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序章3


 陸上部のためのグランド。陸上部のためのトレーニングルーム。それから、陸上部のための学生寮。陸上だけをするなら、桜華学園も最高の設備が整っていた。


『弘太君お一人でしたら授業料を、拓馬君も我が校に入学させていただけるのでしたら、制服、ユニフォームの代金、寮費や入学金など全額免除させていただきます。もちろん、それまでにお支払いされましたお金は、全てお返しさせていただきます』


電話の向こうから、破格の提案がされる。このまま、二人を陸上強豪校の私立へ通わせようとすると、とんでもなく金がかかるだろう。千鶴子は心躍らせた。話が魅力的過ぎる。


「とても魅力的なお話しですね。ですが、今すぐに答えは……。家族でゆっくり話し合い、結論を出したいと思います。入試が近くなり、願書が届きましたら、貴校への入学を決意したとお思いになってくださいませんか」


口ではこう言っているが、きっとここへの入学を進めるだろう。家計を遣り繰りするのも、専業主婦である千鶴子の役目だ。浮かせる金は浮かせたい。金がありすぎて困ることはないのだから。




「弘太さん、拓馬さん。桜華学園はどうかしら。二人揃っていくと、ほとんどお金がかからないの。ねぇ、いいと思わない?」


 電話を切った千鶴子が、目を輝かせて言った。拓馬がパンフレットから顔を上げる。


「桜華はトップクラスだけど、トップにはなっていない。インハイを目指すんだから、宮浜大付属とか青柳北の方がいいな。兄貴はどう思う?」

「二人一緒なんだろ。拓馬が欲しいだけだって」


拓馬も弘太も乗り気がしないようだ。千鶴子は必死になって言う。


「そんなことないわよ。弘太さんも拓馬さんも欲しいと思っているから、二人一緒で全額免除なのよ。たとえ弘太さん一人でも授業料は免除なの」


弘太はすくっと立ち上がった。もう、我慢の限界だ。


「俺、やらないから」

「えっ?」

「陸上辞める」

「ちょっと、弘太さん!」


千鶴子の叫びを背にし、弘太は自分の部屋へ向かった。




 なんで?なんで?なんで?どうして拓馬ばかりなんだ?弘太は拓馬の上げた学校からは推薦をもらっていなかった。本当の天才は入試を考えるのが早い時期から声をかけられる。そして、他の学校へ心変わりしないように、自分の学校へ引き込むのだ。




 もっと早くこうすればよかった。そうすれば、天才と比べられ落ち込むこともなかったし、陸上以外のスポーツに転向することもできた。努力では決して天才に勝てないのだ。どうせ勝てないのなら、決して認められないのなら――。







                    ――こっちから捨ててやる。


 弘太はスパイクをゴミ箱に投げ込んだ。




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