第一章1
カーテンの閉じられた部屋は、外の光が入ってこなかった。机のスタンドだけが輝く中、少年は一心に何か書いている。何か書いては、それを丸め、机の下にあるゴミ箱に入れる。山になったゴミ箱からは、丸まった便箋が崩れ落ちそうだ。しばらくそれを繰り返していた。そして、気に入った物が書けたのだろうか。少年は満足そうに顔を起こす。それを封筒に入れ、宛名を記す。『金居弘太様』切手の貼られた封筒には、そう書いてあった。
なぜ登校日はあるのだろう。長い夏休みに一日だけ学校のある日。窓際の一番後ろの席で金居弘太は考えた。喧騒に包まれた教室の中央は、慌てて机を退かしましたと物語るようにポッカリ空いている。
「工藤、ついに退学したってさ」
「まじかよ。後半年で卒業だってのに勿体ない」
「でも、出席日数がやばかったから仕方ないんじゃない」
弘太は舌打ちをした。クラスメートたちが向ける何か知っているだろと言う視線が、ことごとく弘太の思考を邪魔する。あの空いた位置には工藤昴の席があった。そして、昴は数少ない弘太の友人であり、幼い頃から知っている。
「あいつ、頭良かったからこんなバカ校を卒業するより、大検を受けることにしたんじゃないの」
「俺たちみたいなバカとは、一緒に勉強できませーんってか?」
ギャハハと下品な笑い声を上げながらも、チラチラと弘太を見ることを忘れない。だが、昴が退学した理由を教えて欲しいのは弘太も同じなのだ。友達だからと言って、学校に来いとか、なぜ学校を休むのだとか言うのは、偽善のような気がした。だから、弘太は昴が学校を休んでいた理由も、辞めた理由も知らない。
「ホームルームを始めるぞ。みんな、席に着きなさい」
思い思いに集まって話をしていた生徒たちが、ちりぢりに席へ戻って行く。誰もが何かしら昴のことを知ることができるかもしれないと思った。例えば、学校を止めた理由。例えば、学校を休んでいた理由……。だが、担任の口からは何も語られなかった。