第2話 『異界と繋がる世界』
「おーーーーい!!」
「サーニャが帰って来た!」
村の近くまで来ると村人と村長が出迎えてくれた。
「お父さん!!お兄ちゃん!!」
村に着くと家族の元へ泣きながら走って行った。
「森でオークに襲われた時に光が助けてくれたの…!」
サーニャが村の人達に事情を説明すると
「本当にありがとうございます…!何とお礼をしたら良いのか…!サーニャ!1人で森に行くなってあれ程言っただろ…!」兄の後ろに隠れるサーニャ。
「いえいえ、当然の事をしただけですよ。」
サーニャの父親が何度もお礼を言う横で1人熱い視線を向けてくる男がいた。
「よう!妹の恩人さん!」
いきなり肩を組んでくるサーニャによく似た男。
「えっと…君はサーニャのお兄さん?」
苦笑いで質問すると
「よく分かったな!俺はランだ!よろしくな光!!」
強い力で背中を叩かれ強引に力強い握手をされた。
背中と手が痛い…
「ところで…聞きたいことがあるんだけど…。この村で一番物知りな人って誰かな?」
ニコッと笑うランに連れられて村長を紹介して貰った。
「君が光君か…サーニャを救ってくれた事村を代表して感謝する。知りたい事があるんじゃろ?今日はわしの家に泊まっていきなさい…。」
村長に連れられ村で一番大きな家に案内して貰った…。
家の中には村長の妻と小さな子供が1人いた。
軽く挨拶を交わし席に着くと
「さて…。なにが知りたいのじゃ…?」
と言うとテーブルの上に置いてあった地図を広げ始めた。
「この世界のことです…。ここは日本じゃないんですよね?」
そう言うと村長の眉がピクッと動いた。
「レーヴについて詳しく教えて下さい。そして、森の獣…オークと魔法について教えて貰えますか?」
光が質問すると少し沈黙が続いた。
数分間の沈黙の後
「順を追って説明するかの…。ちと長くなるがよいか?」
光は深く頷くと村長の話が始まった。
「この世界の事じゃが…ここにニホンとやらは存在しない…。ニホンとは異界の事じゃろう。ここは様々な異界と繋がる世界『レーヴ』じゃ。」
「レーヴには4つの大陸があってな…北に位置するのは軍事帝国がある『ウォード大陸』。西には魔法師が集まる魔法都市がある『ケルクル大陸』。南には鎖国をしている為詳細が分からないが『ガルダール大陸』がある。そして東には4大陸の中で1番平和と言われている『エスト大陸』があるのじゃ。ちなみに、今わしらがいるのはエスト大陸じゃ。」地図を指差しながら説明を終えると難しい顔をして
「光君はいつからレーヴに…?」
とヒゲを撫でながら問いかけた。
「ついさっき気が付いたらこの世界にいたんです。今も夢を見ているのかと思うくらい信じられない事だらけで…。本当に…別の世界に来ちゃったんだな…って。」村長の話を冷静に整理をすると少し余裕ができた。
「僕みたいに異界から来た人って他にも大勢いるんですか?弟も一緒にこの世界に来た筈なんです。」少し声が大きかったのか村長は一瞬驚いた顔をした。
「驚いた…。1度に特異者が2人もな…。」
険しい顔をしながら答える村長に不安になる光。
「珍しいことなんですね…?それに特異者ってどういう意味ですか?」さらに険しくなる村長。
「数百年に1人。それぐらいの割合で異界からレーヴに来る者がおる。異界からレーヴに来た者は『特異者』と呼ばれておるんじゃ。異界から来た者はレーヴの歴史を変えてしまうような強大な力を持つと言われておる。」
「過去にいた特異者の中には生命を作り出す者や未来を予言できる者、大陸を破壊できる程の強大な力を持つ者がいたそうじゃ…。」
「それゆえ、特異者を支持する者もいれば恨んでる者もおるんじゃ。」
村長は動揺しつつも特異者について話すと
「光君はこの先、特異者という事を極力隠していた方がいいじゃろう…。強大な力を持つ特異者が1度に2人もレーヴに現れるなんて…混乱を招きかねない。」
「分かりました。僕も混乱を招くことはしたくありませんから…。」あの時の光は特異者の能力なのか…?
「それとな…弟君のことなんじゃが。わしの憶測なんじゃが異界からレーヴに来る者は大陸の何処かに転送されると仮定してじゃ。光君の様に何処かの大陸に転送されたんじゃないかと思うんじゃ。」残念そうな顔をしながら答える村長。
「それじゃあ、他の大陸に行けば見つかる可能性があるんですね!」やっと優の手掛かりが見つかったと思い笑顔になるが、村長の顔を見て何かを察した光。
「今は他の大陸には行くことが出来ないんじゃよ。」申し訳なさそうに答えると続けてこう答えた
「他の大陸に行く為には国の許可が必要でな、この大陸の北にあるエスト皇国に行かねばならないんじゃ…。しかし、エスト皇国は王が変わってから悪い噂が尽きない。魔物も増えたしのぉ…。宮廷内で何かあったのか…。この村もいつまでも平和とは言えないのじゃよ…。」村長の話を整理して現状を把握しつつある光。
「エスト大陸に何か悪い事が起きている影響で、サーニャを襲ったオークの様な魔物が増えているんですね…。」この先、優を探すにはエスト大陸の問題を片付けないと難しいな…。俺1人でどうにかできる問題じゃ無いぞ…。
「それと魔法についてじゃが…」
そう言い掛けた時、奥の部屋から村長の子供の泣き声が聞こえてきた。
「…悪いが魔法についてはまた後日でいいかの?今日はもう遅いし空き部屋があるからそこで休んでいきなさい。」
思った以上に時間が経っており、もう外は真っ暗だった。
「色々教えてくれてありがとうございます…!おやすみなさい。」不安もあったが笑顔でそう答えると、村長もニコッと笑って奥の部屋に姿を消した。
その日の夜は不安でよく眠れなかった。