うるさい奴と魔女
俺は、死ぬのが怖い。
何で怖いのかって言われても分かんねえけど、怖い。
「まだ17じゃろうに、ジジイみたいなこと言うとるんじゃ、ナイわい」
ブランコしかない小さな公園。
ギーコギーコと漕ぎながら、"話し方は老婆、見た目は少女"な女が言う。
時間が経つことも怖い。
この前、ガキん頃何回か買いに行ったような駅前のオモチャが潰れた。
「潰れて当然の、何で営業出来てるのかも分かんねえ、ゴミみたいなオモチャ屋だったけどな」
いざ潰れてみると、「ああ、なくなったのか…」って思うもんだ。ボロいし小せえし、二度と使うわけねえんだけどな。
「そんなことが悲しいなら永遠に屋久杉でも崇めとるんじゃな」
「そういうことじゃねえわ!生で見たこともない樹齢の暴力は違うんだわ!!」
俺は、わざわざ律儀に大きな声で突っ込んでやる。
「ふーん。人間っちゅーのは、感傷的じゃのう」
「まーな」
ぶっちゃけ、ファミマが接骨院になっただけでも、ちょっと悲しい。
「お前は、そういうの悲しくないのかよ」
「全然」
俺の問いかけに全身黒ずくめの、ほうきを持った女は、首を振る。
「移りゆく街並みとか、年号が変わるだとか」
「全然。風景なんかに興味ないでの」
「お前、長生きするだろ。つーか、もうしてんだろ」
「うむ。西暦くらいは軽く生きとるのう」
見た目は18の、俺とタメくらいの、そいつは言う。
「クソババアじゃねえか!」
突っ込みとあって、俺は気張りながら声を張り上げる。
「母親以外の異性とロクに喋れん人生だからと、ヒマがあればワシで埋め合わせようとする小僧に言われとうないわ!」
負けじと、大声が返ってくる。
「……う、うっせえ。お前でオナニーすんぞ」
なんか毎日、平日の昼間からブランコ乗ってる女いるなー。ほうき持って全身黒ずくめで、イタイ奴いるなーってなったら、話しかけてもみるだろ。
「どう見ても魔女な奴がいたら、ブイブイのイタリア人でも声掛けるわ!」
俺は声を張り上げた。
「そうか?警察くらいしか話しかけてこんがのう」
「職質じゃねえか!」
俺は、やはり声を張り上げた。
「ワシに毎日話しかけてくる人間なんて、オマンくらいじゃ。ヒマジン。カワリモノ」
ギーコギーコと鳴るブランコと同じくらいの声量で、どう見ても18そこらの女にしか見えない魔女は言う。
「ヒマジンだけど変わり者じゃねえわ!俺は普通だわ!帰宅部だからヒマジンだけどもっ!!変わり者じゃねえわ!普通だわ!」
通ってる高校の偏差値はイマイチ。顔は……。好きな歌のジャンルは普通。女の好みも普通。希望進路も普通。友達の数も……。いじめられたりとかも特に…ない。
「ーーめっちゃ普通だわ!!!」
「う、」
「おまん、うるさいのう……」
魔女は、割と大げさに、怯えた小動物みたいに両耳を塞いだ。
「……うるさいのう…」
そして。二度、言いやがった。