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初恋にさようなら  作者: さき太
14/15

 「新しい彼氏とはうまくいってるの?今度こそ長く持ちそう?」

 そうなっちゃんに水を向けられて、結希(ゆうき)は思わずポカンと間抜けな顔をしてしまった。

 「何言ってるのさ。上手くいくもいかないも、長く持ちそうもなにも、わたし彼氏なんていないし。できてないし。急に変なこと言わないでよ。ビックリするな。」

 そう笑って返すと、なっちゃんに疑うような視線でじっと見つめられて、結希は、え?これ冗談とかじゃなくて、本気で聞かれてたの?と思って混乱した。

 「ユキが明るくなったのって、新しい彼氏ができたからじゃないの?最近なんか、もうすっかり清々しい顔しちゃってさ。毎日楽しそうって言うか、生き生きしてるっていうか。仕事場でも人当たりがかなり良くなって、凄く順調らしいじゃん。」

 「職場のこととか・・・。もしかして、大智(だいち)から聞いた?」

 「まぁ。あいつかなりショック受けてたよ。ユキが幸せそうなのは良いことだけど、俺じゃあんな顔させるのムリだったのに、誰だよ新しい彼氏って、どんな奴だよそいつって。ユキの新しい彼氏のことかなり気にしてる感じだったけど。」

 そう言われて、確かに同じ会社に勤めてるけど部署違うし、別れてから全く会ってないのに何処で見られたんだろうと思って、結希はなんだか後ろめたいような気持ちになった。いや、部署違っても社内で見かけたり、バッタリ会うことはあるしね。どっかで見られてても不思議ではないんだけど。でも、なんか気まずくて、わたしが大智のいる部署避けてたからな、遭遇してたとしても全然気が付かなかった。それにしても、別れた彼女が落ち込むどころか別れてから明るくなってくって、見ててどうなんだろう。なんか、大智に凄く問題があったみたいな感じじゃない?違うのに。大智、気にしてないかな。いや、でも、これわたしが気にすることじゃない気も。もう別れてるんだし。そんなことを考えて結希は悶々とした。

 「いや、あのね。わたしが色々吹っ切れたの、恋愛とか関係なくて・・・。」

 考えても埒があかなくて、でもどうせなっちゃんに言えば大智に筒抜けになるんだろうし、もうこれを機に一気に今まで言えなかったことも全部暴露してやろうと、半ば自暴自棄というかやけになって、結希はなっちゃんに今まで口に出すことができなかった自分の過去や最近あったことを話し始めた。

 最近と言っても、大智と別れてすぐくらいに(あきら)と再会して、(とおる)も訪ねて来てくれて、二人との交流が再開して。気が付けば、あれからもう半年以上経ってるんだよな、早いななんて思う。弟達の反乱を受けた修助(しゅうすけ)は正式に離婚した。ただ、その離婚までの経緯は誰の予想もしなかった展開で。なんと、修助が離婚を切り出したのではなく、赦してもらえなくて逆ギレをしまくった嫁が家出して音信不通となり、ある日突然署名捺印済みの離婚届が送られてくるという、なんだそれ展開。もう探すのも面倒だしと、修助もそれにサインして提出して、離婚完了。それで全部終わりのはずが、暫くして元嫁から連絡があって、謝るなら赦してあげるし離婚もしないであげるみたいな謎の上から目線のことを言われて、もうまともに相手するのも面倒で、いやもう届け出したし離婚成立してるからでガシャン。その後暫く、意味の解らない逆ギレ電話とメールの嵐が凄かったらしい。しかもそれだけでは終わらず、ようやく落ち着いたかと思ったら、最後に、貴方の子供だから責任持って育ててねと言うメッセージと共に、家の前に生まれたばかりの赤ん坊を置いていかれるというサスペンス。透は、証拠もあるんだし、だからちゃんとしとけって言ったのにと呆れていたけど、修助は、法律上は俺の子だし、本当の父親がどんなんかは知らないけど、あいつのとこいかせるよりうちで育った方が良いだろとか言って、自分の子供として育てる覚悟を決めたとのこと。その辺は修助らしいと思うが、絶対修助一人じゃどうにもできなくて、またしばらく振り回されることになると、透と晃の両方が溜め息を吐いていた。でも、なんだかんだで二人とも実家を出るのをやめてちゃんと協力してあげるつもりみたいだから、良かったなと思う。

 色々落ち着いた後、藤倉(ふじくら)家に顔を出した時、これで本当にバツイチ子持ちのおっさんか、もう、俺結婚とかいいやとか項垂れる修助があまりにも哀れに見えて、結希は、シュウ兄もまだ三十なんだから、きっとこれから良い出会いあるってとてきとうに励ました。そしてちょっと気になって、なんであんな凄い人と結婚したのと聞いてみた。

 「んー。あれ?正直、焦ったかな。」

 そう言って修助が遠くを見る。

 「ユウはさ、覚えてるか?お前が高校生の頃か?俺が合コンでぼろくそ言われてやけ酒して、べろべろで帰ってきたことあったの。」

 そう言われて、忘れるわけないじゃんと思ったが、結希はそんなことは言わず、そういえばそんなこともあったねと適当に返した。

 「当時、結婚とかそういうのは、お前達が独り立ちするまではとか思ってはいたんだけど。俺も二十半ばだったし。結婚願望もないわけじゃなくてさ。ユウはともかく、透や晃が独り立ちする頃には俺三十過ぎなんだよなとか思うと、そこまで我慢しなきゃいけないのかとか思う自分もいて。結構きてたというか。そこに追い打ちをかけるように、男として終わってるとかぼろくそ言われて、この年でそんなこと言われてんのに、三十過ぎてから俺結婚できんのかよとか思って・・・。」

 「それでやけ酒して帰ってきたの?」

 「ん?あぁ。それで・・・。って、これ、ユウに言って大丈夫なやつか?」

 そう言って修助が一瞬首を傾げ考えるような素振りを見せて、もうだいぶ前の話しだし、ユウも大人になってんだし良いかと、開き直ったような顔をする。

 「あの時、ユウが俺の嫁になってる夢見てさ。夢の中でも俺酔ってて、なんか小言言いながらユウがかいがいしく世話焼いてくれて。なんていうか、こういうのいいなって。本人に言うのもアレなんだけど、かなりぐっときたというか。夢の中でユウに色々しちゃってさ。そのせいでしばらくユウ相手にそんな妄想ばっか・・・。ユウは娘みたいなもんだし、これはヤバいだろって、必死で隠してたけど。俺、このままじゃいつか本当にユウに手出して犯罪者になるって、当時は本気で焦って。そんなことなる前に、早いとこ相手見付けて落ち着かないとって・・・。」

 いや、それ夢じゃなくて実際シュウ兄、わたしのこと抱きしめてキスしたけどねということは黙っておく。しかも、アレを意識してたの自分だけじゃなくて、シュウ兄、そんなこと考えてたんだと思うと、今更でも凄く恥ずかしい。ってかね、言って良いことかどうかで悩んで、まいっかで言っちゃダメなやつだと思うよ、それ。と思うが、もう聞いてしまったし、突っ込んでも自分がよけい恥ずかしくなるだけだからと思って、結希は何も言わないで聞き流すことにした。

 「それで結婚焦って引っ掛かったの?」

 「んー。まぁ、そうなるのか。正直そんな気なかったんだけどさ。出逢った当初、あいつ付き合ってた奴いたし。俺のタイプでもなかったし。それがなんか、相談に乗ってほしいとか言われて、彼氏の愚痴聞いたり、何か酷いめあわされてるみたいだったから慰めたりしてたら、いつだったか、気付いたらあいつとホテルにいてさ。全然記憶ないんだけど、起きたら二人で、完全にやったあとみたいな状態で。しかも、そのあと生理遅れてるし子供できたかもみたいなこと言われて、これは責任とらないとまずいよなって・・・。その時は、遅れてただけで、実際は子供できてなかったんだけど。でも、もう後に退けなかったというか。金遣い荒かったり、服装派手だったり、色々目に付くとこもあったけど、家庭に入れば落ち着くだろとか思って。もう、こいつで良いかって・・・。」

 「バカだね。」

 思わずそう口に出してしまって、あっと思うが、本当バカだろと言って笑う修助を見て、結希も笑った。

 「っていうか、元嫁も元嫁だけど、それ、シュウ兄も大概じゃない?シュウ兄もかなり酷い。」

 「だよな。俺も自分でそう思う。それでも嫁にしたんだし、俺は俺なりに一緒に幸せな家庭築こうと努力したつもりだったんだけどな。結局、どうにもなんなかったし。透や晃に迷惑かけて、ユウのことも追い詰めてたんだもんな。本当、俺はどうしようもない奴だよ。最低な兄貴で本当、ごめん。」

 そんなことを軽い口調で言い合って、笑い話にしてしまう。本当にシュウ兄はどうしようもないな。そう思うと同時に、こんなことで絶望してたなんて自分もどうしようもないなと結希は思った。いや、当時は深刻だったし、実際けっこう酷い話しではあると思うけど。でも、通り過ぎてしまえば笑い話し。今こうして笑っていられるなら、もう本当にどうでもいい話し。わたしは藤倉家の家族じゃない。でも、赤の他人というわけでもない。こうやって昔みたいにここで笑っていられる、この今が大切で。こうして藤倉の皆とまた一緒にいるというのには、ちゃんと一緒にいたいという想いと絆がある。家族じゃなくても、恋人とかにもならなくても、掛け替えのない人達が、一緒にいたい人達がいても良いよね。友達、親友、幼馴染み、腐れ縁。たとえ肉親ではなくても、嫌なことをされたり嫌いなところがあっても、なんだかんだで一緒に居つづける人がいるって有りだと思うんだ。好きとか嫌いとか関係なく、自分の人生の一部に当たり前のように存在してる誰か。それをどう呼ぶのが正しいのか解らないけど、わたしにとって藤倉の皆はきっとそういう存在なんだと結希は思って、もう勝手に自分は独りぼっちだなんて思わないし、自分には居場所がないなんて思わないと心に誓った。

 そんな回想をして、結希はさすがに藤倉のごたごたまでなっちゃんに話しちゃうのはなしだよねと思って、修助の離婚騒動やそれにまつわる兄弟喧嘩は省いて、自分に関することだけを選んで話した。

 「・・・・そんな感じでさ。初恋を引きずってたって言うより、自分が捨てられるっていうのがトラウマみたいになってたところがあって。でも、弟達と再会して、実際その元凶に会ってみたら、なんのこったないわたしの勘違いでさ。全然、わたし捨てられたとかじゃなくて。一気に気が抜けちゃったっていうか。わたしバカだったなみたいな。人と深く関わり持ったりするの怖がってたのが、本当バカみたいに思えて。どうでも良くなったというか、開き直ったというか。ある意味でなっちゃんの言うとおり、実際に会ったらスッキリしちゃったの。それで、前向きになれるようになったの。それだけ。」

 そう本当に自分が可笑しくて笑って話をして、でも、それを聞いたなっちゃんが泣きそうな顔をして、名前を呼びながら抱きしめてきて、結希は戸惑った。

 「あんたが何か抱えてるのは解ってたけど。そんなことがあったなんて。そりゃ人間不信になるというか、人が怖くなるの当たり前って言うか。今までよく頑張ったよ。ユキは偉い。」

 そんなことを言われて、何か妙に照れくさい気分になる。

 「そんなことないよ。いつだって周りにいる人達が助けてくれたし、支えてくれたし。だから何とかやってこれただけで。それに、そうやっていつだって誰かいてくれたのに、わたし、自分は独りぼっちで何処にも居場所が無いとか思っちゃっててさ。凄く、悪いことしてたなって思うんだ。なっちゃんにも、大智にも。凄く悪いことしてたって思う。なっちゃんとはこうしてまだ友達でいれてるけど、大智とはもう、アレだし・・・。」

 そう口にして、結希は少し胸が締め付けられた。良いところを探して、こういう所良いな、こういう所好きだなって、そういう小さな発見を積み重ねて、もう少しでちゃんと好きになれそうだった相手。いや、思い返せば返すほど、わたしは大智が好きだったと思う。でも、好きだと認めてしまって、手放されたとき自分がどうなってしまうのかが怖くて、怖いの方がどうしようもなく強くて、好きかきかれても即答することができなかった。大智は最初に言ってくれた通り、無理強いすることもなく、傍にいてずっと支えてくれて、本当に時間をかけてわたしに寄り添ってくれたのに。一年ちょっともお付き合いしてたのに。たった一言、好きだよって伝えられなかった。怖がって伝えられなかったそれが、自分から触れることすらできなかったわたしの態度から伝わるはずもなくて、だから大智のことを傷つけて、このまま付き合ってくのが辛いとまで言わせてしまうほど追い詰めた。今なら解る、本当にアレはわたしが悪かったんだって。だからこそ、どうしようもなくごめんねと思う。ごめんね、ごめんね、こんなわたしにずっと付き合わせて。でも、こんなわたしとずっと一緒にいてくれて、大切にしてくれて、ありがとう。そう思う。

 「大智には幸せになって欲しいな。」

 そうしみじみと呟いて、結希は自分の中に残る痛みが、好きな人に別れを告げられたことに対する痛みなんだと改めて確信した。自分が傷つかないために、言い訳ばかりが多くなって、ちゃんと自分の感情や思いと向き合うことを避けていた。だから、大智にフラれたとき、どうせ最初からこうなると思ってたって、だから平気、傷ついてないって、自分に言い聞かせて、失ってしまったものの大切さから目を逸らした。でも、本当は、本当に、大智にフラれて辛かったんだ。悲しくて、苦しくて、しかたがなかったんだ。今更そんなことを言ったところでどうしようもない。でも、それに今も胸が締め付けられている自分を感じて、結希は自分はとんでもない間抜けだなと思った。

 「ユキってさ、ただ妥協っていうか、それまでと同じようにただ流されて大智と付き合ってだだけなんだと思ってたけど。もしかして、けっこうちゃんと大智のこと好きだった?」

 そうなっちゃんにきかれて、結希は狼狽えた。なんでそれをきくの。今更それをきかれたところでさ、好きって認めたって、もうフラれてるしどうにもならないし。辛くなるだけだから止めてよなんて思う。でも、ここで認めないと、大智の立場がないよななんて思う。なっちゃんに言えば大智に伝わる。間接的にでも、ちゃんと伝えられなかったことを伝えることができたなら、わたしが傷つけてしまった心を少しはマシにできるかな。そんなことを考えて、結希は覚悟を決めてなっちゃんを見た。

 「好きだったよ。わたしこんな見た目だし、子供扱いされたりからかわれること多くて、それで嫌な思いもけっこうしてきて。だから、ちっちゃいって言われるの嫌いなんだけど。大智は唯一、小さい扱いされても嫌じゃない人だった。だって、大智がわたしのこと小さいって言うときってさ、からかってるとかじゃなくて。例えば飲み会のときとか。俺図体でかいし、ユキくらいちっちゃければ余裕で隠せるから、隠れてて良いよって、わたしが絡まれないように護ってくれたりとか。チビ扱いされるのが嫌で高いところにあるものも一人で台使ってとろうとしてると、ひょいってとってくれて。ここにでかいのがいるんだから遠慮なく利用しろよって、その代わり、低いところの俺だととりづらいから代わりにとってくれる?とか言って、わたしが小さいってことも長所扱いっていうか、誰だって足りないところがあるし、苦手なことは補い合えば良いんだよって言ってくれてるみたいでさ。大智といるとわたし、肩肘張らずにいられて、わたしはこれで良いんだなって思えて。そういうのが本当に嬉しかった。わたしの作った料理を本当に美味しそうに食べてくれるところも。手繋ぐとき、壊れ物扱うみたいにすごく優しく握ってくれるところも。無理強いしないで本当に少しづつ、少しづつ距離を縮めていってくれて。わたしがちゃんと大智のこと好きになるまで何もしないって。本当に、最後までキスもしなかった。そう思うとさ、わたしと大智ってちゃんと付き合ってたって言えるのかな。友達だった頃の延長線上、ちょっとだけ二人でいる時間が増えて、ちょっとだけ触れ合う機会が増えただけで。手繋いで歩いたり、一緒に買い物したり、映画観たり。お弁当一緒に食べて、沢山話しをして・・・。わたしは、そういうのが付き合うってことだと思ってたし、大智といる時間が心地よくて、幸せだった。ちゃんと好きって言えたら良かったのに。好きって言えてたら。大智とだったらわたし・・・。そう思えるところまで、ちゃんと好きになってたよ。怖くて言えかなっただけ。好きよりもずっと、怖いが優先しちゃって、ちゃんと言えなかっただけ。わたしが臆病すぎたからダメだっただけで・・・。」

 そうちゃんと言葉にして言ってみると、自分の中の好きだったなが溢れだしてきて、それを失ってしまったという実感が胸を締め付けてきて、結希の目からしらず涙が零れた。

 「ごめん。おかしいな。フラれてから今までずっと、涙とか出なかったのに。今更、なんでだろう。」

 そう言って笑って誤魔化そうとして、

 「ユキ!」

 そう後ろから愛称を呼ばれ、結希は驚いて声の方を振り返った。そこに元彼大智の姿があって、頭の中が大パニックになる。

 「なんで、大智がここにいるの?聞いてたの?どっから?どっから聞こえてた?え?大智がいるとか思ってなかったから、わたし・・・。」

 そう顔を真っ赤にして焦る結希の傍らで、なっちゃんがあちゃーというように手で顔面を押える。

 「大智。お座り。」

 そんな怒りを滲ませたなっちゃんの声で大智がハッとした顔をして、結希達が座っていた席にパッと座った。

 「あんた、何があっても出てこない約束だったでしょ。何してんの。」

 そう叱られて、大智がでかい図体を丸く小さくしてごめんなさいと口にする。でも、謝っておきながら、だってさと言い訳をする大智に、なっちゃんがきつい口調で更に叱りつけるのを見て、結希は、大智が最初からここにいて自分の話しい聞いてたんだと理解して、恥ずかしいやら何やらもう頭の中が大変なことになってどうしたら良いか解らなくなった。

 「ユキ、ごめん。実は、大智がどうしてもあんたの今彼がどんな奴か気になるって言ってウザくて。しかも、自分でユキに連絡とったり直接聞くなんてできないから、わたしに聞き出せとか言ってきてさ。バレないように近くの席で聞いてるからって。本当、ごめん。騙すつもりとかそんな気は全くなかったんだけど、結果的にユキのプライベートでの深い話しとかも勝手にこいつに聞かせちゃったわけだし。ごめん。ごめんね。」

 そうなっちゃんに深く頭を下げられて、結希は焦ったような気持ちになって、大丈夫、そんな謝らなくていいよと必死に声をかけた。

 「元々、なっちゃんに言えば大智に伝わると思ってたし。大智になら知られても全然平気だから。大丈夫だから。本当、頭上げて。」

 こんがらがった頭でどうにか頭を上げてもらおうと結希は必死にそんなことを言うと、なっちゃんが申し訳なさそうに顔を上げて、大智に向かって特大の溜め息を吐く。

 「もう、約束守れずに勝手に出てきたんだから、後はあんたがちゃんとしなよ。わたしはちゃんと役割終えたし、もう知らないから。これ以上は助けないから。」

 そう怒ったように大智に告げて、なっちゃんは立ち上がると、わたしは先に帰るからあとは二人で話し合ったら?と帰ってしまう。そして二人で残されて、結希は焦ったような気持ちになった。何を話していいのかわからないし、全部聞かれていたというのも恥ずかしいし。状況を理解することができても、どうすれば良いのか解らない。大智と向き合っているこの状況が気まずくて、俯いて黙こんで、こんな状況で置いていかないでよと。結希は何だか泣きたいような気持ちになった。どうしよう、どうしよう、と思う頭の中で、一番に言わなきゃと思った言葉を口にする。

 「「ごめん。」」

 そう二人で同時に言ってしまって、結希は驚いて目の前の大智に目を向けて、そして同じような顔をして自分の方を見る彼と目が合って、そしてまた二人同じタイミングで笑ってしまって。結希はもう何だか気が抜けたような気持ちになった。

 「あのさ・・・。」

 そう結希が口にして、大智がそれを遮るように、俺の話先に聞いてくれる?と言ってくる。

 「俺が、付き合ってくの辛いって、別れたいって言っちゃったの。アレ全部俺のせいだから。ユキは悪くないから。俺が勝手に空回りして、勝手にユキが全然好きになってくれない、進展する気配がないって、これじゃ友達のままと変わらないじゃんって思って、勝手に切羽詰まってって。自分で何もしないって言っちゃった手前、どう進展させてけばいいか解んなくて。焦って、早く好きって言ってくれないなって、待つって言ったくせに、ユキに好きって言わせようと迫っちゃったりとか。そんな自分がどうしようもなくて、情けなくて・・・。本当は、ちょっと距離を置きたいって言いたかっただけだったんだ。あのままでいたら、俺、自分が悪いのにユキに当たっちゃいそうで。なのに・・・」

 「いやいやいや、大智は何も悪くないよ。わたしが待たせすぎたんだって。だって、大智、一年ちょっともずっと待っててくれたんだよ?なのに、わたし・・・。わたしの方こそ、本当にごめんなさい。ちゃんと言えなくて。大智のこと傷つけてて。怒って良かったんだよ。大智はわたしに怒って良かったの。大智は優しすぎるんだよ。そんなに我慢しなくて良かったのに。」

 「いや、俺は。優しいとかじゃないし。ヘタレてただけで。俺、全然そんな良い奴じゃないから。ユキの前では格好付けてたかったから、色々。本当、自分で自分を追い詰めて、ユキのこと間違ってフッちゃうようなただのバカだし。」

 「ん。そこは。大智にフラれて、わたし辛かった。」

 「俺も、別れようって言ったの、ユキにすんなり受け入れられて辛かった。」

 「それは。嫌だって言ってもどうにもならかったらって。それで傷つく自分が怖くて、それですがれなかったの。」

 「俺も、今の間違いって言っても取り消しがきかなくて、ユキに何言ってるのって、元々好きじゃなかったしどうでも良いって言われるんじゃないかとか怖くて。自信がなかったんだ。単に。」

 「わたしも。同じだと思う。」

 そんなことを言い合って、お互いにお互いどうしようもないねと気の抜けた顔で笑い合う。

 「あのさ、ユキ。もし、嫌じゃなかったらなんだけど。俺と、もう一度やり直してくれないかな。俺、どうしてもユキのこと諦め切れなくて。本当に好きなんだ。だから、今度こそちゃんと俺の恋人になってくれませんか?」

 そう大智に真剣な顔で告白されて、結希は嬉しくて泣きそうになった。でも、すぐには返事をしない。すぐにはできない。なぜなら・・・。

 「大智。あのね。わたし、まだ怖いんだ。大智の好きを、ちゃんと受け止めるのが怖くて。信じるのが怖くて。ちゃんと怖くなくなるまで、すごくすごく時間が掛かるかもしれない。今までだって沢山、大智はわたしに時間をくれたのに。でも、これからも、わたしには時間が必要で。その間、また大智を傷つけてしまうかもしれないし。それで大智の気持ちがわたしから離れてしまうんじゃないかって、大智はいなくなっちゃうんじゃないかって、それも凄く怖くて。わたし、どうしようもないワガママなの。面倒臭い奴なの。大智は、こんなわたしでいいの?」

 「いいよ。前はユキの気持ちが解らなかったから俺も不安になったけど。でも、今は、ユキも俺が好きって解ってて、ただ怖いだけって知ってるから。だから、俺、いくらでも伝えるよ。俺はユキが好きで、ユキとずっと一緒にいたいって。ユキがちゃんとそれを理解してくれるまで何度だって。ユキがもうお腹いっぱい聞き飽きたって、もう解ったからもういいからって、逆に嫌になるくらい伝え続ける。俺を選んでくれるなら、もう絶対に離さない。」

 そんな大智の宣言を受けて、結希は胸が詰まった。

 「こんなわたしで良ければ。ずっと、一緒にいて欲しい。わたしも大智が好き。今度はちゃんと、ちゃんと伝えるから。わたしも頑張るから。だから・・・。」

 そう言って、胸の奥から溢れてきたものに言葉が詰まる。自分の返事を聞いて、本当に嬉しそうな顔をする大智を見て、結希もすごく嬉しくなる。

 「店、出ようか。」

 そう言われて、結希は大智に促されて店を後にした。

 久しぶりに並んで歩いて、久しぶりに手を繋いで。

 「実はさ、こうやって手を繋ぐとき、女の子の扱い方が解らなくて、力入れたら折れそうで怖いなとか思って強く握れなかっただけなんだって言ったらどうする?」

 そう言われて、結希は大智を見上げた。

 「白状すると、俺、ユキが初めての彼女で、色々手探りすぎて。でも、ユキは俺の前に何人か付き合ってるじゃん。だから比べられてこいつダメだなとか思われてないかなとか思ったり。でも、未経験なのバレたら引かれたり嫌われたりしないかなとか思って怖かったんだ。」

 そう言う大智は、怖いのは結希だけじゃないよと伝えてくれているみたいで、結希はなんだか胸が暖かくなった。

 「比べるも何も、今まで付き合ってきた人の中で、大智以上の人なんて一人もいないよ。大智が一番。わたしの中で一番だよ。」

 今まで言えなかった分、ちょっと恥ずかしいけど思い切って伝えてみる。大智が自分の気持ちに寄り添おうとしてくれたように、自分も彼の気持ちに応えたいと思うから。

 「あと、わたしも、付き合ってきた人は何人かいたけど、そんなにちゃんとした付き合いしてきてないし。経験値は大智とあまり変わらないと思うよ。キス、より先は・・・その。まだ、したことないし。」

 恥ずかしくて、結希が顔を俯けてそう言うと、大智が驚いたような声を上げる。ちらりと彼の顔を伏し目がちに見上げ、そこに無駄に嬉しそうな彼の顔があって、結希は何故かどうしようもないほどの恥ずかしさが押し寄せてきて一気に顔が熱くなった。思わず繋いでいた手を離して逃げ出したい衝動に駆られる。でも、逃げようとする手に今までにない力が込められて、離すことができなくて、結希は思わずパッと顔を上げた。

 「えっと。逃がしたくないなって。つい・・・。これくらいは、大丈夫?」

 そうこちらを伺うように大智に聞かれて、結希は小さく、大丈夫と答えた。

 何だか恥ずかしくてぎこちない。今まで大智といてこんなことあったっけな。そう思うが、でも、そのむずがゆさというか、今のこれが嫌じゃなくて。見上げれば、大智もきっと自分と同じように手探りで一から恋人をはじめようとしているんだろうなというのが見て取れて、結希は、わたし達はこれからなんだと思った。これから本当に二人でお互いのことを知っていって距離を縮めていって、今度こそ本当に、本当の・・・。そう思うと、結希は何だか満たされたような暖かい気持ちになって、今が本当に幸せだなと実感した。


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