運命の再会
仕事の飲み会の帰り、健太郎の下に届いた1通の招待状。
それは、情報サービスを運営するサイバージェネシスからのお見合いパーティの招待状だった。
コスプレの準備を済ませ、会場へ向かう健太郎。
そして彼は、運命の女性と再会する……。
「よーし、今夜は私のおごりだ! 遠慮しないでくれ!」
「おーーっ!!」
飲み屋の激戦区新橋にある創業二年の居酒屋「飲み蔵・ベーブ」。
全国の居酒屋の看板メニューがレシピ通りに再現されたと言う話題があり、首都圏でもご当地グルメが味わえる新進気鋭の名店だ。
この日、豪人たち生産部は、日ごろの労いを計って飲み会をすることになった。
「津荷先輩は、仕事もできる上に、俺たちのメンタルも心配してくれてホント助かるよ!」
「私たちも、津荷先輩を見習わなきゃ!」
後輩社員たちが、健太郎に熱い視線を送る。
「それ程でもないよ。 まじめに頑張ったからこその結果だよ」
健太郎が恥ずかしそうに頭を掻く。
彼は営業の腕前はトップクラスで、その年収は一千万を超えることもある、いわゆるエリート社員だ。
「今日のご注文は、《宴会コース・歌劇》で?」
店主が顔を出す。
「うむ、それで頼む!」
そんな中、健太郎はふと思い出す。
『また会えますように』
今朝出会ったあの女性のことが、気がかりでなかった。
「どうしたの、健太郎?」
由美が心配そうに健太郎の顔を覗き込む。
「わわっ! だ、大丈夫だよ!」
慌てて気を取り直す健太郎。
「……?」
由美は不思議そうに首をかしげた。
そんな彼女は少しほろ酔っていた。
幕張本郷駅近くの権太郎の自宅マンション、彼はおぼつかない足取りで帰宅した。
「くそっ、今日は飲み過ぎた。 明日は休みだからゆっくり家でごろごろするか」
マンションの入り口の郵便ポストに足を運ぶ。
「えーと……、あれ?」
郵便ポストに見慣れない封筒が入っていた。
金の縁取りに浅田ジンジャー名義のあて名。
送り主はサイバージェネシス。
どうやら、コスカツプロジェクトから何かしらの特典が送られてきた。
「何だろう?」
健太郎は取り敢えず自分の部屋へもっていくことにした。
玄関を開けると、辺りは真っ暗だ。
玄関のわきにある電灯のスイッチを入れる。
LED電灯がすぐに玄関を明るく照らす。
健太郎は靴を脱いで廊下に上がると、リビングの電灯をつけて郵便物をテーブルに置く。
「取り敢えず、シャワーを浴びてから読むとしますか!」
健太郎は、スーツを脱いで風呂場に向かう。
シャワーを浴びて体を綺麗にして、風呂場から上がって寝間着に着替えてリビングへと向かう。
「さてと、コスカツプロジェクトから何の特典かな?」
濡れた髪の毛をタオルで拭き取り、封筒を開く。
「何々?」
開封して中身を確認する。
その中身は、招待状らしき金の縁取りが施された紙切れが1枚と、メッセージが描かれた便箋だった。
「『浅田ジンジャー様、この度は当プロジェクトにご登録いただきありがとうございます。 さて、初回登録記念特典として、五月二七日(日)、品川アークロイヤルホテルにてプロジェクトが主催する《コスカツパーティー・2018》の招待状をお送りしました。 是非ともご参加をお待ちしております』?」
その内容を読んだ健太郎は、これはまたとないチャンスだと思った。
「参加条件は、好きなコスプレをすること。 会場内付近に別途更衣室あり。 参加される方は何卒マナーをわきまえた上でお楽しみください、か……」
ガイドライン欄を読み、会場までの地図を携帯に算出、記録しておく。
「さて、来週まで時間があるから、とびきりの衣装を作るぞい!!」
そう言いながら、健太郎は寝床についてまどろみに身を任せた。
翌日、健太郎は千葉市街にある《アニマート》千葉店へ衣装の買い出しに来ていた。
正確には、衣装の材料と言ったところか。
「えーと、後は紋章ブローチが必要だから……」
健太郎が悩んだその時、
「あれ、ジンジャーじゃないか!」
不意に女性の声が聞こえる。
「って、みやぴょん? 何でここに!?」
健太郎が振り返ると、そこには奇抜な髪型をした快活な印象を与える女性が立っていた。
みやぴょんは千葉の観光大使も務める千葉県出身レイヤーで、地元ラジオ局の番組パーソナリティを務める人気者だ。
「なにって、あんたがコスカツプロジェクトに登録したからいい嫁さんが付くのかなと思ったの! 本題は私の番組でコスカツパーティーの様子を取材して来いってディレクターに言われたの」
「そりゃ、パーソナリティを務めているからね」
みやぴょんの仕事への情熱に、健太郎は苦笑した。
「パーティーの開催は午後五時から午後九時だから、来週の放送が終われば、直行で取材するからね!!」
「あ、あははは……」
健太郎はみやぴょんと別れて少し千葉市街を探索する。
「今日は新刊が出てたっけ? よし、《猫の蔵》さんに寄ってみますか!!」
そういうと、健太郎は同人誌取扱店へと直行した。
それから一週間後、
「よし、衣装も出来上がったし、行くとしますか!!」
出来上がった衣装をキャリーケースに詰め込み、プライベート用のウェストバッグに招待状やスマホ、自分の名刺まで入れて健太郎の出発準備が完了した。
「いざ行かん! 品川アークロイヤルホテルへ!!」
玄関を開ける。
そして、外へ一歩踏み出す。
腕時計を確認する。
時刻は午後三時一〇分を指していた。
「それじゃ、行っきまーーす!!」
健太郎は軽やかな足取りで廊下を駆ける。
階段を降り、駅へ急ぎ足で向かう。
そんな中、一台の宣伝カーが横切る。
何かを訴えているようだが、健太郎は聞かぬふりをして足早に幕張本郷駅へ向かう。
「今の共産党の車……、ま、大したことじゃないからいいか!」
そんなことを言いながら健太郎は駅の構内へと入る。
IC改札を通り抜け、近くの階段を下りて駅のホームへ着く。
一番線のホームで電車を待つ間、健太郎はスマホを取り出し、今日のニュースを確認する。
「えーと……、《今日の経済コーナーは、サイバージェネシスが婚活事業に乗り出したことにより、事業競争率が一段と激しくなる。 経済学者からは『オタクの人生観を理解しているサイバージェネシスらしい戦略ではあるが、コスプレイヤー人口増加に収拾がつかなくなる危険性も併せ持つため、多くの投資家は投資に慎重な姿勢を見せている』 なるほど。 もしかしたら野党六党が何かを仕掛けてもおかしくないな」
健太郎は表情に若干の懸念を示した。
《間も無く、二番線に……》
ホームのアナウンスが流れ、中央総武線各駅停車の電車が到着する。
それに飛び乗って揺られ始める健太郎。
途中津田沼でいったん降りて東京方面の快速電車に乗り換える。
「さて、待っている間にいつものゲームで遊びますか」
ウェストバッグから蒼天堂エクシードと呼ばれる多目的ゲーム機を取り出し、お気に入りだと言う人気ゲーム「ファンタジークエスト」のオンライン版をプレイした。
通信容量無制限のSIMカードを入れたモバイルルーターが元気良く作動する。
ログインを済ませて、健太郎はマイホームに届いたフレンドメッセージを確認する。
「ん? みーくんからだ。 何々? 『ジンジャー知ってるか? コスカツプロジェクトは、レイヤーズ・ライブラリがその前身を作ったらしいんだけど』? まぁ、野党支持派から何か言われなきゃいいんだけど……」
健太郎は懸念の表情をさらに濃くした。
レイヤーズ・ライブラリは、2007年のコスプレブーム初期から続いたコスプレイヤー専門のSNSだ。
愛知県に運営会社を置くレイヤーズ・ライブラリは、5年前から深刻な問題を抱えていた。
それは、登録会員の大半が独身で未婚のレイヤーが多いからだ。
ごく少数だが、既婚者もいる。
それでも、運営はこのままでは少子高齢化の影響がレイヤーたちに及ぶ恐れがある。
そこで、運営が試験的にコスプレイヤー専門のマッチングアプリ《コスマッチ》を開発。
そして、βテストを開始。
以外にも、気になる異性との出会いを求めるレイヤーが多く、正式サービス開始と共に登録数一万人以上に達成した。
ところが、そのコスマッチに悲劇が訪れる。
立憲民主党などの支持者たちから、「変人カップルを生み出す害悪アプリ」と言う悪意ある苦情が殺到したのだ。
終いには希望・維新を除く野党六党から強制削除命令を発令され、削除せざるを得なくなってしまった。
しかし、レイヤーズ・ライブラリ運営会社は、その経験とノウハウを経営上の同盟ともいえるサイバージェネシスに進言。
国からの支援を受けているサイバージェネシスは共同でコスプレイヤー専門婚活情報サービス《コスカツプロジェクト》を立ち上げ、現在に至る。
定義としては「このままオタクやコスプレイヤーたちが未婚のまま高齢化してしまったら、日本は取り返しのつかない事態に陥ってしまう」と理屈に近い。
この理屈にも近い定義で、自民公明両党を強く推して厚生労働省も参加と言う形で官民合同プロジェクトにまで登り詰めた。
しかし、希望と維新はクールジャパンと少子高齢化対策の融合に前向きな姿勢を示すと言う発言に対し、立憲民主など六党は与党が犯罪者増加を幇助するとして、真っ向から対立しているのが現状だ。
あこがれの存在か、それとも犯罪者予備軍か、コスプレイヤーたちの見方は人それぞれだ。
《間も無く、三番線に快速・大船行きが……》
駅ホームのアナウンスが流れ終わるかの絶妙なタイミングで東京方面行総武線快速大船行きが到着した。
健太郎は二階建て車両のグリーン席に乗車した。
すでにICカードにグリーン券情報を記録させているため、面倒な支払いをせずに済んだ。
「さて、品川まで今日のクエストをクリアしますか!」
プレイしているクエストは、アルカミア山脈にある希少な鉱石を見つけ出して、依頼主に届けるものだ。
運営によれば、そのクエストで最近棲みついた凶悪なモンスターを倒すと、討伐ボーナスとしてクリア時に配信されるメールについたロット番号を公式サイトに入力すると、他では手に入らない《びっくりサマー宝くじ》などの好きな豪華商品が応募者全員に届くというキャンペーンが開催されている。
健太郎もそれに挑戦しているわけだ。
《間も無く、品川、品川。 お出口は……》
車内アナウンスが品川駅の到着を知らせる。
「お、クリアと同時に到着か! では、豪華賞品は会場に着いてから選ぶとしよう!」
ログアウトと同時にエクシードをウェストバッグにしまう。
品川駅から歩いて数分の立地にある《品川アークロイヤルホテル》。
宿泊から結婚式、はたまたコンサートから有名パーティまで、「都内で豪華で贅沢な一時を過ごすならここ」と言うほどの人気ホテルだ。
その最上階付近にある大宴会場、コスカツパーティーはそこで開かれていた。
全国から集まった個性的なコスプレイヤーたちが思い思いのコスプレ姿を披露しあっていた。
(凄い人だかりだなぁ)
健太郎は、物凄い人だかりに若干の戸惑いを隠せなかった。
すでにいい雰囲気のカップルがお互いの趣味について語り合っていた。
もう一組のカップルは既にアドレスの交換を成立させており、今後の予定について話し合っていた。
このパーティーは招待制だが、会場の出入りは自由で、このまま退場して夜の語らいをするもよしである。
コスカツプロジェクトはコスプレイヤーに対してここまでの待遇をさせる、これはコスマッチ以上の会員登録数を記録しそうだ。
そんな中、健太郎はある女性を見つける。
その女性は何かもどかしく挙動不審になっていた。
「どうしたの?」
健太郎が後ろから優しく声を駆けると、
「うひゃわわわわっ!!」
素っ頓狂に絶叫された
「ちょ、ちょっと落ち着くんだ!!」
健太郎は何とか落ち着かせると、
「あ、貴方はこの前助けてくれた……」
女性は健太郎の方を向く。
「もしかして、君は、痴漢に遭った……!」
「はい! この前は助けてくれてありがとうございます! また会えましたね!」
女性は無邪気な笑顔を健太郎に見せた。
その様子だとかなり嬉しそうだった。
「そ、それは良かった。 自己紹介がまだだったね。 僕は浅田ジンジャー」
「わたしは、キューンです。 キュンちゃんって呼んで下さいね!」
キューンは健太郎に自己紹介した。
「取り敢えず、メアド交換しようか」
「はい、私で良かったら是非!!」
こうして、二人は運命的な再会を果たした。
これから先、どんな障害や試練が待ち受けているのか、二人はまだ知る由もなかった。
遂に再会を果たした2人。
私も、運命の出会いと言う物をやってみたいものです。
あ、私は気になる人がいるので、お気になさらず(-_-;)