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村娘の戦い

[※村娘の戦い※]


 そんなわけで毎朝消費する卵を家の籠に補充し終えると朝食の準備を始める。肉は明日には配られるらしいので今残っている分も少しずつ消費していこう。基本的に干物、燻製な肉は汁物の具として消費したり、穀物、芋類に和えて野菜で包んでゆでたりする。そのまま齧るのも有りといえば有りである。



 湯通しした野菜を器に乗せて置き、芋の皮を捨てて中身を潰して渋い木の実を軽くあぶって砕いてから油と一緒に芋にこねた後に、幾つかに分け薄く広げて焼く。この地域でよく見る主食に手を加えたものだ。

 熱した鉄板に荒めに切った肉をのせてから、卵をかけて混ぜて焼く。昨日のスープの残りは水でほんの気分だけかさ増してから茎菜類を切って加えて煮詰めなおせば十分である。

 時々、果実なんかもあったりするが今日はない。薄めた果実水も作ってみたがあまり飲まないから作る事はほとんどない。


 独身、独り身、結婚してない系女子の中でもまともな部類だと思うが実際はどうなのだろうか。なお狩り組を除く大体の男性は料理をしないのでりょうりのりの字を知っている人がいるかいないか程度である。

 高給な狩りの組の連中を食事で気を引くことは難しく、料理を努力しても報われなさそうな空気がこの村中で漂い、よどんでいるのはまったく良くない。未婚の女性が他の何で気を引けばいいのやら、柔らかな肢体から溢れ出る包容力か、手の艶やかな質感か、よしそれなら私も勝負ができる、乾燥や傷がない腕に家事もしっかりできる少し筋肉のついた肩と腕、胸は控えめだが、毎朝の体操で柔軟性に富み、程よい脂肪を残した胴回りで……。


 暇ができると強気な考えをしてしまうのは私の癖だ。それに私は立場上この村に長くいることができない可能性もあり、この村での結婚には踏み切れない。


 どうでもいいことは後で考えるとして、村の有望な次期組長、補佐候補達は熱心な未婚女性に日々狙われているのが何処の村でも見られる光景である。そんな中でも何故か結婚相手として狙われない男性がいる、鍛冶の組の組長候補とされているオズマさんである。

 確かにこの村で鍛冶といえば農具の修理や武具の調整といったあまり目立つ作業ではないが成長が安定しているこの村では組長というのは、はずれが無いはずだ。外での作業は少ないが肉体労働で鍛えられた、包み込むように守ってくれそうな芯のある体は、外組の人達に紛れていても目立つぐらいであり、顔も比率良く何処に出ても不快にはならないだろう、特殊な性癖もなく、行方不明になるといった外の危険がない分、生死もはっきりするので余計な心配もない。言ってしまえば当たりの中でも当たりに入るのだ。

 そんな優良物件のオズマさんだが現状だと本人では解決しようのない致命的な欠点がある。彼を生んだ今は亡き美人の母ダルシアさんもこればかりはどうしようもない。彼は料理がうまかったのだ。

 彼オズマはこの村でも目立つ美男子であり、この村でも料理上手に名前を挙げられるほどの料理美人だったのだ。ダルシアさんはオズマに二物を与えてしまった。


 そんなオズマさんの欠点も無視してしまえばいいのだ、だが本当に無視ができるのだろうか。

 料理のほかは衣食住で考えるならどうだろう。

 住居は難しい。村では決められた家にしか住むことしかできず家具や装飾があったところで男は持ち込みの作業道具を置く棚ぐらいしか利用しないし、余分な家具、装飾なんてのは村でも作られず、交易品に名前すら載らないだろう。他の男に特別に作ってもらうなんて論外であるし、自作したところで忙しい男が変化に気づくのは寝具ぐらいだろう。

 私が街の店にある寝具を見かけた時には柔らかさと値段に驚いたぐらいだ、厳選された羽毛の骨を削り編み込んだ寝具は伸縮性に富み管理の難しさも多少は抑えられており、多層構造で層ごとに素材を変え緩やかな寝返りを支援する、そのような技術は村人程度で扱えるものでなく、それを叶える素材すらない。

 この村でできることと言ったら長い間、羽毛を集めて枕を作る程度であるし、羽毛をそのまま入れてしまえば数日のうちに悪い色や臭いが枕の中から浮き出てくるし、羽毛の毛先が引っかかったり骨が突いたりする。お湯で洗えば汚れは落ちるが、羽毛を厳選すると何年もかかるし、羽毛をそれぞれ加工するなんて時間は働く女性には無い。

 嫁入り道具は手製の寝具だって、そんなの作っている暇があるなら、技能を増やせと村中から言われること間違いなしだ。いくら優れた技術でも周囲に貢献できないのは喜ばれない。

 なお私は枕を作った。一人前に家畜小屋を持つ私でもなかなかの時間がかかった。薬の試験で死んでしまった雛や成体を少しでも有効活用するために、あわよくば私の不安定な睡眠を快適にするために。多少の犠牲数は増えたが丁寧に余念が無いようしっかりと加工を行い、睡眠時間をすり減らして作業効率をあげ時間を作り出して、ようやく作り上げたその枕に感動したのだ。そして境地へと辿り着いた、誰が他人に貸すものか。

 清潔感も難しい。どうしたって作業の後は全身に汚れが目立つし、土ぼこりを含んだ風が掃除した先から汚れを運んでくる。拭き掃除につかう水も有限だ、多くの水を個人が使うのは水場を共有している場合は遠慮してしまうし、気にすらしない人間は他の場面でも粗が表れてくるだろう。

 ならば服装か、分不相応な装飾をせず夫を立たせる服飾意識をもった妻は確かに素晴らしい、井戸端会議でも自ら夫をけなす尻軽女も居なくはない、裁縫技能をもって長い間衣類を使う事で家計も助かり且つ、物資が限られた村の中では優良なはずだ、夜の性活でも夫を立たせるのは非常に重要だ。服を脱いで見せるのを楽しんだり、あるいは脱がそうとする夫ならなお効果的だ。さらにさらに脱ぐ前から睦まじく戯れを好むような夫ではそれはもうしっかりしっぽりいただいてくれるだろう。行為とはそれだけで評価されるものではなくそれに至るまでの経験や過程も見て欲しいところだ。例えば、集団からあぶれて雑にかき集められたものでなく、公に認められて信用と知略を備えたものならまだ抑えも効くのだ。


 だがしかし、そんな人間、人間の素を作り出すのも食事があってこそなのだ、不味い食事は会話の量を減らし食事の量も減らしてしまう。

 夫が食事を作るとする、同僚達と食事をする中で自分だけ愛妻弁当でないのはすこし寂しいし、会話の内容も料理をする妻の姿なんて話題になった時には料理の工夫なんて話すことはできない。妻の立場を守るために嘘で妻が作ったことにさせてしまえば良心を自ら蝕むあるいは冷酷な決断を迫らせるに違いない。

 嘘は雑草と似ている、普段は生えていることを誰も気にしないし自分も雑草を放置することがままある、だがその存在を村人皆に知られてしまえば総出で根こそぎ刈り取られることは必至であり、長く育てられ深く広がった根は無理に枯らしてしまうと住み着いた土地を朽ちさせ、周囲の土地とその上に立つ建物にも不具合を起こす。確かに根が深く広がることでよりよい植生環境をつくることができるが、特定の植物しか育たないことも含めて本来あった土地の性質から大きく異なったものになってしまっているのだ。


 かくして、己が存在理由を守る、優劣に敏感な者達は決して彼の高みを上り詰めることをあきらめるのだった。

 だが女は、これまでの悪路を己が御足で踏みしめてきた、村の勇敢な女は自らで目標を作り出し、しっかりとした足跡を残して登り最後には旗を立てるのだ。そして歩んだ経験を生かして別の高みを登り詰めることになる。その時まで各所に立つ旗はきっと彼女らを辱めず背中を押すものとなるだろう。



 私の語る小難しい妄想は一旦止めて関係図で例えてみる。

『この村の料理を重きとする関係図』作 タレア(現在)

 今回の場合に注目すべきは、基本的に外側にいるはずの独身男性陣から一人だけ取り残されてなお中心にいる異端児オズマである。その周囲をとり囲むのは村中でも勇ましい女どもであり、彼女らは隙間なく取り囲むことでオズマへと向かう矢印はあたかも太陽を思わせる。

 その外れでは外側に向かって矢印を伸ばす女が散らばって見えたり、特定の女性を中心に小太陽がみえるぐらいに群がっているところもある、あるいは太陽オズマに対して遠くから薄らとした矢印を向けているものもあるのかもしれない。すべての矢印に共通する要素は料理を除いて無駄だ、あるにはあるがそんなものを持ち出したところで村の問題が解決することはない。

 法則性のある矢印を一括りにしてそれ以外と比べることで、始めてこの関係図の有効活用が可能になる。

 おそらくだが1点を取り囲む矢印の集団は散らばる矢印とは色が異なり、それら集団とは類似した色をもっている。集団の持つ矢印の説明には次のように書かれているだろう、練習、情報提供あるいは光合成と。

 太陽オズマからあふれる光もとい料理知識が、照らされた者達が輝かしい未来を掴むための栄養となっているのだ。この関係図に更新されるまではいつも通りの結果しか現れないと考えていた者も多いはずだった。

 この関係図が次に更新される時には太陽オズマに照らされた者たちは散らばっていた女たちと同じ色の矢印を携え、これまで向かうことのなかった外側のさらに外側、高給取りの狩りの組のものたちへ障害物を押しのけながら突き進み、僅かにオズマに向かっていたものが最後まで残るといった形で収束していくことになるだろう。

 以前と現在の関係図の違いとしてオズマの料理技能の発覚があるが、この関係図が真に意味を持つのはきっと、以前から現在へと形が変わるその間を想像してこそである。恐らく太陽オズマは発生した瞬間から囲まれていたわけではないだろう、歪んでいたり、一部が欠けていた可能性もある。

 この関係図を未来そのまた未来と更新を続けることで、見えなかった、知ることのなかったその空白を証明することができると確信している。そしておそらく彼女らが強かで勇ましいことを伝える切っ掛けになるだろう。



 彼の高みは遥かに高いが難しいものではないということである。

 無数の旗が突き立てられたその大地は、それらを深く支えいつまでも彼女らの背中を見守ることだろう。あとは今まで登ることを控えていた未だ足元の覚束ない者たちの内の一人でもいい、大地の様子を見ながら少しずつ、長い時間を掛けて登るうちに足腰は鍛えられて、足場の癖や取っ掛かりを絶えず探し続ければ、恐らく頂上に着くのだ。それまで、いや何度挫けたとしてもこの高みは見守り続けてくれるのだ。



 村で起きていることを具体的に話してしまうと、これまで通りに次期優良男子たちを狙うはずだった村の女たちだが、オズマさんの料理うまいが発覚すると女主催のオズマ式料理教室が行われ、村の女達が集まりだして、今では定期的に料理教室の形をとって料理知識の情報交換を行っているのである。

 おそらく、これが終わりに向かうにつれて、以前では選択し難しかった若い優秀な狩りの組達が、オズマ式料理法という武器によって、少しずつ女達の餌食になっていくという予想が立てられる。彼らが食い尽くされた後には例年通りの獲物が比較的容易に狩れるようになるという、男女喜ばしい世界である。

 人類は火を与えられ火という道具を手に入れたのだった。


 結局、私が言いたいのは鍛冶の組の長候補であろうオズマさんは知る限りでは非常に好青年で、何度か参加した料理教室でも分かるが、料理が下手な人でも教えてほしいと言えば上手になるまで協力してくれるし、嫌だと言えば引いてしまうほど他人を大切に扱う人で、叶うことならお互いを確かめ合って長い間一緒に愛を育んでくれる人と出会って欲しいというだけの事である。



 何々、折角作成した相関関係図に私自身が書かれていないだって。

 ここだけの秘密なんだけど図には載せていない部分があって、そんな遠くから鮮やかに障害物を避けて狙い撃ちしている、既婚・未婚問わずに集まっている、かなり大きな太陽群があるみたい。ついでに私は自覚はないのだけどモニカ派に所属しているらしい。

 火矢を使用して狩りをする彼ら集団の他にも、火と鉄をもって狩りを行う集団がいたのだった。

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