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短編小説の本棚

嘘をつかなければいけない日

作者: 空野 ゆめ

「君の記憶を、消さなきゃいけないんだ」


突然、僕の友だちはわけのわからないことを言った。

まるで小石のような小さい瞳に、宝石のような輝きを灯して。


「それ、嘘でしょ?」


3月31日の夜。

僕は友達に会うために、家を出た。


学校の裏山にある湖で、一緒に遊ぶために。

でももう、夜の12時を過ぎてるのだろう。


「あー、バレちゃった?

エイプリルフールなんてなけりゃいいのに。」


エイプリルフールがなくたって、そんな嘘はばれるでしょ。

悲しそうに僕を見つめるけど、僕はどんな嘘をつこうか考えた。


「それじゃあ、僕は君の羽がほしい。」


そんなふうに言うと、僕の友だち...妖精は、困ったように笑った。

背中の羽が、どんなものにたとえたらいいのかわからないぐらい、とても綺麗だった。


「それは...嘘?」


「んー...」


わかんない、と答えて、僕は湖の方を向く。

たくさんの妖精が、飛んだり、座ったり。

みんな好きなように遊んだり、しゃべったりしていた。


「だいたい、みんないたずら好きだから、嘘なんてもうばればれだもんね。」


妖精はむきになって、僕のほっぺたをつつく。

この不思議な友だちのおかげか、この湖でさえ、すごく、すごく綺麗に見えるんだ。


「今日はもう帰るね。また明日来るよ。」


そういうと、少し寂しそうな顔で、

嘘じゃないだろうね?

と聞いてきた。


だから僕は、


「嘘じゃないよ。

たとえ君に記憶を消されたって、僕は覚えてるから。」


そういって、僕は家に帰った。




。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。.。:+* ゜ ゜゜ *+:。




今日で最後の友だちに、僕は手を振った。

僕の瞳から、涙がこぼれる。


人魚の涙ってよくいうけど、人魚じゃなくたって涙くらい流すのにな。


「わざわざあんな嘘つかなくたっていいじゃん」


永遠と言えるほどの長い付き合いの友だちが、僕に語りかけてきた。


確かに、嘘だ。

あれは本当に嘘だった。

それに、あの子が望むなら、羽だってあげるよ。


僕はそうつぶやいて、真っ白なポピーの上で泣いた。



エイプリルフール、嘘をついても許される日。

純粋な子どもだけが、僕たちと友だちになれる。

なのに、嘘にまみれて、穢れて。


僕たちが見えなくなる。


記憶を消したことはないのに。

みんなが僕たちを忘れていく。


それでも僕は...あの子たちと、友だちでいたかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 忘れ去られてしまう妖精の悲しさが伝わってきました。 嘘の日に絡めた感動的な内容ですね。
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