サポーターちゃん
初めて月間ランキングにも載れました!
本当にありがとうございます!
「ん、来たね」
俺がログインした時、横からそんな声が聞こえた。
「えっと……」
「やあマツリさん! 一昨日ぶり!!」
俺が言い淀んでいると横にいた女の人の後ろからヌッとスケさんが顔を覗かせてそう言ってきた。
「ひっ!?」
え、何あれ怖いんだけど。予備動作無しでいきなり来られると心臓に悪いわ。
「びっくりした……もっと普通に出てこられないんですか……」
「え? こっちの方がリアクションが見られて面白いじゃん」
何さも当たり前のように言ってるんだ……? 皆がみんな貴方とは違うんだよなぁ。
「うん。いい反応だった」なんでこの女の人サムズアップしてんの……?
「そ、それはそうとスケさん、ちょっと来て貰えますか?」
俺はこのままいくと危ないと判断し、スケさんを呼び出して思っていた事をきいてみる。
「あの、今日朝起きたら声が変になってて……」
「喉が枯れたとかかな?」
スケさんは間を置かずにそう言ってきたが、残念ながらそんな簡単な事じゃない。
「いや、なんというか声が少しだけ高くなってた、というか……」俺がそう言った瞬間、スケさんの表情が変わった。少し驚いたような表情を見せてから、GMの時の様な堅い表情になり、顎に手を当てた。どうやら思案を始めたようだ。
「まさかこんなに早いとは……」
「どうかしたんですか?」
「いえ、なんでも」何かをスケさんが呟いた気がしたので俺は聞いてみたが、はぐらかされてしまった。
「……今のところその事を知っているのは何人ほど居ますか?」
えっと……。美稀姉と美鈴、あとは、谷川と綾乃さんだったよな……
「四人です」
「なるほど……ではそれ以外の人には絶対に知られないようにして下さい。絶対に、です」何時になく鋭い口調でそう言ったスケさんは、険しい表情をしていた。
「わ、分かりました……」
俺はその表情にただならぬ剣幕を感じとり、そう言うことしか出来なかった。
「そう堅く考える必要はありません。ただ、近々また何かがある筈です。その時は必ず知らせて下さい」
また何かが、ってどうなっちまうんだろうな、俺。
そう考えると無意識の内に歯と歯がカチカチと音を立てながら小刻みに当たっていた。
「大丈夫です!僕が何とかしますから!」そんな俺の様子を見てかスケさんはそう言って胸をポンと叩いた。
「いった……」しかしどうやら鎧が思ったより硬かったらしい。左手首を右手で持ち、手をブルブルと振っている。その様子を見ているとなんだか頼りなさを感じながらもどこか安心感を覚えた。
「笑いましたね!?」
「笑って無──「楽しそうですねぇ、スケさん?」俺が答えようとしたその時、後ろから聞き覚えのある声がした。
その声が聞こえた瞬間、スケさんの顔が真っ青になった。
自分でも驚くほどゆっくりと首を回すと、アヤさんがいた。
「何をお話していたんですかぁ……?」
「あ、いや違、これは誤か──な、なんで拳をグーの形に『ドゴッ!』痛ったぁ!?」うわぁ……すげえクリーンヒット。
あぁ……。これ見てたら駄目なやつだ。
後ろ向いておこう。
「ちょっ、痛っ!話を、グフッ!? 聞い『カキーン!』ちょっとぉぉおおお!?」
あ、飛んでった……
恐る恐るアヤさんを見てみると右手には金属バット。
やめて、こっち向いてニッコリしないで……。あ、手振られた……振り返しとこ。
「な、なあ今の大丈夫なのか……?」
「問題無いよ? だってこれプレイヤー達が遊ぶ為に作られたネタ武器だもん。ほら」
金属バット 〈Ra〉
これで殴ってもダメージは0!! 安心してプレイヤーを吹っ飛ばせるね!
ちょっと待てこれを作ったやつは一体何があったんだ。しかも見るところプレイヤーの名前がないから公式が作ったって事だろ……?
やべえ。運営の闇やべえ。
「ちょっと、街の門まで飛んだんだけど……」
俺が闇に戦慄していると、スケさんが息絶えだえに戻ってきた。
「早かったね。もっと飛ばした方が良かったかな……?」
「反省しました! もうしません!!」どうやら説得が通じないと思ったスケさんは謝罪をした。
「よろしい」
アヤさんは満足気に頷いた。
最初からこうすれば良かったのにね、スケさん。
「では改めて、私は焼き鳥。重量魔法が使える。よろしく」一段落ついた頃を見計らって女の人が挨拶をした。
どうやら彼女が焼き鳥さんだったようで──と言っても薄々勘づいてはいた。
だって上から下まで全部ニワトリの格好だから。
頭には帽子の形をしたニワトリの頭があって(トサカ付き)、服は着ぐるみとまでは言わないけれどニワトリに近い格好。手に持っている杖が少し違和感を感じてしまうほど、だ。
どんだけニワトリが好きなんだろうね、この人。まあプレイヤーネームでは食べる気マンマンだけどな。
「よろしくお願いします」俺が挨拶をすると、焼き鳥さんはいきなり「じゃ、行こうか」と言ってスタスタ歩き出した。
どうやら性格もニワトリよろしく自由奔放らしい。あ、歩く度にぴょこぴょこ動くんだ、あのトサカ。
「あの、ところで今日はどこに行くんですか?」
少し歩いているが行き先を知らされていないのにモヤモヤしていたので思い切ってきいてみる。
「キングビートルを倒しに行く」
きんぐびーとる……?
虫の王様……虫……昆虫……蜘m
「嫌だァァァァァァ!!」
ギョッとした顔で俺を見る三人。
「どうかした?」
俺に心から不思議そうに声を掛けてくる焼き鳥さん。
「くくくくく、くも……」
俺が震えながらそう言うと、なんだそんなことかとホッとした様子で三人が肩の力を抜いた。
「大丈夫。居ないよ」
あ、良かった……
俺、アイツだけは無理。Gはまだギリ行けるけど、アイツとムカデだけは本当に無理。
どっちもわしゃわしゃ動くしマジで無理。
見ていると気持ち悪くなってくる。
「でもムカデがいる」
あ、詰んだわ。
「よし解さ──「しないよ?」
分かったから無言で金属バットを構えるのだけはやめてくださいアヤ様……
「ついた、ここが千年木の森」
俺が憂鬱な気分で歩き続けていると、焼き鳥さんがいきなりそう言った。
慌てて顔をあげて周りを見ると、静かながらも鳥のさえずりや風が草を撫でる音が偶に聞こえて来て、
コンクリートジャングルに住んでいる俺達にとっては充分と言っていいほどの安らぎと解放感を与える所だった。
「じゃ、ここから虫が出るから、サポートよろしくね、サポーターちゃん♪」
初めて弾んだ声を出した焼き鳥さん。
しかし俺の耳はそれ以上に聞き捨てならない言葉を拾った。
サポーターちゃんって何!?
いやほんとサポーターちゃんって何!?
今回は変動が無いのでステータス表示は無しです。
次回から虫がわしゃわしゃと……
私自身、虫が苦手なので表現は抑えめにします。大丈夫です。




