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償いの魔法使い  作者: 餅巾着
7/25

火の授業

麗華の言った通り、とても熱い先生だった。

「いいか! 人は火を扱うことでここまでの進化を遂げてきた! つまり、火とは人になくてはならない存在だ!」

 席に着かせた俺たちに授業の説明をしている。

 テンションが高くて、生徒の大半はそのテンションについて行けないでいる。

「君たちには火の属性があった! そのことを十分に誇りたまえ!」

 この人のセリフで!が付かないことがない。

 鬱陶しいが、自分の属性かもしれないので、ちゃんと聞いておこう。

「今日、君たちにしてもらうことは火に慣れることだ! 各々の机に蝋燭を置いておいた! それに火を点けて、手をかざしたまえ! それで一分間耐えられれば、火と友達になったと言えるだろう! 二人組になって、時間を数える係と手をかざす係を決めろ! 二人ともちゃんとやるんだぞ!」

 生徒達が席を立って、二人組を作る。

俺は誰とも組めないことを踏んで、席に着いたままでいた。

 すると、麗華がやって来て、ペアになってくれた。

 男子生徒のほとんどに声を掛けられていたのに、物好きな奴だ。

 そして、課題を開始する。

 麗華は私からするから、時間を測ってと言い、火の点いた蝋燭に手をかざした。

 見るからに熱そうだったが、全く表情を変えずに一分間やり終えた。

「次はあんたよ。早くしなさい」

麗華の言葉に従い、しぶしぶと蝋燭に手をかざす。

 心頭滅却するば、火もまた涼し。

 昔の人は良いこと言うなぁと感心していたら、麗華が大声を上げていた。

「あんた! 火! 手が! 燃えてる!」

 何を言ってんだ、このお嬢ちゃんは。

 などと思って、手を見ると見事に燃えていた。

「あっ! 嘘! 燃えてる。それに熱い!」

 俺は見事な炎を手に点しながら、奔走していた。

 すると、担任がバケツに水を汲んで持ってきていた。

「これを使え!」

そう言った教師が置いたバケツに近寄り、手を突っ込む。

「ば~くねつ! ゴッド、フィ○ガー!」

 ぷしゅうという鎮火の音が鳴る。危うく大惨事になるところだった。

 教室には人肉が焦げた嫌な匂いが立ち込めていた。

 その匂いで大半の生徒は今日の昼食を戻していた。

 そんな俺の手は見事に肉が爛れ、骨がこんにちはと挨拶しそうになっていた。

「うわぁ、グロ」

 そんなことを口にしていたら、先生が声を掛けてきた。

「どうして熱いと言わなかった! 我慢強いことは良いことだが、常人ではありえないぞ! よもや、こんなことに慣れているわけでもあるまい!」

 ぴくっと麗華が何かに反応したようだったので、何か聞かれる前に移動しよう。

「すいません。保健室に行って来てもいいですか?」

俺は尋ねると、先生は行ってこい!と一言言った。

 俺は慌ただしく保健室に駆けて行こうとすると、麗華が手を挙げ、私も同行しますと言っていた。

 麗華と一緒に保健室へ向かう。

 俺は何を聞かれるかと隣を歩く麗華の様子をうかがっていたが、結局何も聞かれなかった。

 保健室に着いた。麗華の同行してくれなければ辿りつけなかっただろう。

 この麗華の行動はこれを見越しての提案だったのかもしれない。侮りがたし。

 俺は扉を開けて、中に入る。

 そこにいた教師はメガネ+白衣+巨乳というありきたりな保険医だった。

「どうしたのぉ?」

甘ったるい声で聞いてきた保険医に手を見せる。

「火傷したから、治療してくれ」

単刀直入に告げた。下手なこと言われる前に終わらせたい。

 保険医は物珍しそうに手をまじまじと見ていた。

「私、古傷とかは直せないんだけどなぁ」

口元に指を添えて余計なことを言う。

「どこに目付けてんだよ。この手の火傷が古傷に見えるのかよ」

俺の言葉に冗談よぉと返すと、しぶしぶ治療してくれた。

麗華はその様子を後ろから見ていた。治癒魔法で手は元通りになった。

 なんであれ、ここの保険医になってるってことは伊達じゃないようだ。

 しかし、治療には思った以上に時間が掛かってしまい、放課後になっていた。

 保健室から出ると、カラスの鳴き声が聞こてくる。

 すると、今までダンマリだった麗華が話し掛けてきた。

「今日は魔物が出るから、手伝いなさい」

 言ってることがよく分からなかったが、どうやら初日で見たあれとの戦いがあるらしい。

「なんで分かるんだ?」

純粋な疑問をぶつける。

「私たちの家系はこの地に長く根付いているからね。なんとなく分かるものなの」

麗華は淡々と答える。その顔からは何を企んでいるのかは読み取れない。

 少し探りを入れてみるか。

「ちょっと待てよ。なんで魔物が出てくるんだ? そして、そんな危ないことをなんでお前ひとりでするんだ?」

「魔物が出るのはこの学校が強力な霊脈の上に作られているから。そして、その地を守ることが私たち一族の使命だから」

そんなこと初めて聞かされた。

 まぁ言ってなかったから、当たり前だが。

「おk! 分かった。つまり俺を学校に通わせたのは、この魔物退治に付き合わせるためだったんだな」

俺の推察を述べると、麗華はそうよと頷いていた。

 んまぁこの娘ったら、詐欺師の才能があるわぁと自然にオカマ口調になる。

「魔物が出るのは完全下校時刻の二十時以降。その時間になったら、校庭にまで来てちょうだい」

そう言って、麗華はどこかへ行ってしまった。

 何を考えてるかよく分からんが、一度寮に戻って、飯を食う時間はあるようだ。

 俺は曖昧な記憶を頼りに寮へと戻った――


 時刻は八時三十分。約束の時刻はすでにオーバーしていた。

 だが、待て。これをデートの待ち合わせだと思え。そうすれば待ち時間も楽しくなるもの。

 ごめ~ん、待ったぁと聞かれ、いいや、俺も今来たところだと言う。

 そうすれば、自然と手に手を握って、映画とか見て、そして、最後はホテル最上階で大人な夜を過ごす。

 うへぇ、考えただけで鼻から体液が……。俺はうずうずしながら、麗華を待っていた。

 ふっと後ろに気配を感じたので、振り向くと、魔物がいた。

しかも、もの凄いスピードで迫ってきている。

「うそん……」

 いや、待て。落ち着くんだ、俺。

 これはシャイな麗華が魔物の着ぐるみを着ているのではないか!

 そうか、そうに違いない。そう思ってみると、魔物も愛しいものだ。

 俺は両手を広げ、抱き止める。

 しかし、あまりの衝撃に後方の遥か彼方に吹き飛ばされてしまった。

 そして、校舎の壁にめり込んだ俺はそれが麗華でないことを悟る。

「そんな……嘘だと言ってよ、バー○ィ」

 俺の願いは空しく、その魔物の咆哮によって打ち消された。

「夢だったんだ。ベタでも良い。そんな展開を夢見てたんだよ。それがなんだよ……。なんで、こんな獣とじゃれ合わなきゃなんねぇんだよ。今、この時、この時間、きゃっきゃうふふな展開を満喫してるやつがいるんだよ。それで俺はこんな仕打ちか?そんなのってねぇよ! 俺だって一端のラブコメしてぇんだよ。そして、あわよくばハーレムエンドを狙ってんだよ。お前はそんな俺を怒らせた」

 魔物が迫ってくる。魔物が来るであろう座標を予測。その空間を歪める。

「覚えておけ。お前を倒したのは、俺じゃない。全国の非リア充たちの純情だ!」

 魔物が座標に到達する。その瞬間、俺は指を鳴らす。

 すると、魔物はその空間ごと取り除かれていた。

「きたねぇ花火、にもなりゃあしねぇよ」

 俺は後ろに向き直り格好良く決める。誰も見ていないがこういう演出を経験するのは大事だ。

 無駄なことでもいつかは花開く時がくるさ、そういう意味を込めて誰かに捧ぐ。

 しかし、体が痛い。どうやらかなりのダメージを受けたようだ。

せっかくの新品の制服もボロボロになっている。

 肉体よりも精神的にダメージを負う。

「ロリとロンリーって似てるよな」

 そんなわけのわからないことを口走っていた。

 俺は寮に戻ろうと踵を返す。すると、正面には麗華が立っていた。

「驚いた。瞬殺するなんて、やっぱりあなたって強いの?」

 俺はさっきのことで疑心暗鬼になっていた。恐らく、この麗華は偽物だ。

 あんなに願っても、出てこなかったのに、こんな簡単に出てくるわけがない。

 すると、これは夢か! そうだな、いっそ夢であってほしい。

 夢なら何をしても許されるしね。俺は有無を言わさず、抱き締める。

「あぁ~この感触、この匂い。夢にしては流石だなぁ」

 そんな俺のジュニアに衝撃が走った。意識が遠のく。この衝撃は……本物?

「子孫……断絶」

 俺は地面に転がった。そんな俺を見下すかのように、麗華は立っている。

 そんな冷やかな目も素敵、などと考えていると麗華は話を続けた。

「これは良い拾い物をしたわ。やはり、私の目に狂いはなかった。これは餞別よ。今後も私のために働いてよね」

 麗華は地面に転がる俺の頭を両手で押さえると、おでこに柔らかく湿った感触を押し付けてきた。

 そして、麗華は闇夜に消えていた。

 俺は何が起きたか分からずにその場所で一夜を過ごした――


 日付が変わっていた。

 俺は昨日のことが現実に起こっているのか定かではないまま、学校に通っていた。

 おはようと声を出して、教室に入る。

 そこには麗華もいたが、いつも通り無視しているので、あれは夢だったようだ。

 そうだ、あんなおいしい展開をこの俺が味わうことなんてないのだ。

 俺は夢だと割り切ることにした。すると、そんな俺に海里が話しかけてきた。

「昨日、何かあったのか? 結局、部屋に帰ってこなかったけど」

 どうやら、俺は部屋に戻らなかったらしい。不可解なことだ。

「大丈夫、ちょっと夢を見ていたら、校庭で眠っていたんだ」

 嘘は言ってないはずだ、多分。そんな俺の言動に海里は?な反応を見せる。

 そこに、教室に京子先生が入って来る。どうやら、今日も退屈な授業が始まるらしい。

 俺は机に頭を突っ伏して、寝ることにした。


「おい、不知火! 起きないか」

 近くで声が聞こえる。

 一体誰だというんだ俺の睡眠を妨げるやつは……。

 意識が覚醒すると今が授業中であることを思い出した。

 うやぁっと奇怪な声を上げて、席を立ってしまった。

「よろしい。では不知火。魔力を上げる方法を答えよ」

 残念ながら、授業も聞いていないし、教科書すら出してはいない。

俺は自身に宿る知識の引き出しを探した。

「魔力を上げるための方法は、昔は禁欲と言われていましたが、今現在では全く効果がないことが立証されました。魔力を上げるためには、人それぞれの潜在意識の特性に応じたことを行えばいいと言われています。ですが、その特性は本人がもっとも嫌うものが多いため、特性を見つけても魔力を向上させるのは本人の努力次第と言われています」

 ふはぁ、久しぶりに脳みそを使った。

「よろしい。よく勉強していましたね」

教師に褒められる。昔読んだ本が役に立つとは思わなかった。

 ちなみ潜在意識の特性を知るために学校に通っているとも言える。

 学校には様々な要素が含まれている。勉強、部活、恋愛などなど。

 しかし、これらは全て先天的な魔法使いの特性を理解するためのものだ。

 後天的な魔法使いは魔法を使えるようになった要因が直接特性となる。

 つまり、俺の特性はもう分かっているのだ。まぁ全然大したことはないんだけどね。

 おぉっと知識をひけらかしてる間に授業が終わってしまった。十分の休み時間に入る。

 海里が近くにやってきた。どうやらさっきの授業で分からないことがあったようだ。

「遊離。その、潜在意識の特性は本人のもっとも嫌うものが多いってどういう意味かな?」

 真面目な質問には俺は真面目に答える。

「例えば、食べることが大好き奴がいる。そいつが嫌うことは食べないこと。つまり、断食だ」

 うん、と海里は頷く。

「それが直接、潜在意識の特性になるんだよ。つまり、その人物は断食を行うことで魔力を向上させることができるんだ」

 なるほど、そういうことなのかと海里は納得したようだった。

「しかし、よく知っていたな。授業もろくに聞かず、教科書すら出していなかったのに」

 どうやら、俺の様子を見ていたらしい。俺はたまたまだよと言っておいた。

 次の授業開始の合図がなる。俺はまた机に突っ伏して過ごすことにした。


「遊離。昼休みだよ」

 近くで海里の声が聞こえる。

 いつの間にか昼休みになっていた。

「もうそんな時間か。おk、行こうか」

 海里を連れて、いつも通り昼食をとった。


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