子にキスしようとしてしまっていたくらいだ。

 そんなあからさまな人間を連れてこられたら狂って目の前で犯すくらいはするかもしれない。

 あずさとその子を泣かせて、自分だけは満足して。


「なんでふたりきりにするのよ……」


 お金を出してもらっている身だから文句は言えないけれど、だからってふたりきりは引っかかる。

 だって向こうでは仲良くしすぎた結果がこれなのだ、なのに結局そのクレイジーな姉に任せるとはどういうことだ。余計に暴走するって両親は分からなかったの?


「寝ないんですか?」

「喉が乾いたから来ただけよ。でもあなたは意地悪するから一緒に寝てあげないわ」

「そもそも姉さんが寝込みを襲おうとしなければ問題なかったのですが」


 意地悪な子……なんかニヨニヨ笑っているしこちらのことなんてなんでもお見通しとでも言いたげな様子だ。


「友希那」

「な、なによ急に」

「早く寝なさい」

「なっ!? あなたが早く寝なさい!」


 そもそも誰のせいで寝られなくなっていると思っているのか。

 

「ふふふ、押しに弱いところは変わらなのね」

「その喋り方やめて!」

「友希那、なにをそんなに動揺しているの?」

「だからっ……もういいわよ、あずさなんて嫌い」

「私は好きよ、あなたのこと」


 なにも嬉しくない、揶揄していることが丸わかりなのに喜べるわけがない。

 たった1年で意地悪な子に変わってしまった。

 今日の弱々しい態度や殊勝な態度は作りものだったのだ。


「もういいわ……」

「拗ねないでくださいよ、冗談ですから」

「そんな表面上だけの情報を鵜呑みにできないわ」

「ごめんなさいっ、だから許してください!」


 許さない、もうどちらにしてもしない。

 そう決めて今日はひとりで寝たのだった。

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