第6話 『湖に眠る竜』
いい匂いがして目を覚ますと
サーニャがお皿にスープを取り分けていた
「おはよう」
目をこすりながらサーニャのスープを受け取る光
「昨日はありがとね光…!」
目の下が少し赤くなっているサーニャ
朝起きてからも少し泣いたんだろう。
「もう、大丈夫なのか?」
サーニャは下を向いたまま少し考え込むと
「いつまでも泣いてばかりじゃダメだと思ったから…!もう泣かないって決めたの!今できる事を精一杯やってみようってね!」
作り笑いをするサーニャ
まだ無理をしているのは見て分かった
「そうか…無理はしないでね。」
サーニャの頭を撫でながら言うと
「ありがとう光。…でも子供扱いはしないでよ」
少し恥ずかしかったのか顔を赤くするサーニャ
「なに照れてんだよサーニャ?」
ニヤニヤしながらこちらを見つめるラン
「照れてない!!そんな事よりこれからどうするの?」
強引に話を変えるサーニャ
「昨日ランと話して水神湖に行くことに決めたんだ」
スープを食べ終わった光が剣を持って立ち上がる
「2人とも、案内頼んだよ。」
真剣な顔で答えると2人は頷いた
東にしばらく進むと大きな湖が見えてきた
湖の周りには囲むように柱が何本も建っていた
その湖の中心に祠があるのが見える
「ここが水神湖…。祠までどうやって行くつもりだ?」
祠まではかなりの距離があった
「ああ、村に伝わる特別な方法があるんだよ。」
そう言うと柱に刻まれている竜の絵を触れながら
何か呪文を唱え始めるラン
次の瞬間、大きな音と共に湖の底から橋が現れた
「これで、祠まで行けるだろ?」
自慢気に言うと祠まで1人で歩いて行った
ランの後をついて行くと祠の最深部には
一面が水に囲まれた不思議な空間が広がっていた
そして、中央に水色の綺麗で大きな石が見えた
「水神様。お話があります」
石の前に膝をついて話し始めるラン
すると水色の石が光り輝くと
とても綺麗で大きな竜が現れた
--懐かしい匂いがします--
大きな竜は光達の周りをグルグルと回る
--特異者タチバナとエルフの子よ--
--よく来ましたね--
あまりの大きさに驚いていた
--タチバナ ヒカリ--
--貴方は何の為にこの世界に来たのですか?--
僕は水神様に試されているのか?
下手な事は言えない気がする…
「僕は何の為にこの世界に来たのか分かりません」
「気が付いたらこの世界にいて…
一緒にいた筈の弟が行方不明になっていて…
だから、最初は弟を探し出して元の世界に帰る事が目標でした。」
静かな祠の中に光の声が響く
「でも、今は違います。
ランやサーニャ…大切な友達を守りたい。
僕なんかに出来るか分からないけど…
エストを救って…この世界のことを知りたい。」
「何の為に僕がここにいるのか知りたいんです。」
水神様は光の事をジッと見つめた
--分かりました--
--貴方を見ていると昔を思い出します--
--貴方によく似た…--
そこまで言いかけると話をやめた水神様
--まずエスト大陸に何が起きているのか話しましょう--
「お願いします…。」
ランと光、サーニャの3人は水神様が水で作った
椅子の様な物に座った
--エスト皇国の王が変わったのは知っていますね?--
「はい。1ヶ月前くらいに前王のクライヴ様が急病で亡くなったと聞いております。現在は一人息子のレビィン様が王座についていると…」
ランが恐る恐る答える
--クライヴは生きていますよ--
--城の地下で監禁されている状態です--
「そんな…。その事はレビィン様も知っているのですか?」
驚きを隠せないランは椅子から立ち上がる
--落ち着きなさい--
「す、すいません…」
冷静を取り戻し椅子に座りなおすラン
--レビィンは何も知りません--
--今のレビィンは操られている状態です--
「メイビイという女に操られてるんですか?」
光が口を開く
--そうです。正確にはメイビイの仲間が操っています--
あの女が黒幕だったのか…
「メイビイは何者なんですか?何でこんな事を…」
--メイビイはガルダール大陸の特殊部隊から派遣された女です--
特殊部隊…?
「ガルダール大陸って…南にある鎖国していて一切、他の大陸と関わりを持たない大陸ですか?」
サーニャが初めて口を開く
--そうです--
--ガルダール大陸の女王は領地拡大のためエスト大陸に目をつけたのですよ--
「そんな事の為に…」
ランが拳をギュッと握るのが見えた
--ガルダールから派遣された者は3人--
--メイビイ・クロウとメイビイの部下2人--
--部下の1人が王を操っています。
もう1人の部下はタチバナの監視ですね--
「僕の監視…?」
--ガルダールの女王は特異者の研究に力を入れています--
--特異者の血を使って特異者を作り出す研究を…--
「そんな事をしていたなんて…」
サーニャが下を向いて答えた
--貴方の事は喉から手が出るほど欲している筈です--
--そしてメイビイが所属する特殊部隊は特異者の力を受け継いだ者で構成されています--
!?
--レイヴァン・クロウ--
--この世界に初めて現れた特異者達の1人である彼の子孫…それがメイビイです--
「…特異者の子孫がいたのか…。いや、いてもおかしくないよな…。」
ランは頭を抱えて答える
--しかし、メイビイ以外の部隊の者は直接血を受け継いでいる訳ではありません。研究によって作られた人造の特異者もどきです--
「だとしても脅威である事には変わりないですよ…」
小さな声で呟いたラン
--いまエスト大陸各地で発生してる魔物の問題はエスト皇国のレビィンを助け、メイビイを退ける事で解決するでしょう…--
--やってくれますか?--
簡単な事ではなかった
立ち向かう敵が強大過ぎること
「俺はやるぜ…。やるしかないんだ」
ランが立ち上がる
「僕もやります」
最初から答えは決まっていた
「わ、私もやります!」
サーニャも続いて立ち上がった
--ありがとう--
--西にある森を抜けた先に村があります--
--そこに行きなさい。きっと力になってくれるでしょう--
「ありがとうございます!」
その時意外な事にサーニャが
水神様の方へと駆け寄った
「私はお兄ちゃんや光の様に魔法も使えないし、武器も扱えないけど…私にも何かできる事はありませんか!?」
サーニャはずっと不安だったのかも知れない
家と両親を失い、何も力がないことに
--貴女に私の力の一部を授けましょう--
水神様はそう言うとサーニャの身体を勢いよく通り抜けた
その瞬間、一面の水がサーニャを取り囲んだ
--貴女は今日から私の眷属として水の魔法を使えるでしょう--
「あ、ありがとうございます…」
サーニャは水神様にお礼を言うと
取り囲んでいた水はサーニャの中へと消えていった
--この大陸の闇を振り払った時もう一度ここに来なさい--
--この世界のことを少しだけ教えてあげます--
そう言い残すと中央の石の中へと消えていった