第1話 『はじまりの日』
僕は今夢を見ている…。
何処か遠い世界の広い森に1人で迷い歩く僕…。
「本当に夢なら良かったのになぁ…」
僕の名前は橘 光。
少し前まで夏期休暇中の高校生だった。
遡る事、数時間前--
「兄ちゃん暑いからアイス買ってきて…」
弟の優が窓際で寝転びながら言う。
外では名門校の秀才として通っているが家ではただのワガママ野郎だ。
母親が幼い頃に他界してから父親と弟の3人で暮らしている。正直言うと母親ことはあまり覚えていない…。形見のネックレスと写真が有るだけで他には何も…。父親は仕事で滅多に家に帰ってこないため、僕にはワガママ言いたい放題だ。
「今日は図書館で勉強するから無理だ。自分で行けよ…」
勉強道具をカバンに入れながら言うと
「受験勉強?受験生は大変だねぇ〜僕が勉強見てやろうか?」
と笑いながら僕の教科書をめくっている。
「マジで?まだ高1なのに分かるのか?」
「教科書見れば誰でも分かるよ…?」
こいつが名門校の秀才だって事忘れてた…
「兄ちゃんがどうしてもって言うなら教えてあげてもいいけど?誠意は見せて貰わないと…」
悪そうな顔でニヤニヤと笑う優。
「アイス3つでいいか?」
はぁ、とため息をつきながら言う。
「交渉成立〜!準備してくるから待ってて!」
と勢い良く階段を駆け上り部屋へと戻っていった。
いつも通りのやり取り。
この当たり前の日々がずっと続くと思っていた…
この後、アイスを買いに優と2人でコンビニに向かう途中、交通事故に巻き込まれた。一瞬の出来事だった。
目を覚ますと広い森の中で1人。
優の姿は何処にも見当たらず、空には月に似た丸い何かが3つ程並んでいた。
--そして今に至る。
「ここは一体何処なんだ…」
さっきまでコンビニの近くを歩いていたし、僕の家の周りにこんな広い森は無かった筈だし…。
それに、優も交通事故に巻き込まれた筈なのに優は見当たらない。どうなってる?夢か…?
そんな事を考えながら歩いていると
「キャーーーー!!!」
すぐ近くから女の子の叫び声が聞こえてきた。
「な、なんだ!?人がいるのか…!」
声のする方へ走って行くと1人の少女が佇んでいた。
その奥には熊の様に大きくイノシシの様な顔をした獣が大きな斧を持って、少女に少しずつ近付いていた。
「どうなってるんだよ…?」
怖い。。逃げるか…?それに、あんな獣に勝てる訳がない…
「た、助けて!!」
少女が泣きながら助けを求めている。
じりじりと近付いていく獣が少女目掛けて斧を振りかぶる!
ここで見殺しにしたら絶対に後悔する!
そう思ったとたんに体が動いていた
「やめろ!!!!」
強く叫び少女に手を伸ばすと少女の体が白い光に包まれ斧を弾く。
!?
今のは僕がやったのか…?
獣が光に照らされ目を抑えている隙に少女の手を掴んだ。
「早く!!逃げるよ!!」
とにかく無我夢中で走ってその場を去った。
「あ、あの!」
少女の声で我に帰った。
「ご、ごめんいきなり!」
強く掴んでいた手を離すと少女は笑った。
「助けてくれてありがとう!!もうダメかと思った!それに、あんな魔法初めて見た!凄い!!」
キラキラした目で見てくる少女。
「僕は何も…ただ必死で助けようとして。でも無事で良かったよ…!」
…魔法??あの光のことか?
「うん!!あ、私サーニャっていうの!あなたは?」
「ああ、僕の名前は光。サーニャって日本の名前じゃないね?それに…ここ何処か分かるかな?」
よく見ると緑色の瞳をしていて金髪で耳が少しとんがっている。
「ニホン?ってなに?ここはレーヴだよ?」
不思議そうな顔で見つめるサーニャ。
「レーヴ!?やっぱりここは日本じゃないの!?」
サーニャの肩を掴んで問い詰める。
「ひ、光落ち着いて…」
「ごめん…」
サーニャの肩から手を離すと力が抜けた様にその場に座り込んだ。
やっぱりここは日本じゃない。さっきの獣といい…まだ完全に理解していないが僕がいた世界ではない…!
「光…大丈夫…?」
心配そうに顔を覗き込んでくるサーニャ。
さっきまで怖い思いしてたのに僕の心配を…。
さらに心配事増やす様な事しちゃダメだ…。
「ごめんごめん!もう大丈夫!そういえば何しに森へ?」
今はとにかく情報が必要だな…
「薬草を探してたの…!ほら見て!」
ポケットには見た事がない植物が数種類入っていた。
「1人でこんな危ない所に…帰り道覚えてる?」
「もうしばらく歩くと村があるよ!お礼もしたいし一緒に来て!」
手を掴まれると強引に連れてかれた。
村に着くまで考えた。
レーヴって何処だ…?優は無事なのか…。
あの獣やさっきの光は何だ?
分からない事だらけだ。
謎だらけだが言葉は通じるみたいだし、とりあえず村で情報を集めよう…。
もっとこの世界の事を知らなきゃいけない…!