七.雨宮悠の物語 〜中学の出会い〜
物凄く久しぶりの更新です。
まさかこの作品の更新を予想していた人は居ないでしょう。自分で更新するといって、計画はなかったですから。
でも、ちゃんと更新を希望する声にお答えする為に、かえって来ました(笑
色々と詳細が気になる所だと思いますが、まずは悠の健介との始まりの物語を書いていきます。
これは、少しだけ昔の物語。私が思い出す、過去の出来事。忘れられない日々、この仕事に就いて、初めて感じたこの仕事を続けていくことへの誇り。その原点からの物語。
中学の時、私はそれほど活動的じゃなかった。それでも文化部系と言うわけでもない。それなりの理由があった。小学生時代に病に冒され、長い闘病生活で受けた治療と代償。だからこそ、出会ったのが始まりだったのかもしれない。いいえ、始まりだった。
激しい運動は体力的にも、肉体的にもまだ完全ではなく、運動後に冷える体に何度も熱を出したことがある。今でもたまにそう言う時がある。季節の変わり目に対する抵抗力の低下は、その証。トレーニングにも励んでいるつもりだけど、一種の体質のように付きまとう。
「俺、将来インパルスでここの空に帰ってくる」
吹奏楽部に入部していた私の活動場所は主が音楽室だけど、練習は思い思いの場所。私の練習場所は校舎を繋ぐ三階の渡り廊下。見晴らしもそれなりで、風通しもよく、冬以外はここで練習することが多かった。
「インパルスって何だよ?」
「知らねぇの? ブルーインパルス。ほら、エアメモでたまに飛ぶだろ?」
そんなある日、練習場に先客が居た。奥田健介。クラスメイト。でも話すことはほとんどなかった。誰が好き好んで男子と話をするものか。別にそう言う意識はないけど、話すことがなかっただけ。健介はいつもつるんでいる友達と駄弁っていた。その端で、私もいつも通りにフルートを吹く。
「ああ、あれか。何? ケン、お前自衛隊入んの?」
話してる内容が自ずと耳に入る。打ち消すようにフルートに息を吹きかけ、手すりに乗せた楽譜を見る。
「そこなんだよ。あれ、空自だろ? 俺、自衛隊には入りたくないっつーかさ、自衛隊ってきついんだろ?」
「らしいな。俺の兄貴のダチが入ったらしいけど、厳しいんだと」
聞く耳に聞き流す。それでも耳の中に残っていく。当時は奥田君と呼んでいた。だから、奥田君は自衛隊に入るんだ。どうでも良い情報を手に入れた。
「でもさ、俺、パイロットなりてぇんだ」
「かっけーけど、大変なんだろ?」
夢がパイロット。中学時代に手に入る情報なんて茫漠としたものばかり。だから、気にしてることなんてなかった。夢なんて高校に入った後でも十分だと思っていたから。一人練習を続ける。会話は休憩の度に聞こえる。早く帰らないかな。下手な演奏を聴かれるのは恥ずかしい。帰宅部の奥田君たちが帰るのを待っていた。
「でもさ、こう、空を飛んでる飛行機を操るんだぜ? 鉄の塊が空飛ぶってすげぇじゃん」
飛行機が好き。次々と意味のない情報が耳に入る。
「まぁいいけどよ。お前がパイロットになったら、タダで乗せてくれよな」
「ばぁ〜か。俺は戦闘機乗りのが良いんだよ。戦闘機なら、航空大学校から入れるみたいだからな」
ははっと漠然とした夢に笑いあう。男の子らしい放課後なのかもしれない。そう思って、練習に集中することにした。
「んじゃ、俺、そろそろ部行くわ」
「ああ、明日な」
まだ二ヵ月はあるけど、コンクール用の課題曲の練習。ソロパートとかはないからそんなに力むことはない。でも、結局の所、さっきの奥田君たちの話を聞いていて、自分の夢が、一体何なのか、考えた所で、私はこのフルートをこれからも吹くのかと思うと、それは少し違う気がした。
「―――……ふぅ」
風が気持ちよかった。少しだけ涼しくて、髪を梳いていく三階の風が首筋にくすぐったさを残していく。
「雨宮、すげぇんだな」
「え?」
背中に掛かる声に、少しだけびっくりした。
「何? 聞いてたの? 趣味悪いね、奥田君」
とっさに恥ずかしさにそう言っていた。まさか声をかけてくるなんて思ってなかったから。
「こんなとこで吹いてりゃいやでも聞こえるっつーの。つーか、上手いじゃん。意外だった」
「……そう。吹奏楽ならこれくらい普通よ」
ほとんど会話したことがない男子と話してる。走ったわけでもないのに、心臓が勝手にドキドキして、渡り廊下の外―――下校する生徒たちを見ながら楽譜を片付ける。
「ふーん。奏者になんの?」
片付ける私の背中にも声をかけてくる。奥田君は確かによく喋る男子。うるさいと学級委員に叱られてることもあった。だから、そんなに好きな男子じゃない。それが最初の印象だった。
「奥田君はパイロットになるんでしょ?」
「聞いてたのかよ」
「お互い様でしょ」
そんな単調な会話だった。私が男子と学校関係以外の話題で思春期に入ってから初めて話したのは。つまらない女でしょ? 昔からそんなに異性と触れ合うことはなかったし、入院中は大人ばかりだったから、中学に入ってからはなおさらその距離が開いていたのよ。
「そりゃそっか。でもま、上手かった。頑張れよ」
そう言って帰っていく奥田君に、何も言わずに私は音楽室に戻る。
「あなたの夢も立派だよ」
聞こえないように、もうこの話は聞くこともないと誰にでもなく口にして。
それからは不思議な、と言うか作為的とも取れる日常だった。私の練習場所は変わらない。なのに―――。
「お前さ、最近ここ好きだよな?」
「屋上行けねぇから、ここが一番空に近いんだよ」
練習風景の中に生徒の姿がある。それは学校だから当然。でも、その中でも、奥田君がやはり今日もいた。これはもう偶然などと言う言葉では括れない。明白な故意。
「パイロット様の学生の夢ってやつか? どうせ叶う前に変わっちまうって」
「俺は諦めねぇぞ。つーか、まだ始まってもねぇし」
それがどういうわけなのか、さっぱり分からない。
「まぁいいけどよ。そういや今日は先輩が大会でいねぇからよ、駄菓子屋でも行かね?」
そうよ、行けば良い。そうすれば落ち着いて連絡が出来るんだから。
「あー悪ぃ、もうちょっと俺残るわ。後から行くから先行っててくれ」
「そうか? なら来いよ。1945で勝負な」
「パイロット相手に挑むってか?」
「ローゲーで何言ってんだよ。じゃあな」
「おう、後でな」
何の会話なのか、理解できなかった。私の知らない世界。知る興味もないけど。そんな印象で私も一通り練習したことで、音楽室に帰ろうとした。
「好きなんだな、ここ」
ああ、また話しかけてきた。何なの? ここ最近毎日。
「そういう奥田君も毎日来てるわね」
皮肉めいて言ったつもり。
「まぁな。風が気持ち良いし」
それには同意。ここが気持ちが良いから私も練習場所として利用させてもらっている。でもそんなことは言わない。話が膨らむと、奥田君は話し込んでくるから。私は煩い男子が好きじゃないから。
「それじゃあ」
「ああ、今日も上手かったぞ」
それなのに、私から降りると、潔く身を引く。絶対に分かってない曲のことも、いつもと同じ答え。何がしたいのか、全然分からないのに、そのさばさばとした態度がどうも気になり始めている私がいて、そんな私が少し嫌いだった。
ユースウォーカーズに更新予定は記してあるので、今後はその計画に則って、更新はしていきます。
明日にはハウンと犬の解消記を更新します。
実はもうハウンの解消記は更新部は書きあがっていますが、たまには予定に忠実に更新しようと、明日、更新します。




