表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

三角関係始めました

 「一体何が起きてるんだ……?」

 南房総市にあるホテルのバイキングレストランの席に座る健太郎は、そんなことをぼやく。

 「貴方に健太郎さまは、相応しくなくて?」

 「そうはいきませんわ! エリカさんこそ、健太郎さんから離れて!!」

 その目前では、健太郎を巡って言い争うみなことエリカ。

 両者が手にしている皿には色とりどりの料理が取り分けられている。

 「ま、まさか、みなこさんとエリカちゃんが学校の同期だったなんて……!」

 今まで知らなかった事実にドン引く健太郎。


 それは、数日前にフルール・ハシモトで夕食を摂っていた時のことだった。

 「南房総の有名ホテルまでドライブですか?」

 みなこは、夏野菜とスズキのアクアパッツァを一口運びながら健太郎に尋ねた。

 「実は、新車を下ろしてきたんだ。 せっかくだから、みなこさんとドライブしたくて……」

 健太郎が何故か恥ずかしそうに、頭をさする。

 「でも、健太郎さんの新車すごく気になります! 私、車に乗ったことがないので」

 「じゃぁ、今度の土曜日いかない? いいホテルの予約が取れたんだ!」

 「本当ですか? それじゃぁ、期待していますね!!」

 そんな経緯もあって、数日後。

 健太郎たちは東京湾を右サイドにしながら海沿いの道路を疾駆していた。

 「凄いですね! 健太郎さんの車って、イタリアのフェースセルの最新車両なんて!」

 みなこが興奮するその健太郎の車は、真紅の4人乗り仕様オープンカーだった。

 しかも、イタリアメーカーでは初のPHEVで、環境にも配慮した最新車両だ。

 「これ、結構しましたよね?」

 「あぁ。 五年で組んで買ったんだ。 あのメーカーの車は前々から気になっていたんだ」

 健太郎が五年ローンを組んでまで買ったこのフェースセル2100PHEV/Tは新車価格で五〇〇〇〇〇〇〇もする代物で、並みの自動車ユーザーには手が出ない金額だ。

 その為、ある程度裕福なら数年ローンを組めばようやく買える。

 一部エリートや、大企業の社長クラスじゃなければこの車を駆る資格はないと言っても過言ではない。

 健太郎の年収も、公認カップルの仕事や本業収入も併せて一億に届く金額をたたき出している。

 だからこそ、これが買えたと言えても過言ではないのだ。

 「でも、夏の房総半島をドライブなんて、最高じゃないですか!」

みなこは、嬉しそうにはしゃぐ。

 無理もない、大好きな人と一緒にドライブをしている。

 「ところで、この辺りは海の水がきれいですね! 早く泳ぎたい!!」

 「わかったから、近くのドライブインでお昼にしよう」

 健太郎は、カーナビのマイクボタンをタップする。

 『ご用件は?』

 「ここから近くのドライブイン」

 『現在地より約三分直進した先に《ドライブイン・和田浦岬の家》があります。 そこに設定しますか?』

 「そこにしてくれ」

 『設定しました。 案内を開始します』

 カーナビの人工知能がドライブインにつくまでの距離と時間を計算した結果をモニターに映す。

 「よし、ターボモード・法定速度内で行きますか!」

 「はい!!」

 健太郎が巧みなシフトレバーさばきで直噴ターボに切り替え、法定速度を超えないスピードで愛車を走らせる。

 海からの潮風を切って駆け抜ける赤いスーパーカーとそれに乗る健太郎とみなこ。

 お気に入りのアニメアイドルソングがカーステレオから流れる。

 「ん? あそこの海水浴場で何かやってる?」

 健太郎はすぐ近くの海水浴場に出来た人だかりを目にする。

 その近くには、『飛び入り参加OK! 渚のマーメイドコンテスト』と書かれた看板が立っていた。

 「何々、優勝賞金五〇〇〇〇〇円で、しかも、世界共通旅行カタログギフト二名様分を進呈!? 健太郎さん、参加しましょう! こんな時のために、新作水着を用意しましたから!!」

 車を降りたみなこは、興奮気味に健太郎に近寄った。

 「わ、わかった……」

 車の生体認証システムで鍵を閉め、健太郎たちは会場へ向かった。


 「さぁ、皆さん! お待たせしました!! これより、《第九回・渚のマーメイドコンテスト》を開催します!!」

 ステージ上のMCが元気よく叫ぶと、会場は大いに盛り上がった。

 「このコンテストは、和田浦海に相応しい美女、即ちマーメイドに相応しいかを決めるコンテストで、その栄冠に輝いた姫には和田浦の公式イメージガールの称号が与えられるのです!!」

 会場の男連中が大興奮し、女性陣は黄色い声が上がる。

 「それでは、飛び入り参加も含めたマーメイド候補たちをご紹介します!!」

 MCがそう言うと、二〇代から四〇代までの選りすぐりの美女や美魔女がずらりとそろった。

 その数は一〇人といったところだ。

 「さて、このコンテストは見た目の美しさだけではなく、体力・知力・そして判断力も必要とされます! そこで、彼女たちにはこの競技に挑戦してもらいます!」

 マーメイド候補たちの後ろの垂れ幕が突然落ちる。

 そこには、ビーチフラッグを思わせるようなコースと、クイズの回答ボタンが一つ設置されたステージが異様な存在感を醸し出していた。

 「マーメイドコンテスト名物、《早押しビーチダッシュクイズ》!!」

 会場が割れんばかりの大歓声が青空にこだまする。

 「このクイズは、四〇M走った先にある回答ボタンを目指して一〇人全員で走りあってもらいます!! 問題は全部で二〇問! 多くの正解数を獲得したお姫様が、真のマーメイドの称号を得るのです!!」

 MCが高らかに叫ぶと、マーメイド候補たちが一段と気合を入れた。

 「ただし! 審査制ポイントとして、走る時の美しさで採点させ、正解数との合計点で競わせてもらいます!」

 そこは、美人コンテストの鉄板ネタといっても過言ではない。

 走る時の美しさにまで気を使わないといけないというのが、中々にハードルが高い。

 「それでは、第一問!!」

 今、真夏のビーチで煌めく乙女たちの熱き戦いの火ぶたが切って落とされた!


 そして、

 「さぁ、全二〇問にも及ぶビーチダッシュクイズも全問終了! 美しく走れた乙女たちがいくつかいてくれたかと思うが、泣いても笑っても真のマーメイドになれるのはただ一人!! 運命の、結果発表だ!!!」

 結果発表が始まった。

 「まず、第三位! 正解数4+79・09、神奈川県・舛田早苗、三七歳!!」

 表彰台の三位の位置に美魔女ともいえる若々しい女性が立つと、会場に拍手があふれかえった。

 「続いて第二位! 正解数6+80・09、秋田県・南はるか、二一歳!!」

 二位の台に立ったのは、いかにも秋田美人といっても過言ではないほど美しい女性だった。

 「そして、栄えある第一位は!?」

 いよいよ、第一位の発表だ。

 健太郎の顔にも緊張が走る。

 「正解数何と、怒涛の10! さらに美しさの面でも、驚愕の100・00! そんな知性と美しさを兼ね備えた平成最後のマーメイドは……!!」

 緊張が最高に高まる。

 健太郎は心臓を高鳴らせた。

 「千葉県・新崎みなこ、二八歳!!」

 「へ!? 嘘ですよね!!??」

 突然の発表に戸惑うみなこは、恥ずかしそうにステージの上に立つ。

 「みなこさんはみんなが知っている通り、サイバージェネシスホールディングスの公式モデルとして活動しながら、自身が代表を務めるアパレルブランドでデザイナーを務めるほどの才女です! みなこさん、今のお気持ちは?」

 「わ、私は、こんな栄えあるコンテストに突然参加していきなり一位を獲得するなんて夢にも思っていませんでした。 しかし、それはみんなが私を知っているからではなくて、自分のたゆまない努力と、愛する人への思いを持ち続けたことで、このような結果に繋がったのだと思います!」

 みなこは、堂々と自分の気持ちをうち明かす。

 「そうですか! では、みなこさんには賞金五〇〇〇〇〇円と《旅する感動をあなたに》でおなじみのROCKWTB様より、海外でも国内でも無料で行ける旅行カタログギフトを贈呈します!!」

 優勝賞品が手渡され、無邪気な笑顔を見せるみなこ。

 健太郎は、どこか嬉しそうな安堵の表情を浮かべていた。


 そして夕方になり、日が傾いた房総の道を健太郎たちを乗せた愛車がひた走る。

 「今日は何て素晴らしい日でしょうね? 健太郎さんは、何処へ行きたいですか?」

 「そうだな、台湾へ行ってみたいな! あと、秋の長野県へ行って秋の味覚を満喫したいし!」

 「長野県と台湾ですか……。 まぁ、最大三回まで申し込めますし、私からは三重県の伊勢市でいいですね? 伊勢志摩グランドホテルのディナー、食べたかったんです!!」

会話を繰り返しながら、目的の「南房総グランドオーシャンホテル」にたどり着いた。

 このホテルは、南房総最南端で最高の贅沢を過ごすをコンセプトにした高級ホテルである。

 地元の海で撮れた海産物から地産地消を取り入れたメニューが楽しめるお得なランチバイキングコースもあって、千葉県内外を問わず多くの観光客が訪れる人気ホテルだ。

 「ようこそ、ご予約の方ですか?」

 フロントの受付嬢が笑顔で健太郎たちを出迎えた。

 「はい。 津荷と申します」

 「津荷様以下一名ですね? お部屋はセミスウィート・ダブルでよろしいですね?」

 「はい」

 鍵を受け取り、健太郎たちは目的の部屋へと向かう。

 上層階にあるセミスウィートは、ジャグジーバスが完備された上質な部屋である。

 「ふぅ、疲れたから一緒にお風呂に入りませんか?」

 みなこは荷解きを済ませると、早速ジャグジーバスへ向かう。

 「待ってくれよ!!」

 健太郎も慌ててその後を追う。

 そのジャグジーバスは、一面ガラス張りのオーシャンビューという、絶景が楽しめる空間だった。

 「ふぁぁぁ…… 気持ちいいです!」

 湯船に浸かり、ご機嫌なみなこ。

 「本当にここに来てよかった。 みなこさん、夕食の時間を一九時に予約しておいたよ」

 「そうなのですか!? ここの海鮮フレンチビュッフェは、すごくおいしいってグルメ雑誌でも取り上げられているんです!!」

 みなこは健太郎の話にすぐさま飛びついた。

 そんなこんなで二人は沈む夕日をバックにささやかな時間を過ごした。


 ホテル最上階・ビュッフェレストラン「サンシャイニング」。

 ここの海鮮フレンチは世界のセレブも絶賛するほど美味しいと言う事で足蹴なく通うセレブも多い。

 また、和食や中華も絶品で、キッズメニューもあることから、家族連れで訪れることも多い。

 「はわわ、どれにしようか迷ってしまいます!」

 「何から食べようか迷っちゃうね」

 そんな会話をしていた時だった。

 「あら? ごきげんよう、健太郎さま」

 不意に背後から聞こえる妖艶な声。

 「ん?」

 振り返ると、そこには高級ドレスを纏ったエリカがそこにいた。

 「「エリカちゃん(さん)!?」」

 健太郎たちは異口同音で驚く。

 「あら、誰かと思えばみなこさんではありませんこと」

 「エリカさん、どうしてあなたが……?」

 エリカとみなこは親友らしく、いがみ合いそうな雰囲気だった。

 「二人とも、親友だったの?」

 健太郎は、恐る恐る質問した。

 「えぇ。 エリカさんが私の美術大学から就労・起業までをサポートしてくれたんです!」

 少し不機嫌そうに健太郎に答えるみなこ。

 「みなこさん、貴女に健太郎さまは相応しくありませんわ。 このわたくしこそ、健太郎さまの妻に相応しいと思いますわ!」

 エリカが高らかに交際を宣言すると、

 「そうはいきません!! 健太郎さんは、私の大切なパートナーですから!!」

 負けじとみなこが言い返す。

 「あはは……、二人とも、喧嘩はそれくらいにした方が……」

 健太郎が止めに入るが、

 「「貴方は、黙ってて!!」」

 みなこたちに押し負けてしまった。

 (これは、ラブコメ漫画でよくある三角関係って奴か?)

 健太郎はいがみ合うみなことエリカを見て、率直な思いを小声でつぶやいた。

 (いやいや、このまま愛憎劇に発展したらシャレにならない!!)

 健太郎は、今後の関係を考えると胃腸炎を起こしそうになるので、ひとまず食事に専念した。

 エリカの本当の思惑に気づかずに……。

こちらでは、お久しぶりの投稿です。

長らく止まってしまい、すみません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ