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心理戦の100万円アプリ  作者: 華メガネ 広大
Last stage
31/34

最後の宴

「どうでもいいけどよぉ、なんでこんな狭い焼き鳥屋なんだよ」


「呼ばれた事に感謝しなさい、ここが行きつけなのよ」


 モヒカンは空になったタバコの箱を握り潰して席に座るなり愚痴をこぼすが、なんだかんだモヒカンも打ち上げに来てくれたか。


「河童大将! 串50本ね、後タッパーに30本!」


「おいおいケンジ頼みすぎだぞ。よし今日からは我慢しなくていいな、大将ポン酢一本」


「乾杯はシャンパンにするわ、冷やしてあるわね?」


 すぐに宴会雰囲気になり、活気と陽気な空気に負けずと大将も張り切る。


「串80あいよお! ポン酢一本あいよお! シャンパンあいよお! 予約の時から仕込んでるから、すぐ持っていけるからね!」


 モヒカンはその当たり前の様に飛び交う会話が理解できないのか、少し上半身を仰け反らせる。


「お前ら……絶対普通じゃねえ……」


「はい、串50本! いやー何とかすぐ出せる様に間に合ったよ、シャンパンも置いておきますぜ」


 彩子は上着のスーツを後ろにかけると、整った白いシャツになり髪をとく。


「あら、ナオちゃんの恋愛講座聞きたくないの?」


「俺はタダって聞いたからきたんだよ。……ん? お、おい! 何やってんだ渡辺!」


 ポン酢のビンを逆さまにして串の山盛りにかけていると、モヒカンは大声を出した。


「優くん、ポン酢なんて個人の自由だよ! 自分のだけかければいいじゃん!」


「みんなどうせかけるだろ? それよりこれが絶対美味いから、間違いない」


 ケンジが強く頭を叩いてくる。……ポン酢好きは自覚しているけど絶対こっちのほうが美味い、みんな知らないだけだ。


「ま、まぁ食べましょ。お酒と飲めば解らなくなるわよ……」


「おい! 皿にポン酢が半分浮いてるぞ女社長!」


「とりあえず乾杯ね! もうお腹減った! 乾杯ー!」


 1時間も経たずに物凄い勢いで酒は進み、ひたすら笑い声が聞こえる陽気なムードも手伝って直ぐに酔い独特の高揚感がやってくる。


「おいモヒカンも話しに入ってこいよー!」


「黙れ茶髪ぅ、俺は1人で静かに呑むのが好きなんだよ」


 ケンジは薄ら笑いを浮かべてモヒカンの肩に手を回す。


「あんなに騒いで飲んでたのに、そんな訳ないだろ? 解った、人見知りしてるんだろ」


「手をどけろ茶髪ぅ、殺すぞ」


「ナオさん番号からでもー」


 おちゃらけすぎたケンジをモヒカンはこれでもかという程の形相で胸ぐらを掴む。


「殺す! 本当に殺す!」


 それを見て更に彩子と僕が笑うので、舌打ちをしてまた座ると熱燗を口に運び始めた。


「なー彩子、メガネ貸してよ」


「絶対嫌……。勝手に取ったら蹴るわよ」


「どうしても欲しいんだよー! メガネフェチを飲めるなよ! それこそ100万円払ってでも本当に欲しいんだってば!」


 彩子とケンジが喧嘩をしている間に、顔を真っ赤にしたモヒカンが小声で歌っているのが目に入る。


「本当に歌が上手いんだなモヒカン、ボーカルは嘘じゃないんだな」


「あら優くん、私も歌は得意なのよ。聴いたら絶対惚れるわよ」


 彩子は立ち上がり、割り箸を持って指揮棒の様にふるうと目を閉じて歌い出した。

 それを見てすぐにケンジは彩子の裏から小声を出して耳打ちして来る。


「優くん、これすっごい音痴だよね? からかったら怒る?」


「バカ! ここの料金彩子持ちなんだぞ、これは彩子のプライドを守るハートブレイクだと思え」


「ラジャー!」


 歌い終えた彩子は席につくなり、ビールを流し込みついに自慢してしまったと言う満足気な顔をしているのを確認して、ケンジと手を広げて拍手しようとした時だった。


「黙れ音痴、酒が不味くなる。お前否定」


 スラッシャーしやがった……。


「何かいった……? 童貞」


「あぁ!?」


「二次会ー!!」


 すかさずフォローに回るケンジは彩子とモヒカンの視線の間に入る。

 それを極道の妻を思わせるおぞましい形相で睨む彩子に僕は口を挟めそうもない。


「あんた……言うからには二次会の予約取ってるんでしょうね?」


「えと、えーと。キャバクラ! 二次会の鉄板でしょ!」


 ドスッと鈍い音と共にケンジはうずくまる。今日初めての蹴りだ、段々勢いが増してきて見える。


「明日二日酔いになっても困るし、ここら辺にしよう」


「渡辺タバコくれ。もう無いんだよ」


 うずくまるケンジの席からタバコを掴みモヒカンに投げてやると、ケンジはすぐに立ち上がる。


「返せモヒカン! 節約家からタバコ取り上げるってどういう事か解ってんのか!?」


「まだ話しが終わってないわ」


 ケンジの耳を引っ張りそのまま外に行く2人を笑いながら僕も外に出る。


「心配すんな茶髪ぅ、こう見えて受けた恩は必ず返す主義なんだよ。必ずな」


 全員で外に出ると、冷たい風が容赦なく僕らを襲ってくる。


「うわ寒い!」


「寒いのはいいけど耳離してからにしてよ彩子!」


 自由になったケンジは大事そうに串が入った袋を抱えながら、すぐ横の汚い川を覗き込む。


「何度ここを通る度にこの川になりたいと思ったかな」


「あんた変わってんのね」


「僕も思った事あるよ、ここ汚いだろ? 人間ってやっぱり考える程汚いんだよ、それを流してくれるのが何となくいいんだ。あと、ケンジは川に吐きたいだけ」


 ケンジが川に予想通りの行動を取っている間にモヒカンは車が迎えに来るのを待たずに人混みに歩き出した。


「ふん……、汚い川ねぇ」


「優くん、明日に全部がやっと終わるのね」


「多分な、車来たみたいだし帰って休むか」

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