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義手

 ピアノが置いてある。グランドピアノだ。シンプルな、黒くて装飾品のついていない簡素なピアノ。私が目覚めたときからここに置いてある。存在は知っていたものの、弾いたことなどないから弾き方など分からない。

 真っ白な鍵盤の一つを叩くと、音がでた。それくらいは知っている。

 適当に鍵盤を叩く。弦の悲鳴ともとれる、重厚な音が閉じた蓋の内側から聞こえてくる。

 ……懐かしい。

 一度も触れたことも、ましてや見たこともなかった。ただ知っていただけの存在だった。だが、どこか懐かしい響きがする。

 本能に殉ずるままに、鍵盤に指を走らせると、全く知らない、本当に知らない曲を奏で始めた。曲名など分かるわけがないが、どこか懐かしい。知っているはずがないのに懐かしく感じる。

 何故この廃病院は、血清などはまだ分かるかもしれないものの、ピアノなどを個室に置いてあるのだろうか。

 その疑問をふと頭に思い浮かべたとき、とある鍵盤を叩いたら妙な音がでた。もう一度叩いてみると、また妙な音が出る。恐らく弦が切れているのだろう。

 私はため息をついて、その鍵盤を避けるようにして、もう一度指を躍らせてみた。

 どうしてこう、悲しいというか、切ない曲しか弾けないのだろうか。どうして私はそういった曲しか覚えていないのだろうか。

 だが、答えが出るはずもなく、それを知ってて私はただひたすら鍵盤に指を走らせていく。

 指が無意識のうちに止まった。

 後ろを振り向くと、カーテンの後ろに動いている気配を感じた。外からの明かりで、ぼうっと影が映し出されている。

 私はピアノの傍から離れて、ゆっくりとカーテンを開いた。

 神楽君が、びっくりという言葉を顔に浮かべていた。その顔にはあからさまに混乱の色を浮かべていて、その左腕を右手で抑えている。

 混乱できるのは、思考が安定している証拠。きちんと説明すれば恐らく分かってくれるはず。……。

「あ、起きた。良かった……。」

 そう言って近づくと、彼はぎょっとしたように身をすくめた。左腕がぽんとベッドの上に投げ出される。一応動いてはいるようだ。

 ソダロスティックは、自由がきくものの、クセがそれなりに強いので、拒絶反応を起こすときは徹底的に起こし、最悪死に至る。かといって、他の素材を選んだとしても、これに勝る適材はないので、一種の賭けとしてこれを選んだ。見事に賭けには勝てたようだ。

 私はベッドの左側にまわって、彼の左手を握ってみた。体温は完全に義手に染み込んだようで、金属の様な冷たさはなく、頼りになりそうな体温が感じられる。

「これ……使える?」

 金属質の色を(たた)える指を、確かめるように動かしながら、私は(たず)ねた。拒絶反応が出るか出ないかの問題とは更に別、きちんと動くかどうか。それは確かに、理想ではあったが、私は少しのリハビリの必要性を覚悟していた。

「あ、あぁ。一応。動くことは動く。」

 そういうと、彼は自らの意思で指を動かした。

「良かった……初めて作ってみたんだけど、きちんと動くかどうか心配で。」

 そう言って胸をなでおろす。

 ロボットの設計図などを基にして、先ず普通に形を作った。それから、モーターを作り、動力源の確保をする。エネルギーは、体から血液を媒体として送るのが普通だが、ここに特殊な液体を介させることによって、熱エネルギーを電気エネルギーに変換させる仕組みをつくり、それを電気コードでそのモーターへと繋げた。これで停止することもない。慣れるまで、モーターが誤作動することも度々あると思われるが、これは時間が解消してくれるはずだ。特殊な液体とは、チカラの情報によれば他の素材と違って限りのあるものらしい。私もそれを信じて極力使用を避けてきた。

「はぁ……それは……。ってぇぇ!?作った!?」

 その素っ頓狂な声を聞いて、思わず口を滑らせてしまったと悟ったが、もう後の祭り。彼は目を限界まで見開いて私を見ていた。その瞳には、尊敬といった私が負うには重すぎる言葉が浮かんでいる。

「て、ことは……これ義手?」

 改めて確認する彼に私は何とか嬉しそうな顔を装って、言う事ができた。

「うん。ホント動いて良かった。」

 どこか自分の惨めさに、哀れみを感じて涙が溢れてくる。バレてなければいいけど。

「ってことは……俺の左腕は?」

「あっ、えとっ」

 そう訊かれて、私は少し取り乱してしまった。

 見せてショックでも受けてしまったらどうなるだろうか。彼は虫に刺されたときに自分の腕が腐っていくところを見ただろうか。

 視線を泳がせて、黙り込んでしまった私をみて、不審に思ったのか、彼が言って来た。

「もしかして……融けた?」

 その通り。融けた。否定はできない。

「と、融けたわけじゃないけど……。」

 それでも語尾を濁しながら否定してしまう。申し訳ないという念に頭が支配される。

 彼の目を見たらもう戻れなくなってしまった。真実を知りたいとまっすぐに思う、真摯な眼差し。怖いくらいに私を見据えていた。

 仕方なく、おずおずとベッドの下に手を伸ばし、少し重い容器を持った。軽くまだ腐敗臭が残っているがいずれ消えてしまうだろう。

「融けてるじゃねえか……。」

 そこに入っていたのは緑色の液体。筋肉はおろか、骨まで緑にそまって融けてしまった。

「うん。まぁ、そう言ってしまえばそうだけど……。」

 彼の突っ込みをもろに受けて、私は立つ瀬が無くなってしまって視線を逸らす。

 彼は少し嗚咽を漏らして、視線を逸らしたので、私はその容器を給湯室だった場所に持っていった。完全に暗くなっているものの、私は夜でも目が利くほうなので困らなかった。

 流しにまとめてその中身を流す。このまま放置しておけば、空気に含まれている窒素(チッソ)となんらかの反応を起こして、ただの色水になるのではないかと思ったが、とくに残しておく理由もない。

 そうして腕だったものを片付けると、彼は訝しげに義手を覗き込んでいた。どうしたのかと思い、近づくと顔を私に向けていった。

「なぁ……これはおかしいだろう。」

「動作不良か何かある?」

 不安が光のごとく意識を横切る。

 しかし、彼は手刀を作って思いっきり左右にぶんぶんと振った。

「いや、そうじゃなくてだ。こんなのよく作れたなって。俺の左腕をそのまま金属のカタマリにしたような……そんな感じだ。全く違和感が無い。うん。」

 まだ不安は残るけど、なんとなくその言葉に含まれている私への心遣いが嬉しかった。

「それならいいんだけど……でも神楽君なら大丈夫かと思ったよ。普通の人なら拒絶反応とか起こしたりしたかもしれないけど。」

「ん、何で俺の名前知ってんだ?」

 どこか興味深げに訊いてきたので、私は言葉に詰まってしまった。

「名札……。」

 無礼を詫びるようにおずおずとそう言うと、彼は自分の胸を見下ろし、納得がいったように顔を綻ばせた。

「そうか……これは盲点だったな。」

 なんとなくおかしかったので笑いそうになり、それを抑えるようにしたら微笑したような表情になってしまった。それを隠すように私は立ち上がって、彼の寝ているベッドを取り巻いているカーテンを束ねた。外からの日の日差しがはいりこみ、彼は眩しそうに目を細めた。

「今日で三日目。もしかしたら毒が回っててもしやと思ったんだけど……。」

 彼の気を紛らわす意図をこめて、そう言った。そうすると、目が慣れたのか彼は手を下ろした。

「毒?」

「うん。毒。変な虫に刺されたんでしょ?」

「あぁ……」

 彼は納得したように声を漏らした。それまでは単なる推測でしかなかった要素がこれで確信へと変わった。

「そうだ。そう。変な虫に刺されたんだ。」

「……。」

 なんでもないように、自分の腕を奪った要素を軽々と言ってのける彼を見て、私は自分に恥じらいを感じた。チカラの存在を鬱陶しく思わなかったことなどない。私はこれに壊されたようなもの。

 彼は、常人の常識外の成り行きで義手になったというのに、全くその目に不安を佩びていない。私とはまるで正反対。

「ピアノ……弾けるのか?」

 私は窓の外に逸らしていた視線を彼に戻した。その目はそこに大きく置いてあるグランドピアノに向かれている。よく見ると、金属部分が錆びているのが目に入った。

「うん……少しなら。」

 あくまで、これはチカラの情報下におかれた腕前でしかない。これは私が弾いたわけではない。奏者の気持ちの篭っていない音楽に上手下手など存在しない。それでも聴かれてしまった以上否定するわけにはいかなかった。

 私がそう言うと、彼はため息をついた。脱力ではなく、感嘆のため息だった。私をそれを見て、自分の気持ちの溝が深まっていくのを感じる。

 すると彼の顔が、ミステリードラマの主人公が謎を解いた時の様な顔に輝きを増していった。私は、人間の直感というもので、厄介なことに巻き込まれるんじゃないかと思ったが……

「……どうしたの?」

 彼の視線は私の服に向けられているようだ。見ているというよりは、凝視に近い。そして必死に何かの思考をめぐらせているようだった。

 突然舌を噛んだように顔をしかめてから、私を正面から見据えた。

「俺と同じ学校だよな?」

 それから私は、自分の着ている服が制服だったことに気がついた。初期状態で着ていた服があったが、朝ゴミ収集者に持ってかれてしまった。

 だが、私はそんなことお構いなしに、彼の真摯な眼差しに圧倒されていた。そんな風に圧されて私はゆっくりと頷く。

「部活入ってる!?」

 首を横の振る。

「それなら!」

 その答えを聞いて勢いに乗ったのか彼は、一気に畳み掛けた。

「一緒にバンド部を作らない!?」

 どうしようもなく突飛なその質問というか誘いに、私は目を点にして彼を見ることしかできなかった。バンド部というのは、軽音楽部のことだろう。うちの学校にはなかったはずだ。だから作らないか、という発言。

 私に趣味なんか存在しないから、部活のことに関しては無頓着だった。何か問題が発生したときにその問題をこの土地から駆逐する。それが私の役目だったはず。だから、そんなものに入る必要はないと考え、部活に入るつもりはなかった。

 でも、その理由がここに発生したような気がする。

 神楽 仁  隻腕の高校生。私の運命を大きく傾かせる存在。

 運命?そんなものは存在しない。あるのは宿命のみ。呪いと同義の、縛られたら最後成し遂げなければその呪縛から逃れられない、天命。だとしたら。

 私が彼を巻き込んだことになる。直接でないにしても。間接的に。

 彼の持っている義手は特殊だ。人類の技術では作り出せない物質で作られている。所以、見つかるとそれなりに厄介なことになるだろう。

 彼とクラスは違う。それはチカラを()ってしても動かせない。それでも、最大限彼の傍に付いている必要がある。あの液体を注いでしまった以上は。

「つ、作る?」

 無意識にそんな言葉が飛び出していた。私自身も驚いたが、彼もそれ以上に驚いていた。

「そ、そうだ。作るんだ。俺がベースできるんだ!なぁ一緒にやろう!」

 ベース。バンドの中でも下の方を支える大切な役割だ。

「……う、うん……。私もやってみたかったから……やろっか。」

 そんな風に言ってしまったが、私にそんな意欲はない。それは申し訳ない念で一杯だ。私の本心を知ったら彼はどんな顔をするだろうか。

 でも……彼が私を必要としているなら……。

 彼を見ると、心の底から雄叫びを上げたいが、我慢したような面持で喜んでいる。

「でも……あと一人は?」

 私は生徒手帳に書かれた部活発足のための要項を思い出していた。

 三人以上の部員。一人以上の顧問の先生。文化の向上のための目的。

 これなら少なくとももう一人必要になる筈だ。

 そうすると、彼は左手の親指を私に向けて立てて、さっきよりも張りのある声で言った。

「安心しろ。このテンションになってしまった俺を止められる奴はいない。」

「は、はぁ……。」

 そんな彼をみて、私はただ見ることしかできなかった。

「心あたりがあるんだ。自己紹介んときに言ってた。ギターが趣味だってな。」

 なるほど。そういうテンションのことかと私は納得した。

「何でそれからすぐ誘わなかったの?」

「ん。そいつと二人組んだとこでなんも変わらないだろう。ましてや、ほとんど会話もしたことないし……。でも、そいつがバンド好きだったら、いけるかもしれんな……。」

 そんな彼を見て、思わず吹き出してしまった。まるで何かに夢中になっている子供の様に見えてしまったからだ。

「あ、ごめんなさい。別に、馬鹿にしたわけじゃ……。」

 驚いたように目を見開いて私を見てきた彼に、私は慌ててそう言い繕った。

「なんていうか。こんな熱血な人初めて見たから。」

「……俺、熱血か?」

 熱血というよりも、もっと適切な単語があるような気がするけど、私はそこまで思考がまわらなかった。

 彼は今までの会話を反芻するように考え込んでいる。

「どうしてバンド好きなの?」

 そう訊くと、彼はふいと顔を上げた。

「憧れてたんだ。子供のころ、ベース教わってからかな……。よくここまでやれたと思ってる。」

 子供の頃、か。羨ましい。私は一体どんな子供時代を持つはずだったんだろうか。それは疑問というより、理不尽な宿命に対する憎しみでもあった。

「……えと。なんていうんだっけ。」

「星山新。」

「……あぁ……転校生の……。」

「うん。」

 そういえばそういうことになってたっけ。

「他のとこ行ってたんだけど、入学した直後にお父さんの転勤が決まって。」

「へぇ……。」

 私は咄嗟に思いついた言い訳を言ってみたものの、「お父さん」らしき人物はおろか、私が住んでいるとも思えないこの部屋がその矛盾点を誇張させていた。

 彼も気づいているんだろうけど、気づいていない振りをしてくれていた。

「んで、なんで星山はバンドやりたいんだよ。」

「何でって……困ってるんでしょ?」

 思わずいってしまっていた。

 彼は入りたい部活があるのに、学校にはなく、作るための部員も伝もない。困っていた。私が彼の要求を受諾したのは、互いの利害が一致するから。

「困ってる?俺が?」 

「うん……。いや、なんでもない。忘れて。うん。私も憧れてたから。」

 首を大袈裟に振って、否定する。そんなこと言える筈がない。こんな純粋な人に……。

「……でもさ、最初から全員できる人入れなくてもいいんじゃないの?」

 そこでふと思い当たった疑問を出してみた。普通こういうのは、希望者を募って、皆で一もとい零から作り上げていくものでは。上手い下手関わらずに。

「いや、ここは全員できるのをいれて、実力を見せ付けて、希望者を募るのがいいんだ。どうせ音楽経験のある顧問は吹部に持ってかれてるだろうし、それぞれの楽器の専属が居た方がいいんだ。」

「へぇ……。」

 どこらへんがいいのか分からなかったが、彼はどうせ今募らせたところで、入ってこないことを分かっているような言い方だった。そんなはずはないと私は思う。

 それでも、楽器の専属が必要という部分は頷ける。

「さて。俺は今どこにいるんだ?」

 話が一段落ついたところで、最初に訊くべきことを彼は訊ねてきた。それだけ、バンドをしたいという気持ちがまっすぐなのだろう。

「私の家。」

「……お前の家広いな……。」

「ううん。私の家はこの部屋。」

 きっとこの廃病院全体を見てから、この部屋の規模で捉えた見解であるとともに、冗談を少しばかり混じらせた意味でいったのだろう。

「んで、何で俺はお前の家に居るんだ。」

「だって腕が融けてたから、ほっとけないでしょ?あ、いいそびれるとこだった。」

 そう言ってから、私はようやく義手のことを思い出した。

 ソダロスティックの存在が人類に知れたら、恐らく国と国との格差が更に大きくなってしまうだろう。形重量を自由に変えられて、鋼よりも丈夫ときたならば、これに飛びつかないものはいない。そういう大きな噂は、小さな穴から漏れていきいつかは海を構成してしまうのだ。

「なんだ。」

「あの、その義手は絶対に人に見せないで。」

「……無理だろ。」

 彼は左手をがしゃがしゃ動かしながらうめいた。

「ううん。無理じゃなくてやらなくちゃいけないの。貴方だって、左腕なくなるのは嫌でしょう?」

 そういうと、彼の顔つきが変わった。きっとそれもバンドの影響力が大きいのだろう。

「……でもどうすんだよ。」

「これをはめて、長袖を着れば、よっぽどのことが無い限り大丈夫だと思う。」

 私は予め用意しておいた、黒い手袋を差し出した。

 これはソダロスティックにゴムを化合させた物質で作った手袋で、伸び縮みが自由に利いて、なおかつ丈夫に作られている。黒くなるのは仕様で、これ以外の色に染める方法はまだ見つけていない。この黒さは、透明度零%で透ける心配がないため、義手を隠すにはもってこいだろう。

「長袖?これから夏だぞ。暑いし……。」

「感覚神経は繋がってないから、暑さは感じないと思う。もし感じたとしても、我慢して。」

 彼が訝しげにその黒い手袋を義手にはめると、予想通り綺麗にその黒い生地の下に義手は隠れてしまった。

「あんまり薄い長袖はやめて。透けるから。」

「あぁ……もちろんだ。」

「あともう一つ。」

「何だ?」

「家族にも見られちゃまずいの。どこに居るか分からないから。」

「何が?」

 また口を滑らせてしまった。無論、噂の漏洩(ろうえい)口である。

 私は首を振って誤魔化すと、二の句を継いだ。

「とにかく、誰にも見られちゃまずいの。それから私も監視しなくちゃいけないの。」

 私がそういうと、彼は気圧されたように、首を縦に振った。

「だから、私の部屋に引っ越してきて。」

彼の顔が硬直した。遠慮と戸惑いが交錯して、新たな分野に踏み出そうとしているよう。

 私だって羞恥心くらい弁えている。所以、年頃の男女が一つの部屋で暮らすなんて、とんでもない。それでも事情という壁は常識を大きく越脱し、重厚長大に立ちはだかる。

「……分かったから、その目はやめてくれ。」

 私は気がつくと、彼のことを凝視していたらしく、私は慌てて視線を逸らした。

「で、でもすぐには無理だ。家族に説明しなくちゃいけないし、賛成ももらえるか分からない……。」

 当然だ。

「私も説得しにいくから。」

「や、や!一人暮らしって設定にすんだよ。どう考えても駄目だろうが!年頃の男女が同棲だなんて!」

 確かにそうか。

「私は構わないけど。」

「お前は良くても世間が構わなくないんだよ。」

 ……冗談だとは気づいてくれなかったみたいだ。

 ふと、彼の顔に(かげ)が落ちた。

「三日って言ったっけ。」

「うん。」

 そうか。私は自分の迂闊さを悔やんだ。

 彼は私と違って、家族がいる。三日間家を空けておいて、心配しない家族などいないだろう。さらに、三日後に帰ってきておいて、一人暮らしを始めると言い出して、賛成を示す親などいるはずがない。

「……。」

 彼は困ったように考え込んでいる。どこか思考をめぐらせている、その中央にあるものが私の考えているものとは違うような気がするけど、私は掛ける言葉が見当たらなかった。

「あの……もう帰っても大丈夫だから……。」

「あぁ悪い。」

 結局、困らせておいて、帰らせるような発言をしてしまう。彼は、とりあえずといった感じで納得してから。

「俺帰っていいのか?」

「え?うん。だって義手が動けばなんとかなるから。」

 彼は混乱したように、そういえばあのとき木から落ちてたよな?と言って来た。

「そのあたりは、ちょっと……。」

 本来なら大怪我でこうしてぴんぴんとしているなんて、絶対的にありえないんだけど、私が下にいたことが幸いした。私があの場にいたことはある種の幸運だったわけか……。

「ならいい。んじゃ。」

 彼はそう言って、扉から出て行った。

「あ!ちょっと待って!道分かるの!」

 私は慌てて叫んでみたものの、彼は階段に吸い込まれるようにして消えていた。


ん、無理に沿わせたものだから、結構酷くなりました。とりあえず、長続きするか様子を見てみます;;


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