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ゴシップアンチにご用心

 編集記者SIDE

 「はぁ、編集長も粋な計らいはするけど、動き回るこっちの身になって欲しいっすよ」

 そう言うこの男は、何を隠そうゴシップアンチの記者だ。

 七月に入り、気温も最高を更新し続けるこの異常気象の中、特ダネを求める彼らには酷な仕事だ。

 「とにかくボーナスのためにも、でっかい特ダネを掴んでやるっす!」

 記者は相棒の一眼カメラの調子を確認する。

 すると、

 「コスカツプロジェクト、我々は断固として反対する!!」

 向こうで、反対派の集会が開かれている。

 「集会っすか。 まぁ、ネタとしては使えるけどね」

 取り敢えず写真データに収める。

 「これで、ネタに使えそうな写真は一〇枚。 後はでっかいスクープにでもなりそうなことが……って、あれは?」

 記者が目に留まった先は、有名コスプレタレントが街中で撮影中の様子だった。

 「街中で胸の谷間晒して、恥ずかしくないのかね? こいつは、スクープの一ネタだ!」

 望遠レンズを装着して、カメラに収める。

 それは、グラビア撮影そのものを鮮明にとらえた一枚だ。

 「よし、後は、婚活イベントでカップルになった二人を取材して、インタビュー記事を書けば……っと」

 記者が腕時計を確認する。

 時刻は間も無く正午になろうとしていた。

 「よし、不味い飯でも食って、午後の取材と行きますか!!」


 午後一時、

 「ふぅ、人気ぶりが絶好調のラーメンの高村って店、スープも具材も最悪……っと」

 記者が取材手帳に書き残すと、

 「さて、行きますか!」

 勢いよく駆け出した。

 それでも、

 「やっぱり、特ダネは見つからないか……」

 記者は特ダネが見つからず、半ばあきらめかけたその時、一枚のポスターに目が留まった。

 「《浅田ジンジャー×キューンのコスカツスペシャルトーク付き、横須賀しおかぜ公園・コスカツBBQパーティー》!?」

 そのポスターを見た記者は目を丸くした。

 「アポなし取材も大歓迎、青空の下でコスプレとバーベキューを楽しみながら愛を育みましょう!? こいつは、願ってもない特大ネタだ!!」

 記者は日時を確認すると、とりあえず家路に着くことにした。


 数日後、横須賀にあるしおかぜ公園、そこでは色とりどりのコスプレイヤーたちが、肉や野菜、はたまた海産物を焼きながら愛の語り合いを繰り広げていた。

 「しかし、キモいカッコして肉焼きながらいちゃつくなんて……!」

 少し憤りながらゴシップアンチの記者は、肉を焼きながら語り合うコスプレイヤーたちをカメラに収める。

 そんな中、

 「皆さん、楽しんでますか! 浅田ジンジャーです!!」

 「こんにちは、キューンです!」

 会場のメインステージに現れた2人のコスプレイヤー。

 「兄貴!」

 「キューン姫!!」

 一斉に沸いたコスプレイヤーたち。

 「な、なんだこの盛り上がり!?」

 記者はそれに戸惑う。

 「あんた記者ならメモしないと損するぜ! 何せあの二人は原初の正式コスカップルとして、みんなから注目されているんだぜ!!」

 魔法少女のコスプレをした男性レイヤーが、記者に助言した。

 「そ、そうなんだ……」

 ドン引きしながらも、記者はメインステージに目を向けた。

 「みんな、コスプレイヤーだって結婚したいと思いますよね?」

 純白と桃色のドレスを纏った女性レイヤーが、会場のコスプレイヤーたちに呼びかける。

 「もちろん!!」

 一斉に叫ぶレイヤーたち。

 「こいつらが元凶か……!」

 記者はカメラを構えてその2人を撮る。

 「僕たちも、コスカツパーティで出会って、今も付き合っているんだ! みんなも楽しく騒いでカップル成立を目指してくれ!」

 「おーーっ!!」

 黒騎士風のコスプレに身を包んだ男性が叫ぶとさらに盛り上がるレイヤーたち。

 「すいませーーん、質問あるんですけど?」

 記者が質問した。

 「何ですか?」

 女性レイヤーが答えた。

 「お二方の馴れ初めは何時ごろですか?」

 「二か月前に彼女が痴漢に遭っていたところを、僕が助けました」

 男性レイヤーがその質問に答える。

 「そうでしたか! コスカツプロジェクトに参加できて何か良かったことはありますか?」

 記者はこんな質問を投げかける。

 「そうですね。 サイバージェネシスが私たちを公認カップルに指定してくれたところは、大きなメリットになっています! 普段の仕事にも配慮してくれましたし」

 女性レイヤーは笑顔で答えた。

 「ありがとうございました!」

 パーティーは最高潮のまま、幕を閉じた。


 帰り際の電車では、記者がノートPCで原稿を書き上げていた。

 「これで良し。 後は編集長にこれを渡すだけだ!」

 原稿データをUSBメモリに収め、とりあえず帰路についた。

 後日の話だが、その記者が書いた特集記事は、編集部からも好評を得て九月号の特集にピックアップされることになった。


 健太郎&みなこSIDE


 健太郎は山宮商事で働いている時だった。

 「おーーい、健太郎!」

 豪人に呼ばれた。

 「何でしょうか?」

 「サイバージェネシスから、お前宛に辞令が届いたんだ。 まぁ、うちもプロジェクトに賛同しているから、断るわけにはいかんからな」

 と言って、豪人は健太郎に辞令を渡す。

 「拝見します」

 その内容は、

 「浅田ジンジャー様、この度はプロジェクトへの参加をありがとうございます。 弊社はコスプレイヤーたちに結婚の場を提供するため、日々精進していく所存です。 そこで、キューン様にも同様の内容をお送りしていますが、貴方とキューン様をプロジェクト公認カップルに任命します。 これに伴い、サービス登録から除名する代わりに、あなた方には、弊社が主催するコスカツイベントへのゲスト出演権と弊社プロジェクトに賛同する全国九百万ヵ所の店舗などで割引サービスなどの特典が受けられる《コスカツ・プレミアムカード》を後日お送りします」

 健太郎は長い辞令文を読み終えると、

 「いいんですか? 仕事に差支えが……!」

 興奮しながらも仕事への影響を心配する。

 「そこは私が手配しておくよ。 君には益々の活躍を期待しているからね」

 由美が軽くウィンクした。

 こうして、健太郎の仕事は大いにはかどったと言う。


 その日の夜、

 「それで、びっくりだよ。 まさか僕たちが公認カップルになれたなんて」

 健太郎がみなこと電話していた。

 『私もびっくりだよ。 まさか公認カップルになるなんて!』

 みなこも同様の驚きだった。

 「それで、今週の土曜日でコスカツBBQパーティーにゲストとして呼ばれているんだ。 みなこさんは?」

 『私も同様のお知らせが』

 会話が弾んでいたら、夜一一時を過ぎようとしていた。

 「わ! もうこんな時間だ!」

 『ホントだ!! じゃ、おやすみなさい!』

 「おやすみ」

 電話を切って、ひとまずベッドについた。

 まどろみに身をゆだね、健太郎は楽しい夢を見る。


 七月七日、横須賀市にあるしおかぜ公園、健太郎たちはコスカツプロジェクト主催の婚活BBQパーティーの会場に来ていた。

 「「よろしくお願いします!」」

 「ああ、よろしく。 すまないね、本業があるっていうのに……」

 「いいえ、後任にして頂けるなんて、光栄ですよ」

 スタッフと軽い挨拶を交わしながら、健太郎とみなこはスタッフ専用更衣室へと急いだ。 数分後、

 「お、みなこさんはマジカルラッキープリンセスのあみこちゃんか!」

 「健太郎さんは、慟哭のシュヴァルグランの主人公・シュルツェン公爵の鎧姿ですね!」

 お互いのコスプレを評価する二人。

 「間も無くお二方のトークステージが開かれますので、しばらく待っててください」

 スタッフの女性が二人の前から去る。

 「なんだか、ドキドキしますね!」

 「ああ、公式のイベントで活躍するんだ。 思いっきり楽しまないと!!」

 健太郎とみなこは、初めての公式イベント出演に胸を高鳴らせた。


 「間も無く、公認カップルのこのお二方の登場です!!」

 MCの掛け声と共に健太郎たちは勢いよく飛び出した。

 「皆さん、楽しんでますか! 浅田ジンジャーです!」

 「こんにちは、キューンです!」

 二人は軽く挨拶をした。

 そして質問に受け答えしながら、二人は会場を盛り上げた。


 昼食となるBBQの時間、健太郎たちはステージから降りて、愛を結ぼうとするレイヤーたちと一緒に楽しんだ。

 「ジンジャーの兄貴、羨ましいな。 高嶺の花のキューン姫と付き合えて」

 「キューン姫もなかなかのイケメンをゲットできたじゃないの!」

 二人に寄ってくるレイヤーたちに、

 「まぁ、痴漢に遭ったところを助けられた縁がありましたので」

 「それから色々あって、付き合うようになったんだ」

 楽しく会話していると、

 「すいません」

 海外TVのレポーターらしき男性が、健太郎とみなこの前に駆け寄った。

 「何ですか?」

 「私はアメリカのジャパンカルチャー番組担当の者でして、コスカツプロジェクトについてレポートしています」

 TVレポーターの男性は流暢な日本語で話しかけてきた。

 「と、言いますと?」

 「アメリカでも、コスプレと婚活の融合的なイベントを開きたいと思うマリッジリング企業が模索しているんです。 そこで私共の番組が日本のイベントを参考に出来ればと思いまして……」

 とりあえず、みなこたちはレポータのインタビューに受け答えした。

 

 「ふぅ、インタビューを受けるのも大変ですね」

 皿に盛られた肉を頬張りながら、みなこは一息つく。

 「本当だね。 でも、慣れてくると結構楽しいね」

 健太郎は、有頭エビの塩焼きをかじりながらペース配分を考えていた。

 「そうですね。 まだまだ時間に余裕がありますし、取材の受け答えに備えて、スタミナを付けなくては!!」

 喉に詰まりそうな勢いで肉をかき込むみなこ。

 そしたら案の定、

 「んーーっ! んーーっ!!」

 詰まらせた。

 「だ、大丈夫?」

 大慌てで健太郎は、みなこに水を飲ませる。

 「はぁーー、死ぬかと思った」

 胃の中へと流し込み、みなこは一息落ち着いた。

 「無理して食べ過ぎるからだよ」

 「もうっ!」

 拗ねてしまったみなこだが、少しして健太郎と笑いあった。


 夜、健太郎とみなこは、横須賀中央駅近くにある「海軍カレーダイナー・デリシャス」で夕食を摂ることにした。

 「海軍カレー、私初めて食べるんですよ!」

 みなこは少し興奮した。

 「僕は仕事がてら、昼飯によく食べるんだ。 君も気に入るんじゃないかと思ってね」

 健太郎は、少しドギマギしながらウェイターを待つ。

 「ご注文はお決まりでしょうか?」

 ウェイターが尋ねてきた。

 「海軍割烹レシピ通りのビーフカレー中辛一つ」

 「私は辛口で」

 「かしこまりました」

 二人の注文を受けてウェイターは去っていった。

 「でも、公式になるとイベント出演料がもらえるなんて!」

 みなこは、出演料をもらえたことに嬉しさを隠せなかった。

 「そうだね。 これだけの出演料がもらえるのは、嬉しい限りだよ」

 健太郎も、少し嬉しそうにはにかんだ。

 「お待たせしました」

 ウェイターが、健太郎たちのテーブルにカレーが入った皿とサラダ、そして牛乳までも付いた海軍伝統のセット内容で置いた。

 「凄いですね! 私の嫌いな牛乳まで……!」

 みなこは苦手な物を目前にして少し震えた。

 とにかく、この夜は一筋縄ではいかないことを、健太郎は思い知ったのであった。

春本番になってきましたね!

新しい活動も始めたいですね!!

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