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初めてのデート その1

キューンと運命的な再開を果たした健太郎は、思いっきり撮影を楽しむ。

その日の夕方、彼女から今度秋葉原でデートしないかと言うお誘いを受ける健太郎。

行きつけの店の店長や常連からアドバイスを受け、健太郎は初めてのデートに臨むことになった。

 6月に入り、健太郎とキューンは二人で撮影会をしていた。

 「はーい、二人とも! もっとにっこり笑って!」

 撮影担当カメラマンがカメラを構える。

 健太郎たちは決めポーズをとる。

 この日、健太郎とキューンは、大人気ラブコメ「嘘恋」の併せをやっていた。

 キューンは、メインヒロインの「香坂はるか」、健太郎は主人公「正恒悠斗」のコスプレをしていた。

 「すいません、タイキックシーンを取りたいので、お願いできませんか?」

 「おお! はるかちゃんの代名詞ともいえるあのムエタイの技を!?」

 「嘘恋」は、週刊少年誌で連載された人気ラブコメ漫画だ。

 主人公が不良からの保身のため、ヒロインに「嘘でもいいから付き合ってくれ」と頼み込んだところ、ヒロインは勘違いしてしまい、不良諸共ムエタイで一蹴されてしまう。

 そんな最悪の出会いから最高の結婚に至ったと言う人気作だ。

 最近では実写映画化もされており、現在もなお誠意制作中である。

 「行きますよ、ジンジャーさん!」

 「来い! キュンちゃん!!」

 キューンが一旦下がってから助走をつけ、勢いに任せてタイキックを健太郎の右わき腹に炸裂させる。

 「痛ってええええぇぇっ!!」

 あまりの痛さに床を転げ回る健太郎。

 「ナイスな写真が取れたけど、キューンちゃん、もう少し加減して欲しいよ」

 撮影しているカメコたちがキューンに注意を促した。

 「ごめんなさーい!」

 ぶりっ子口調で謝るキューンを見て、

 (この子、天然なのか? それともキャラを作っているのか?)

 健太郎は思慮深くキューンを自己分析した。

 こう見えても健太郎は一般書籍で心理学を学んでいて、出会った人間を瞬時に分析できる。

 それが、健太郎がエリートにまで上り詰めた要因の一つだ。

「そう言えば、ジンジャー。 最近立憲民主党が、俺らオタクを取り締まるための法案を参議院に出すらしい」

 「何だって?」

 カメラマンからの言葉に、健太郎が懸念の色を示した。

 「ま、谷部野首相が何とかしてくれるでしょ!!」

 カメラマンが呑気なことを言う。

 「あぁ、そうだな。 まだ提出したという話だけで、可決には至ってないと言う事か」

 健太郎も、ほっと一息つく。

 「ジンジャーさん、早く次の撮影しましょうよ!」

 キューンが催促をする。

 「了解。 じゃぁ、この撮影が終わったら、休憩を挟みますか」

 こうして、二人の撮影会は滞りなく終わったのであった。


 夕方、撮影も一通り終えた健太郎とキューンがそろって電車に乗り込んだ。

 「はぁ、まだ尻が痛むよ……」

 「ごめんなさい。 私父から身を守る時は容赦するなと教えられたので……」

 他愛のない会話をする二人。

 どことなく普通のカップルにしか見えない。

 「そう言えば、立憲民主党の榎園代表、BPOやJAROなどを統合した新たな組織を作るって言っていたな……」

 「あの若者文化嫌いで有名な榎園代表が!?」

 この日の朝売新聞によると、若者文化規制を訴える発言で知られる、立憲民主党代表・榎園松雄は、健全生活向上を目的とした官民一体組織を立ち上げたと報じていた。

 詳細は不明だが、子供たちの健全な心を守り、若者が犯罪に走らない平和で健全な社会を作るとコメントしていた。

 健太郎たちが懸念を示すのも無理はない。

 「それでも、私たちはその傾向を見るのが大事です!!」

 「そうだな。 キューンはどこで降りるの?」

 「私は新検見川で降りるので」

 総武線の電車が幕張本郷駅に到着した。

 「じゃ、また今度!」

 健太郎が降りようとしたその時、

 「あ、後でメール送りますね!!」

 背中から響くキューンの声。

 「おう!」

 健太郎は振り返らず拳を高く振り上げた。

 ドアが閉まり、電車が走り出す。

 電車が去った直後、健太郎の腹が夕食の時間を知らせる。

 「お? 折角だから今日はあそこにするか!」

 健太郎は軽い足取りで改札口へ向かう階段を昇る。

 改札を通り抜け、駅を出ると沈む夕日と都会ならではの夜景とのコントラストが華やかに広がっていた。

 「急ぎますか。 たしか、期間限定メニューが出たような……」

 などと、健太郎は軽やかなステップで幕張本郷駅の近くにある「熟成ビーフバル・ギガンテス」へと直行した。

 この店は八街牛の熟成肉が食べられる店として定評を受けている。

 個性的なカクテルや、おつまみとメインの熟成肉料理から、〆の一品まで様々なメニューが立ち並ぶ店で、幕張新都心帰りのサラリーマンたちにとって、少し奮発して飲むのに適した店である。

 健太郎は、そんなギガンテスの常連客だ。

 「源さん、居るかい?」

 「あら、いらっしゃいケンちゃん! 今日は期間限定メニューを出してるから、遠慮しないでね」

 厳つい髭の顔立ちからは想像できないオネエ発言。

 彼は大橋源之助、ギガンテスのマスター兼料理長を務め、多くの人々から源さんと呼ばれて慕われている。

 「じゃぁ、その期間限定メニューといつもの奴を頼むよ」

 「はいよ!」

 源さんが厨房へ向かう間、健太郎はレジから左二番目のカウンター席に座った。

 「ケンちゃん、今日は何かいいことあったかい?」

 「今日のあんた、いい顔してたよ!」

 店の常連客たちが、いつもとは違う健太郎に関心を示していた。

 「いやぁ、実は……」

 健太郎が恥ずかしそうに答えかけた途端、スマートフォンがメールの着信を知らせる。

 「ん?」

 取り出して確認する。

 差出人はキューン。

 その内容は、

 『ジンジャーさんへ、この前は助けてくれてありがとうございました。 初めて会ったときは凄く素敵で、とても私の心に浸透してくるような優しい人の印象を受けました。 早速ですが、今度の日曜に秋葉原でデートしませんか? 実は秋葉原で《コスプレ電気街祭》が開かれるので、一緒に行きませんか? お返事待っています、キューンより』

 と言う物だった。

 「そうなんだ」

 感心する健太郎を、

 「あら、どうしたの?」

 源さんが心配した。

 「ああ、実は……」

 健太郎は、キューンとの出会いの話をした。

 「あらやだ! ケンちゃんにも春が来たのね!!」

 源さんは大喜びだ。

 「それで、初めてのデートなんだけど、何をすればいいかわからなくて……」

 健太郎は何をすればいいのかわからず仕舞いの状態だった。

 「ま、そいつはお前さんが決めることだ」

 突然、源さんが厳つい口調に変わった。

 「お前さんが行きたい所、相手が行きたい所を尊重しあっていけば、お互いの利益や楽しい結果につながるんだ。 だから、お前さんがリードすればいい結果が見えてくる」

 「さすが! やっぱり源さんには敵わないなぁ……」

 源さんのアドバイスに、健太郎は道理と納得が通った表情を浮かべた。

 「そうよ。 私みたいに長く生きれば自然と知識は身につくものよ」

 いつもの口調に戻る源さんに続くかのごとく、

 「そうだぜ、女の子は男が守ってやらないとな!」

 「そうよ、自信を持ちなさい」

 常連客達が、健太郎にアドバイスしてきた。

 「ありがとう。 まず何をすればいいのか……?」

 健太郎は少し困惑した。

 「ああ、服装についてね!」

 派手な服装の三〇代の女性常連客が奥のテーブル席から立ち上がった。

 「メグ姐さん、何かアドバイスがあるんですか?」

 健太郎が尋ねた女性は万状恵美。

 ファッションデザイナーを務める彼女は、男女の恋愛事情に詳しく、健太郎の良き相談相手でもある。

 「ええ、あんた体格がいいから、ユーベルのジャケットをメインにした初夏のコーディネートがおすすめよ」

 恵美がタブレットを取り出し、起動させたアプリケーションでおすすめコーディネートを健太郎に見せた。

 「おお、さすが!」

 「ただし、お代はきっちりいただくわよ」

 「はいはい。 KGAカード一括で」

 健太郎は、クレジット決済専用ガジェットを取り付けた恵美のタブレットでおすすめのコーディネート一式を購入した。


 数日後、デート前日で健太郎はコスプレ電気街祭で着る新作衣装の制作に勤しんだ。

 「今回は機甲戦士ザンバムEXEのカリス・バーニャン大佐の制服で行くからな。 めっちゃ楽しみ!」

 機甲戦士ザンバムは、一九七九年から現在に至るまで続くリアルロボットアニメの金字塔ともいえる作品シリーズだ。

 作品ごとに異なる世界観や、ロボットを主力兵器として扱う「ストライクドール」と言う設定で登場させ、関連プラモデルやゲームなど、幅広いジャンルで展開している。

 「よし、あとはこれをスーツケースに詰め込んでっと!」

 健太郎は、思い思いの愛情を込めて作った衣装をスーツケースにしまい込む。

 その時、

 「こんにちはムサシ急便です! 津荷さんのご自宅で、間違いありませんね?」

 モニタードアホンは、宅配業者が健太郎が注文した荷物を届けに来たことを知らせる。

 「はい! 今参ります!!」

 健太郎は大急ぎで玄関へ向かった。

 「いつもすいません」

 「いえいえ、お客様にお届けするのが我々の仕事ですから」

 印鑑の捺印を済ませ、リビングへと持っていく。

 「さて、姐さんおすすめコーディネートの内容は……」

 箱を開けて中身を確認する。

 内容は、海外ブランドユーベル製デニムジャケット、フラメンツ・アジャスターの半袖ダメージポロシャツ、コップㇲが作り上げた新作デニムジーンズ、ナジカシューズの青を基調としたカジュアルスニーカーが入っていた。

 「っと、ご注文いただいた品の代金、占めて二五万円頂きました。 お引き落としは、本書が届いてから二週間後となります。 ま、今月はよく頑張ったからなんとかなるか」

 健太郎は、請求明細書を明細書入れにしまうと、服についた値札などを切り落とす作業に取り掛かった。

 『では、次のニュースです』

 TVアナウンサーがこの日入ったニュースを伝え始める。

 『立憲民主党の榎園代表は若者に対し、《オタク文化は劣悪で何のためにもならない。 今すぐ捨てて健全な社会貢献ができる人間になりなさい》と発言し、多くの若者から更なる反発を招いています』

 どうやら榎園代表は、若者文化にケチをつけて反発を招いてしまったようだ。

 『自民公明両党は、榎園代表にこれ以上の反発を煽る発言を続けると法的措置をとると警告し……』

 アナウンサーがニュースを続ける中、健太郎はこの日の夕食の用意を始めた。

 「今日はタスマニアアンガス種のポンド肉がお買い得だったからな」

 健太郎は一ポンドステーキの肉をケイジャン風の味付けを施し、フランス産の発酵バターを溶かしたフライパンに入れて焼き始めた。

 熱した鉄が、生肉を香ばしく焼きあげる音を奏でる。

 「ボッチ飯も悪くないが、たまには、一緒で飯を食いたいなぁ……」

 健太郎は独身であることを一人嘆く。

 でも、それを理解してくれるパートナーがいない。

 独身とは、こんなに寂しいものなのか、肉の役音が哀愁を奏でていた。


 翌日、東京・秋葉原。

 この日から開催されるのが『秋葉原コスプレ電気街祭』である。

 開催期間は六月一〇日から二三日までで、コスプレイヤーと家電の安売りでその来場者数は多い日で二千万人を超える、有明コロシアムで行われるコミックフェスタとトップを争うイベントだ。

 秋葉原駅・電気街口、健太郎はそこでまっていた。

 「遅いなぁ……」

 腕時計を確認する。

 「ごめんなさい!!」

 不意に女性が右横から現れた。

 「キューンちゃん!? びっくりしたよ」

 「だって、初めて男の人と一緒にコスプレデートするんだよ。 コスもおしゃれも同時にしなきゃ!」

 キューンが少し離れてから、くるりと一回転する。

 彼女の服装は、白を基調とした青いチェック柄のワンピースと、紅いハイヒール。

 鮮やかな桜色のルージュを引いた唇が、清楚で可憐な女性らしさを演出していた。

 「……、可愛い」

 健太郎が小声でつぶやき、

 「よし、午前中はコスを楽しんで、午後は買い物と行きますか!」

 「お――――!!」

 こうして、二人の最初のデートが始まった。

どうも、春の足音がすぐそこまで近づいていますね!

私もウキウキしたくなってきました。


皆さんも、私の作品を読んで、良かったところ、改善してほしいところがありましたら、お申し付けけ下さい。

期待に応えるよう、改善していきますので、何卒よろしくお願い申し上げます。


                 by騎士誠一郎

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