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併せDEパーティー

 太陽が元気に照り付ける夏の昼前、健太郎たちは、みなこのコスプレサークルと合同併せをしていた。

 撮影場所は千葉市美浜区にある稲毛ビーチパークだ。

 「みんな行くよ!」

 健太郎が話題の小説の主人公の衣装をまとって、セルフタイマーを起動する。

 「せーのっ!」

 『『転スキ、サイコー!』』

 全員でコールし、カメラは写真を収めた。

 「なぁ、ジンジャー」

 健太郎の男性コスプレ仲間が声をかけた。

 「何だい?」

 「今月のゴシップアンチ、読んだか?」

 不意の質問に、

 「そうか! キューンちゃんが言ってた、コスカツプロジェクトの特集か!」

 「私、一応持ってきたの!!」

 健太郎が驚く中、みなこのコスプレ仲間の女性レイヤーがゴシップアンチ9月号を持ってきた。

 表紙には、『キモい変人カップルを生み出す害悪イベント・コスカツに行ってみた』と書かれていた。

 「これ、ひどすぎませんか!?」

 女性レイヤーが憤慨した。

 「とにかく、内容を見てみよう!」

 ここからは、ゴシップアンチの特集記事の内容を包み隠さず記載しておく。


 『キモい変人カップルを生み出す害悪イベント・コスカツに行ってみた』


 今現在、キモオタのカップル成立数が異様な速度で上昇を続けている。

 その原因とも言えるのがキモオタの聖地秋葉原に拠点を置く極悪企業サイバージェネシスホールディングスが打ち立てた『コスカツプロジェクト』である。


 『コスプレして婚活、意味不明なのに何故かコスプレイヤーが大集結』

 

 コスプレイヤーがなぜ結婚を求めているのは、古今結婚したレイヤーやカメコの数が圧倒的に少なかった。

 それに付け込んだサイバージェネシスが、コスプレイヤーの成婚率を上げるために、始めた事業である。

 共産党は、害悪アプリコスマッチを排除させたが、サイバージェネシスがコスマッチの運用データを手に入れたがために、コスプレイヤーの交尾を促す巨大プロジェクトを立ち上げた、それがコスカツプロジェクトである。


 『あまりの気持ち悪さに市民からは苦情の嵐、しかしながらも大ブーム』


 市民から大反発を招く事態が起きているにも関わらず、多くの企業がプロジェクトに賛同し、様々な事業を展開しているのが気に食わないのはご存知だろうか?

 あるアパレルブランドでは、日常生活にコスプレ感を謳い文句に、キモい要素を盛り込んだダサい服を売り出し、バカな人間から金をむしり取っているから始末が悪い。

 大手を気取る飲食フランチャイズである「豚カツの元気くん」は、コスプレイヤーがコスプレをすると割引サービスをするなど、普通の人間よりも優待させる醜悪な展開を見せている。

 他にも、撮影スタジオの利用割引や、宿泊代金団体割引などの性悪サービスを展開しているのがコスカツプロジェクトの恐ろしいところだ。

 悪いことは言わない、今すぐこのプロジェクトを止めさせてくれ!!


 『醜悪な公認カップル登場で、プロジェクトがさらに過熱! 醜悪極まりない!!』


 先日、横須賀市にあるしおかぜ公園にて行われたコスカツBBQイベントに我が編集部員が潜入取材を敢行した。

 キモい衣装に身を包んだ男や女が、楽しくワイワイ愛の語り合いをしている様に吐きそうになったが、サイバージェネシスが選出したという公認気取りのキモいカップルが存在したという意外な事実が発覚した。

 そもそもコスプレイヤーとは、自分が好きなキモい萌えアニメの人物だという妄想に囚われた変態・痴女のなれの果てである。

 公認気取りの男の本職を聞いたところ、本職はエリートを気取るキモオタである。

 一方で、女の方は自分が代表するブランドを持つデザイナー気取りの気持ち悪い服を生み出すサブカル女。

 こんな二人が、コスカツプロジェクトを盛り上げるというのであれば、市民の力を併せて追放しなければならないだろう。


 『強姦もお構いなし! 性欲が半端ない変質者の交尾イベント、それがコスカツ』


 コスカツプロジェクトは、気持ち悪い変質者が交尾をするためのイベントであるのがこれまでの記事でお判りいただけたと思うが、イベントで終わりではなかった。

 その後を追跡調査すると、強姦や、ところかまわず痴態をさらしながらいちゃついたりと、醜悪極まりない。

 そう言った面から結論付けると、コスプレイヤーを交尾・繁殖させるコスカツプロジェクトは、醜悪かつ下品極まりないイベントである。

 こうしたイベントが未来永劫開催させないためにも、我々市民の力を合わせて、政府野党に開催禁止を訴えるしかない。

 それが最良の手段だ。


 以上が、ゴシップアンチに記載された記事の全容である。


 「なんか、凄く言いたい放題に書かれてるね」

 健太郎はあまりの凄惨さに絶句してしまう。

 「強姦って、やり過ぎじゃないのかな?」

 健太郎の仲間の女性レイヤーが愚痴気味にぼやく。

 「でも、実際に女性レイヤーに強姦を強要されるケースもあるらしいんです」

 みなこは、実際に女性レイヤーが強姦された事件のニュースを思い出す。

 実際に強姦を強要されたケースは、コスカツプロジェクトが始まって以来、増加の傾向になっている。

 女性レイヤーに対しての例だけではなく、その逆もまたしかりだ。

 コスカツプロジェクトが眩い光を放てば、その分闇となる影の色が濃くなる。

 世の中は光と闇、全と悪、相反しながらも表裏一体の要素で出来ている。

 「まぁ、ともかく撮影を続けよう!」

 健太郎は取り敢えずみんなをまとめ上げて、撮影に臨むよう説得した。


 太陽がさんさんと照り付ける中、ビーチパークは最高の撮影スポットになっていた。

 というのも、ここ稲毛ビーチパークはとある有名コスプレイヤーの撮影地になったことで全国に知れ渡り、現在に至る。

 海や森、はたまた花畑など様々な撮影スポットが存在する。

 また、少し歩けばBBQ場もあるため、冬になるとそこが牡蠣小屋となって楽しめるのも、この施設の楽しみだ。

 そんな撮影スポットで食事ができるのはコスプレイヤーにとってもありがたいことだ。

 「ところで、ジンジャー殿。 BBQの食材を持ってきてはいないのか?」

 みなこのサークル所属の男性レイヤーが健太郎に尋ねる。

 「あぁ。 その件だが……」

 「どうも、ソリッドケータリングサービスです!」

 健太郎がジークバルトに依頼した格安高級ケータリングサービス業者がやって来た。

 「ソリッドケータリング!? 高級食材を格安で手軽に食べられると話題の? 今は試験的サービス開始したばかりで、モニター調査をやっているというけど……」

 別のレイヤーからも驚きの声を出す。

 「ああ、僕の大学時代の親友に頼んだのさ!」

 健太郎は自信満々にサムズアップした。

 「ご注文の商品は、神戸牛シャトーブリアン1kg、特上カルビ2kg、サーロイン1kg、カナダ産ロブスター5kg、国産野菜3kgの詰め合わせと、最高級備長炭10kgに、佐々川アウトドア・アーセナリー特製着火剤『炎よ燃えろくん』2箱と専用炭火コンロ一〇台のセットですね? お会計は占めて、二五四二〇〇円です。 お支払いは?」

 ケータリングサービスの従業員が尋ねる。

 「コスカツカード、一括で」

 「ありがとうございます。 終わりましたら、またお申し付けください」

 カード払いを済ませると、すぐさまお楽しみのBBQ大会が始まった。

 「神戸牛キター!」

 「人の金で肉、サイコー!」

 レイヤーたちは大はしゃぎで最高級の神戸牛に舌鼓を打つ。

 「ロブスターも美味しい!」

 「ジンジャーさんって、意外とお金持ちなんだね! キューンちゃん、羨ましいわ!!」

 女性レイヤーたちは、みなこを羨ましそうに見た。

 「あはは。 それはどうも……」

 みなこは、照れ笑いするしかなかった。

 「そう言えば、みんな今年の夏コミの衣装は決まった? 僕たちのサークルはまだ決まっていないんだ」

 健太郎は今年の夏季コミックフェスタに着る衣装についてレイヤーたちに質問した。

 「あ! 実は私たちは『天魔大戦・ラグナロク・サーガ』の併せでやっていく予定です!」

 みなこはスマホアプリゲームのコスプレ併せという形で準備していたようだ。

 「ラグサガか! 僕たちもそれに合わせるよ! メンバーにもユーザーの子が沢山いるからね!」

 健太郎はその案に参加する形で了承した。

 「じゃぁ、思い切って食べて騒ぐぞ!!」

 健太郎たちは、思い切ってこの一時を楽しむことにした。

 肉を焼き、共に語らう。

 そんな楽しいひと時はあっという間に過ぎていった。


 その日の夜、健太郎はみなこのマンションに泊まることにした。

 「ごめんなさい。 私のわがままを聞いてくれて」

 「いいんだよ。 こっちだって楽しめたし、何よりも君に料理をふるまうのが最高に嬉しいから」

 健太郎は、台所で料理を作りながら嬉しそうにみなこの質問に答えた。

 香ばしく漂う匂いがみなこの食欲を掻き立てる。

 「今夜は生姜焼きですか?」

 「あぁ! しかも、健太郎流だ!」

 みなこはフライパンを振る健太郎の姿に、

 (この人なら、一生側にいてくれていいかも……)

 いかがわしい妄想を浮かべてしまった。

 「どうしたの?」

 「あ、いや、これからの関係をどうやって築き上げて行こうかなって……!」

 健太郎からの質問に、みなこはあたふたした。

 やはり年頃の女性なのか、何処か可愛らしかった。

 「さてと、隠し味に八丁味噌を小さじ一杯を加えて……」

 健太郎は、調理を手早く仕上げて食卓に並べる。

 「すみません。 最近忙しくて冷凍やレトルトで済ませてしまうので、助かります!」

 みなこは、健太郎の手料理を目前にして子供みたいに興奮する。

 「それじゃ、食べますか!」

 「はい!」

 こうして、二人のささやかなディナーが始まった。


 日本共産党本部・代表議員松岡五郎のオフィス、松岡代表は一人残って離れた部下たちとオンラインでやり取りしていた。

 「どうかね? 『ひまわりの家』の建設状況は」

 『はい、おおむね順調です。 周辺住民の理解を得るに至っては若干苦しみましたが、国民健全生活向上機構が募金活動や周知活動を行ったおかげで、建設開始にこぎ着けました』

 会話の内容は、山梨県に建設中の若者福祉厚生施設についてだった。

 「あれが完成すれば、若者を性的表現という毒沼から救い出せるはずだ。 我々は若者が非行に走り、自己顕示欲や性的欲求に溺れ、罪に至らせないためにも、ジャパンカルチャーを根絶やしにしなければならない。 その為の、クリーンマインド計画だ」

 『心得ています! アニメや漫画は子供が見るものです! 大人に向けた作品を作るなんて馬鹿げていますから』

 共産党員がそう答えると、

 「そうだ、馬鹿げている! 青少年に深刻な悪影響を及ぼすアニメや漫画は、野党六党全勢力を持って排除する! ひまわりの家は、その砦として、機能する! 時間はかかるが、なるべく早く完成させてくれ!! 全ては、子供たちの心が健やかに育ち、若者が社会的貢献ができる世の中にする、それが盟友・榎園氏が立ち上げた、クリーンマインド計画である!!!」

 そう言って、松岡代表は通話を終えて帰宅の徒につく。

 「松岡先輩!」

 不意に聞こえる彼にとっての懐かしい声。

 「おお、誰かと思えば三沢君! 元気そうじゃないか!」

 松岡代表はかつての後輩との再会に、心をほころばせた。

 「聞きました! 共産党代表になられたと」

 「いやぁ、まだまだ学ぶべきことが多いよ。 人生はこれからだ」

 二人は、そろって日本橋にある行きつけの居酒屋に足を運んだ。

 「三沢君は、東京八菱ユニバース銀行に入ったのか?」

 「しかも、この年で横浜支店副支店長に抜擢されましたよ!」

 「ははは! 君も、随分出世したな!」

 三沢と松岡代表は仲良く飲み明かす。

 「なぁ、うちの娘も中学生になるけど、コスプレをやってみたいと言い出したんだ」

 「ほう?」

 「父親としてはやらせたくないんだ。 先輩は榎園先生と知り合いですよね? それを見込んで頼みがあるんだ」

 この日の夜は、何かが動き出しそうだ。

GWに入ると、ウキウキしませんか?

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