うるさい炎と焼き芋
学校に行った。
机と椅子が隠されていた。
1時間目の授業が始まる直前に返してもらえた。
別に、大して不都合はなかった。
放課後、公園に行った。
「え……」
公園は燃えていた。
真っ赤な炎が立ち上っていた。
「よう、じゃな」
魔女は、よっすと右手を上げる。
「お前……何してんだよ」
「焚き火じゃ」
「昼間から?」
「うむ」
「公園の真ん中で?」
「うむ」
「職質されて当たり前だわ!!むしろ警察呼びつけてるわ!!自分で不審者の狼煙あげて職質される奴初めて見たわ!!!」
俺は、力いっぱい叫ぶ。
ツッコミは、そっちの方が絶対面白いと確信しているからだ。
「……うるさいのう…」
魔女は、俺を睨みつけるながら、両の耳をふさいでみせる。
「火消せ!!」
俺は、魔女ごと焚き火に砂をかける。かけまくる。
「痛い、痛い、痛い……ってウワアアアアアア!!焚き火を消すなアアアアアア!!」
魔女は焚き火を背中でかばったが、それでも何とか俺はスナスナの力で消してやった。
「うっせえ。昼間から公園で焚き火してて恥ずかしくないのかよ」
「ない」
魔女は、グッと親指の指紋を俺に見せてくる。罪人の指紋を。
「クズかよ。恥ずかしくない人間になる努力をしろ」
どこかで聞いたようなセリフが、とっさに出てくる。
「……説教か」
魔女は、唇を噛みしめる。
「ああ」
「まるで勝者の振る舞いじゃのう」
それは悔しそうに、唇を噛みしめる。
「はっ?」
魔女は、真っ黒にすすけて死んだ焚き火の残がいにホウキをかざして、ニンマリと唇を引き上げる。
「燃え上がれ、しゃく熱の炎よ!!…、じゃのう」
◼︎◼︎◼︎◼︎、とごう音。
火龍が現れたのかと思った。
わけわかんねえほどのごう音がして、それが空気が一気に燃え上がったときの悲鳴だと理解したら、目の前にはビル何十階分かも不明なほどの火柱が立っていた。
肌が熱すぎて、溶けた気分を味わった。火柱が一瞬じゃなかったら死んでた。
「バカか!お前!!警察じゃなくて消防車くるわ!!」
火柱は、龍が空に立ち昇るがごとく一瞬で消えていった。代わりに、公園の真ん中に元の焚き火が龍の赤ちゃんみたいに小さく燃えていた。
「おまん、焼き芋食べるか?」
魔女は、火の中に素手を突っ込んで、イモを差し出してくる。
「あ、いや……イモはいいなって、俺は今説教して……ッ!?」
俺が、大声を張り上げようとしたそのとき。俺ではなく、俺の腹の虫の方がコンマ1秒早く"グウ"
と叫ぶ。
「ぬははははは!!!」
魔女は、笑った。
「ほれ、腹の虫の言い分を聞いて食うがよいのじゃ」
「お、おう…」
差し出されたイモを、仕方なく…。俺は受け取る。
「って、焦げてんじゃねえか!!」
「ぬははははは!!!」
俺は、イモを思いっきり地面に投げつけた。それを見て、魔女は腹を抱えて笑い始める。
「……………」
俺は、教室の張り紙をぼんやり眺めるときのように、腹を抱える魔女を無言で視界に入れていた。
不思議なもので、何故だか、悪い気持ちはしなかった。その後、警察と消防がやって来るまでは…。