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償いの魔法使い  作者: 餅巾着
9/25

土の授業

――目が覚めた。

 場所は学校の校庭だろうか。

 俺は体に付いた砂を払うと教室の方に向かおうとした。

 すると校舎の方から、クラスのみんながやってくる。

 その光景はまるで青春ドラマの感動のワンシーンのようだった。

 みんな、俺のこと……キラッ。

 そんなことを思っていると、みんなは無事なのを知った途端に愚痴を漏らしていた。

「なんだよ! 死んでねぇじゃんか。せっかく写メろうと思ったのに」

「あいかわらず、ゴキブリ並の生命力ですわね。早く死んで、相沢様を自由にしてほしかったですのに」

 全員、野次馬精神もろだしだった。一瞬、感動した自分が恥ずかしい。

 そんな中に吹っ飛ばした張本人がやってきた。

「不知火!」

 その声には怒りの念など籠っていなかった。

「すまない。私のせいで、こんなに……」

 どうやら、本当にすまないと思っているようだった。俺は一言

「先生でしたら、いくら飛ばされても平気です。むしろ、もっと過激でも……」

 そんな軽口を防ぐかのように京子は俺を抱き締めていた。

 へっ。

「私は教師失格だ。実の教え子に手を掛けるなど。私は何をされても、文句を言える立場でもない」

 ぴくっと俺は反応した。何をされても、文句を言わない。その言葉が脳内を駆け巡る。

 つまり、これは。何をしてもいいってことか!俺の頭は妄想でピンクモードだった。

 先生も攻略対象キャラだったのか。自分でも何を言っているかは分からないが、若き情動に身を任せるのも悪くはないかもしれない。

俺を抱き締めていた京子を強く抱き、耳元で甘く囁やく。

「何をしてもいいんだな」

左手で背中を強く抱き、右手で腰の辺りをまさぐる。体のラインが手の感触で分かる。

行き遅れなどと言っても、肉体的には完璧だった。学生と張り合えるくらい訳ない。

「何を言って…えっ」

 京子が甘い声を漏らす瞬間、頭をいきなり叩かれた。

 そんな俺の暴走は二人の少女によって止められた。

 振り返ると麗華と海里が頬を赤らめながら立っていた。

「人を弱みに付け込んで、襲うなんて最低ね。見損なったわ」

「遊離は、その、そんなことするのはまだ早いと思うんだ」

 俺はその二人のおかげで正気を取り戻した。確かに俺らしくなかったな。

「ごめん、京子。悪いのは俺だから、気にすんな」

 そう言って、京子を離した。頭をポンポンとしてやる。無事を伝えるかのように。

 俺は麗華と海里と共に教室へと歩き出した。

 その時ふと後ろを見ると、乱れた服を直す京子が恥ずかしそうに立っていた――


 さて、色々あったが昼食を取り、午後の授業が始まろうとしていた。

 俺の隣には藤堂美紗がいる。

「おい、早く案内しろよ」

 俺は引き攣った顔で言った。

「あなたには礼節を重んじる心はないんですか? 早くくたばってください」

 さっきからこの調子だ。何を言っても、二言目に死ねだの糞虫だの。

 罵られるのは嫌いじゃないが、ここまでくると素直に喜べない。

 そんな途方もない会話を繰り返していたが、その少女の顔に懐かしさを感じた。

 そんなわけあるはずないが、どこかで…。ちょっと聞いてみることにした。

「お前って家族いるの?」

 突然、話題を振られたことに驚いた様子だった。

「なんで、そんなことを聞くんですか?」

 どうやら不信感を募らせてしまったようだ。

「いや、特には。なんとなくだよ」

 俺は適当に返す。

「家族はいます。父と母です。そんな貴方はどうなんですか?」

 自分だけ言うのが悔しいのか、聞いてきた。

「俺は親父だけだったね。死んじゃったけど」

 すると美紗は罰が悪そうな顔をした。この娘は思った以上に悪い娘ではないようだ。

「すいません。変なことを聞いてしまって」

 変なことを聞いたのは俺なんだけどね。俺は気にするなと言っておいた。

しかし、父と母だけか。そんな知り合いいたかなぁ。

 考えていると一人、脳裏に過ぎった。おっさんだ!

 恐らくだが、おっさんと目元が若干似ている。

 それに娘がいると言っていたし、苗字も確か藤堂だったはずだ。

 一つ謎が解けた。俺が一人で納得していると美紗が尋ねてきた。

「なんですか? 一人納得したような顔をして」

 どうやら、俺の様子が気に入らないらしい。

 俺はにやけながら、一言言ってやった。

「いつかお前の家に行くからな」

 そんな俺の言葉を理解できないのか、不思議がっている。

「そんなことしたら、通報します。というより、私の父に捕まえてもらいます」

 あのおっさんは強いからな。本気を出したら、危ないな。

 そうこうしているうちに教室に着いた。授業もそろそろ始まるようだ。

「あなたは前日、前々日で問題を起こしているそうなので、気を付けてください。もしも何かあっても助けませんから」

 そういや、この属性系授業だけ下手をうってるからな。気を付けねばな。

 そして、適当に席に着くと先生らしき人物が入ってきた。

「今日は外で授業を行うから、校庭に集合しなさい」

 生徒たちがぞろぞろと移動する。移動している美紗は一人だった。

 俺は無言で美紗の隣を歩いた。

「なんですか? いきなり彼氏気取りですか?」

「そんなんじゃねぇよ。たまたま隣に来て、たまたま歩幅が同じなだけだよ」

 そうですか、と一言言ってそれっきり話しかけてこなかった。

 

 校庭に移動した。

 どうやら俺が落ちた時にできたクレーターはすでに補修されているようだ。

 仕事が早いなぁと素直に感心する。そして、教師が話し出す。

「よし!今からゴーレムの生成を行う。地面に手を付き、魔力を流し込めばできるはずだ。ちなみに君たちの魔力からすると、一メートル満たないぐらいの大きさになるから、思いっきり魔力を出していいぞ」

 ゴーレムか。いわば式神みたいなやつなのかな。

 これをマスターすれば、炊事、洗濯などの家事が楽になるな。

 実用的な魔法に胸を躍らせる。周りの生徒たちは魔力を地面に送っている。

 俺もそれにならって、魔力を送る。入っていってるのかな?実感が全然湧かない。

 他の生徒はゴーレムが出来てるっていうのに……。そ

そんな俺を見兼ねてか、美紗が俺の傍に来ていた。

「何してるんですか?」

 どうやら心配してくれているようだ。それほどまでに俺は困惑していたらしい。

「すまん、勝手が分からん。教えてくれ」

 彼女の目に怪しい光が宿る。

「構いませんが、無償で助けるのはちょっと……。そういえば私、明日昼食を忘れそうなんですが(チラッ」

 言おうとしてることは分かる。

 俺は自身の財布の中身を思い浮かべ、決心する。

「分かった。パン二つぐらいなら奢ってやろう」

 その返事に納得したのか、分かりましたと言って俺に手を重ねてきた。

「お、おい」

「黙って。魔力の流れを一定にして」

 俺は彼女の言うがままに行う。

「そして、愛しい人に触れるかのように、魔力を流す」

 愛しい人。それは一体誰だろう。麗華か。海里か。それとも、この。

 考えはまとまっていないが、魔力が流れていくのを感じる。

 なるほど、俺には愛がなかったのか。地面が盛り上がり、人型が現れる。

 成功したようだが、ゴーレムの様子がおかしい。なんていうか、でかい?

 大きさは三メートル超ぐらいだろうか。

 しかも、そのゴーレムは他の生徒のゴーレムを食らって大きくなっている。

「ゴーレムを食ってる……」

 どこかで聞いたことのあるセリフを美紗がつぶやいた。

 たしかに動きといい、どこぞの人型汎用決戦兵器よろしくな感じだ。

 俺はどうすることもできずに見守っていると教師がありったけの魔力を使って、ゴーレムを作っていた。

 そのゴーレムは俺のゴーレムに吹っ飛ばされていたが……。

 その衝撃でゴーレムの下敷きとなった教師は気を失っていた。

 他の生徒たちも恐怖のあまり動転している。

 誰も見ていないことを確認すると、俺はゴーレムに魔力を与えた。

 あれだけ大きくなっても、個体を維持できないだけの魔力を込めれば。

 俺の考えは正しかったようで、ゴーレムの体が膨らみだした。

 そして、魔力の制御が出来なくなり、破裂した。

 魔力の許容量を超えたようだ。

生成の際にありったけの魔力を込めなくてよかったと胸を撫で下ろした。

 その様子を見ていたのか、美紗が呆気にとられている。

 誰も見ていないと踏んでいたが、一部始終見られていたようだ。

「悪い、このことはみんなには黙っててくれよな」

 美紗は無言で頷いていた。

 これだけの問題が起こって得られたことは、俺には土の属性がないということだった。


 授業は早めに終わり、俺は麗華と海里に問い質されていた。

「あんた一体何をしたのよ! けが人多数って、あんたの仕業なんじゃないの!」

「遊離。また無茶やったの? 謝りに行った方が良いよ、僕も一緒に行くからさ」

 この二人はいち早く情報を得て、どうやら俺が犯人だと疑っているようだ。

 まぁ俺が犯人なんだけどな。

「俺は普通に授業を受けただけだ」

 そんな俺の反論に納得いかないのか麗華は矛先を美紗にまで向けていた。

「ちょっと、美紗! 一体何が起こったのよ」

 美紗は俺の方を見ている。俺は目を合わさないようにする。

 別に言っても構わない、そう思っていた。

「いえ、私は気を失ってましたから、何が起こったかまでは……」

 あの美紗が俺のことを庇ってくれている。そのことに俺は感動の涙を流した。

「まぁ…いいわ。あんまり無茶しないでよね」

 麗華は俺を一瞥すると、去って行った。

 海里も心配そうにしながら、これ以上聞こうとはしなかった。

 そのあと美紗が俺に近寄ってきた。

「パンは4つでしたよね?」

 口止め料までしっかり取られてしまった。


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