第一章3
弘太は自転車を走らせ公園までの道を急ぐ。早く昴に会いたかった。そして、早く元気な姿を見たかった。
「工藤!」
「カナ、久しぶり」
昴はブランコに座って夜空を見ている。乱暴に自転車を止めた弘太を見留めると、力なく微笑んだ。弘太の中で、何かが切れる。
「久しぶりじゃないだろ!連絡もないし、心配したんだぞ」
「ハハハ。ごめん、ごめん。カナからはさ、連絡なかったから、わかっているものだとつい……」
「ついじゃない!俺は何もわかってないから、連絡できなかったんだ。何も言ってくれないのに、何かわかるはずないだろ。俺は、工藤じゃないんだから」
弘太は叫んだ。何もわかりはしないのに、口先だけでわかると言うことはできる。だが、弘太はそれをしたくなかった。口先だけの言葉が優しさというのなら、そんな優しさなどいらないとさえ思う。
「……そうだよな……。俺、何考えてたんだろ。カナならわかってると思ってたんだ」
「わかるも何も、話してくれないと何とも言えないだろ。話せよ」
言いたいことを言うと、少しばかり気持ちが落ち着いた。昴の隣で揺れるブランコに腰を下ろす。子ども向けのブランコは、高校生の彼等には小さかった。
「俺、ちょっと疲れたんだよ。突っ走りすぎたかなぁ」
どれくらい経っただろう。昴がポツリと呟く。らしくないと思った。家に近いからと言う理由だけでバカの代名詞と呼ばれる高校を受験した昴だが、県下に名のある進学校へ行けるだけの学力はあったのだ。高校へ入学してからも、主席にはいつも昴の名前がった。ここしか行くところがなく、現在の成績も後ろから数えた方が早い弘太とは違う。
「疲れた?何があったんだ?」
「んー。たぶん、燃え尽き症候群。何で主席を保持してんだろって思うとさ、何もかもどうでもよくなったんだ。そしたら、一気に疲れた」
何でもないと言うように、軽い口調で昴は言う。だからこそ、弘太には昴がずいぶん参っているように感じられた。
「なんて言ったらいいのかわからないけど、俺は、一番目指して走っていた訳じゃないから。工藤が主席を保持していたのにも、特別な理由はないんじゃないかなぁ。バカな俺と一緒にされたくないと思うけどさ。疲れたんなら、ゆっくり休めばいい。気分転換が必要なら、付き合う。話を聞くだけなら、俺にだってできるしさ」
弘太は昴を見ずに言う。キコキコと揺れるブランコが、心を代弁しているような物寂しさがあった。
「ありがと。カナと話したからなぁ。だいぶよくなった」
昴の呟きに、弘太は顔を動かす。明かりがほとんどないので薄暗く、顔色まではわからないが、幾分表情に力が蘇ったように感じられる。昴は微笑んで立ち上がった。
「カナ。星を見に行こうか」
「いつもの場所か?いいよ。行こう」
弘太も立ち上がる。そして、自転車を押して昴と並んだ。