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初めてのデート その3とその後

 昼食を済ませた健太郎たちは、電気街を歩いていた。

 「さて、今日はもっと買いたいな」

 「いいですね! あ、ドッキリカメラが爆買い歓迎の値引きセールをやってるよ!」

 キューンが目前にある大型家電量販店の値引きセールの垂れ幕を見つける。

 「マジか!? よし、家電買いまくるぞ!!」

 「お――――!」

 キューンと健太郎は、意気揚々で店内へと入っていく。

 その中は広々とした店内に所狭しと陳列された。

 「わぁ、スパスニックの美容ドライヤー、最新モデルが九九八〇円ですよ!」

 美容家電コーナーの目玉商品に、キューンは大興奮する。

 「じゃぁ、それ買ってあげるよ。 今月は頑張ったから、少し余裕が出来たんだ」

 健太郎の言う少し余裕が出たと言われる金額は、振り込みの時点で五百万円をたたき出した。

 これは、中東の石油インフラ計画が問題なく成功し、その見返りとして臨時ボーナスを含めて五月分の給与が健太郎の口座に振り込まれた。

 今回の買い物は、その半分に当たる二五〇万円を使う予定だった。

 「ただし! 晩御飯は私が奢りますから。 東京丸の内にある大吉デパートのお店を予約しました!」

 キューンはえへんと豊満な胸を張った。

 「凄いね。 君も何かキャリアを積んでるの?」

 「まぁ、本職はデザインアーティストをやっていますので」

 「僕は、大手商社の生産部の社員なんだ。 年収は一千万をたたき出したこともあったし」

 お互いの本職を明かす二人は、店内を歩き回る。

 「でも、ジンジャーさんは凄いですね。 平社員からエリートになったなんて! たたき上げのキャリアマンって、なんでときめくのかしら?」

 キューンは健太郎の凛々しい顔を見てときめかせた。

 「キューンちゃん、近い近い……」

 あまりの近距離に、健太郎は少し引いた。

 「あらやだ! ごめんなさい、私ったらなんてはしたないことを……!」

 キューンはいったん距離を取ってから顔を赤くした。

 「僕は、調理家電コーナーに行きたいんだ。 少し付き合ってくれる?」

 「はい!」

 健太郎たちは地下一階の調理家電コーナーに足を踏み入れた。

 「お、佐々川電機の「スーパーシェフ」、それも最新型が六割引きの十三万円! 丁度うちのオーブンがいかれちまったから、買い替え時じゃないかと思ったんだよ!」

 最新オーブンに即決的な表情を見せる健太郎。

 「ジンジャーさんは、お料理が出来るのですか?」

 「まぁ、毎日自炊生活をしているからね。  レイヤー仲間からも美味しいって言ってくれてるし!」

 健太郎はキューンにサムズアップと余裕の表情を見せた。

 「凄いですね! 今度、私にご馳走させてください!! 凄く楽しみなので!」

 キューンは子供みたいな明るい表情で健太郎に迫る。

 「ああ!」

 健太郎は、キューンに自慢の料理をふるまうことを約束する。

 量販店での買い物を済ませ、外へ出ると日が少し傾き始めていた。

 腕時計を確認すると、時刻は午後四時四五分を指していた。

 「この後、どうする?」

 「少し時間はあるけど、大吉デパートでお買い物しません?」

 キューンに言われ、

 「そうだな。 少しお高い食材でも買いに行きますか!」

 健太郎はその案件に乗った。

 

 東京丸の内にある大吉デパート。

 東京駅直結と言う事もあって東京観光帰りの家族連れや、明日の出張に備えてスーツの新調をするビジネスマンまで様々だ。

 健太郎たちは、二階にある化粧品売り場にいた。

 「あ、オーバリオンの新作ルージュ、初夏におすすめのピンクレッド! 前々からオーバリオンのコスメ、使ってみたかったな……」

 海外ブランドの高級コスメをみたキューンはねだるように健太郎を見た。

 「わ、わかったから。 取り敢えず、夏場の服を買ってからにしよう」

 「はーーい!」

 そんなこんなで、四階の紳士婦人向けのカジュアルウェア売り場に来た健太郎とキューン。

 「あ、このスリングショットの水着、私がデザインした奴だ!!」

 キューンは自分がデザインした水着を見て興奮した。

 「じゃぁ僕の分の水着も買うから、君のその水着、買ってあげるよ」

 「ホント!? わーーい!」

 なんだかんだで、いい雰囲気の二人。

 そして、キューンのスマホが予約時刻を知らせる。

 「あ、あと一時間で予約の時間です!」

 「よし、急いで買い物を済ませよう!!」

 健太郎はキューンを連れて大吉デパートを他の客の迷惑にならない程度に駆け巡った。

 高級コスメや、夏場に備えた服装や小物を沢山購入し、後日発送と言う形で荷物を預け、二人は一六階のレストラン街へと向かった。


 大吉デパート一六階にあるフレンチレストラン「フルール・ハシモト」

 フランスの有名レストランで修業を積んだオーナーシェフが全国から取り寄せる最高の素材を使った極上フレンチが自慢である。

 その味は、国内どころか、海外の有名人がお忍びで通うほど美味しいと評判は上々だ。

 二人は、エントランスに入ると、

 「いらっしゃいませ。 ご予約の方ですか?」

 きりっとしたスーツ姿のギャルソンさんが出迎えてくれた。

 「はい、新崎です」

 「お待たせしました。 お席へご案内致します」

 キューンと健太郎はギャルソンさんに案内されて、大きな窓から東京の夜景が一望できる予約席に着いた。

 「新崎って、君の本名なの?」

 「そうですよ。 あ、本名明かしてませんね?」

 二人は席に座る。

 「本名で自己紹介しよう。 僕の名前は津荷健太郎。 一九八八年生まれの二九歳、一二月で三十路を迎えるんだ」

 「私は、新崎みなこ。 一九九〇年生まれの二八歳になったばかりです」

 健太郎とみなこはお互いの本名を明かす。

 すると、

 「ご注文をお伺いいたします」

 ギャルソンさんが、健太郎たちのテーブルに来た。

 「今日のおすすめは何ですか?」

 健太郎が尋ねると、

 「本日のおすすめは『静岡産キンメダイのムニエル・グリーンビネガーソースの彩りを添えて』と、『陣内和牛と北海道産野菜のホイル焼き・北海道産バターの香り仕立て』でございます」

 ギャルソンさんがこの日のおすすめ料理を教えてくれた。

 「じゃぁ、僕は陣内和牛のホイル焼きで」

 「私はキンメダイのムニエルで」

 「かしこまりました」

 ギャルソンさんが離れると、健太郎はみなこの顔を見た。

 吸い込まれそうな大きな瞳、潤んだ唇。

 健太郎にとって異性の顔を向かい合ってみるのは、初めてのことだ。

 「……? どうしたんですか?」

 急にみなこが尋ねる。

 「あはは、何でもないよ!! ところで、みなこさんはどうしてご両親に反対して家を出たの?」

 健太郎がみなこにこんな質問をぶつけた。

 「私が高一の頃、大好きな漫画のコレクションを父が『お前は立派な野党議員になる使命がある! こう言う物は、有ってはいけない!』と言われて捨てられたの」

 みなこは、自分が両親から押し付け的な教育を受けていたことを明かし始める。

 「美術大学の進学も視野に入れていたけど、母が『貴女はそんな落書きで人を喜ばせる必要はないの! 貴女は、野党議員として現政権と戦う義務があるの!』って、言われて美術大学への進学を諦めさせられかけたけど、親友が助け船を渡してくれたの」

 「友達が助け船を?」

 「これを機に、私は荷物をまとめて家を出たの。 両親は引き留めようとしたけど、『もう、貴方たちとは縁を切る! 自分の人生は、自分で決める!』と言ってやったわ。 あの時の二人の表情は、滑稽だったわ」

 みなこは、自慢げに胸を張った。

 「そうだったんだ」

 「それで、念願の美術大学に進学出来て、大手アパレルメーカーでデザインアーティストを務めるようになったのも、親友のおかげなの」

 みなこは、これまでの自分に起きた出来事をすべて明かした。

 「お待たせいたしました」

 ギャルソンさんが、健太郎たちのテーブルに注文した料理を置いた。

 「これは、当店からのサービスです」

 別のギャルソンさんがこの店自慢のドンペリを持ってきて、グラスに注いだ。

 「あはは、今夜は至れり尽くせりだね」

 「そうだね。 今夜は素敵な記念日になりそうだ」

 こうして、二人はささやかで優雅なディナーを楽しむことにした。


 時刻は午後九時、健太郎とみなこは帰りの電車に揺られていた。

 「今日のデート最高でしたね!」

 頬がほんのりと色づいた顔でみなこは健太郎に迫る。

 「近い近い!」

 健太郎は少し焦る。

 「えへへ。 健太郎さんは、私の物♪」

 みなこは健太郎に抱き付く。

 豊満な乳房の感触が健太郎の五感をマヒさせる。

 「うわ、む、胸が当たってるって!!」

 健太郎はドギマギしていると、

 「うん……、健太郎さん……」

 みなこはそのまま眠ってしまった。

 「あらら、寝ちゃったか。 しかたない」

 健太郎はみなこを取り敢えず座らせて、自分も寄り添うように座った。

 そして、健太郎の最寄り駅である幕張本郷駅に到着した。

 「よいしょっと」

 爆睡モードのみなこを背負い、健太郎は重々しく階段を昇るはずもなく、エレベーターを使って昇った。

 ICカードで2人分を合算払いして改札を出る。

 自宅マンションまでの道のりを重々しく歩く健太郎。

 唇から漏れる吐息が健太郎の首をくすぐる。

 興奮しながらも、健太郎は少し足取りを速めて帰宅の途に着く。

 「ふう。 何とかなったか」

 みなこを寝室のベッドに寝かせて、健太郎はシャワーを浴びることにした。

 加齢臭さえも落としきるオールインワンデオドラントソープで全身を洗いきる。

 この日の疲れを洗い流して、健太郎はソファーで寝ることにした。

 「今日は本当に、最高の1日だったな……」

 健太郎はまどろみに身を任せることにした。

 そして、夢を見る。

 どこまでも真っ白い、何もない空間。

 「ここは……?」

 健太郎が少し戸惑う。

 《浅田ジンジャー》

 とたんに響く謎の声。

 「誰だ!」

 《私は貴方のこれからを予言する者。 まぁ、貴方の守護霊みたいなもんかな?》

 守護霊を名乗る謎の声が軽い態度で自己紹介した。

 「で、その守護霊様が僕に何の用で?」

 あきれる健太郎。

 《貴方、遂に恋人を手に入れたから、応援したくて来たに決まってるじゃないか!》

 守護霊が少し憤った感じの声を出す。

 《貴方はこの先、色々な障害や試練がいーっぱい来るわよ。 でも大丈夫、貴方は一人じゃない。 あたしが的確なアドバイスをしてやるから、自信を持ちなさい!!》

 その言葉を最後に、健太郎の意識は夢の世界から現実世界へと戻っていく。


 「ふわぁ……」

 いつもの朝、月曜の始まり。

 「さて、今日はみなこさんのために、スペシャルブレックファストを作るとしますか!」

 男性用エプロンを身に着け、健太郎は台所に立つ。

 卵を溶きほぐして、イタリアから取り寄せたパンチェッタと一緒に入れてスクランブルベーコンエッグを作る。

 それと並行して、付け合わせの温野菜サラダを作り始めた。

 「ふわぁ……、あれ? いい匂い」

 みなこもベッドから起き上がる。

 「あれ、健太郎さん? ここは?」

 「ああ、僕の家だよ。 昨日、酔いつぶれて寝ちゃったから」

 「あ、それで、泊めさせてもらったんですね! ありがとうございます!」

 健太郎の説明に、みなこは納得した。

 「さ、朝ごはんにしよう。 みなこさんのために、腕によりをかけて作ったんだ」

 テーブルの上には出来上がった料理が並べられていた。

 「わぁ、美味しそう!!」

 「冷めないうちにどうぞ」

 こうして、二人のブレックファストは、穏やかな雰囲気の中で始まったのだった。


 余談だが、健太郎がみなこのためにお弁当を作って、みなこの職場で開けたところ周囲から好評を得たと言う。

春先になると、温かくなりますね。

書籍化を目指して、頑張っていこうかと思います!

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