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序章1
※こちらはフォレストノベル掲載作品です。
イチ足すイチがニになるように、人も自分も社会も心も全て、簡単ではっきりとした答えがあるといいのに――。
青い空を見上げた。やった。自己ベストだ。これで、中学校最後の大会、悔いはない。電光掲示板にある名前の後ろには、この三年間で一番のタイムが表示されている。弘太は満足そうに息を吐き出すと、トラックを後にした。
「お前の弟、すげーよな。また一位だって」
「今回は大会新なんだろ。できのいい弟で羨ましいぜ」
なんで?なんで?なんで?どうして?自分も入賞したのに、みんな弟の……拓馬のことばかりなのだろう。弘太は面白くなかった。確かに、拓馬の方がよい成績だった。だが、同じ舞台に立ち、順位の差はあれども同じように入賞したのだ。拓馬ばかり誉められるのは辛かった。もっと自分も見て欲しかった。
「俺も入賞したんだけど」
「そうだっけ?何にしても、お前の弟はすごいよな」
悔しかった。