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夏祭りと海水浴

 七月も半ばに差し掛かろうとする。

 容赦なく照り付ける日差しが最高気温を更新し続ける。

 そんな暑い中、そいやそいやの掛け声が勇ましく青空に響く。

 この日は稲毛雄現神社の夏祭りである。

 盛大に神輿を担ぐ男たちの雄姿がとても印象深い。

 「健太郎さん、早く早く!」

 無邪気に健太郎を呼ぶみなこは、嬉しそうな表情をしていた。

 「待ってくれよ」

 健太郎は若干息切れしながらその後を追う。

 二人は楽しそうにしているのにはちゃんとした約束があった。

 それは、祭りの三日前になる。

 いつも通り、フルール・ハシモトで夕食をしていた時だった。

 「雄現神社のお祭り?」

 みなこは、健太郎の誘いに少しきょとんとしていた。

 「そうなんだ。 いつもみなこさんに誘われてばっかりだから、今度は僕が誘わなきゃって、思ったんだ」

 そう言いながら、健太郎は鹿児島産黒豚のグリルを口に運ぶ。

 「私、お祭りなんて今まで一度も行ったことが無いんです」

 「それは、お父さんの教えか?」

 たしろぐみなこを見て、健太郎はこんな質問をした。

 「父は、{大衆祭事は行かない方がいい。 行けばお前は薄汚れた存在になる!}って言われていました」

 みなこは、暗そうな顔で赤ワインを口に含む。

 「でも、お父さんとは縁を切ったんだから、思いっきり楽しもうよ!」

 健太郎は、これまでにないアグレッシブな勢いでみなこを引き込む。

 「え、えぇ……。 私でよければ喜んで!」

 気を取り直し、みなこは笑顔で了承した。


 そんなこんなで、現在に至る。

 「あ、リンゴ飴だ! 健太郎さん、買ってくれますよね?」

 「勿論だよ。 その為に小銭を用意しておいたから」

 健太郎は自慢げにみなこに話す。

 取り敢えずリンゴ飴二本を購入した。

 「美味しいです」

 初めて食べるリンゴ飴の味に、みなこは興奮した。

 「それは良かったね」

 健太郎も少し照れながらリンゴ飴を一口かじる。

 神社へ進む。

 祭りなのか、その中がいつもよりも賑わっていた。

 「凄いですね!」

 「まぁ、僕も良く行くお祭りだから。 君に喜んでくれただけでも、嬉しい限りだよ」

 健太郎は少し照れ臭そうな様子で、みなこを見つめた。

 吸い込まれそうな大きな瞳、鮮やかな桜色のルージュを引いた唇。

 それらが、健太郎の胸をドキドキさせていた。

 「あ、健太郎さんのエッチ!」

 みなこが突然小悪魔チックな笑顔で健太郎をからかう。

 「んなっ……!」

 突然の奇襲に健太郎は顔を赤くした。

 「冗談ですよ。 思いっきり楽しみましょう!」

 「お、おう!」

 健太郎はみなこと一緒に楽しむことにした。

 神社の境内は、いつにも増して多くの人でごった返していた。

 「うわぁ、凄い人だかりですね!」

 「本当だ。 今年も盛大にやってるな」

 そんな様子を見る二人。

 その時、

 「それではこれより、恒例の七夕飾り・お滝揚げ供養を行います。 炊き上げ台から三m以上離れますよう、お願いいたします」

 境内のアナウンスが流れると、人々は直ぐには慣れ始めた。

 「何が始まるの?」

 「見ててご覧」

 そわそわするみなこを、なだめる健太郎。

 すると、松明を持った巫女さんが千葉市内から集めた七夕の飾りが集積された台の前に歩み寄った。

 初めの口上を唱えながら、松明を台の下の牧に投げ入れる。

 牧が赤々と燃え上がり、それが上の七夕飾りに燃え移り、見事な火柱が立ち上がった。

 その迫力に、おおっと歓声を上げる人々。

 「これは一体?」

 「雄現神社名物の七夕飾りのお炊き上げ供養だよ。 その年の七夕を過ぎて使われなくなった飾りを炊き上げて供養するんだ」

 健太郎が説明したその時、炊き上げ台からバチバチと言う大きな音が上がった。

 「何が起きてるの!?」

 突然の事態にパニックを起こす人々。

 「これは、爆竹か!」

 健太郎は、この音の正体は爆竹であることに気づく。

 「一体誰が?」

 みなこは犯人を割り出そうとするが、これだけの大人数では、それが出来ない。

 とにかく二人は、この場から離れることが先決だ。

 爆竹の音がさらに激しくなる。

 その発破の勢いが、積まれた七夕飾りを勢いよくぶちまける。

 周りの人々や設備に燃え広がる。

 そんなパニックを眺める一人の男。

 「ぐふふふふふ。 こんな祭、ぶち壊してやるんだ……! お前らのお愉しみは、みんな、みんな、壊れてしまえばいいんだ」

 その男は、狂った笑いでこの場から去った。

 しかし、彼の行いが仇になることを知る由もなかった。


 数日後、この「雄現神社祭爆竹混入事件」は、毎朝のニュースで大々的に報じられていた。

 山宮商事の権太郎の部署でもそのニュースでもちきりだった。

 「健太郎も災難だったわね。 巷で噂の愉快犯の事件に巻き込まれるなんてさ」

 由美はコンビニで買ったサンドイッチを一口頬張る。

 「ああ、恋人にもけがはなかったのは幸いだったけど、その愉快犯と言うのは?」

 健太郎は、チキンステーキをひと切れ口に運ぶ。

 「その愉快犯の名は佐々木雄吾。 他人の楽しみを破壊するのを快楽とする極悪人で、全国一斉指名手配中のお尋ね者よ」

 由美の説明は的確だった。

 その時速報が流れた。

 『ニュース速報です。 先日起きた爆竹混入事件を起こした、佐々木雄吾容疑者が佐々川警備保障が取り押さえ、警察にその身柄を差し出したと言う事です。 逮捕に至った理由は容疑者が佐々川電機の新製品発表会で爆発物を使って混乱を起こそうとしたところ、警備員に取り押さえ、身柄を拘束したと言う事です』

 TVアナウンサーがその愉快犯を捕まえたことを伝える。

 「なんだ、佐々川グループは優秀な人をそろえたって事か」

 健太郎は温冷マグに入ったアイスコーヒーを一口すする。

 佐々川グループは、日本を拠点とする総合企業で、歯ブラシから大型船舶までも作ってしまうトンデモ企業だ。

 警備会社には退役した軍人などを多く入社させているため、愉快犯逮捕に貢献できたのはそれ故になせる業である。

 「でも、凄いわね。 佐々川グループに手を出したのが運の尽きって奴だわ」

 由美は会社の自販機で買った缶コーヒーを飲む。

 その時、健太郎のスマートフォンがメールの着信を知らせる。

 「みなこさんからだ!」

 健太郎は内容を確認する。

《健太郎さんへ、この前はあれだったけど、誘ってくれてありがとう。 わたし、とっても嬉しかったです! また誘ってほしいんですけど、海で泳ぎたいです!》

 「なるほど。 それじゃ……っと」

 健太郎は、メールを返信し、持ち場につくことにした。

 「健太郎、佐々川グループが沖縄で建設中の民泊型リゾート施設の視察の件で話があるって、あの佐々川会長から直々に! あんたって、あの会長とどういう関係なの?」

 由美は、健太郎宛に届いた資料を渡す。

 「あぁ、彼は大学時代のガチ友で……」

 そんなこんなで、健太郎のこの日の仕事は終わった。


 数日後、熱海市・シャイニングビーチ、健太郎とみなこはそこで楽しくはしゃいでいた。

 「健太郎さん、シャイニングホテルの予約までしてくれて、サンキューです!!」

 スリングショットの水着を着たみなこが、健太郎の目の前に振り向く。

 「そうだね」

 ホットパンツの水着を穿いた健太郎は嬉しそうに笑った。

 そう、健太郎は週末を利用してビーチバカンスを楽しむつもりだった。

 「今年は最高気温更新だから、思いっきり楽しみましょうね!」

 「そうだな。 それっ!!」

 健太郎が不意打ちとばかりに海水をみなこにかける。

 「あっ! やりましたね!!」

 みなこも負けじとやり返す。

 お互い笑顔で水をかけあう。

 それは、なんだか微笑ましい雰囲気だった。

 そんなサンシャインビーチを横切る1台の車。

 《是非熱海市長選挙は本清、本清武に清き一票を。 子供たちの明るく健全な未来を作る本宮武に……》

 どうやら熱海市長選挙が近いのか、市議員から立候補した者たちが投開票に向けた追い込みをかけているようだ。

 《いま、子供たちの心は、未曽有の危機にさらされています。 コスカツプロジェクトと言う害悪プロジェクトにより、子供たちの純粋な心が破壊されようとしています。 それを阻止するため、本宮武は立ち上がりました。 皆さん、市長選挙に当選したら皆さんと力を合わせてコスカツプロジェクトを中止を求める声を……》

 コスカツプロジェクトを名指しで批判するのは、それだけ有名なプロジェクトだからこそ。

 千葉市長選挙では、「騙されてはいけません! コスカツプロジェクトは民間企業が打ち出した企画であり、我々政治家が介入する権利などありません!」と言う自民公明が支援する千葉市長選に当選した大物政治家もいる。

 話を健太郎たちに戻そう。

 近くの海の家でお昼にすることになった健太郎たちは、他愛のない会話を繰り広げていた。

 「今年の秋に、《鉄血のゴブリンバスターズ》ってアニメがあるんだけど、見るかい?」

 「あのWEBで大人気のダークファンタジー作品ですか? 私も実は気になってはいました……」

 和気あいあいな雰囲気に、

 「お待たせしました、駿河湾産サクラエビのカレーです」

 焼けた素肌の好青年が、健太郎たちが注文した品を持ってきた。

 「さて、しっかり食べたら、ホテルに泊まりますか!」

 「はい! あ、でももう少し遊んでからがいいですよね?」

 こうして、二人の海での戯れは、日が傾き始めるまで続いた。


 その日の夜、健太郎たちはシャイニーホテルのロイヤルスイートルームに来ていた。

 「素敵ですね! よく予約が取れましたね!」

 「実はファンタジークエストのキャンペーンで宿泊券が当たったからね」

 健太郎がいうのは、品川アークロイヤルホテルについた際、配信メールに添付されたロット番号を入力したら、熱海のシャイニーホテルロイヤルスイートルームのペア宿泊券が当たったと言うのだ。

 「そうだったんですか。 でも、こんなホテルの最高のお部屋に止まれるなんて、夢にも思っていませんでした!!」

 「僕もだよ」

 健太郎は少し愛おしそうにみなこを見つめた。

 「あ、ダメですよ! ファーストキスまでまだ時間がありますからね!」

 みなこに注意された。

 どうやら、お預けの様だ。

 「と、とにかく食事にしよう! このロイヤルスイートルームの近くにイタリアンレストランがあるんだ」

 「マジですか!? じゃぁ、私がドリンクとデザート代を出しますから、お料理の方は……、」

 「僕が払うって訳だね」

 と言うわけで、二人は早速夕食の場へと向かった。


 一時間後、

 「はぁ、幸せですぅ!」

 「サクラエビのトマトクリームパスタが、こんなにも美味しかったなんてな」

 夕食の余韻に浸りながら、二人はジャグジーに浸かっていた。

 混浴可能なプライベートタイプだが、みなこはタオルを巻いて体を隠している。

 健太郎も同様に腰にタオルを巻いていた。

 これは、旅番組ではよくある定番ネタだ。

 「みなこさんって、子供の時はどんな感じでした?」

 健太郎がこんな質問をする。

 「私、ですか?」

 みなこは少し黙り込む。

 「私は、絵を描くのが大好きで、将来はデザインアーティストになると言う作文を書いて、小学校の作文コンクールでは、それで特選賞をもらったの」

 自分の幼少時代を健太郎に討ち明かすみなこ。

 「父は、野党議員以外は認めないと言って、賞状を破り捨てたことが、今でも忘れなかった。 母も夢なんて敵わないから諦めて私たちの敷いたレールに従ってと言われるのがすごく嫌だった」

 みなこは淡々と自分の過去に起きたことを話す。

 健太郎は、そんな彼女を幸せにしてやりたいと、そう思った。

いよいよ春本番、新元号が出されてどんな気持ちでしょうか?

さぁ、頑張っていきましょう!!

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